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7-43.カレーを作ろう(10)

 とりあえず、急いでクワトロに念話を通さないと!

<<クワトロ!ちょっと、緊急事態!>>


<<ヒカリ様、どうされましたか?>>

<<メイドのカナエさんを借りたいけど、私の言うことを聞いてくれない!>>


<<ヒカリ様の名前を出しましたか?>>

<<だした。けど、身分確認の質問の答えが間違っていて、軟禁状態になってる>>


<<参考までに、どの様な質問に、何と答えられましたか?>>

<<マリア様の身分が商人で、滞在目的が海賊退治って答えたら怪しい人物扱いされた>>


<<流石はヒカリ様ですね。誰も知らないことを正々堂々とお答えになられる>>

<<が~~~ん>>


<<承知しました。いま、迷宮で訓練中なので2~3日お待ち頂けますか?

 それだけあればズィーベンの訓練に目途が付くと思います>>


<<2~3日待てるなら、緊急で念話を通さないよ>>

<<マリア様やクレオさんの訓練はそろそろ終わりませんか?もう、3~4日経過していますよね>>


<<さっき確認したら、まだ20階層とか言ってたよ。暫く掛かりそうだね。

 クワトロはどこで訓練中なの?>>

<<王都内のカタコンベになります。人目に付かない下層で訓練をしております>>


<<そしたら、2~3時間で戻って来れるよね。私を解放してくれるだけで良いから。

 あ、あと、マリア様とクレオの許可を取ってあるから、カナエさんを専属とすることにも助力して欲しいの>>


<<わかりました。ズィーベンの体力が着いてこれるか心配ですが、今すぐに二人で戻ります。

 念のためですが、緊急でカナエを専属にしたい理由を伺っても宜しいでしょうか?>>


<<巫女時代のリサの薬学の知識をパイスさんていう、薬草の知識のある人に教えたい。そうすることで、リサの魂もパイスさんの魂も救われるはず。

 だけど、リサは転生した幼女の体に魂が入っているから直接パイスさんを指導することが出来ない。リサはカナエさんを介してパイスさんの指導に当たりたい!

 この説明で分かるかな?>>


<<ええ。まぁ、走りながらの念話で、ヒカリ様の説明を正しく理解できたか心配な部分はございますが……。

 リサ様の秘匿情報を表に出さずに、知識を伝える仲介者が必要なのですね。そして、ある程度薬草に詳しい人物であることが望ましいということで宜しいでしょうか。

 確かに、その条件ですとマリア様の元で雇用しているメイドさん達は口も堅く、その任に就くことに問題はありませんが……。

 カナエの推薦はどなたからでしょうか?>>


<<クレオさんからだよ>>

<<なるほど。詳細は分かりませんが、カナエの姉は薬草による治療が間に合わずに亡くなっており、カナエ自身もその際に薬学の知識を身に着けたはずで……。

 それが彼女自身のトラウマになっていなければ適役とおもいますが……>>


<<そっか……。薬学の知識がある反面、トラウマになるほどの苦痛を乗越えられているかが問題ともいえる訳か……>>

<<ええ。私も戻り次第ご一緒しますが、そこの点は慎重に切り出した方が良いかもしれませんね>>


<<分かった。待ってる。クワトロに頼む!>>

<<承知しました。もう暫くお待ちください>>


ーーー


 私が一人でお客様待遇で小一時間待っていると、ズィーベンさんを伴って、汗だらだらのクワトロが帰ってきた。


「ヒカリ様、お待たせしました。

 ピュアとシャワーを浴びる時間を頂いた方が失礼が無いでしょうか?」

「クワトロ、急いで帰ってきてくれてありがとうね。

 私は汗とか汚れに慣れているから大丈夫だよ。カナエさんの気分を害さなければこのまま話を続けて貰って大丈夫だよ」


「カナエ、急ぎで打ち合わせをしたい。私はここでピュアだけする。

 そこにいるズィーベン殿のシャワーと着替え、そして食事と休息の支援を誰かに頼んで欲しい。それが終わったら、軽い食事を持ってきて、ここでカナエにも同席して貰いたい。

 良いかな?」

「クワトロ様、承知いたしました」


 カナエさんはクワトロの指示を復唱することなく、全ての指示を一回で聞き取り、そして理解した上で実行ができる能力があるのは素晴らしい。

 もし、リサのために力を貸してくれるなら嬉しいなぁ……。


「ヒカリ様、10分もすればカナエが戻るでしょう。

 それまでに、ヒカリ様と事前に打ち合わせをしておくべことはございますか?

