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8-04.ゲームをしよう(4)

 リサが起きたらゲーム再開だね!

 そんな風に考えていた私は悪くない!はず!

 とりあえず、モリス、ステラ、私の3人で一緒の空いてる建物で寝ることにした。

 男女がとか種族がとか、そんなの関係ない。

 土間に草布団を引いた程度の粗末な寝床。でも、そんなの関係ない。

 なんか、芸人の歌みたいだ……。


 で、仮眠を取って、日が完全に上ったのか、入口の方から白色光が射しこんできたタイミングで何処かからリサの声が聞こえる。


「お母様!お母様!だれか、お母様を見かけませんでしたか?」


 え~~~~。

 リサが私を探すってどういうことよ?

 あれ……。リサ専属のメイドっていなかったっけ……。

 カナエさんとの連携が上手く取れて無かったかな?


「リサ~~~?お母さんはここだよ~~」

「お母様!」


 なんか、速いの。

 達人の居合切りの瞬間に出る剣の速度のような速さでリサが飛んでくる。

 

 危ないって。

 仕方ないから、空気のクッションで膜を作ってリサを受け止める準備を整える。


 で、案の定リサは止まれず。

 私に激突する前に私の前面と足元に置かれた空気のクッションで衝撃を吸収されて仰向けにひっくり返った。そのリサを優しく抱きか抱えて起こしてから語り掛けたよ。


「リサ、どうしたの?疲れてたみたいだから寝かせておいたんだけど」

「誰も居ませんでした。誰に聞いてもお母様の行方が分かりませんでした。

 聞き取りをしたら、『執事の男性とエルフ族の人の3人で夜中に何処かへ飛んで行くのを目撃した』との情報が得られました。

 だから慌てて探したんです!」


「モリスもステラもそこで寝てるよ。3人とも一緒だよ」

「なんでモリスさんとステラ様が一緒なのですか!何か悪いことを始める前兆ですか?」

「リサ……。

 前兆とか、そういう表現を使うときは不用意に起こることで……。

 計画的に始めるときは、悪だくみをするとか、そういうことじゃないかな?」


「お母様、自分の行いを良く振り返ってから言葉を発してください。

 ちょっと、迷宮で収集品を集めたら、魔物が溢れて騎士団が派遣されそうになったり。

 ちょっと、飛竜族のお土産を買いに行ったら、飛竜族と勝負になって、それに勝ってしまったり。

 ちょっと市場で夕飯の買い出しに向かったはずが、薬学の研究所が設立されたり。

「リサ、それ合ってるけど、悪だくみじゃなくない?」


「そうなんです!普通のことをしようとしてただけのはずなんです!

 お母様が絡むと、なにかとんでもないことになるだけなんです!

 だから、何かの前兆を掴むためにも目を離してはいけないのです!」


「なんか、リサの言う通りな部分は沢山あるね。

 だけど、悪だくみも、悪いことの前兆でも無いと思うよ?」


「でしたら、夜中に何をされていたのですか?得意分野が異なる方達が集まって!」

「マリア様が買い取ったこの辺り一帯を整備する地図を作って、その水準点を設置していたんだよ」


「地図作りとかはモリスさんが得意なことは知っています。ですが、それがステラ様やお母様が一緒にすることではありません。まして、太陽が見えない夜中に実行しても正しく測量が出来ないはずです」


「リサ、色々と詳しいねぇ……」

「私だって騎士団を指揮した経験がありますので、地形を読み取ったり簡単な地図を作成することは出来ます。モリスさんほど精密なものは難しいですが……。

 そうでは無くて!

 何故、ステラ様やお母様が夜中に地図を作っているのかという話です」


「ああ、それは簡単だよ。

 二人ともリサと一緒にゲームするために、昼間する仕事を前倒ししておいて、リサが起きたら一緒にゲームするためだよ」


「え?」

「うん。まだ、二人とも寝てるから、起きたら聞いてみたら良いよ。みんなでゲームすることを楽しみにしてるよ」


「ほ、本当ですか?」

「うんうん。朝ごはんでも作って、みんなで食事する準備をしよっか。

 ところで、シオンは?」


「昨日のシオンはアリアさんと一緒にチョコレートの研究をしていた様です。呼んだ方が良いですか?」

「あ、うん……。シオンも一緒に遊んだ方が良いかなって」


「まだ寝てましたよ。起こしてきましょうか?」

「寝てるなら寝かしておこう。

 体の成長や脳の成長にとって睡眠はとても大事だから。

 ホルモンの分泌も寝てるときに活発になるものもあるみたいだし。

 起きてきて、私を探している様だったら仲間にいれよう」


「分かりました。では、食事の準備ですね」


 別にリサに魔族の国のゲーム大会のことを隠している訳では無いけれど、余計な情報を与えて惑わせてしまっては良くないからね。リサが全体を先読みして、一緒に判断出来る様になったら、そのときに情報共有する範囲を広げていけば良いんだと思う。


