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7-45.カレーを食べよう(2)

 さ、集まれる人達だけで試食会だよ!

 とりあえず、マリア様やユッカちゃんの分は今日作っても仕方ないってことで、妖精の長達と、モリスとカナエさん、ステラ、アリアを呼んでの試食会をすることにした。


 食べる前のお皿が並んだ状態でラナちゃんの第一声が上がったよ。


「ヒカリ、これは何かしら?」

「ラナちゃん、お答えします。カレーです」


「ヒカリ、それはこの食べ物の名前でしょう?

 私が聞いたのはそういうことではないの。

 『私がヒカリに命じて作らせたのか、それとも人々が日頃の感謝の気持ちを表した物なのか』ということを聞いたつもりなの」


「あ、これは、人々の日頃の感謝の気持ちでして、私はたまたま居るに過ぎません」

「そう。ルシャナさん、お父様、ユーフラテスさん、シルフ聞いたかしら?」

「「「「はい」」」」


「ヒカリ、私はこの提供されたカレーというものを普通に楽しむだけ。良いかしら?」

「あ、はい。皆様に楽しんで頂ければと思います」


 皆がこの異様な雰囲気のやりとりに動じないのはすばらしい。

 カナエさんは多分初心者なんだけど、モリスが上手く伝えてるのかな?

 まぁ、後で確認しておこう。


 そして、普通に食べ始めて、普通に皆が驚くいつものパターン。

 喜んでくれることは良いことだね。

 

 と、皆のお皿が半分以上空っぽになり、試食会も大成功を納めて終盤に差し掛かりつつあるころ……。


「ヒカリ、これは……。お替わりはあるのかしら?

 いつもなら試食会は少人数ではじめるわよね。

 これだけの人数を呼んだのだから、何かあるのよね?」


「あ……。

 ゴードン。このメンバーに提供できるカレーのお替わりはある?」

「カレー鍋の方は十分にございます。白米のご飯の炊きあがりが少し時間が掛かるかもしれません」


「そう。今日はお替わりをしても良いのね。

 ステラ、アリア、これ気に入ったのだけど。

 どうかしら?」


<<ヒカリさん。これは何?ライト様は何を仰っているのかしら?>>

<<ヒカリ様、どう答えれば良いのですか?なぜ私達に意見を求められているのです?>>


<<あ~。二人ともごめん。

 先日の私の負傷の件で、ラナちゃんが私に直接お願いできなくなってる。

 人々が日頃の感謝の気持ちから、捧げものをするときのみ受け取れる。

 だから、私に指示出せないし、おねだりもできない。

 二人が、欲しい物を伺って、それを提供してくれる?>>


<<……。>>

<<……。>>


「ラナちゃん、是非とも!」

「ラナちゃん、何が欲しいですかね?」


「ステラ、是非ともとは何?貴方も一緒に食べたいのかしら。

 アリア、私はこれが気に入ったのよね?カレーと言ったかしら。

 こう、この……。

 なんていえば良いのかしらね?」


<<ヒカリさん、私はカレーを作れません!>>

<<ヒカリ様、こんなの無理です。私にどうしろと!>>


<<ん……。音声で会話するよ……>>


「ラナちゃん、この料理が異国の地の物でしてレシピが有りません。今はゴードンやシオンしか作れません。

 ステラやアリアに感謝を捧げる気持ちが無いということではございませんので、ご理解頂けますか」


「ヒカリには頼んでないわよ」

「はい……」


「ゴードン、シオン、これ、美味しいわね」

「ラナちゃん、直ぐにお替わりをお持ちします」

「ラナちゃん、お褒めに預かり光栄です」


「ゴードン、シオン、この料理を誰でも食べられるようにするとしたら、私達家族は何が出来るかしらね?」

「ラナちゃん、申し上げます。香辛料の調合はシオン様がご存じでして、その調合を共有できるためにはもう暫く試作回数が必要と考えます」


「そう……。ゴードンでも作れないのね。シオン、この香り豊かな香辛料は何かしら?」

「ラナちゃん、市場で買ってきた物とリサお姉ちゃんに分けて貰ったものを各種混ぜ合わせた物になりまして、種類と配合の両面から調整されています。単一の植物ではございません」


「ヒカリ!」

「はい!ラナちゃん、何でしょうか?」


「何でもないわ……。

 ステラ、アリア、ユーフラテスさんと一緒に香辛料を育てることは出来るかしら?」


「ラナちゃん、多分大丈夫だと思いますが……。

 香辛料の専門家を雇い入れると、ヒカリさんが先ほど打ち合わせをしていた様です」


「ヒカリ!じゃなくて……」


 ラナちゃんが私を見るけど、また発言を途中で止めてしまう。

 そして、困って部屋の中を見渡しているとモリスを見つけた!