「ん~。無いかな。

 カナエさんば優秀で口も堅く、隙を見せない人に見えるよ。

 だから、もしリサの仲介役になってくれるなら、是非ともお願いしたい」


「はい。クレオさんの人選とマリア様の指導が素晴らしく、ここに勤めているメイドや執事の方達は王室のメイド達にも負けない能力をお持ちかと。ただ、固有の文化や言語、戦闘能力といった特殊技能はありませんが、メイドたるべき意識や姿勢は一流と言えます」「うんうん。流石だね。

 クワトロも色々と頑張ってくれてありがとうね。あと、私が倒れているときのズィーベンさんの訓練もしてくれてありがとうね」


「ヒカリ様、先日のお倒れになりました件が演出で無いとしたら、かなりの無茶をされてますよね。相変わらずで恐れ入ります」

「演出ではないけど、確かに無茶して、色々な人に迷惑かけたかなと思ってる」


「演出で無かったにもかかわらず、あのような惨事からの復帰が出来て何よりです。

 ヒカリ様自身がその様な活動をされずとも、私が代わりに試験なり、模擬戦を引き受けますので、どうかご指示を頂ければと思います」


「あ、うん。ありがとうね。そもそもそんな危険なことになると思ってなくてさ。

 ちょっと、迂闊だったのは反省してるよ。今後は気を付けるし、任せられる物は人に任せる様にするよ」

「そうして戴けると助かります」


 と、そんな雑談をしていると、扉をノックする音と「失礼済ます」との声掛けがあり、スープ、サンドイッチ、フルーツと食器を3組載せたワゴンを押して、カナエさんが客間に入ってきた。

 10分も経たずに、この食事を整えて、尚且つズィーベンさんの対応も済ませているとしたら有能過ぎるね!


「クワトロ様、お待たせしました」


 と、ワゴンを運び入れて、客間の扉を閉めると壁際に立ったままクワトロさんに依頼内容を終えたことを告げた。


「カナエ、配膳をして3人で食事をしましょう。ヒカリ様は身分とかあまり気にされない方だから同席して大丈夫ですよ」


「承知しました。それでは失礼します」


 客間にしては小ぶりなテーブルに3人が掛けて軽食を取ながら歓談をすることにする。テーブルを挟んだ私の正面にクワトロさん。クワトロさんの右隣にカナエさんが座る格好だね。

 クワトロは訓練後の汚れたままの服とみだしなみ。私とカナエさんは夏服メイド姿。流石に北の大陸出来ているような厚手で風通しの悪い生地では体が参っちゃうからね。狩人の格好とは異なるけど、肌の露出がなく、動きやすい。そして軽薄に見えない格好は良いよね。


「さて……。ヒカリ様にご訪問頂きありがとうございます。

 今日はどういった用件であるか改めて伺っても宜しいでしょうか?」


「はい。マリア様の城外の拠点に薬草と薬学を軸として治療用の施設を作ろうとしています。そこの支援役のメイドとして、マリア様からそちらに座られているカナエさんを推薦されましたので、ご面談に伺いました」


「カナエ、どうかな?」

「クワトロ様とクレオ様の指示であれば従うまでです」


「カナエ、本当に大丈夫ですか?

 過去のトラウマを抱えているとの話も聞いたことがあります。

 他の候補者に代わって貰うこともできますよ」


「私はこの職を首になるわけにはまいりません。

 全てを受け入れますので、継続して雇用をお願いします」


「ヒカリ様、ご本人は覚悟があるようですので、どうぞお願いします」


「クワトロ、私は構わないけど、本人が私への不信感は無いかな?

 一応確認しておいてくれる?」


「カナエ、そちらに座っておられる方はヒカリ様です。

 マリア様の義理の娘で間違いないし、これから世話をされるリサ様のお母様に該当される方です。きちんと仕えることはできますか?」


「クワトロ様、私に質問する機会を頂けますでしょうか?」

「ああ、是非とも」


「私に何かの欠点があり、僻地の仕事に向かわされるということでしょうか?