ーーー


 朝食の準備をリサと二人で整えてから、ぐっすりと寝ているステラとモリスを起こす。リサにはシオンの様子を確認しに行ってもらって、朝ごはんを一緒に食べられそうなら起こして連れてきてもらうことにした。


「ステラ、モリス、おはよう。昨日はお疲れさまでした」

「ヒカリさん、おはよう……。少し疲れが残っているわね……久しぶりよ……」

「ヒカリ様、おはようございます。私としたことが寝坊しました」


「あ、二人とも大丈夫?リサが戻ってきたらご飯を食べてピュアしよっか。

 昨日は帰ってきて、そのまま3人で寝ちゃったもんね」


「ステラ様やヒカリ様は、いつもあの様に複数の魔法を駆使して活動されているのですか?」


「モリスさんこそ、陸上にいながら、ああいった俯瞰ふかんした視線で地形を捉えることができて、地図を作製していたのでしょうか。それに、街道の位置や建物の構成もイメージしてその要所要所のポイントを抑えているとか。挙句、拡張性までを考えて街づくりをされていたわ。

 街、運河、農園……。

 モリスさんの力は偉大よ……」


「いや、ステラ様こそ素晴らしいですよ。飛空、照明、念話、領地マーカーの設置、耐寒、身体強化など、私が知る限り5種類以上の魔法を並列で駆使されていましたよね」


「あ……。二人が直接仕事をする機会はあまり無かったっけ。

 で、お話し中悪いんだけど、朝ごはんを食べながら話の続きをしよう?」


 私は戻ってきたリサとシオンの世話をしながらご飯を食べる。ステラとモリスは何だか良く分からない世界で二人で盛り上がっている。二人が意気投合する様子って、これまであんまり見たことが無かったね……。


 と、リサがご飯を食べながら私に声を掛けた。


「お母様、食事中にお話をしても良いですか?」

「あ、うん。口の中を空っぽにしたタイミングなら良いと思うよ」


「はい。それで今日のこの後のことなのですけれど、お時間はございますか?」

「うん。リサと遊ぶんだよね」


「えっ、ステラ様とモリス様との打ち合わせは大丈夫なのですか?」

「ええ?食事をする前に説明したと思うけど、二人もリサと一緒にゲームするつもりだよ」


「お二人とも、とても専門性の高い内容をお話されていますよね」

「あの人たちは、あれが普通だから大丈夫だよ。

 それで、リサが聞きたかったことは何かな?」


「お母様は本当に私とゲームなんかしてて良いのですか?もっと他に大切なやるべきことがあって、それでも私の発言を気にして構ってくれているのではないですか?」

「リサ、大丈夫。私はリサのことも考えているし、家族のことも考えているし、一緒に協力してくれている人たちのことも考えているよ。

 ただ、全部をリサに見せてあげられてないからお互いの認識に違いがあったかもね」


「そ、そうですか……。

 お母様の事情はわかりました。ですが、ステラ様やモリス様がゲームをしていて良いのでしょうか?」


 と、私の心配がなくなると、今度はステラとモリスの方へ視線を向けて私に尋ねる。


「ん……。大丈夫なんじゃないかな?

 モリス、ステラ、今日はリサと一緒にゲームして遊べるんだよね?」


「「ええ、もちろん!」」


 うん、この二人の返事の力強さから、「絶対に逃がさないぞ」の覚悟が昨日から残っているね……。


「リサ、安心した?」

「お母様、皆様が大丈夫なら是非おねがいします……」


「他に何か心配なことがあるの?」

「お母様、シオンは大丈夫ですか?ちゃんと面倒をみてますか?」


「ん……。シオンは大丈夫?」

「おかあさん、何がでしょうか?」


「心配事とか、困っていることは無い?」

「おかあさんとおとうさんからは衣食住を提供頂いて、土地ごとの文化に接することができて、その土地や流通における要人を紹介頂いています。これで商人として大成出来ないとすれば、本人の努力不足です」


