7-37.カレーを作ろう(5)
リサの生家に到着だよ!
「リサ、道案内ありがとうね。ほとんど真っすぐ飛んでこれたのはリサのお陰だよ」
「いいえ。お母様が速度を落として、私と会話をしながら飛んでくれたおかげです」
「あ、いや、体勢と装備のお陰だよ。
あと、リサが飛ぶのに慣れてきたのもあるんじゃないかな。
で、簡単に索敵をしてみたけれど、予想通り誰も居なくて、荒廃した村が残っているだけみたいだね」
「正直、魔族にとっても、人族にとっても貧しい村に価値は少ないです。
ですが、ここでは貴重な薬草を栽培していて、修道士が治療薬として利用していたのです。
ですので、この村からは巫女が生まれやすかったのかもしれませんね」
「ひょっとして、シルビア様も同じ村だったりする?」
「あの方はこの村の伝説ですね。一度お会いしたいです」
「ユッカちゃんのおばあちゃんでしょ?まだ面会して無いの?」
「お母様、私が面会をして教えを乞うのでしょうか?この年齢とこの姿で?」
「うん、まぁ、まだ無理だけど、でも会うことは出来たかなって」
「お会いできる実力に見合った自分に成れたなら、そのときはユッカお姉さまにお願いします」
「わかった。その話は今度にしよう。
で、今日はもう直ぐ日が暮れるけど、この草ぼうぼうの道を辿って、菜園とかリサの生家とか修道士の倉庫とかを周れる時間はありそう?」
「宿泊所は壊れていない何処かの家を借りましょう。ベッドも水に濡れて無ければ、多少拭き掃除をすれば使えると思います。
食事はお母様が持参しているとのことで、お母様にお任せしたいです。これで宿泊の準備は宜しいでしょうか?」
「リサ、やるねぇ。それで十分だよ。
ただ、埃が酷いと、目がかゆくなったり、鼻がぐちゅぐちゅになるから、そのあたりは布でマスクをしながらさ作業しておいた方が良いかもね。先に埃を除去して、静かにしておけば、夜に寝るときに鼻のぐちゅぐちゅで寝苦しくなくなると思うよ」
「わかりました。先ずは程度の良い空き屋を探しましょう。
次に、本来は井戸が使えるかを確認するのですが、私もお母様も水の心配はありませんね。空き家の周辺の草刈りをして、炊事に備えましょう。
その後、時間があれば私が薬草の菜園や修道士の倉庫へご案内します。
それで宜しいでしょうか?」
「うん。じゃぁ、早速準備をしようか」
村を通るメインの道は整備されていたり、良く踏み固められているみたいで、草は余り生えていなかったけれど、そこから民家へと向かう通路は、道と家の境が判らなくなるぐらいに草がぼうぼうに生えていた。これだと、リサが空き家の内部を確かめるのは難しいかな?
「リサ、良さそうな空き家だけど、目星がついているなら、そこから先に当たろうか。教会でも良いし、村長の家でも良いし。
どうかな?」
「ちょっと村の外れになりますが、行ってみたい家があるのですが良いですか?」
「うん。リサに任せるよ。肩に担いであげるから方向を教えて」
石積みの家であっても、壁の風通し穴の部分、ガラスが入って居ない窓の部分から壊れていたり、屋根が吹き飛んでいたり、積んである石の隙間から草が生えていたりと、全然手入れされていない、壊れかかった家が並んでいる。
大き目の屋敷が見えたけれど、あれが村長さんの家なのかな?立派な感じだけれど、所々屋根が崩れ落ちているのが遠目に確認出来るね。
更に進むと、協会らしい、なにか紋章が屋根に取り付けられた建物があって、そこには井戸の様な物ととか、倉庫の様な物なんかもメイン通路から分かり易い位置に立っていた。ここの枝道は人の通りが多かったのか、年月が経過しても草が生えずに残っているね。人が踏み固めた地面は自然に強固で耐える物なんだねぇ……。
その教会の跡地の前も通り過ぎて、ずんずんと進むと壊れた家もまばらになってきて、木々が疎らに生えている感じ。ちょっと遠めに森が見えてきたよ。村長の家や教会があった村の中心部からは15分くらい歩いたかな?
