8-01.ゲームをしよう(1)
マリア様もユッカちゃんも暫く迷宮の訓練から戻って来ないからリサとゲームをすることにしたよ。
マリア様にカナエさんを借り受けたことを報告しつつ、迷宮の攻略というか訓練の進み具合をきいた。なんとか最深部の25階層に辿り着いて、そこのボス部屋でアイテムの収集を開始したらしい。
本来ここからが本番なんだけど、まだ様子が掴めず、休憩しつつ皆でアイテムをメモして収集鞄にいれたりと、割とまったりとしたリズムで進めているらしい。2班に分かれて、周回する班と仮眠を取る班を分けるとか、他の階層にまで手を出して収集品を集めるような余裕はまだ無いらしい……。
だとすると、リセット回数に応じて途中の魔物が滞留して増えてしまうことも伝えた方が良いかな。また魔物が溢れてえらいことになる。
でも、リセット回数が少なければ問題無にならないかもしれないね?
そんな感じで、皆が戻ってくるには、もう一週間くらい掛かりそう。
だったら、私はリサとシオンと一緒に遊んでてもいいよね……。
そういえば、リサが「一度にそんなに沢山のことを先まで読んで行動しません!」とか言っていたよね。ああいうのは、ゲームの中で学ぶと良いと思う。〇×を3つ並べるゲームとか、8x8のマスで白と黒のコマを裏返して取り合うゲームとかね。あの辺りはゲームの準備もルールも簡単だから良いんじゃないかな?
早速、リサのところに行ってみよう!
「リサ、リサ、ちょっと良い?」
「お母様、何でしょうか?」
「一緒に遊ばない?」
「魔族を倒しに行くのですか?」
「随分好戦的だね……。もっと、危険じゃないことにしよう」
「飛竜の救出ですか?」
「皆が驚くから、もっと簡単な事にしようよ」
「不思議な料理を作り始めて、新たな学術分野を立ち上げるのですか?」
「戦争でも、危険でもないけど、もうちょっと簡単に遊べることをしたい」
「木登り、木の実の採取、花畑で冠作り、お母様だと、罠を仕掛けて動物の捕獲でしょうか?」
「う、う~~ん。確かに遊びだねぇ……。危なくも無いし、簡単だねぇ……」
「お母様、何が言いたいのですか?
お母様の思想に合わせれば、もっと簡単なことという。
幼少の子らが遊ぶ内容を提案すれば、今度は満足がいかない。
ハッキリしてください!」
「あ、あのさ!
『魔法を複数同時に駆使することは難しい!』
『そんな先のことまで考えられない』
みたいな話があったでしょ。
そういうのを考える遊びをしたいの」
「……。」
「え?」
「それは遊びではなく、極めて高度で専門的な戦略の勉強会ですよね?」
「う~ん。その基礎の基礎的な考え方を遊びながら身に着ける。どう?」
「わかりました。
パイスさんはここの職人街に馴染むまで時間がかかりますので、私の出番は暫く先になりそうです。
お母様の遊びをやってみましょう」
「リサ、ありがとうね。そしたら簡単なのから始めよう。
先ず、こうやって、井桁に線を引いて……、それを囲む。
そうすると9マスができるでしょ?」
と、二人で話をしている道端に「囲」の形に地面に線を引く。
「この9マスに順番に〇と×の形を埋めて、
縦、横、斜めのどこかで3個1列に並べたら、
先に並べた人の勝ちだよ」
「そんなの、先に置いた方が勝つに決まってます」
「いや、そうなんだけど、お互い少し工夫をして、引き分けにしたり?」
「なら、やってみましょう。私が〇で先手をします」と、リサが乗り気になってきた。
「じゃ、私が後手ね」
1回戦目
〇・・ 〇・・ 〇×〇 〇×〇
・×・→〇×・→ 〇×・→〇×〇
・・・ ×・・ ×・・ × ×・
「お母様、私の勝ちですね」
「リサ?」
「だって、私は次の番で一番右側の列を取ります。
そして、下側のお母様の列は埋まります。
だからお母様の負けでしょう?」
「あ、あのさ、リサさ。真ん中の縦の列を見てみて?」
「×が並んでますが?」
「うん。最後のリサの〇を埋める前に、×が3つ並んでるよね」
「お母様!」
「うん……」
「分かりました。
そうやって人が見ていない所で罠に嵌めるのですね。
今度は私が後手で勝ちを得ます!」
「先手の方が良いと思うよ?」
「お母様の手は判りました。もっと賢く手を打ちます!」
「そ、そう……。じゃ、2回戦目だよ。私が先手で〇で始めるね」
2回戦目
〇・・ 〇・× 〇・× 〇・×
・×・→・× ・→ ・×・→ × ×・
・・〇 ・・〇 〇・〇 〇〇〇
「お母様!」
「なに?」
「悔しいです!」
「ど、どこが?」
「わたし、ちゃんとよく見て、左の列のお母様が並ぶのを阻止しましたよね?」
「う、うん……」
「なのに、お母様は下の列で3つ並べました」
「う、うん……」
「これは私の負けですよね?」
「う、うん……」
「お母様なら、これをどうやって防ぎますか?」
