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8-07.ゲームをしよう(7)

 モリスとアリアの親子、そしてステラからの意欲に気圧されているところ、着実に作戦を積み上げないとね。

 みんなのやる気が凄いから、このメンバーで進められることを進めるしかないね。

 やってみようかな?


「じゃぁ、一応、このメンバーで魔族の国を訪問するとして、概略から埋めていこっか。

 まず、一ヶ月先までの予定としては、

 エスティア王国はアインとヒルダに任せていて、念話も通るんだよね。

 皇后様がストレイア帝国に戻って進軍を開始するまで2~3ヶ月は掛かるだろうから、今から一ヶ月ぐらいなら、モリスが魔族の国へ行ってきても大丈夫だよ。そのあとはストレイア帝国からの侵攻に備えて北の大陸に戻っていて欲しいかな」


 と、私がちょっと長めのスパンでの行動指針を確認したよ。


「確かに一ヶ月ほど頂ければ、少なくともフウマ殿に幸運の女神が降臨する演出を準備出来るかと。

 フウマ殿の調査が進みませんと、リチャード殿下とヒカリ様が魔族の国を訪問しても大っぴらに動くことが出来ませんし、当然、ヒカリ様が抱えている魔族の金貨1万枚も使用する舞台を演出することが出来ません」


 と、モリス。

 そうしたら、直近の第一回の遠征の人選と準備を整えれば良いよね。

 もう、それくらいの短期の話だったらテイラーさんに加わって貰おうかな……。


ーーー


 職人街の一角にある魔族の方達の住居に向かう。大して日数が経過した訳でも無いのに小さな木造のアパートみたいのが何棟か出来てる。王族や侯爵さんには狭くて不自由かもれしれないけど、あまり目立つことが出来ないから皆と同じレベルで勘弁して貰った。

 ただ、内装については魔石のコンロと冷蔵庫、水洗トイレと温水シャワーなんかが備え付けられているから、日本で言うところの広めのワンルームぐらいの装備が整っている。大目にみてくれると有難いんだけどね。


「テイラーさん、ちょっと皆と一緒にお茶会に参加しませんか?魔族の国のことを他の方達が知りたがっておりまして……」

「ヒカリ様、そうですね……。今日は特に打ち合わせは無かったと思いますので、私の用事は後回しにします。何時から伺えば良いですか?」


「あ、都合が良ければ今からでも良いですか?」

「え?ええ……。はい……」


 ゲーム部屋がある小屋までテイラーさんを連れてくる。といっても、まだ街が大きくなっている訳では無いので、人族の研究室とか私の小屋がある辺りだからテイラーさんが済んでいる場所から歩いて10分も掛からない。


「みんな、テイラーさんを連れてきたよ。魔族の国出身です。

 テイラーさん、モリスは紹介したかな?街づくりの裏方の指揮官をしている。あとはモリスの娘のアリアと、エルフ族のステラ。そして、リサとシオンは私の子供だよ。よろしくね」


「皆様、よろしくお願いします。ご紹介に預かり光栄です。

 皆様のことを深く詳しくお伺いしたいとは思うのですが、ヒカリ様からの招聘しょうへいと考えますと、単なる交流会では無いと察する程度には緊張感をもって生活させて頂いております。

 カサマドが不在における緊急事態と捉えて宜しいでしょうか?」


 なんか皆が無言。

 お茶会の雰囲気じゃない。

 でも、まぁ、緊急といえば緊急。雑談と言えば雑談。

 私が切り出せば良いかな。


「ん~。何かとても緊張感がある挨拶になっちゃったね。

 簡単に言うと、魔族の国を訪問したとき、通訳とか宿とか生活習慣で困らない様に講師をして欲しいんだよ」


「ヒカリ様、準備期間は半年ほど頂けますか?」と、テイラーさん。

「うん?生活習慣を全て身に着ける必要はなくて、紹介してくれれば大丈夫だよ」


「私の紹介状が必要ということでしょうか……?」

「短期で立ち寄ったレベルでの滞在で、街中で行われているゲームや賭け事を楽しみたいのね。そういったちょっとした遊びの訪問で困らない程度の状態にしたいの」


「ヒカリ様、その……」

「何?」


「ヒカリ様は……。そのですね……。お金は十分にお持ちかと思いますが、ゲームや賭け事に興じる意図を伺っても宜しいでしょうか?」

「あ~。テイラーさんはカサマドさんの部下だけあって、会話がし易くて助かるよ。

 色々と調べたいことがあるんだけど、活動資金が無くてね。

 かといって、一介の冒険者が魔族の国を訪問して魔族の国の金貨1000枚を持ち歩いていたらおかしなことになるでしょ?


