8-08.魔族の国訪問(1)
さて、魔族の国を訪問する計画は整ったよ。
じゃ、ちょっと1週間ぐらい魔族の国を訪問して来ようかな?
食料、金貨、移動手段、留守中の指揮。
指揮はクワトロに戻ってきてもらえば何とかなる。他は常に準備万端で冒険に出かけることが出来る。
じゃぁ、出かけようかな?
問題があるとすれば、リチャード達が訓練を早く切り上げてきて、私が留守にしてたことが後から判明するってことかな……。
「ヒカリ、ちょっと良いかしら?」
と、ゲーム室で作戦を煮詰めていたらラナちゃんが来た。
まだ、例の事件から一ヶ月経過していないからラナちゃんから私へ直接的なお願いはできないけども……。
「はい。ラナちゃん、どうしましたか?念のためですが、ここには魔族の国の出身のテイラーさんが居ます。それ以外問題ありません」
「ステラとアリアにはシルフを付けたいの。どうしたら良いのかしら?」
単刀直入だなぁ……。
というか、本人達がお願いする以外にどうすれば良いんだろうね?
本人達が願わないのに、それを妖精側が勝手に支援出来ないだろうし……。
「ステラが願えば良いかと」
「ヒカリがステラに命令しなさいよ。『願え』と。
あと、モリスにも願えと命令しなさいよ。『クロに付いてきて欲しい』と」
「ステラ、モリス、願って貰える?」
「「ヒカリ様のご命令とあれば……」」
私がそう発言すると、ステラとモリスは心の中で願ったのか、念話を通したのか沈黙して目を閉じて頭を少し下げた。
と、数秒も経たずにラナちゃんから反応があった。
「ヒカリ、これで良いわ。
ところで、私は魔族の国を訪問したことが無いし、そこで美味しい物を発見して食べて帰ってきたらとんでもないことだと思うわ。
分かるかしら?」
「モリスとリサとシオンと一緒ですし、今回はゆっくり滞在できる様な時間も無いと考えておりますが……」
「そこにいる人がテイラーね?初めまして。
魔族の国の食事は美味しいのかしら?」
「科学に裏打ちされた味付けは特殊な味と考えます。
法皇が地位を確保するために料理で魔族の王族をもてなして、その地位を得たとの話もございます」
「ヒカリ、分かるかしら?」
「想像でしか分かりません。
ですが、多分、テイラーさんには未だラナちゃんに召し上がって頂いているような化学を駆使した料理を出していないと思います」
「ヒカリ、フワフワパンケーキはどうなのかしら?」
「科学技術を駆使して見栄えと食感を整えていますが、味付けは素材と砂糖のみです。
コーヒー、カレー、チョコレートは科学技術の粋が集まったものであると自負しています。多分、アリアも錬金術師としての腕を存分に奮っているでしょうし、ステラやリサの薬草の知識、ゴードンの料理の手際の良さの集合体であると考えています」
「ヒカリ、テイラーに試させることは……。量が無いのかしら?」
「ラナちゃん、仰る通りです。未だ準備が整わず、多くの方に供給できる状況ではございません」
「アリア、ステラ、テイラーの案内で食べられる物が美味しいかどうかを報告することを忘れてはいけないと思うの。どうかしら?」
「「ハイ!その通りです!」」
「ヒカリ、行ってらっしゃい。帰って来る頃には畑の植物も成長しているはずよね?」
「ハイ!」
いや~~~。
誰よ?確かに妖精の長達も重要だけど……。
誰かが想像したんだろうな……「ラナちゃんに内緒で行って、後から怒られるのは不味い」ってね。それをシルフ辺りが思考の漏れを拾ったか、念話で相談を受けたに違いない。
良い側に向かっているし、完全な護衛が付くのだから心配もいらなくなってくるし……。
ま、良いよね?