「防げないんじゃないかな?」
「でしたら、毎回先手の〇が勝つに決まってるじゃないですか!」
「あ、えっと。〇が同時に2列並ばない様にすれば良いんじゃないかな?」
「え?」
「ええと……」
私は囲の〇×を適当に修正して、×が斜めに2個、〇が角に3個の状態に戻す。
「リサさ、この状態になったら防ぎようが無いよね?」
「ええ。だから先手必勝です!」
「こうならない様に、×を置けば良いんじゃないかな?」
「どういうことですか?」
「例えば、こんな感じ」
と、井桁に×を真ん中の列に2個並べた図を描く。
〇 × ・
・ × ・
・ ・〇
「リサ、これならどう?」
「ええと……。これ、ひょとして、左下の角に〇を置いたら……」
「うん。×が先に3個並んじゃうよ」
「だとしら、×の下に〇を置くしかありません」
「うんうん。そうやって順番に埋めることになるから、最後は引き分けだね」
と、井桁の〇×を最後まで順番に埋めて、引き分けを示した。
〇・・ 〇 × ・ 〇×〇 〇 × 〇
・×・→・× ・→ ・×・→〇 × ×
・・〇 ・〇〇 ×〇〇 × 〇〇
「なるほど……。分かりました。お母様、もう一度、先手〇で始めてください」
「うん。じゃ、お母さんからね」
〇・×
・・・
・・〇
私が右下に2個目の〇を置いたところで、リサが考え込んでしまう。
「……。あの……。お母様?」
「なに?」
「これは、私の負けでは無いですか?」
「そうだね」
私が答えると、リサはそのまま更に考え始めて、自分なりに〇×の絵を描き始めた。
「お母様、後手の×は中心以外は負けてしまいませんか?」
「先手の〇が角に置いた場合には、そうなるね」
「とすると、9マスの場所があっても、最初の2手で勝負がついているのですね?」
「そういう場合もあるね」
「お母様、この〇×ゲームは単純に順番に〇と×を置くゲームでは無いです。
ちゃんと、次に何が起こるか考えておかないといけないし、相手の置き方次第で、此方の行動も変える必要があります!」
「うんうん。このゲームの面白さがリサに伝わって嬉しいよ」
「お母様?」
「なに?」
「ひょっとして……」
「なに?」
「全ての行動を〇と×になぞらえて、行動を先読みしていますか?」
「え、ええっと……。単純な場合はそうかもしれないけど、複雑な物は〇と×だけで考えていても足りないかな?」
「複雑?足りない?」
「うん」
「例えば、どういうことですか?」
「ん~~~。
例えば、マスの数を15x15にして、5個並んだ方が勝ちっていうルールにすると、考えなくちゃいけないことが増えてくるよ。
考えなくちゃいけないことが増えるとミスも出やすくなるし、相手のミスを誘いやすくしたりできるね」
「お母様、やってみましょう!」
と、リサが凄いやる気だしてきた。
碁盤とか碁石とか準備してないから、地面に沢山マスを書いて、〇と×を順番に埋めていく。
リサもさっきの〇×で先読みをすることが考えられるようになったけれど、ゲームの経験不足は仕方ない。
何回が試していくうちに、リサが経験から学んだで、3が2列同時か4を作れば勝ちに持ち込めることを理解した。
「お、お、お母様……」
「リサ、どうしたの?」
「あの、ええと……」
「うん?」
「疲れました。頭痛い。あと、お腹も空きました」
「あ、ああ、うん。それは普通だよ。よく頑張ったね」
「お母様、これが遊びですか?」
「遊びながら、考える訓練かな?」
「お母様と遊ぶと疲れます……」
「あ、リサ。おやつとかご飯とか食べて休憩しよう?」
「遊んでたはずなのに、ご飯食べて休憩って……」
「頭を使う訓練をするとお腹も空くし、疲れる。
だけど、木刀の訓練とかと同じで、頭を使う訓練をし続けると、無駄な考えを省くことが出来るし、頭も速く答えをだすことが出来る様になるし、疲れにくくなるよ」
「なんか、こう……」
「なに?」
「ステラ様と仲良くなれそうな気がします……」
「ステラと仲良くなれたなら、一緒にゲームしてみたら?
今のステラならリサに勝てるんじゃないかな?」
「え?」
「たぶん」
「あ、え、ええと……」
「なに?」
「お母様、おやつ食べて休憩したら、もう一度遊んでください!」
な、なんかリサが燃えてるよ……。
でも、思考能力を鍛えるゲームに関心を寄せてくれたみたいで助かる。
何も考えれずに放り投げられたら、ゲームにすらならなかったしね。
じゃ、リサの休憩が終わったら、黒と白のコマを挟んでひっくり返すゲームをしてみようかな?
今週も遅くなり、申し訳ございません。
また、〇×の配置のズレが上手く修正できておらず、すみません。
なんとか毎週継続出来る様にがんばります。
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