 すなわち、今後それに見あった給金に減額される可能性についてお伺いしたいです」


「ヒカリ様、そういうことになりますか?」

「いや?私は聞いてないよ。誰が誰にいくらのお給金を支払っているか知らないもん」


「今後はヒカリ様の直属になりますので、新しくルールを決めた方が良いかもしれませんね」

「専属ってことは、そうなるのか……。

 クワトロは今いくらで契約してるっけ?」


「私は一ヶ月に金貨10枚ですね。

 クレオが年間で金貨36枚のはずで、一ヶ月当たり金貨3枚程度であったかと」


「カナエさん、今はいくら貰えてますか?」

「一ヶ月で金貨1枚です」


「クワトロ、クワトロとクレオさんは給金以外に必要経費も支払っているし、住み込みでの衣食住もこちらで負担していて、ボーナスも付くし、技能の伝授もしているよね。

 そういったカナエさんは基本の給金以外の要素はどうなってるの?」


「ご本人に伺わないと分かりません。マリア様かクレオが特別ボーナスを支給している可能性がございますので」


「う~ん、わかった。

 カナエさん、貴方の心配事とこれからしたいことは何かな?

 『お金を貯めること』が目的であれば、そこは簡単に達成できるけれど、それだけで良い?」


「私には世話をする両親がいます。姉とは死別しており、両親の世話は私一人が面倒をみる必要がございます。そのためには貯蓄が必要になりますし、私が職を失ったときのためにも、両親が不自由なく暮らすための資金が必要になります」


「ん~~~~。

 クワトロ、カナエさんを両親含めた3人組で雇用しても大丈夫かな?」


「ヒカリ様の秘密を知る人数は少ない方が宜しいかと。

 そうであれば、カナエが望む金銭面での保障に留めておくべきかと」


「じゃ、それでいっか。私専属ならモリスと面談だ。

 契約書はモリスに作って貰うよ。

 カナエさん、それで良いかな?」


「つまり、私はこのお屋敷での仕事を解雇されるということでしょうか?」

「そういうことになるね」


「新しい条件は、ヒカリ様の下で全てが決まるということでしょうか?」

「今より悪くはならないけど、仕事の内容は増えると思う」


「クワトロ様、ヒカリ様、承知しました。全て従います」


「クワトロ、カナエさんありがとうね。

 クワトロ、このままカナエさんを連れていく。カナエさんの身の回りの物は持っていくし、メイドさんの補充とかも任せて良いかな?」


「承知しました。代わりの者に指示を出します。

 ヒカリ様におかれましては、くれぐれもご自愛ください」


「ん。じゃ、クワトロ、またね。

 カナエさん、身の回りの荷物をまとめてくれる?

 このまま城外の拠点まで移動するよ。

 多少の荷物は私が持つから気にしないでね」


ーーー


 カナエさんは通いでメイドの仕事をしていたみたいで、着替えとかの多少の荷物が有った以外、特に重要な業務の引継ぎとかも必要無く、着の身着のままで私に同行してくれることになった。まぁ、多少の問い合わせ事項があったら城外の私の家を訪問してくれれば、そういった対応は出来ると思うしね。


「ヒカリ様、何故今日からの移動なのかをお伺いしても宜しいでしょうか?」

「ん~~。急いでいるからだよ」


「その……。

 急病人がいて、直ぐに治療薬を与える必要が有るということでしょうか。そうしますと、市場に寄って多少の薬草を仕入れてから向かった方が宜しいかと思います」


「あ~~~。そういうのは大丈夫。

 明日以降にでも、ゆっくりやってくれれば良いよ」


「……。」

「どうしました?」


「人命より緊急なことですか……」

「あ~~~。なるほどね。

 人の命は全てに優先して、尚且つ平等っていう考え方ね。

 まぁ、確かにね……。

 だから、私はリサに怒られちゃうんだろうね……」


「ひょっとして、リサ様でしょうか?」

「あれ?私は知らないけどリサのことは知ってるの?」


「マリア様が『リサとシオンは絶対に保護し、最優先で扱え』との指示を頂いております。ですが、リサ様がどの様な方かは存じ上げておりません」


「話が早いね。リサとシオンは私の子供で、マリア様のお孫さんだよ。

 会話は出来るけど、まだ小さいから保護の対象にしたいね」


「先々月ぐらいより、マリア様の屋敷に急にお客様が増えました。その中にいらっしゃるという理解で宜しいでしょうか?