「そう……。今日は皆で一緒に遊んでも大丈夫?」

「アリア様に用事が出来たと言付けできれば大丈夫です」


「モリス、アリアも忙しいのかな?」

「アリアの動きについては、私は掌握しておりませんが……」


「じゃぁ、アリアにも声かけてみよう。ゲームとかも好きかもしれないし。

 とすると、ゲーム盤が足りないね。ドワーフ族の人に言ってこれも作り足して貰おうかな……。

 シオンさ、リバーシって白と黒コマを並べていって、同じ色で挟んだら相手の色をひっくり返せるゲームあるでしょ?あれをここに居る人にルールを説明しておいて貰える?」


「ええと、おかあさん、そのボードゲームは知っています。ですが、盤やコマを準備しないと、流石に説明が難しいのです」

「うん、シオン、ここに1式は作って貰ったの。リサと一緒に遊ぶ予定だったんだけどね。1セットでは数が足りないから、もう少し追加で作って貰うよ」


 と、私はニーニャの伝手で作ってもらったリバーシが出来るゲーム盤を見せる。コマはちゃんと64枚あって、片側が黒塗りで裏側は木目のままの簡易版。角は四角くて面取りがしてあって、棘が刺さってケガしない程度の仕上げにして貰ったよ。


「おかあさん、この1セットがあればルールの説明をするには十分ですね。皆様の食事が終わりましたらルールの説明をします」

「うん、じゃあ、よろしくね」


 そうしたら、アリアに状況を説明して手が離せるかどうかの確認と、リサとシオンが居なくなっていることを世話役のメイドさんへ説明する。それと、ドワーフ族の人に3セットぐらいリバーシの盤とコマを作って貰えば良いよね。


 うんうん。

 ちゃんと目的に合わせて進んでるんじゃないかな?


ーーー


「みんな、お待たせ!

 アリアに声かけつつ、追加のゲーム盤の作成をお願いしてきたよ」


 って、何で二組になってる?

 ステラ、リサ、シオンが3人で1つの盤を囲んでいる。

 モリスとアリアがもう1つの初めてみる盤を囲んでいる。

 ひょっとして、アリアが誰かの知識で予めゲーム盤を持っていたのかな?


「シオン、モリスとアリアが使っているあのゲーム盤は誰の?」

「お母様、私が代わりに答えます。

 板は私が積み上げてある木の1つから切り出しました。

 駒は盤とは別の木の板の片面を炙り、炭で黒くしてからステラ様にコーティングして頂きました。それを64枚の小さなコマに分割して、更にコーティングしてもらいました。 その即席のゲーム盤をモリス様とアリア様が囲んでいます」


「わかった。それで、リサは見ている人なの?」

「お母様、お母様との昨日のゲームでお母様が私に伝えたかったことの一部は理解しました。『ゲームはルールとは別のところに勝敗がある』と。

 ただ、このゲームは私が簡単に勝敗のカギを全て見つけることは出来ません。ですが、ルールを覚えただけの人よりは十分に強いと思いますよ」


「リサ、凄くない?」

「お母様、何がでしょうか?」


「だって、私が朝ごはんを終えてから、ここに戻って来るまで2~3時間しか経ってないよね。

 ってことはみんなでルールを学んでから数回しかゲームしてないのにコツが掴めたってことだよ」


「お母様、私はお母様と一緒に沢山の物を学ばせて頂きました。

 お母様は私に答えを教えないのです。

 私は答えは決まっていると思い込んでいるのですが、その私の思い込みが間違いであることを自分で気付かせるために、わざと答えを教えなかったのです。

 違いますか?」


「え?そうなの……?」

「お母様は、昨日の簡単なゲームで、ルールとは別に勝つためのコツも教えてくれることが可能だったはずなのです。けれどそれをしなかった。


 私はお母様の前に無力でした。

 何回も何回も負けるのです。

 幾ら覚えても、自分の負けた原因を考えても、常にお母様は先を行っていました。

 そして、私がお母様の考えているコツと同じところに辿り着けて、やっと引き分けになるのです。

 つまり、敵が何を考えているかを良く理解して、そして敵の戦略に合わせてこちらの行動を変えるという戦争の根本を理解させていただきました」


「そ、それで……?」

「ルールを理解して、急所を理解して、その状態に持ち込むための最善手をお互いに行使することがゲームであり、戦争の本質なのです」


「う、うん……」

「何か間違ってますか?」


「ううん。間違ってないと思うよ。私はそんなこと考えながらゲームしていなかったから」

「大丈夫です。お母様は答えを明言することはありませんので、一部なりとも正解が含まれていたならそれで良いのです」


「それで……。リサは見てるだけ?モリスやアリアとはゲームをしないの?」

「お母様、ちょっとこちらへ来てください」


 と、リサがみんながゲームしてる部屋から私を別の部屋に連れて行ってから話をし始めた。


「お母様、宜しいでしょうか?」

「うん。なに?他の人に聞かれたくない攻略法が見つかったの?」


「いいえ。

 簡単に言いますと、ステラ様やシオンではお母様や私達に勝つのは暫く難しいでしょう。『一度に沢山ひっくり返すことが勝利の鍵』と考えて、何回もゲームを進めていますから。お二人へこの勝利の鍵を捨てさせるような発言を周りですることは、ゲームの楽しみを奪うことになりますので、あの場では発言を控えました」


