8-06.ゲームをしよう(6)
さて、魔族の国を訪問する準備に注力だよ。
「お母様、少し宜しいでしょうか?」
「お母さん、私もリサお姉ちゃんの次にお話があります」
「う、うん……。
じゃぁ、リサから。話をしたいことって何?皆の前でも大丈夫?」
「はい。私も一緒に連れて行って貰えますよね?」
「1回目は判らない。2回目は家族全員で行く旅行だから大丈夫だと思う。
シオンの質問は?」
「僕はお姉ちゃんと同じ質問です。2回目で連れていって貰えるなら大丈夫です」
「じゃあ、そういうことで大丈夫だね」
「お母様、一回目は誰が行くのですか?」
「ここに居るメンバーで先に行っても大丈夫な作戦が立てられるなら先に行けば良いし。行っても駄目なら、迷宮で訓練を行っているメンバーが戻って来るまでダメだろうね」
「お母様、ひょっとして、ゲームなんかしている場合では無いのでは?」
「どうして?」
「色々考えなくてはいけないことが沢山あります。準備も沢山しなくてはいけません。皆が力を合わせるべきです」
「皆が準備してくれているし、力も合わせてくれるし、色々考えてくれているよ?」
「でも、でも……。ここで私と一緒にゲームをしてくれています……」
「皆がリサのことを尊重してくれているからだよ。私が『リサと遊びたい』ってお願いしたら、リサが起きてくるまで待っててくれた訳だし。
皆がフウマのことも尊重してくれている。だから、一刻も早くフウマに食料や活動資金を届けるために最善を尽くしてくれているんだよ。
当然、フウマに資金を供給することがドワーフ族の斧や飛竜族の卵の解決に至ることも分かった上で協力してくれている。
皆が同じ方向を向いて、力を合わせてくれているんだよ。リサのことも大事だけど他の人のことも考えながら行動してくれているよ。
まぁ、ゲームの攻略は良いとして……。
(1)今から1週間留守にすること、
(2)通訳を用意すること、
(3)偽の身分証を発行してもらうこと。
この3つを整える必要があるね。
身分証は、冒険者ギルドかハピカさんに発行してもらえると思う。通訳は今いるテイラーさんを1週間借りられるかを見極めないとね。ここが一番問題になるかも……」
「お母様、テイラーさんをここに呼びましょう。そして話に加わって貰えば良いのです」
「リサ、それは一つの手なんだけど……。テイラーさん達には、空飛ぶ卵ぐらいしか情報を開示していないんだよ。
念話もステラが居ることは秘密だし。妖精の長達が滞在していることも秘密だよ。それに、ステラが伝説の鞄を作れることも秘密だし、魔族の金貨をニーニャが複製していることも秘密なんだよ?」
「お母様は、なんで、そう、こう、面倒な……」
「面倒なことをしているから、エミリー様の遺骸を魔族から取り戻したことを魔族に知られていないし、リサがエミリー様の転生者だということもバレてないんだよ?」
「では、こうしましょう。お茶会にテイラーさんを呼びます。
そこで、モリスさんやステラ様がテイラーさんに魔族の国のことを聞くんです。
旅行で行ったときに気を付けることとか、通訳を頼むならどうすれば良いかとか。
そうすれば、フウマお兄ちゃんが入手する情報から裏取りも出来ますし、場合によっては情報の補完もできると思うのです!」
なんか、リサが頑張ってる……。
アイデアは悪くは無いよね?
「ヒカリ様、念のためですが、そのテイラーさんは何処の国の出身でしょうか?」と、モリス。
「魔族の国のエリートだよ。侯爵様の3男とかそういう類の貴族だと思う。カサマドさんの付き人扱いで銅の精錬所を運営していたみたいだね」
「全然、その様な話を伺っておりませんが?とすると、訓練に向かわれているカサマド様は王族であったりしませんか?」
「第三王子とか言ってたかな?直接的にエミリー率いる人族の騎士団部隊を殲滅した訳では無くて、カサマドさんのお兄さんが軍隊を率いていたみたい。そういう目に見える功績が大きい案件は長男が指揮を執るのかもしれないね」
「ヒカリ様、今の話は誰がご存じなのでしょうか?」
「ニーニャとリサと私と本人達。あと、今ここで食事をしているメンバー。
ひょっとすると皇后様も知っているかもね。偽物の指輪を売りつけていたから」
「ヒカリ様、何故その二人がヒカリ様の指示に従ってますか?魔族の金貨1万枚は彼らから何らかの手段で入手したものでしょうか?その入手経路次第では、作戦を変更しなくていけません」
「銅の精錬所に一泊させて貰ったのね。そのとき『支払いが魔族の通貨になり、莫大な請求が来る』って、精錬所のドワーフさん達に教えて貰ったの。
で、そこを逆手にとって、両替をしてもらって、彼らを金銭的に破綻させたの。後は契約書に基づいて、彼らがニーニャの奴隷となることで契約を履行することになったよ」
