7-40.カレーを作ろう(8)
さ、リサはリサで巫女の治療薬を作って貰って、私はシオンとカレーのレシピ作成に頑張っちゃおうっと!
さて、リサはまだまだ普通に拘りがある様だから、そこは尊重しておくとして……。
とりあえずは、ニーニャとシオンに粉末状の香辛料のをお願いして、モリスにパイスさんの受け入れの準備をお願いできることになった。
「リサ、これからステラの所に行こうと思うんだけどついてくる?
それともシオン達と一緒にパイスさんの受け入れ準備をする?」
「お母様、ステラ様と何をされるんですか?」
「さっきも言ったけれど、リサと採ってきた苗を植えようと思ってるよ」
「私も耳があるので聞こえていました。
そうではなくて、ステラ様に私の苗を植えさせるのですか?」
「うん。普通に助けてくれると思うよ。
あと、ユーフラテスさんもいるかもしれないね。
二人が居れば、色々とアドバイスして貰えるよ」
「お母様、その様な雑用は今度迎え入れるパイスさんにお願いしたら如何でしょうか?」
「パイスさんが生活する工房と居住区の区画整備はモリスが担当してくれてるから、下手に菜園を作らない方が良いと思う。
既に開墾してあって、植え付けが終わっている傍に植物の菜園を作れば良いんじゃないかな?私は何処が空いてる区画で、どこが栽培に適しているとか判らないから、ステラとユーフラテスさんに聞くのが良いと思うけど。
何か困る?」
「お母様、ステラ様は本物のステラ様なのですよ?
私のための薬草園の面倒をみて貰うなんて恐れ多いです」
「リサはステラに遠慮してる?怖いの?」
「両方です。
例えば、お母様がお父様やマリア様と初めて面会したときに、『そこの狩りしてきた獲物、後で食べるから捌いといて』などと、お願いをしますか?」
「ん……。
リチャードのときは……。
私が欲しかった砂糖を横取りされそうになって、ちょっとムッとしてたかもね。ただ、結局はこちらのハムと交換して貰えたよ。最初から良い人だったね。
マリア様は……。
割とこちらの言い分を真摯に受け止めてくれてたかな?厳しい質問をいくつかされたけどね」
「分かりました。私が悪かったです。
お父様との甘い馴れ初めは今度伺います。
ですが、マリア様には詰問されたということですよね?」
「詰問って言うほどではないけど、答えを誤魔化したらその時点で全てが終わる様な緊張感があったね。
緊張感で言えば、トレモロさんとか、上皇様とかの方が辛かった気がするよ。あの頃はエスティア国王の後ろ盾も無かった頃だしね」
「お母様、そういうものです。それが普通です。
ですので、ステラ様に私がお願いをするなど……」
「モリスもニーニャもリサの気持ちに寄り添ってくれたでしょ。
だからステラもリサのことを助けてくれると思うよ?」
「皆様が忙しいのに、やっぱり……」
「ん……。じゃぁ、お母さんが頼むから、リサの意見を求められたらリサが返事をすることで良いかな?」
「それぐらいでしたら……」
リサは……。
一人で全部頑張ってきたのかな……。
親にも頼れず、自分が迷惑を掛けずに自分に存在価値があることを示しながら……。
とっても、とっても、頑張ってきたんだろうね……。
でも、それを分かちえる仲間がいなく、頑張る姿を認めっれなかった……。
効率的に成果を出すのは大事だけれど、それだけでは寂しすぎる……。
なんとか、母親として寄り添って上げられたら良いな……。
ーーー
リサを連れて、ステラのところに到着。
ユーフラテスさんと、アリアと3人で打ち合わせの最中だったよ。
「ステラ~。ちょっと相談に乗って欲しいのだけど……」
「ヒカリさん、随分大変なことになっていたみたいね。
何から始めましょうか?」
「ステラ、大変なことって?」
「一昨日、試験官として戻って、トレモロさん達をお見送りしたばかりでしょ?