「なるほど。そうだとすると、モリスやアリアと対戦すれば良いんじゃないかな?」

「モリス様とアリア様のお二人は最初の数回で私と同じ様に、『いくつかの勝ち筋の考え方』を見出すことに成功しました。

 例えば、なるべく囲ませる。角をとらせない。辺にコマを置くときは相手の駒の辺に置かれている数を確認する。

 といった、基本的な考え方です」


「なるほどね。全部が正しいか判らないけど、基本的な考え方としては良さそうだね」


「はい。私はゲームは勝つための筋道を立てられれば、それでそのゲームの攻略は終わったと思っていたのです。


 ところが、モリス様とアリス様は『勝つときに何コマ差で勝ちに繋げるか、その調整をする方法』について、研究を始めたのです。

 そして、お二人の傍をよく見たら分かったと思うのですが、夫々の打ち手からの発展形と、相手の打ち筋に対しての対処方法を分類し、『勝ち負け時のコマ数の調整』の精度向上に努め始めているのです。


 私が『一緒にゲームをして欲しい』とお願いをしたとします。彼らは私と何コマ差で勝つか、負けるかを調整できるのですから、私の勝敗は全てお二人が握ることになります。 これはもう、ゲームではありません」



「ああ……。リサの言いたいことは判る。

 そして、あの二人は今リサが言ったような研究も出来そうだよね。

 うんうん……」


「お母様、私があの部屋で話が出来ないという意味がご理解できましたか?」

「うんうん。今のリサとお母さんなら丁度楽しめるかもしれないね」


「つまり、お母様もコマ数の調整をして勝ち負けをコントロールする手法を身に着けていないということでしょうか?」

「うん」


「少しだけお母様に親しみを覚えました。

 ですが、お母様が私に嘘をついているかどうか判りませんので、お母様とゲームはしないことにします」


「ええ~~~?」

「不満がありますか?お母様が私と一緒にゲームをする目的は果たせていませんか?」


「う~~ん……。ゲームを楽しみながらリサと楽しい時間を過ごしたかったかな?」

「お母様、お母様はゲームを通して、物の考え方を私に教えたかったのですよね。

 そして、部分的にはお母様の目的を私は達成出来たと思うのです。


 お母様の言う、『楽しい時間』とは、何でしょうか?


 昨日も今日も非常に頭を使いました。

 新しい疲れの概念と、新しい物事の考え方が身に着きました。

 これを面白いことと捉えることが楽しいということですね」


 いや、そんな風に分析されちゃうとさ……。

 そんな深い意味はなかったんだけどね……。

 ただ、リサが言う様に、先読みの仕方とか多様性を学ぶ面白い題材かなとは思っていたよ……。


「お母様がゲームを通して私にさせたかったことは大体わかりました。

 別の質問になります。モリス様とアリア様には何をさせていますか?」


「え?ゲームを深く研究しているのでは無くて?」

「お母様、普通に考えてください。

 ゲームは勝ち負けで済む話であれば、その手法の組み合わせを上手く運用すれば勝ちに導ける訳です。勝敗とコマ数の制御は不要な研究になります。

 つまり、何等かの楽しみ以上の課題が与えられているのではないですか?例えば、国同士の代表戦に出て、勝敗をコントロールする必要があるとかです」


「ああ~。私は言ってないけど、フウマが言ったかもね」

「フウマお兄さんですか?」


「フウマは家族だけど、リサとシオンのお兄さんじゃないよ。ユッカちゃんみたいな関係だね」

「それは判っています。大丈夫です。フウマおじさんでは失礼に当たりませんか?」


「ま、まぁ、そうだね。フウマくんとかも失礼かもしれないから、お兄さんで良いかも」「話を元に戻しますよ。フウマお兄さんの話が何故でてくるのですか?魔族の国まで護衛の仕事を請け負っているはずです」