「お母様、あそこに家があるのが分かりますか?あの家を目指してください。
通路が草で埋もれているかもしれませんが、不要に踏んだり刈り取ったりしないでください。貴重な薬草の種が自然に零れて生き残っている可能性があります」
「わかった。リサと一緒に進むようにするよ」
リサにナイフを渡して、リサがナイフで草を切ったり掻き分けながら小屋の方へと進んでいく。確かにリサが刈り倒している草の中に、チラチラと葉っぱの形が違う草が生えているね。これを全部刈り取ったらダメだってことね……。
「お母様、ここです」
と、メインの通りから20~30mぐらい入ったところに小屋の入り口らしきものがあった。ここでも敷地の境界線はわからなかったけど、ぼんやりと石がつんであったり、区画が整備された畑の跡地みたいのが見えるけれど、どこまでがこの小屋の持ち主の守備範囲であったのはちょっと判らないね。
「リサ、この小屋の様子を見てみて、借りれそうならここを今日の寝床にするので良いかな?」
「はい。中がどうなっているか分かりませんが、開けてみましょう」
石積みの壁の間に挟まれるように残った木の扉に手を掛ける。蝶番とかなくて、木の棒が石の間に刺さっているような構造。簡単だけれど密閉性は無いね。
木の棒が劣化していて、新しかった頃よりはかなりガタが来ているけれど、ちゃんと開閉は出来る構造が残っていた。ここまでは問題無いね。
扉を開けると、当然ながら電気とか無いので外からの陽の光が差し込むだけ。私の妖精の子に出てきてもらって、壁の陰になっている部分も明るく照らして貰った。
正面には4人掛けのテーブルが一脚。周りには大人用の椅子が2脚と、子供向けの少し足が高い椅子が2脚。
壁の右側は麻布が掛かっていて、奥の部屋に通じるみたい。寝室かな?
壁の左側には台所らしき、竈らしきものがわずかに見える。左側が壁で仕切られているのは炊事をしたときに薪から出る煙を分煙するための措置なのかもしれない。
何であれ、衣食住が最低限営める簡素な構造の家だね。
「リサ、扉も開閉できるし、屋根の崩落も起こって無いから雨風はしのげそう。
左側に見える竈やお風呂に使っていた様な大きな水溜めの瓶があるけれど、そこは当てにしない方がいいかな?あと、右の壁の向こう側は寝室があるのかもね?」
「とても……。懐かしいです……」
「リサ、かなり埃っぽいね。口に当てる布をだしてあげる。
一人で家の中を調べる?お母さんの妖精の子をリサに預けるよ」
「お母様、大丈夫です。今日は寝室の掃除だけを済ませます。
それで時間が余れば、外で煮炊きする場所の確保と薬草の採取をしましょう」
「リサ、今は、もう、我慢しなくても……、良いんだよ?」
「お母様、そういう話は夜に暗くなってからしましょう。
今は明るいうちに出来る限りのことをしましょう」
二人で布マスクを口に当てて、入り口から通路、そして寝室の中に向けて水を霧状に噴霧させて埃を落ち着かせる。
寝室は四畳半ぐらいの部屋だったけれど、ベッドとか布団の様な寝具は何もなく、単に石の壁と土が固められた床が有っただけだった。
鞄の中から布を取り出して石の壁を一気に拭き上げる。天井なんかの手の届きにくいところは浮遊術を使って拭き取る。最後の仕上げに部屋全体にピュアをかけてお終い。
「お母様と一緒だと、掃除すら普通では無いのですね……」
「いや、リサさぁ?リサと私が掃除で体調不良を起こさない様に最大限の配慮をしているだけだよ?普通とか、普通じゃないとか、そういうのは関係無いと思うよ?」
「分かりました。お母様、ベッドは有りませんから土の上に寝ることになります。なにか要望は有りますか?」
「う~ん、外で不要な草を刈って、その草を敷くのはどうかな?少し湿気が上がるけれど、土のそのままの冷たさよりは良いと思うよ。その上で、毛布に包まって寝れば良いんじゃないかな?