ここにいるアリアさんも相当気を揉んでいたみたいですし。
ニーニャさんも短期的な運河設計を請負うことは可能だけれど、中長期観点からの事業継続性に課題があると言っていたわ。
私がヒカリさんの役に立てることがあれば良いのだけど……」
「あ、あぁ……。
その辺りのことは、とりあえず放置することにして、家族3人でゆっくり市場で食材探しの買い物に出かけたんだよ」
「そういえば、昨日はシオンくんも姿を見せなかったわね。
ゆっくり楽しめたのかしら?」
「買い物の最中に、ちょっと役に立ちそうな人物を見つけて雇うことにしたの。
で、その受け入れの準備中」
「そういうことはマリア様やモリスさんが得意そうね。マリア様はまだ迷宮で訓練に同行中のはずだから、モリスさんに頼んだら如何かしら?」
「うんうん。モリスとは別に世話役のメイドは付けないといけないかなと思ってる。いきなり種族の坩堝の様な拠点で生活しろって言うのも酷だしね。
あ、で、ステラに相談に乗って欲しいことは、その雇う人に任せる薬草の菜園設計を手伝って欲しいの」
「ヒカリさん、その方は農夫か何かですか?」
「農夫っていうか、薬草を元に治療技術を持っている人みたい。薬草だけでなく香辛料にも詳しいみたい。
だから、今度シオンとリサとで作ろうとしている香辛料のブレンドで相談に乗って貰っていたの」
「あら。ヒカリさんも香辛料のブレンドを始めるのかしら?あれは風味や味付けだけでなく、薬効もあるので、色々と奥が深いのよ?」
「はい。私はちんぷんかんぷんですが、リサも巫女時代に色々と知識と経験を持っていたみたいで、パイスさんと一緒に仕事をしたいみたい」
「なるほど、なるほど……。
リサちゃんも治療薬をブレンドしたいのね。その薬草やハーブ類をここの農園の一角で栽培したいと……。
リサちゃん、その育てたい植物の種類は決まっているかしら?もしあれば、育成用の種子や苗なんかがあると良いのだけれど……」
「リサ、聞いてた?」
「お母様、きいていました。でも……」
リサは私に返事はするものの、ステラに返事ができない。
肩に乗ったまま、私の服を掴んでもじもじしてる。
子供としては可愛いらしいけど、リサらしくないねぇ……。
「ステラ、リサにとってステラは伝説の人だから、お話しするのが恐れ多いんだって。
どうしよう?」
「たしかに、リサちゃんと仲良くお話する時間を過ごすことは殆ど無かったわね。
まぁ、私もリサちゃんも色々と忙しかったというのもあるわね。
ゆっくりと打ち解ける時間が必要かしらね……。
ヒカリさんがここに来たということは、植えたい植物が既にあるとうことよね。ユーフラテスさんとアリアさんと相談を始めてください。
私はリサちゃんと二人でお茶をすることにするわ」
そういうと、ステラは畑の片隅に自分の鞄から小さな椅子と机を取り出して、そこでお茶会の準備を始める。リサを対面に座らせて、ハーブティーの淹れ方なんかを教えながら、ゆっくりとした時間を過ごすみたいだね。
ーーー
よし、私はユーフラテスさんとアリアと相談をはじめればいいね。
ステラとリサの二人からお互いの声が聞こえない程度の距離をとって、3人で打ち合わせを始めた。
リサの薬草のいくつかは貴重な物があって、リサが生まれた家で栽培していたものがあるとか、市場に出回っていない物があることを説明。
幾つかは苗として確保してあって、あとはカルダモンと思われる香辛料の種もあることを説明した。
「ヒカリさん、そうすると……。
ヒカリさんとシオンさんが作りたいカレーというものに用いられる香辛料と、リサちゃんが巫女の治療薬として栽培したい植物の2系統があるということでしょうか?」
と、ユーフラテスさんから質問が出た。
まぁ、アリアも似た感じの質問があるのだろうけれど、畑に関してはユーフラテスさんが一番知識があるからね。
「そう。大体のイメージはそんな感じ。
で、リサはしばらくはパイスさんっていう助手と直接喋れない設定で行く。だから、何処かからリサとパイスさんを繋ぐメイドさんを一人別に雇う必要があるね。その二人が実務面での栽培を請け負うことになると思う。人手が足りなければその二人が更に人を雇う感じかな。
メイドさんを雇わずに、私がリサとパイスさんを繋いでも良いけど、リサはリサで私に母親以外の役目があることも分かってくれているみたいで、なんていうか、うん……。
結局は私一人でやりきれなくなる未来が見えているから、早い段階で任せられる人に任せたいかな」
「ヒカリさん、そうしますと、我々の存在も隠して、ヒカリさんたちの能力も隠して、普通の人達に栽培を全て請け負って貰う感じでしょうか?」
「うん。出来れば最初の開墾と区画割だけを決めて、それ以外は任せたいかな。
ただ、余りにも植物の育成に適していない土壌だったり、栄養価が低い状態だと可哀想だから、その辺りは手加減して欲しい。
っていうか、アリアとシオンで使ってるカカオとかコーヒー園はどうなってるの?」
「ヒカリ様、モリス様とマリア様が『あまり王都に近いと噂になる』とのことで、10kmぐらい離れた場所に農園を構えています。それもメインの通りから少し奥まったエリアで開墾と植林を進めています。
