8-05.ゲームをしよう(5)
さて、ゲーム部屋に戻って続きをするよ。
リサと二人で打ち合わせというか、色々なお話をしてから、モリス、アリア、ステラ、シオンの4人がゲームしている部屋へ戻る。すると、ステラから声が掛かった。
「ヒカリさん、このゲームが理解できたわ。
ヒカリさんやリサちゃんと勝負できると思うの」
「う、うん……」
「何か不満かしら?今日はリサちゃんとこのゲームをするのでしょう?」
「あ、うん。シオンとステラではどっちが強い?」
「半々かしら。勝ったり、負けたりね」
ええ?
まさかだけど、シオンは接待してる?
彼ならあり得る……。
「そ、そうしたら、リサと私とどっちが良い?」
「4人で総当たり戦をしたらどうかしら?」
「一人が3回戦うってことだね。勝ち負け表を作ってやってみようか」
と、ゲームをした結果、こんな感じになった。
横の行の勝敗が、その人の勝敗を示しているよ。
表リスシヒ
リ-×〇〇
ス〇-〇×
シ××-〇
ヒ×〇×-
リサが2勝1敗
ステラが2勝1敗
シオンが1勝2敗
私が1勝2敗
私は思ったよ。
リサもシオンもステラに忖度してる!
私もステラに負けたら、ステラが気が付く!
私がステラに嫌われても勝つしかない!
って。
「お母様!」
「リサ、なに?」
「おかしくないですか!」
「え?ええと、この表は横に見ていってくれる?間違いがあったら教えてね」
「私が2勝して、お母様に勝っています。
なのに、お母様はステラ様にだけしか勝てていません!」
「うん、そうみたいだね」
「子供に手加減したのですか?」
「え?」
「自分の子供達には本気をだしていないのですか?」
「なんでそう思ったの?」
「なんとなく、そう思いました」
「そう……。ステラやシオンも私が手加減してると思った?」
「リサちゃんやシオンくんには、何とか勝てたけれど、ヒカリさんはこのゲームに慣れているのか、強いわね」
「僕は、皆さんが強いと思いました。お母さんに勝てたのは偶々です」
「で、でしたら!皆さんが良ければもう一回同じことをしませんか!」
リサ、呼びかけなのに断言してるよ!
いや、良いんだけどね?
二回目の総当たり戦の結果。
表リスシヒ
リ-〇〇×
ス×-×〇
シ×〇-×
ヒ〇×〇-
リサが2勝1敗
ステラが1勝2敗
シオンが1勝2敗
私が2勝1敗
今度も他の勝ち負けを確認していた。ステラとの勝ち負けを曖昧にするために、私がステラに勝ちを譲りつつ、勝率ではステラには負けて貰うことにした。
「お母様!」
「リサ、何?」
「お昼ご飯にしましょう!」
「う、うん。みんなもご飯で良い?」
「「ハイ」」
リサもシオンもステラも何か感じることがあったに違いない。
誰かが一方的に強い訳でも無く、もう少しで勝ちが掴めそうな雰囲気。
たぶん、シオンも相当な曲者だと思うんだけどね……。
ーーー
ゲーム部屋の6人にご飯を運んでもらう様に頼んで、ご飯を食べながら色々な事の会話が進むと思いきや……。
「ヒカリ様、もう1~2日頂けますですでしょうか。アリアにも付き合って頂きたいのですが」
って、モリスが切り出した。
モリスとアリアの机の横には結構な厚さになっている紙の束がある。きっと、キーとなるパターンの洗い出しと、そこからの変化を人間の手で記しているのだと思うけれど、AIじゃないんだから、そんな無数のパターンの抽出には人手では限界があると思うよ……。
「あ、うん……。モリスの感覚では現地にはモリス一人で行く感じになるのかな?」
「ヒカリ様のお許しと、こちらでの仕事に目途が付けば、少々お暇を頂きたく」
と、このタイミングでフウマから念話が通った。
この状況が打開できる新たな情報が手に入ると良いんだけどね……。
<<姉さん、今日の午前中にかけて、例のゲームについて色々調べてみたんだ。執事のモリスさんからも問い合わせがあったから念入りにね。
その話をしたいんだけど、今話をしても大丈夫かな?>>
<<フウマ、良いタイミングだね。今ここにモリス、ステラ、アリア、あとシオンとリサが居る。全員に同時に念話を通してくれて良いよ>>
<<わかった。全員に向けて念話をするね。
まず、大会の開催なんだけど直近で行われる大きな大会は今日から1週間後になる。それまでに賭け金となる元の魔族の金貨を少しでも入手出来ていないと、更に一か月後を待たなくちゃいけない。大きな大会以外では、個人同士で賭けをするだけだから、大きな賞金とか賭け金を賭けることは出来ないことが分かった。
次に、詳しくルールを確認したのだけど、『引き分け時は、賭け金が払い戻しされず、二倍に増えて運営側でキープされる』という話なんだ。つまり、金貨1枚で勝敗が決まらずに、引き分けたとき、引き分けに賭けた人は2倍の金額が運営側でキープされて、その増えた金貨2枚を同じ対戦者同士に、賭け直すんだ。胴元としてみたら、勝ち、負けに賭けた人からは金額を回収しているし、引き分けで2倍にしたところで、次に勝敗を当てられなかったら、2倍の金額を払い戻す必要が無い。だからルール上として賭ける目があるけれど、普通は賭けない目があるってことだね。
あとは賭けとは別に、魔族の国で換金できそうな物を色々探してみたんだ。魔石は人族の金貨での買取相場が成立していた。だから魔族の国の金貨で買い取って貰えるためには、大量の魔石を持ち込むか、姉さんがエスティア国王の前で寄付金額の勝負で使ったような金貨3000枚級の魔石を持ち込むしかないね。
魔石を持ち込むにしたって、一度に沢山は持ち込めない。普通の冒険者がワザワザ魔族の国で換金するより、自国で換金した方が冒険者ランクも上がるし、自国の通貨が直接手に入るし、名声も手に入る。だから、高価な魔石を魔族の金貨に換金することはそれなりの目的を調べられるね。例えば『カジノで一攫千金を狙いたいから』とかね。
この3つが昨日の夜から今日の昼までに集められた追加情報なんだけど、役に立ちそうなことが無くてすまない>>
<<フウマありがとう。色々と役に立つ情報だったよ。
ところでさ?