 だから、現地で手っ取り早く活動資金を得るためにゲームとか賭け事で所持金を増やしたいの。

 今回は調査目的だから短期間の滞在費と調査に必要な資金があれば良いと思っているよ」


「ヒカリ様、調査したい内容が判れば全面的に協力させて頂きます。ただ、私に信用があればの話ですが……」

「ニーニャの印が付いてるから主人に害を成すような発言は出来ないんじゃないの?」


「直接的に害を成すことが無ければ、それは主人の判断ミスとなりますので、奴隷に禁じられている行為ではございません」


「なんか、テイラーさん素直だねぇ。

 じゃぁ、カジノの景品にされているドワーフ族の斧のことと、魔族の国で行われている飛竜族の研究のことを調べたい。その調べるためのコネクションと活動資金が欲しいよ。

 調査が終わった後で、どういった対策が必要で何を用意すれば良いかは第二回の訪問までに片付ければ良い問題だと思っているよ」


「先ず、飛竜の研究に関してです。

 そもそも研究機関が存在することすら公になっておりません。法皇が研究部署を設けており、王国としてはその法皇の指揮下にある研究部門への研究資金を提供している状況です。年に一度の書類報告があるのみで、活動の実態は王国側の情報網では把握できておりません。

 ここの調査となると一流の生物科学者、飛竜使い、法皇のコネクションでの採用でないと、現場に入り込むことは難しいでしょう。


 次にカジノの景品ですが、国営部門と民間部門があり、カジノ本体は国営の施設ですが、くだんのドワーフ族の斧に関しては、あるとき民間部門に譲渡しており、その管理権限は民間部門に任されています。

 この民間部門のゲームの配当や還元率などは国営部門では口出しが出来ませんので、私から情報を提供することは困難です」


「テイラーさんの発言が正しいとすると、直接的な情報を入手することは困難で、何らかの形で人を送り込まないと実態を把握することは出来ないってことだね?」

「恐れながら、その様な回答となります」


「うん。下手に曖昧な情報を貰って、後から『事前情報と実態が違う!』とかなるよりは健全だよ」


 と、皆の前で答えてみたものの、カジノの方は何とかなりそう。

 民営の場合、カジノの中だけでなく、市街にも下部組織を設けているはずから、そこで目立った行動をとれば目をつけられて、獲得された賞金を回収するためにカジノに招待される線もあると思う。

 そこからが本番だけど、まぁ、先ずは行けそうだね。


 問題は飛竜の方か……。

 密偵を本気で送り込まなと調査が進まない感じだねぇ……。シズクさんに頑張って貰うとかかなぁ……。でも、シズクさんはお子さんもまだアリアと同じく幼いんだよねぇ……。

 密偵としてはサンさんのチームがあるけど、この先、皇后様による軍隊の侵攻があるからそこの情報を密に取っておきたい。ストレイア帝国の動きを探る密偵はちょっと外せないよねぇ……。


「ヒカリさん、どうするのかしら?」と、ステラ。

「カジノは筋道が立てられそう。法皇が研究しているらしい飛竜は全然計画が立たない。フウマが隊商の護衛役として任務に就いているから、別の身分を騙って潜り込むのは難易度が高い。