「モリス、貴方ヒカリの執事よね。ヒカリの雇い入れる人に指示が出せるわよね?」

「ラナちゃん、大丈夫です」


「その香辛料の世話をする人はモリスの指示を聞けるかしら?」

「先ほど、仕事の内容を説明し、それに合意できましたことから契約を済ませました」


「モリス、ユーフラテスは私の知り合いなの。植物の世話が得意なのよ。

 不思議なことが起こるわ。その人は大丈夫かしら?」


「ラナちゃん、こちらに居るカナエが当該の雇用者の一人になります。

 先ほどの面談からしますと、信頼がおける人物と考えます」


「モリス、私たちの家族だけでなく、夕食会のメンバーは秘匿されるべきことが多いの。 大丈夫かしら?」


「ここに居るカナエは契約だけでなく、心から誓って頂けておりますので大丈夫です。

 明日面談する予定の者につきましは、カナエと共に判断したいと思います」


「そう……。なら大丈夫ね。

 ユーフラテス、このカレーという料理を食べることは良いことだと思わないかしら?」

「人々の心を豊かにする良い食べ物だと思います」


「人々にとって良い物であって、その支援をするだけよね?

 そしてその豊穣のお礼として私達も共に食事をする。

 そうよね?」


「ヒカリさんは、ラナちゃん家族やその周りの人達の秘密が公にならないように慎重に行動したいと願っている様です」


「ヒカリ、どういうことかしら?」

「ラナちゃん、お答えします。

 急激な植物の成長を促し、それが公になることは我々に大きな秘密がある、あるいはその様なスキルの秘密を入手しようとするやから跋扈ばっこすることが想定されます。

 その様な輩から襲撃されるリスクを避けるため、大々的に行動を控えている事情がございます」


「ヒカリは香辛料の促成栽培を否定しているのではなくて、秘密が暴露されることを恐れている訳ね。

 つまり、秘密が保たれれば良い訳ね?」

「はい、そうですが……」


「ステラ、アリア、カカオの木やコーヒーの木の育成、そしてその街道作成でユーフラテスが協力をしているわよね?」

「はい」


「どうやって秘密も保っているのかしら?」

「夕食会のメンバー以外ですと、夕食会の誰かの奴隷印が付いています。

 ですので、秘密を漏らすことは困難と言えます」


「モリス、そこにいるカナエさんとの契約はどの様な形かしら?それと明日予定している人との契約の形も教えて?」

「書面に記載している内容以外はその者の善意となります」


「元々誰かの奴隷で、その奴隷印の所有者を変えるということは無いのかしら?」

「今の所、その様なことはございません」


「だったら、既に奴隷印の付いた人を採用すればいいじゃない」

「ヒカリ様やリサ様が発掘してきた新規人材でして……。私には裁量がなく……」


「ヒカリ、どういうことかしら?」

「は、はい?」


「貴方がカレーを普及させようとして、貴方がそれを邪魔してるのかしら?」

「ラナちゃん、物事には段階というものがありまして。

 今回の試食会の皆様の反応が良ければ、多くの方に食べて貰うための材料調達も必要になってくるかと考えています」


「皆の反応はこの通りじゃない。何が問題なのかしら?」

「そもそも、カナエさんとパイスさんはリサの普及を進めたい治療薬の支援要員でして、カレーの普及要員ではございませんし……」


「ヒカリ……。何でもないわ」

「ステラ、モリス、私はカレーがとても良い物だと思うの。

 どうしたら良いのかしら?」


「ラナちゃん、カナエさんとパイスさんには予定通り、リサちゃんの支援をして頂くとして、カレー要員を別に配置するのは一つの手だと思います。

 モリスさん、どうかしら?」

「ええと……。そうですね……。

 私は南の大陸の人事権を持っておりませんでして……。

 マリア様も現在迷宮へお出かけとのことでして……」


「ヒカリ、どうなの?」

「ラナちゃん、お答えします。

 奴隷印の付いた騎士団員が総勢300名程度いるはずですので、

 そのうちの20~30人程度を割り当てられると思います。

 場所はカナエさんとパイスさんが作業するエリアから隔離して、カカオやコーヒー園の傍で活動するのは如何でしょうか?」


「ヒカリ、今のは私が何かを頼んだ訳では無いわよ?」

「はい。私が皆へ情報共有しただけだと思います」


「ユーフラテス、場所と人は何とかなりそうだけど、どうかしら?」

「ラナちゃん、先ほどステラさんとアリアさんと一緒に全ての苗や種を植えており、追加の種子がございません……」


「どうしてかしら?」