サンマール王国の特産物として普及できる様になるまでは、栽培に携わるメンバーはユッカちゃんの騎士団などの奴隷印が付いた人物に限定しています」
「そっか……。
リサの農園はどうしよっか……。
普通の人に任せるなら、もっと近くて良いかな……。
ところで、ここは城外の拠点から1kmぐらいしか離れていないけど、何用の畑を作ってるの?」
「ダミーといいますか、偽装といいますか。
『北の国から来た人たちが、何処にでもあるフルーツをワザワザ植えている』と、思わせるために、バナナ、パイナップル、ドリアンなどの育成を始めています。マリア様も喜ばれますし」
「それは、なかなか面白い作戦だけど……。バナナ、パイナップルなら1年で収穫できるかもだけど、もっと芋類の様な短期で収穫できる物も栽培しておいた方が、雰囲気出てていいんじゃないかな?」
「ヒカリ様、雰囲気ですか……?」
「うんうん。
『北の国からワザワザ人を連れてきて、道作って、お金にもならない芋やフルーツ植えて、なにしてんの?北では食べる物に困ってるらしいぞ』みたいな。
そういう噂が立った方が、馬鹿にされて、興味が無くなって良いかなと」
「ヒカリ様、それこそ無駄ではありませんか?」
「上級迷宮の資源化が見込めるまでは貧乏な振りをしておいた方が良いよ。
コーヒーやカカオの木も植林するならともかく、種から栽培したら数年は収穫が見込めないから、わざわざ山に入って採取してこないといけない。一応、めぼしいところには私の領地マーカーを置いてきてあるけどね」
「ヒカリ様、その……、ですね?」
「うん?アリア何?隠し財産とか、別の資金源とかある?
あ、一応、アリアのガラス工房はここの機材作るだけで販売する物は作っちゃダメだよ?」
「お金の話では無くてですね……。その……」
「うん?何か私に内緒のサプライズ?だったら聞かなくても良いよ?」
「あ、いやいや。そうでは無くて、そのですね……。
ユーフラテスさんのご助力でですね……」
「ユーフラテスさんには、ここの街道の整備をし易くするために木を枯らすのと、世界樹の実を上手く苗にしてもらうのを手伝って貰うことになってたと思うよ?」
「そ、そうなんです。その通りなのです。
そして、ついでになのですが……」
「ついでに?」
「カカオの種とコーヒーの種から苗を作りまして、植えたのですが……」
「うん?失敗した?
それは残念だけど、また取ってくるよ。気にしないで。
どれくらい必要?」
「ヒカリ様、逆なんです。上手く行きすぎてですね……。
私たちの感覚では理解できないスピードで成長してまして……」
「もう苗木ぐらいの大きさになったとか?
だとしたら、上手く行けば2-3年で初めての収穫ができるかも?」
「既に2-3mの大きさになってまして……。
開花の時期が来れば花も咲いて、少量であれば実も収穫できるそうです……」
「それはちょっと……。緘口令を敷いても止まらないレベルじゃないの?」
「ええ。ですから、ユッカちゃんの奴隷限定にしていまして……。
『初回のたまたま、土地との相性が良かったね』
とか、不思議な状況であっても、それを納得して秘匿するように努めています」
「そんな育成ペースでリサのための菜園を作ると色々と不味いね。
それか、パイスさんが来る前に、菜園ぽく無く、野生に生えてる感じで薬草を育てるとか……」
「ヒカリさん、アリアさん、何か余計ないことをしていますか?
必要であれば、植えた物、全てを枯らして元にもどしますが」
「あ、ユーフラテスさん、ありがとうございます。
非常に助かっています。感謝します。
あとは、その不思議な現象とその痕跡を上手く隠す方法を我々が考えるという話です。 ですので、ユーフラテスさんの支援は全く問題ありません」
「じゃぁ、アリア、どうしよっか?」
「パイスさんという方の不思議な現象への順応性と、その支援をするメイドさんの口の堅さがどの程度であるかですね……。
マリア様のお館に仕えているメイドさんたちは口が堅いし、その様な余計な詮索をしない様に躾がされているそうですが……」
「じゃあ、マリア様とクレオと連絡して、一人口の堅いメイドをリサ専属の支援役で連れてこれるか相談してみるよ」
「そうですね……。マリア様のお館のメイドさんでしたら、きっと不思議な現象にも慣れっこでしょうし、上手く立ち回ってくれるとおもいます」
「わかった。
そしたらアリアとユーフラテスさんには、城外の拠点から歩いて通えるぐらいの距離に、そこそこな薬草とか香辛料を植えられる場所を作ってくれるかな?自生していた風に偽装できるなら、栽培を始めてくれても良いです」
「「分かりました!」」
「二人ともありがとうね。
私はメイドさんの手配、リサとステラのお茶会が終わるのを待つ。あとモリスにメイドさんを連れてくることを伝えるよ」
ちょっと、忙しい感じだけど……
リサはステラとゆっくりと時間を過ごして貰って、私はパイスさんを受け入れる準備のために色々と根回しをしておこうかな……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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