 あとは密偵に向いているのはシズクさんなんだろうけど、まだお子さんが幼くて……」

「ヒカリ様、ミチナガの権威を借りましょうか。あの人、科学教の宗祖の子孫ですから。一応、教団の幹部として認められています。

 ついでに言えば、科学教が例の『飛竜の兜』の技術をストレイア帝国へ供与して、それをロメリア王国が帝国から技術供与された形で飛竜騎士団を構成したはずです。

 魔族側で人族の飛竜騎士団の話を伝聞としてでも伝わっていれば、アジャニア出身の科学教の幹部が『飛竜の兜』の技術を知りうる存在として注目を浴びることは想像に難くないです」


「ミチナガさんとアリアは以心伝心の様な綿密なコミュニケーションがとれるっけ?」


 と、まだ魔族側のテイラーさんには念話の技術について公開を控えておく。


「ヒカリ様、ある程度は綿密にコミュニケーションが取れるようになりました。ヒカリ様の全ての教えを実現できておりませんが、役者不足でしょうか?」


「なら大丈夫。

 カサマドさんとアリアに護衛を付ければ良いかな。武力面と資格ではステラが良さそう。

 後は案内役が必要だねぇ……。

 例えば、ミチナガさんが諸国巡礼中にカサマドさんの銅の精錬所で出会って、留守に出来ないカサマドさんが、テイラーさんを法皇への紹介する使者として派遣したとか。

 無理では無いけど、皆の協力が必要だね」


「ヒカリさん、私の役どころは?」と、ステラ。

「エルフ族の族長として、人族のミチナガさん一家を案内しているとか」


「お母様、私の役どころは?」と、リサ。

「ステラの弟子にしては年齢がねぇ……。アリアの家族としては髪や目の色がちょっと厳しいし……。

 モリスと私と一緒に市井のゲームで稼ぐチームかな……」


「ヒカリ様、私の役どころは……」と、モリス。

「モリスと私で市井のゲームで稼ぐしかないね。流石にリサやシオンを表に出す訳にはいかない。ただ、私の今の実力ではアリアの様に『引き分けに持ち込む調整』は出来ない。僅差で勝つことは出来るかもしれないけどね……」


「ヒカリ様、少々宜しいでしょうか?」と、テイラーさん。

「テイラーさん、何かな?」


「私はそこにいらっしゃるアリア様のご家族とステラ様を引率して、何らかの形で宗教の幹部と面談に漕ぎつければ良いと理解しました。移動手段に関しましてはヒカリ様の指示に従い先ずが、残念ながら空飛ぶ馬車の運転技術は未だ習得しておりませんし、ヒカリ様の様に姿を消す技術も身に着けておりません。

 ここまでは私の理解であってますでしょうか?」


「テイラーさん、合ってる。移動は2チーム一緒に空飛ぶ卵で移動するから問題無いよ。

 ただ、帰りのタイミングは別になると思う。何故なら法皇と接触するチームは時間を掛けて信用を得ながら内部情報を探って貰う。暫く別行動になると思うから焦らずに行動して欲しいかな。帰還のタイミングで迎えに行くのか、船で帰ってきてもらうことになるかは、現時点では明言できない。

 良いかな?」


「承知しました。私が不在中のカサマドやムカンとの連絡はお願いします。

 もう一点確認させてください」

「テイラーさん、何かな?」


「私の想像が合っているとすると、ヒカリ様とモリス殿のチームはリバーシという盤上のマス目を白と黒コマで陣取りをするゲームに参加されるつもりでしょうか?」

「そうだよ」


「そうしますと、モリス殿とヒカリ様の腕試しをさせて頂くことは可能でしょうか?」

「腕試しって?」


「今は判りませんが、当時は魔族国内の大会で3大会連続で3位以内に入賞する程度の腕はございます。私に勝てるのであれば、勝ち負けの勝敗に対して観客として賭ける方策が確実性のある手段であると検証できます」