「ヒカリ様、詳細が全然分からないのはいつものことですが、リサ様かニーニャ様に後で伺うことにします。
何故、ヒカリ様の奴隷ではなくて、ニーニャ様の奴隷にするなど、面倒なことをしたのですか?」
「お母様、私が代わりにお話ししても良いでしょうか?」
と、リサが横から入ってきた。まぁ、良いけど。
私の行動原理を私が説明しても上手く伝わらないのであれば、客観的に事実を見ていたリサの方が話の説明は伝わりやすいからね。
リサがドワーフ族を訪問したことを皆に話始めた。
ドワーフ族の拠点を訪問してみたら砂漠化していて、これまでのドワーフ族の領域とは異なる環境に変化していたこと。問題が生じている可能性があるから、ニーニャにドワーフ族の訪問をしている体裁をとってもらったこと。
魔族の支配下で、多額の借金をかかえていることが分かり、魔族の通貨を複製した上で借金の支払いに充てがったこと。その際、契約書類を全て買い取って、さらに追加でドワーフ族や人族の金貨の支払を求めたが、相手の契約不履行により、莫大な借金を抱えるか奴隷の身分に落とすことになったこと。
リサの説明が終わると、モリスが発言を求めた。
「リサ様、ありがとうございます。ヒカリ様、追加で質問がございますが宜しいでしょうか?」
「モリス、今ので全部だよ。他に何が知りたいの?」
「何故、魔族の通貨は他の種族の通貨に比べて100倍の価値を得られたのでしょうか?」
「魔族の通貨は金という金属の交換性ではなくて、信用通貨だからだね。金はほとんど使われていないもん」
「ヒカリ様、話が良くわかりませんが……」
「ちょっと話が長くなるけど、紙に描きながら説明するよ。いいかな?」
確かに魔族の金貨が100倍の価値があるというのはおかしな話だもんね。1%しか金が含まれていなかったとしても、交換レートが100倍になるのはおかしい。まして、含有率1%なのに金貨1枚と等価交換とか言われたら、流通に関わる商人から、通貨を利用する人から誰も相手にされなくなるからね。
「先ず、『通貨とか貨幣は何か?』って話になるよ。
基本的には物々交換を仲介する手段として貨幣が出来たんだよ。
例えば、麦とリンゴ、魚とジャガイモ、肉と布とか。
こういうのを交換出来るのは、双方にとって欲しい物が妥当な値段で手に入るから、お互いに交換に応じる訳だよね。
たださ?麦は汎用性が高くて日持ちがする。魚や肉は生ものだから、干して保存して日持ちが良い食料にできる。ところがリンゴとかバナナの様な果物だと、欲しいときに欲しい物が手に入るとは限らないから、交換しにくいよね。
だから、リンゴは一袋で銀貨5枚。麦一袋は銀貨5枚とか、そういうルールを決めて置けば、リンゴがとれる時期まで銀貨で保存しておけるようになる。
このリンゴや麦の値段を決めるのは商人だし、季節や需要の変動によって値段も変わる。例えば砂糖なんかは、この国だと樽1杯で金貨100枚もあれば買えるけど、北の大陸に行くと1樽で金貨500枚とか1000枚になるね。
まぁ、とにかく物の値段の物差しとして、銀貨とか金貨があるってことになるよ。
ここまでは良いかな?」
「「「「「ハイ」」」」」」
まぁ、そうなんだよね。
目に見える物の価値はなんとなく分かる。季節変動や土地柄によって値段が変わることも分かる、価値の高い物は高価だし、価値の低い物は安い。これも体感的に当たり前の話なんだよね。
「じゃぁ、『金貨と金貨の価値は誰が決めているのか?』となると、贋金の問題は別として、基本的には金や銀の含有量で価値を決めているよ。
A国の金貨は、金50%銀50%。B国の金貨は金100%とする。
このときのA国の金貨とB国の金貨を交換しようとすると、おおよそ1:2の価値で取引されることになるね。細かく言うと、A国の金貨2枚用意すれば、B国の金貨1枚と銀貨1枚になる。
これは算数の考え方だから問題無いよね?」
「「「「「ハイ」」」」」
「じゃぁ、『含有率から考えても、魔族の金貨1枚と魔族以外の国の金貨100枚を交換することは理屈に全然合わないことになるのだけど、どういうこと?』
っていうモリスの質問が今回のきっかけになってるよね。
で、私が答えたのは『信用通貨だから』が答えなんだよ。
簡単に言うと、魔族の国の国営機関が、『魔族の国の金貨を他国の国の金貨100枚と交換することを保証する』ということだよ。
つまり、私が魔族の国の金貨1枚を持ち込めば、魔族は人族の国の金貨100枚を必ず渡してくれるし、ステラが持ち込めばエルフ族の金貨100枚を必ず渡して貰える。
ここに絶対の保証があれば、『魔族の国の金貨は他国の金貨100枚の価値がある』として、宣言しても全く問題ない。
これも良いかな?」
「ヒカリさん、質問良いかしら?」
「ステラ、何かな?」
「さっき、金の含有率の話をしたでしょう?