フウマは魔族の言語はどうしてるの?ゲームの看板とか読めないでしょ?>>
<<護衛の道中が長かったから、隊商の人達に色々習ったんだ。数字と簡単な文字なら読める様になったよ。難しい法律用語とかだと無理だけどね。挨拶とか食事のときに使う単語なんかもわかるよ。
それが何か?>>
<<リチャード達が1~2週間は迷宮から帰って来ないから、先行して第一弾をそちらに派遣しようと準備を始めてるんだよ。金貨や物、食料なんかは簡単に送れると思うけれど、そちらでの世話係を当てるか、通訳を雇う必要があるからそこが問題になってる>>
<<確かに、僕がリバーシのゲームに参加しても勝ち目が無いだろうから、姉さんやモリスさんに出場して貰って、そこに賭けることになると思う。そのとき、どうしても最低限の通訳は個別に雇う必要があるね……。まして、同じ大会に仲間内で参加していると思われない様にするためには、別々の目的で立ち寄った人を装う必要があるね……。
通訳か……。通訳についてはこの後追加で情報を仕入れておくよ。
あと、人族を見かけたときに、どういった目的で入国したら怪しまれないかも確認しておく。その他に旅人が使いやすい宿屋とか食事をする場所なんかも確認しておくよ>>
<<フウマ、ありがとう。こっちでも少し作戦を煮詰めるよ>>
ーーー
フウマからの新情報を得て、ゲーム室の6人で作戦会議を再開するよ。
「ヒカリ様、宜しいでしょうか?」と、モリス。
「なに?」
「先ほどのフウマ殿の情報で非常に有益な情報があったことに気が付きましたか?」
「うん。『引き分け』の話だよね。ただ、仲間内の一回だけなら使えるかもしれないけど5回連続で引き分けとか出来ないよね……。そういうことを怪しまれずに出来れば1勝負で金貨1枚を金貨32枚に増やすことは出来るけどね」
「ヒカリ様、先ほど父とゲームをしていて、勝ち負けの枚数調整をしていたのですが、当然ながら引き分けも枚数調整の一環として可能になります。
今、詰めに入っていたのは、『故意に弱い手を打ってきた場合の回避策』になります。双方が最善策を打って勝敗を進める場合の洗い出しと枚数調整は大体出来る様になりました」と、アリア。
「モリス、アリア、今の話が本当なら、ステラ、シオン、リサ、私の4人と引き分けることが出来るってこと?」
「ええ、故意に悪手を選択しなければですが……」
と、ゲームの攻略の進捗を検証することになったよ。
結果として、シオン、リサ、私の3人は2回とも見事に引き分けた。ステラは一勝一敗だった。ステラは微妙に最善手が打てないから、調整しても最後の段階で詰め切れないってことなんだろうね。
「私が最善手を打てているとは思えないし、シオンやリサでも引き分けになる場合があるってことは、結構いい線行ってるってことだよね。もっと色々な人の打ち方にも合わせられる様になってきたら、引き分けで倍々作戦が使えるかもね」
と、何気ない感想をつけておいた。
正味の所では、シオンやリサはモリスやアリアから見て『調整可能な範囲での最善手に近い手』を選択出来ているってことだね。やっぱり、リサもシオンもステラに対して勝敗を適当に調整していたんだね!
と、この結果に対して、あくまで「まだまだ精度が甘い」ってことで、「ステラが悪手を考えずに打ってしまっている」という雰囲気にしない様に上手く状況を捉える様に皆が話を合わせた。
リバーシの攻略がここまで来てるなら、移動時間とか練習時間をとれば、アリアとモリスならなんとかしてくれそう。
それよりは、通訳とか現地での情報が重要になってきてるね……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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