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1-16.不思議なカバン(1)

 綿菓子事件が片付いて、エイサンが来てくれた翌日から、鰹節づくりと並行して、家族でハネムーン旅行に出るための【不思議なカバン】と【空飛ぶ馬車】の研究に注力することにした。


 先ずね。

 【空飛ぶ馬車】って、空飛ぶ円盤で実現しようよしているんだけど、入れ物はニーニャに作って貰うとして、動力は水素じゃなくて魔石にすることにした。

 

 科学技術と工業の発展、そして魔力と科学の両立した社会を目指すのであれば、エネルギーを魔石に頼っちゃ不味いのは分かる。

 けれども、インフラとして水素エネルギーの利用を実現しようとしたら、時間が掛かりすぎる。


 ドワーフ族の工学的な手腕は分かってる。オリハルコンの精錬と武具の製造、治水工事や川幅100mの河を渡せる石橋の設計と施工、大型木造船の改造とかもできるぐらいだからね。

 けれども、物理学とか数学の基礎もなくて、システム設計の概念や制御技術が発達していない現状から考えると、単なる手先の器用さではなくて、それを担保する技術レベルと安全設計までを盛り込むためには数学や物理の基本的な知識、物性に関する知識とかも重要なんだよね……。


 一方で、空飛ぶ円盤を動かすために大型の魔石が必要ってことになれば、庶民には高嶺の花ってことなる訳で、無くても仕方ない物って雰囲気が出来上がるはず。

 そうであれば、水素エネルギーのインフラ技術と整備が遅れても、需要が無いわけだから、時間が掛かっても良いかな?


 まぁ、現状は馬車すら十分なサスペンションが無い世界なのだから、空飛ぶ馬車を実現するのは、村人全員が飛行術を覚えるのと同じくらい奇跡ってことになるよ。


 今は大きな街道にそって、【空気搬送システム】を敷設し始めてる。

 これは、簡単に言えば、エアホッケーのような空気の力で物を浮かしたり、動かしたりするってことね。トロッコのような箱を重力遮断で軽くして、微小な風でも動力になるようにして、馬車とかガソリン車とか電気に頼らない物流システムね。

 当然、急峻な山間とかは無理だし、曲がりくねった川に沿ってとか、そういうのは無理。だけれども、馬車道として街道ができているようなところに、平坦でまっすぐな道を新しく敷設するなら、それほど大きな問題にならない。


 問題が起こるとすれば、盗賊による襲撃だろうけれど……。

 橋をつくったり、ロメリア王国が実質制圧されてしまったことなどが、いろいろと尾ひれはひれ付いて噂になってるので、「あれは、絶対に触っちゃいけない物だ」って抑止力が働いているらしい。


 盗賊団にとっては、馬車を襲撃したり、貴族の館に盗みに入る方がリスクが無いとかなんとか……。

 もしチャレンジャーな盗賊集団が盗みに来ても、運んでるのは食料とか石とかだもんで、襲撃しても重くて運べないし、大した価値も無いっていうね……。

 そんなこんなで、安く大量に輸送するのが空気搬送システム。

 高価なものや、人を安全に運ぶなら従来通りの馬車。

 特殊任務は飛竜族に手伝ってもらうか、自分達で飛行術を駆使する。

 空飛ぶ円盤は私たち家族の趣味ってことで……。


 こんな風に交通手段を使い分けて行けばいいんだと思う。


ーーーー


 と、綿菓子を作った後の勉強会で物流と移動手段の使い分けをステラ、ニーニャ、アリアに説明することにした。

 但し、今日はインフラの整備に関わる内容があるので、前半部ではモリスにも参加して貰ったよ。リチャードは元々勉強会には参加していなので、インフラの整備に関する部分はモリスから上手く伝えて貰って、各大臣、工房なんかの調整を進めて貰うことにしたよ。


 そんな風に勉強会の初めに私が構想を説明すると、ニーニャから発言があった。


「ヒカリ、分かったんだぞ。

 魔石を動力に変える方法はシルフと相談することにするんだぞ。

 

 綿菓子のときに作った高速で回転する部分を上手く使えば、風車の逆の作用で風を起こすことができるはずなんだぞ。

 あの回転する装置を、空飛ぶ円盤の色々な場所に設置して、それぞれを自由に制御できるようにしたら、浮き上がることも、前や横でも斜めでも自由に進めるようになるはずだんだぞ。

 ただし、綿菓子と違って、人が乗った円盤は重くなるから、ヒカリの重力遮断を上手く活用するんだぞ」


 と、ニーニャ。

 


「うん。ニーニャ、そっちの方向でお願い。

 水素は継続的な電気分解、水素密閉容器、加圧したボンベからの出力調整といった、工学的な技術の発展が結構大変でさ……。

 でも、諦めた訳じゃないから!」


「ヒカリ、良いんだぞ。

 ヒカリが好きなことをして良いし、私は一族を挙げてヒカリを応援することができるんだぞ」


「ニーニャ、ありがとね。


 で、でもだよ?