 確か、ユッカ様とラナ様という5~7歳くらいのお子様がいらっしゃったかと思います。偽名で入国されているということでしょうか?」


「その二人も大事だけど、自衛出来るから問題無いかな。

 リサもシオンもまだ1歳を超えたばかりだから、表面上は会話をしていないし、自衛も出来るだけの能力を持ち合わせていないからね。だから保護して欲しいよ思うよ」


「ヒカリ様、今更ながらなのですが、マリア様の職業は北の大陸から来られた商人ということで間違いありませんか?」

「表面上の身分と書類、その実績は全く問題無いと思うよ」


「ヒカリ様が先ほど私の質問に答えて頂いた、『海賊を退治しに来た』ということも、商人の活動として捉えれば宜しいですか?」

「カナエさんは、その答えを間違いだと認識しているのだから、あまり気にしなくても良いんじゃないかな?」


「……。」

「どうしました?」


「ひょっとしてですが……。

 マリア様はストレイア帝国との交易で筆頭に立たれているトレモロ・メディチ侯爵の腹心ということで宜しいでしょうか?先日、トレモロ様が短期間とはこちらを訪問されておりましたので……」


「仲は悪くないけど、それぞれが独立して動いている感じかな?どっちが上とか下とか無いよ」


「つまりは、盟約の様な暗黙の組織において繋がっておられると……」

「あまり気にしなくて良いよ。機会があれば教えるし、紹介もするよ。

 それよりもリサとシオンのことなんだけどね?」


「あ、ああ……。はい、何でしょうか」

「リサは表面上は喋れないから、人前ではカナエさんの指示になるの。100%頼ることになるからお願いね。

 あと、シオンはチョコレート作りで一緒になる機会が有ったかもしれないけれど、彼も表面上は2~3歳の体格をしているけど、人前で能力を見せない様に保護する必要があるから気を付けて欲しいの」


「ヒカリ様、私が何をするのか分かりませんが、リサ様の乳母になるとか、そういうことでしょうか?」

「あ、えっと。そういうのは大丈夫。

 体力や武力面なら、そこいらの人にも負けないから大丈夫。

 問題はリサの存在が知られると戦争になるから秘匿したいのね。シオンもそんな感じ。 大丈夫かな?」


「ヒカリ様、その……。私がリサ様の代理を務めることは何となく理解出来ましたが、その準備期間はどのくらい頂けるのでしょうか?」

「明日からリサの助手になる人を雇用するつもりだから、明日からカナエさんにも対応してもらう感じだね」


「えっ?」


 あ。

 カナエさんが初めて驚きの感情を出したね。

 冷静沈着で冷徹な方かと思っていたけど人間味が感じられて安心したよ。


「カナエさん、どうされましたか?」


「今、夕方で、明日の朝、新規に雇用する第三者との仲介をするのですか?」

「うん。緊急事態でしょ?」


「もう少し、その……。何とかならなかったのですか?」

「これでも色々と準備をしているんだけどねぇ……。

 リサの気持ちを最優先に考えると、どうしてもこうならざるを得なかった感じかな」


「では、もう少し急ぎ足でヒカリ様の家に向かいましょう」

「うん。でもリサはステラと一緒に過ごしているはず。

 リサとの打ち合わせより、モリスと面談したり、シオンと一緒に夕食作る準備をして欲しいよ」


「良く分かりませんが、とにかく急ぎましょう」

「うん。それには賛成だけど、荷物は重くない?走れる?」


「周囲の目を気にしないのであれば大丈夫です。ヒカリ様は宜しいですか?」

「私は大丈夫だよ。じゃ、急ごう!」


 よし!

 これで今晩のカレーと明日のパイスさんの世話は何とかなりそうだね!



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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