ーーー
ここからは早かった。
十分な食料、大量の魔族の国の金貨とサンマール王国の金貨、換金性の高い魔石や金属、そしてサンマール王国発行の身分証。これら一式を揃えてから夜中のうちにに空飛ぶ卵まで移動することになった。
メンバーは、テイラー、ステラ、ミチナガさん、アリア、シルフが法皇担当。
モリス、私、リサ、シオン、クロ先生が街中のゲームとカジノ担当。
まぁ、なんとかなると思う。
行先は、ドワーフ族の銅の精錬所がある側の魔族の国の国境へ一旦移動して、法皇担当チームを降ろす。このチームの移動手段の確保とかアプローチの仕方は全てテイラーさんに指揮を任せることにした。
次に、人族の国境側まで移動して、王都まで歩いたら1日掛かりそうな位置で、人気が無い密林の中に領地マーカー単体と空飛ぶ卵を隠してから、最寄りの街道まで移動した。
私はサンマール王国発行のAランク冒険者登録証を持っているので、パーティーのリーダーとしてのクロ先生、金銭管理担当のモリス、後は私の双子のリサとシオンという構成で魔族の国へ徒歩で向かうことにしたよ。
午前中の朝食も済んだタイミングで、魔族の国の城門に近づく。
ここはストレイア帝国の帝都と同じぐらい、石造りの城壁が高く積まれて、簡単には外部からの侵入を許さない形になっているね。戦争の気配も無いのに城壁の上に人が歩ける通路もあるみたいで、哨兵が何人か巡回しているみたい。ここに魔法無効の印とか結界が張られていたら武力行使による侵攻は先ず出来ないだろうね。
サンマール王国発行の身分証明証がきちんと認められて入国を許可された。現代のパスポートとかと違って、途中の通過した村や宿での入国証明を求められることが無いことはテイラーさんに予め確認してあったので、移動手段が空飛ぶ卵でも問題無かったよ。
門番さんに人族の通貨でチップを支払って、宿屋街、両替所、人族の言葉を通訳できそうな人が居る場所を確認しておいた。これも予めテイラーさんに聞いていたことと整合が取れているので特に問題無かった。
「ところで、お姉さん達。A級冒険者登録証を持っているってことは武闘大会に出場するのかい?エントリーは今日までだから急いだ方がいいぞ?」
何それ、初耳なんですが!
テイラーさんもフウマもそんなこと言ってなかったよ?
まぁ、テイラーさんには話題に出さないし、質問もしてなかったし、私が武力行使できるって話も知らないだろうから必要な事だけを答えていたんだろうね。フウマも魔族語が流暢に話せるわけでも無いし、武闘大会なんかに出場して目立ったらその後の調査に問題があるだろうから話題として避けていたかもしれない。
まぁ、ニコッとどちらとも取れるような笑顔を見せて門番さんのお礼を行ってから別れた。先ずは、形だけでも通訳を雇わないとね。
街中はこれまで訪問した国の中で一番発展してるように思える。
石造りの町並みで、多分上下水道が完備されているためか、街中が臭くないし清潔な感じ。
高さも3~5階建ての建物が結構目につくから、建築技術も高く、そのための材料の共有も上手く出来ているんだと思う。単なる日干し煉瓦の積み上げだけだと、このような整然とした街並みは作れないと思うよ。
と、街並みの綺麗さに感心しながら、門番さんに案内された通訳の人を雇えるギルドの方へ向かう。日本でいう所の観光案内所みたいなところなのかな?
と、ここで見知らぬ若者から魔族語で話しかけられた。
若者は小綺麗な服ときちんとした髪型に切りそろえているけれど、目つきや肌の焼け具合、手の周辺の傷痕からして、服装に見られる様なきれいごとだけをしてきた雰囲気では無いね。
「お姉さん達、今日の宿は決まっていますか。こちらの王都が初めてでしたら案内しますよ」と。
私は事前にナビから魔族語をダウンロードしてあるから、特殊なスラングで無い限り、日常会話では音声も識字も問題無いレベルだよ。
けれども、全員魔族語が判らない前提なので、「何言われているか判らない振り」をして、無反応でそのまま行くべき道を進もうとする。
と、今度はサンマール王国の人族の言葉で話しかけてきた。
「お姉さま、商人さん、お金持ち。良い宿紹介するよ」と。
と、ここでモリスが嫌そうな顔をして、その若者の方を見た。
つまり、若者から見たら「こいつら人族語が理解できる」判断されちゃったわけね。
「紳士なおじさん、良い宿案内する。通訳も両替もする。任せて!」と、追い打ちを掛けてくる。
いや、あのさ……。
これ、親切な観光案内ではなくて、後から法外な手数料とってくる押し売り案内パターンじゃないの?