もし、誰かが魔族の国の金貨を、金貨1枚分ぐらい金の量で贋金を作ることが出来る様になったとしたら、魔族の国は破綻してしまうのでは無いかしら?」
「ん……。アリアはどう思う?」
「私もステラ様の意見に賛成です。
以前、エスティア王国に贋金が流通してしまったとき、金の含有量を減らして、その差分を元に金貨の枚数を水増ししていました。
今回金貨1枚と同じ金を用意して、魔族の金貨と同じ形に加工することができれば、偽物として判断できなくなると思います」
「ステラもアリアも正しい。ついでに念話で言っていたフウマの情報も正しいんだよ。
『もし、魔族側の贋金対策が金の含有量だけで、贋金を判定する方法』だったらね。
実際には、金属精錬、冶金、金の薄膜加工、そのコーティング技術などが複数組み合わされて魔族の国の金貨は作成されていたよ。
ニーニャの力をもってしても、ちょっとやそっとでは魔族の金貨の複製には至らなかったね。
つまり、魔族の国の通貨は『絶対に複製されないという、技術的な優位性』も、信用の裏打ちをしていることになるね」
この辺りは日本の紙幣の発行とか、新紙幣切替えによる偽造防止とかと同じ話なんだけど、信用通貨を知らない世界なんだから、そんな国が発行する通貨の仕組みを教えても仕方ないよね。
「ヒカリ様とニーニャ様はそこを突破されたのですか?」と、モリス。
「うん、まぁ、今の科学技術レベルで検知できる範囲では同一種類の通貨として判定できるレベルの物を作ったよ。
もっともっと科学技術が発展したら、金属内に含まれる微量元素の含有割合とか、斑晶の入り方によって贋金と証明することができるかもしれないけれど、そのデータを提示することが出来ない以上は、真贋の判定が出来ないことになるよ」
「ヒカリ様とニーニャ様で魔族の金貨1万枚を所有していると?」
「うん。ニーニャが作ってくれた。
ただ、まぁ、5000枚分ぐらいはカサマドさん達に銅の精錬所としての売り上げに補填しないといけないけどね」
「ヒカリ様、魔族の国の経済を破綻に追い込むつもりですか?」
「ドワーフ族の斧を取り返すとのと、飛竜の卵を盗んで行っていると思われる飛竜族の研究には終止符を打たせたいね。この2つが飲めないなら武力行使もありだと思ってる。
もう一つ調査が終わっていないのが法皇の存在だね。国王とは別に宗教を軸に牛耳ってるらしいよ」
「ヒカリ様、信用通貨、贋金の説明ありがとうございます。
ヒカリ様において見落としは無いかと思いますが、魔族の通貨が信用通貨ですと通し番号や発行枚数の管理がされている可能性はございませんか?」
「モリス、発行枚数の総量はわからないけど、1枚ずつに通し番号振られていることはなかったかな」
「とすると、魔族側からすれば、他種族の金貨100万枚分を用意できないと、国が破綻することになりますね」
「持ち込み方と、入手元を問われなければ破綻させることが出来るね。
ただ、モリスの言う通り、入手元を問われたときに上手い言い訳が無いんだよね。
人族の通貨で数万枚分なら何とかなりそうだけど……」
「ヒカリ様、そのアイデアは何処から?」
「うん?あぁ……。
皇后様、ええっと、サンマール王国の王姉殿下がさ、ニーニャの銘を入れた偽の指輪を魔族にも売りつけていたっぽいんだよ。
つまり、同じ銘が入った本物と交換して、そのお礼に魔族の通貨を貰えれば問題ないかな。被害者が10人いれば、人族の金貨で2万枚分ぐらいにはなると思う。偽物と本物では質が全然違うから、10人以外にも売れて数万枚の資金にはなると思うよ。
ここを魔族の通貨か、魔族の通貨の借用書を発行して貰えれば問題無いかな」
「ヒカリ様、やはり、リチャード殿下とヒカリ様のハネムーンとは別に魔族の国での偵察を進めないと不味いですね。フウマ殿は護衛役のB級冒険者としての立場があるので動くに動けませんよ。
私であれば人族を追放された執事の立場として雇用されることが出来るかも知れませんね」と、モリス。
「ヒカリ様、私だって、錬金術師が放浪することはあります。そんな科学技術の発展した国を訪問しないとか、有り得ません!」と、アリアが続く。
「ヒカリさん、分かっているわよね?」と、それだけしか言わないステラ。
「ええと、みんな、家族がいるよね?
モリスだって、アリアだって、ステラだって……」
「「「それが何か?」」」
いや、おかしいよ……。
朝からゲームしてただけ……。
ちょっと脱線したけど魔族の信用通貨の説明をしただけ……。
なんでこうなった……?
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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