「ヒカリさんが普通の人に栽培してもらうとのことで、こちらの拠点の傍に一通り栽培できる準備を整えました」


「肝心の種や苗が無いということ?」

「カナエ殿と明日来られるパイス殿に3日程度お待ち頂ければ、本日植えた分は採取可能になり、次世代の準備に入れると思います」


「モリス、カナエさんと明日来るパイスさんの契約はどうなっているのかしら?」

「契約は結びますが、仕事に取り掛かって頂く前に住居の整備や機材の整備、この拠点の案内などが必要になりますので、3日程度は菜園に案内しなくても大丈夫だと思います」

「カナエさん、初めまして。これまでの話は聞いてらしたかしら?」

「はい」


「秘密は守れるかしら?」

「ハイ!」


「そう……。ユーフラテス、カナエさんに加護は与えられるかしら?」

「加護のみならず、植物栽培のスキルも含めてですよね……」


「何か問題があるかしら?」

「カナエさんご自身が上手く秘匿できませんと、命の危険に晒される可能性があります。 また、明日来られるパイス殿との共同作業となりますと、パイス殿に加護を付与したスキルの効果が露見する可能性も高いと思われます」


「なんか、こう、ねぇ?ヒカリ、どういうことかしら?」


「私は市場で簡単に手に入る素材でカレーが作れると思って、

 家族3人で買い物をして夕飯を作ろうとしただけです。

 ちょっと時間が掛かりましたが、試食会は成功です。

 ただ、それだけです」


「ステラ、アリア、モリス!分かるわよね?」

「「「ハイ!」」」


「ゴードン、私たちは一旦席を外すわ。後をお願いね。

 お替わりの分は明日以降で良いわ」

「承知しました」


ーーー


 妖精の長達が退場されたあと、残された皆で対策会議が開かれた……。


「「「「ヒカリ様、どういうことですか?」」」」


 モリス、アリア、ステラ、ゴードンからの一斉攻撃が発動したよ。

 ちなみに、カナエさん、リサ、シオンは静かに見守っているだけね。


 まぁ、説明するけど、分かって貰えるかどうか……。


「……。

 と、話は長くなったけど、ラナちゃんは私に頼み事が暫く出来ないんだよ」


「でしたら、何で我々に直接頼みごとをして頂けないのですか?」と、ステラ。

「だから、それは存在意義として許されてないから……」


「何故、ヒカリさんには頼めるのですか?」と、話を戻すステラ。

「だから、それは最初のころに私がお願いしたから……」


「でしたら、私も『私にも気軽にお願いをしてください』と、お願いするわ」

「ステラは多分妖精の長達を『支援して貰える存在』として、心の奥底で意識しているから、表面上の言葉で願っても、その願いは通じないと思うよ?」


「ヒカリさんは妖精の長達に何を願っているのかしら?」

「前にも言ったけれど、『自由に過ごしてください。その範囲で支援してください』みたいな感じだったと思うよ」


「妖精の長達に出会えて、『自由にしてくれ』って……。

 私はシルフ様と出会えたときに、ヒカリさんに『妖精の長かもしれない』と説明しましたよね?」


「うん。良く分からなかったけど、凄い存在だよね。何でもしてもらえる」

「私は妖精の長に出会うことが種族の宿命として旅に出たという意味がお分かりいただけましたかしら?」


「うん。今は判ってる。でも、あの頃は判って無かったよ。

 まぁ、分かってたとしても、ステラ達と同じ接し方だと思うけどね」


「ヒカリさん、私には無理よ……」

「いや、だから、私の考えを押し付ける気は無いし。

 だから、ステラもラナちゃん達と今までの通りに接すれば良いし。

 そのこととお願いを持ちかけてくれることは違うけどね」


「なんか、こう……。悔しいわね……。

 少し、リサちゃんの気持ちが分かるわ……」


「え?」

「いいわよ。こっちの話よ。リサちゃんと仲良くなれるわ」


「ん……。良く分からないけど、そういうことでよろしく。

 カナエさんも不慣れなことが多いと思うけど徐々に慣れてください」


「承知しました!」


 と、結局なにも解決してない時間が過ぎた……。

 そしてお互いに受け入れられない何かがあることも分かった……。


 こう……。

 なんていうか……。

 科学とか料理よりも人間関係の方が難しいよ……。



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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