「ん~。カサマドさんはそんなに強かったんだ?」

「手合わせをさせて頂ければ、それをご確認頂けるかと」


「じゃぁ、リサ、私、シオン、モリスの4人と順番に対戦してみようか」

「承知しました」


 長い会議の最中だけど、カサマドさんとして2チームの作戦の行方をある程度掴んでおきたいと思うから、とりあえず休憩を兼ねて4回ほどゲームをすることになった。


 リサは負け。

 私は僅差で勝ち。

 シオンも勝ち。

 モリスは引き分け。


 つまり、カサマドさんは1勝2敗1引き分け。


「ヒカリ様の国でも同様な大会が開催開されていますか?」と、テイラーさん。

「いや?リサもモリスも今日初めてルールを知ったはず」


「なるほど……。その経験の差が私へ一勝と一引き分けのチャンスを頂けたと……」

「いや?リサは確かに経験不足かもしれないけど、モリスとアリアは半端じゃないよ」


「と、いいますと?」

「アリアとは、長い時間過ごすことになるから、今度対戦して貰うこととして、モリスと追加で3戦してみたら良いよ」


「なるほど……。改めてモリス殿の実力を測らせて頂きます」と、テイラーさん。


 結果は3戦して3引き分け。

 モリスの調整能力が圧倒的。まぁ、テイラーさんが最善手を打ってくる前提があるから、モリスも確実にコマ数を調整出来ているんだろうけどね。


「テイラーさん、合計4回連続で引き分けた訳だけど、モリスに勝てそう?」

「ヒカリ様……」


「何?」

「極まれに、獲得コマ数が半々になり、『引き分け』が生じることがあります。

 お互いの力が均衡しており、結果としてその様な結果が生まれるのです。

 私は過去に数多くの勝負をしてきましたが、その中で数回経験しただけです」


「それで?」

「私とモリス殿の力が完全に均衡していたとして、4連続引き分けが起こるのでしょうか?

 引き分けになるまでの筋道も最終的なコマの配置も全然違いますので、同じパターンの結果として引き分けが起きた訳では無いと思うのです」


「偶然だと言いたいの?それとも、何か別の理由があると言いたいの?」

「私の過去の経験からすると、奇跡的な確率で起こった事象と考えざるを得ません」


「なるほど……。モリス、4回までは引き分けても奇跡が通るらしいよ」

「ヒカリ様、承知しました」


「ヒカリ様、モリス殿。その言い方からすると、10連続でも奇跡が起こせるのですか?」

「カサマドさんが故意に負ける様な手を進めない限り、奇跡は続くと思うよ。少なくとも、私やシオンでは調整されちゃうね」


「モリス殿、申し訳ございませんが、もう一度奇跡を拝見出来ますでしょうか?」


 と、テイラーさんの申し入れにより、テイラーさんとモリスが5回戦目を戦った。

 結果は5連続引き分け。

 テイラーさんは最善手を選ぶし、モリスはそれを見越しての調整を完璧に行ったということだね。

 モリス、凄い!


「ヒカリ様……」

「カサマドさん、なに?」


「これは何かモリス殿が催眠術の様な技を駆使して、私の自由を奪っているということでしょうか?」


「そういうのは魔族の国のゲーム大会では有りなの?」


「いいえ。基本的に賭け事の会場では魔法が使えない結界が張られています。そのため対戦者同士において、心を読んだり、操ったりすることは出来ません。

 口頭で色々なことをつぶやくことで相手の心理を乱すような心理戦を仕掛ける場合は御座いますが……」


「じゃぁ、そのルールでもう一回してみても良いんじゃないかな?」

「ヒカリ様、つまり、モリス殿は催眠術の様なスキルは行使されていないと?」


「催眠術では無いけれど、相手がどこに手を打ってくるかを先読みして調整しているんだと思うよ。私は出来ないけど」


「そんなことが可能なのでしょうか?」


「それほど目立つ奇跡を起こせることが出来るなら、奇跡的な金額を獲得して胴元に多額の負債を負わせることが出来るよね。そして、本命のカジノの方へ招待頂くと……」


「ヒカリ様は魔族の国をどうされたいのですか?」

「何回も言ってる通り、ドワーフ族の斧の奪回と、飛竜の研究の停止かな」


「承知しました。これから魔族の国を訪問する2チームの方達を全力で支援させて頂きます!」


 うんうん。

 作戦会議の時間か掛かったけれど、強力な助っ人を手に入れることが出来たね。

 あとは、留守中にリチャードやマリア様が帰ってきたときに問題にならない様に調整しておけば良いかな?


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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