 ニーニャがユッカちゃんと一緒に連れてきてくれたドワーフ族の人達が優秀なのは何となく分かるんだけど、一族を挙げて私を支援するとか、そういうのって、遠いところから無理やり連れてこられちゃった本人達のやりたいこともあるだろうし……。


 その辺って、大丈夫なの?」


「……。」


 私の質問にニーニャが黙る。

 あ、やっぱり、私の我儘がニーニャやドワーフ族の人達に負担を掛けちゃってるのかな……。

 ニーニャが黙るなんて、あんまり無いし……。


「に、ニーニャ?」

「……。」


 2回目の呼びかけにも返事をしてくれない。

 これって、私の我儘がドワーフ族にとって、相当な重荷ってことかな……。

 それとも、ニーニャ自身がドワーフ族の元へ帰らないといけない期限がせまってるとか……。


 いや、でも、私がドワーフ族にとって、迷惑かどうかを聞くまではこれまで通りだったり、いろいろ手伝ってくれてたよね?綿菓子製造機だって、一緒に夢中になって作ってくれてたわけだし……。


 全然わかりません!


 って、何も答えられなくなってるニーニャの様子と、それを見て私が困ってる様子をモリスが察知して、その場を繋いでくれた。


「ヒカリ様、おおよその主旨は理解できました。

 また、ニーニャ様を含めて工学的な支援をドワーフ族の方達から戴けるとのことでしたので、ニーニャ様と早速打ち合わせに入らせていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」


「あ、ああ、ええと……。

 うん。ニーニャがモリスと直接話した方が上手く行くなら任せる!

 工房とか人族の支援とかも必要になるし。そうしたらモリスと直接した方が早いもんね」


「承知しました。では、後半の勉強会に出席できず申し訳ございませんが、ニーニャ様をお借りします」


 って、黙ったままのニーニャをモリスが連れていった……。

、私がニーニャに様子を心配そうに見送っていると、今度はステラが心配そうに私に話しかける。


「ヒカリさん、私が水素の液化が遅かったことが原因でしょうか……」


 と、ステラ。


 うん。

 私が寝ちゃったり、授乳で勉強会で中断したり、その他の領主としての仕事もあったから、体系立てて知識を構築できず、その説明が不十分だったから、物質のエネルギーとか、液化技術が遅れたってのはあるよね。

 でも、それは私のせいであって、ステラのせいではない。ちゃんと誤解を解いておこう。


「ステラ、違うの。

 ステラの実力不足というより、水素の液化だけでは空飛ぶ円盤の燃料にはならないから、ちょっと順番を変えたいの。

 何を始めるかってのは、今日の勉強会の後半で話をするね」


「いいえ。ヒカリ様の話は今日の最初の説明で理解しているので大丈夫です。 また、この後の勉強会の内容につきましても、ヒカリさんについて行きますので、精一杯努力します。


 私が心配なのはニーニャさんの様子のことです。

 以前、ヒカリさんが空飛ぶ馬車を提案された際に、馬車本体と動力部分はニーニャさんが担当されて、そのエネルギーとなる水素と液化の部分は私が担当するはずでした。


 ところが、先日の綿菓子作りで初めて空気がきちんと大量に液化できるすべを見いだせたばかりで……。

 

 一方、既にニーニャさんは馬車本体だけでなく、ドワーフ族の方達も引き連れて、ヒカリさんの各種支援を達成していますわ。

 ひょっとしたら、ニーニャさんからみて、ヒカリさんの前でエルフ族への不満を口にする訳にもいかず、ヒカリさんへの答えに詰まってしまったのではと……」


 う?

 そうなの?そういうのありなの?

 今までだって、普通に喧嘩してたよね?

 てか、今回の方針転換だって、私のせいだし……。


「ステラ、それは私のせいだから、ステラやエルフ族の人達が気にすることじゃないよ。それに、技術開発の順番については、ニーニャだって納得してくれてたわけだし。

 あとで、ニーニャに何があったのかは、モリスから聞いておくよ」


「そうですか……。それだったら良いのですが……」


「うん。多分大丈夫。私がダメでもモリスやリチャードが何とかしてくれる!


 それにね?

 ステラには、【不思議なカバン】の方に挑戦して貰いたいの」


「「ええ~!」」


 ステラ、アリアの2人から同時に驚きの声が上がる。

 あれ?いつも変なことを言ってる自覚はあるんだけど、そんなに驚かれるかな……。大体はステラの魔術か、アリアの科学知識に引っ掛かるから、私が全面的に驚かれることはそんなに無いはずなのに……。

 まぁ、無くは無いか……。



いつもお読みいただきありがとうございます。

週末1回、金曜日の22時を予定しています。

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