「昨日、リサが休憩して寝てる間に、久しぶりにフウマと念話をしたんだよ。そのときの会話に出てきた話かなって。

 まだ、モリスやステラ、アリアにも詳しく話をしてないけど、魔族の国でリバーシの大会があって、参加して勝てば賞金もでるし、参加しなくても勝ち負けのコマ数差を当てると、賭け金による獲得賞金の倍率が上がるんだって。

 この話をモリスが直接フウマに念話を通して聞いたんじゃないかな?」


「分かりました。失礼ですが、ステラ様はその……。何故このゲームを?」

「私が魔族の国を訪問すると思ってて、その情報を逃がさないためじゃないかな?」


「お母様、そういうのは悪だくみと言いませんか?」

「私か考えていることは悪だくみでも何でも無いよ。

 だって、モリスにお願いする前に、モリスがフウマから直接話を聞いて、『魔族の国へ行って大会に参加したい』って、言っているんだもん。


 ただ、魔族の通貨は交換レート100倍って問題で、フウマは護衛の隊商から貰ってる食事以外に余剰のお金が無くて、自由に魔族の国の中を調査することが出来ないって問題はあるね。だから、フウマに何らかの方法で資金を提供することは必要になるよ」


「私がニーニャ様に作って頂いた魔族の金貨を送り届けましょうか?」

「その辺りもフウマに話をしたんだけど、普通の金貨だと10万枚ぐらい必要になる。魔族の金貨だと、B級冒険者が護衛したぐらいで、魔族の金貨は手に入らないんだって。

 だから、どちらにしても、現物が用意できても他の人に怪しまれずに、フウマに魔族の金貨を手渡す方法が見つからない。

 だったら、向こうで流行ってるゲームに参加して、そこの賞金や賭け金で一攫千金を狙おうって話になってるよ」


「お母様、完全に悪だくみじゃないですか~~!」

「り、リサ、声が大きい。隣の部屋のみんなに聞こえるよ……」


「それで、今晩出発するのですか?飛竜さんですか、空飛ぶ卵ですか、それともお母様の飛空術ですか?」


「リサ……。移動手段だけじゃなく、身分証明書も必要だし、言葉の通訳も必要だし、お金の換金方法も考える必要があるでしょう?

 留守中の指揮の執り方も考えなくちゃいけないし、訓練に向かってるマリア様達との連携やヘルプも必要になるかもしれない。

 色々と考えて準備することは多いんだよ」


「お母様、すみません……」

「え?どうしたの……?」


「折角、この二日間でお母様の考え方に追いつけたと思ったのです。

 そして、役に立てると思ったのです。

 ですが、私ではやはりお母様の役に立てないです……」


「あ、リサ、ごめん。

 リサの気持ちは尊重するし、移動手段を色々と考えてくれて有難いよ。

 でも、お母さんが直接行くかどうか、代わりの人にお願いするなら、その人が困らない様に準備をしなといけないし……。

 だから、ちょっと、色々と準備が必要で、まだ考えがまとまって無いんだよ……」


「お母様、わたしはどうすれば……」

「うん。アリアにも前に同じ質問を受けたことがあるよね……。

 そのときは二人で丁寧に考えを積み上げていって、その作戦は成功したよ」


「アリア様がですか?」

「うん?それはどういう意味?」


「アリア様はお母様と専門性は違いますが、全てを先読みして、関係者を上手く巻き込んで結果を導くことが出来る印象があります。私なんか及びもつきません」

「アリアの専門性は凄く高いよ。ステラもビックリするぐらいに。

 でも……。専門性の高さと、初めての課題に対して皆を巻き込めるかは少し考え方の転換が必要だったみたいだね」


「『だった』と言いましたか?」

「うん。だから、アリアだって色々な経験を積んで考え方の幅を広げてきたんじゃないかな?」


「お母様……。私はまだ成長できる可能性が残っていますか……?」

「え?なんで?」


「自信が無くなりました……」

「なんで、なんで?

 少なくとも、今日のリバーシの攻略方法はあってると思うし、そのテーブルごとのゲームの楽しみ方のレベルも理解しているし、そしてその人たちの邪魔をしない配慮も出来ているでしょ?

 

 昨日、初めてああいうゲームを一緒に楽しんだときのリサとはえらい違いだと思う。これって、リサが成長しているあかしなんじゃない?」


「お母様に褒められるのはこそばゆいですが、でも、お母様から観て、私に成長する可能性があると思って頂けているなら、これからも頑張ります」


「うん。リサの人生はこれからだからね!がんばってこ!」


 な、なんか、リサと一回もゲームしてないけど、昨日の時点で伝えたかったことがかなり伝わっているよ。

 これって、リサが前向きというか、何というか、とても素晴らしいことだと思うんだよね。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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