で、モリスが音声会話で話しかけてくる。
「ヒカリ様、こちらの方はお知り合いですか?」
「いや?無視できるなら無視したかったけど、人族語が通じることがバレたね」
「ヒカリ様、申し訳ございません」
「いや、良いよ。モリスのせいじゃ無い。私が対応するよ」
「ヒカリ様、こちらの男性を処分しましょうか?」と、物騒な申し出をするクロ先生。
「クロ先生、お金で片付くならお金で解決しよう。その方が良いよ」
絡まれちゃったので仕方ないから、面倒を承知で案内を頼むことにする。
「お兄さん、観光案内所か、通訳を斡旋してくれるギルドで通訳を雇いたいの。それと両替商にも行きたい。案内を頼めるかな?」
「綺麗なお姉さま承知しました。私が案内して差し上げます。どうぞこちらへ」
なんか、表通りから外れて、細い抜け道みたいなところを通過していく。
と、ここでお兄さんが私の前に手を差し出してきた。
「お姉さま、両替は私がします。お金をだしてください」と。
これ、ダメな奴じゃん?
「私は少しは魔族語を習いました。自分で窓口で両替できます」と、魔族語で返す。
「お姉さま、魔族の国でも危険な所あります。
大人数に囲まれたら、事故に遭うかもしれない。
ほらっ」
って、指を差して、狭い通路の前後に5人ぐらいずつの人だかりが出来ている様子を示す。
「ねっ。だから私にお金渡す。私が両替します」
「ええと、では、案内はここまで良いのでここまでの手数料をお支払いします。
それで良いですか?」
と、こちらの所持金などを探られないようにお金で片付ける方向に交渉を進める。
「お姉さま、金貨1枚です」
「わかったよ」
と、腰に備えたウエストポーチみたいな鞄から金貨の入った小袋を取り出して、そこから金貨1枚を渡す。
「お姉さま、違います。彼ら10人居ます。彼らは貴方たちをここまで護衛してきました。かれらにも護衛の手数料をお支払いください」
私は無言で金貨10枚を追加して若者の掌に載せる。
「お姉さま、違います。魔族の金貨でお支払いください。
出来なければ、全ての荷物を置いて行ってください」
こっちが下手に出て素直に言うこと聞いていれば、金貨11枚だってボッタくりも良いところなのに、魔族の金貨で11枚だって?
なに言っちゃってんのよ?
「お兄さん、魔族の金貨で用意すればいいのね。
ただ、私が持っている金貨が偽物だとお兄さんたち困るでしょう?
両替商まで一緒に付いてきてくれるかな?
だから人族の金貨11枚は一度返してもらうからね」
と、彼の掌から金貨11枚を素早く掠め取って、それを小袋に仕舞ってから、通路を抜ける方向に歩き始める。どうせ、大体の方向性は合ってるはずだし。
「お、お姉さま、分かりました。両替商に一緒に行きます。
彼らも付いていきますからね」
まぁ、彼としてみては逃げられない様にと、本当に魔族の金貨で11枚の収入があるかもしれない訳だから、何処かに隠している金貨を貰えると思って穏便に済ませようとする。そして、今回の手数料を安全に入手出来れば、明日以降も同じように集りにくれば良いわけだしね。
両替商らしき場所に到着して、挨拶をしつつ、両替を試みる。
「すみません。旅の者ですが、魔族の金貨を人族の金貨に両替したいのです。
ただし、こちらの魔族の金貨はあちらの方から手渡された物でして、真偽を確認して両替が可能か判断してください」
と、魔族語で流暢にお願いする。ただし、金貨の出所はボッタくりチームのせいにしておくよ。そうしておけば、もし偽物判定がされても出所は彼らに擦り付けることが出来るしね。もし、この両替商で本物判定がされるなら、この先1000枚を両替しようとも、十分に本物の判定がえられる可能性が高い。
金貨11枚ぐらい安いもんだよ。
と、受付の人は私が預けた金貨を持ってその場を離れて15分ぐらいしてから戻ってきた。
「お姉さん、この金貨11枚は本物だったよ。
ただ、これを全て人族の金貨に替えようとすると金貨1100枚になる。
結構な量だし、重いと思うんだが、今、両替しても持って帰れるかい?」
「はい。彼らの金貨であることに変わらないので、私は問題無いです」
「旅のお姉さん、何かトラブルに巻き込まれている可能性は無いかい?何かあるなら内密に連絡くれれば、適切に通報しておくよ」
「そんなことないですよ。鑑定と両替ありがとうございました」
と、両替商との会話を穏便に済ませて別れを告げてからボッタくりチームの所へ戻る。
「ガイドのお兄さんと仲間の皆さん、お待たせしました。
魔族の金貨11枚が無事に人族の金貨1100枚に交換出来ました。
ところでなのですが……」
と、片手で金貨1100枚の入った袋の束を掲げながら11人に向かって会話を進める。
「もっと増やせるとしたら、お兄さんたちは私の話に乗りますか?」
私の掲げた金貨の入った袋と私の顔を見ながら11人はゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
よし、掛かったね?
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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