贅沢な要望かもしれないけれど枕もあると良いかな?」
「では、まだ明るいので、この家の周辺の草刈りをしましょう。
そして、出来れば薬草で採取出来るものが有れば刈り取って、家の中に束にして干しておくと良いと思います」
リサと手分けをして小屋の周辺の草刈りを始める。
最初のうちはリサに雑草と薬草になる植物の種類を教えて貰う。私は教わって全てをマスター出来ないから、ナビに植物のDNA登録を掛けて、雑草と言われた者は色表示なしで、薬草と言われた種類は青白く光るように右目に投影してもらった。
DNA登録の無い初めての種類は黄色で表示しておいてもらって、その都度リサを呼んで判定して貰うことにしたよ。
暫く、二人で別行動で草刈りをしたり、植物の採取をしていたんだけど、いつの間にかリサの姿が見えなくなった。人攫いとか居る訳でも無く、かといって一人で勝手に何処かに行くことは無いと思うんだけど……。
ちょっと、索敵してみよう。
って、直ぐに見つかった。小屋の寝室の辺りにリサの反応がある。けど、動いてないね……。様子を見に行ってみると、寝室で布団代わりに集めた草の上で寝てた。
リサにとっては今日は大変な一日だったのと、色々な思いが込み上げる日だったんだと思う……。草を平らにして、少し枕部分を作ってから、毛布を掛けてあげた。
さて……。
夕飯の準備をしてもリサのあの感じからすると暫く起きてこないよね。だったら、ナビと連携して、この家の周りの植物の調査と、出来れば見つからなかったカルダモンなんかもゲットしておきたいところだね。
ナビにはカカオの木の索敵をしたときと同じ方法で、カルダモンの画像とDNAの検索を掛けて、同等な植物が無いか辺り一帯の探索を掛けて貰った。
すると、行きに通りがかった教会の辺りでその反応が確認された。寝てるリサには悪いけれど、ちょっと採取に行ってきたいなぁ……。でも、リサの気持ちを裏切ることになるかなぁ……。
ここはグッと我慢して、明日二人で採取しに行けばいいかな?この小屋の周りの整備、採取した植物を干したり、根っこと土ごと麻袋に入れる準備をしたりして、今日は我慢しておこうかな。
小屋の外で夕飯の準備をする。
簡単な肉入りのスープとパンで良いかな?あと、リサのために甘い物が欲しいところだけど、私も流石に疲れているから今日の所はフルーツ盛り合わせで勘弁して貰おう。鍋とフライパンで温められる準備を整えて、フルーツは刻んで冷やしておく。
すること無くなったし、リサは暫く起きなさそうだから、モリスに無事を連絡しておこうかな?
<<モリス、今日は泊まり。リサも私も無事。リサが生まれた家に案内されて、そこで宿泊することにしたよ>>
<<リサ様はご無事でしょうか?>>
<<無事っていうか、最初に言ったよね?今寝てるよ。起きてから夕飯にするつもりだよ>>
<<シオン様から伺ったところによりますと、空中から落とされそうになったとか、物凄い速度飛行して、リサ様が悲鳴を上げても許されなかったとか……>>
<<そういうのは無いから。大丈夫だから。
明日も採取を継続して戻れないかもしれないから、そうしたら明後日の朝にパイスさんを北西の門まで迎えに行ってあげて。その後の手筈とか契約はモリスに任せるよ>>
<<採取はそれほど時間が掛かるのでしょうか?現地の村人に依頼を掛けるなどは……>>
<<ここは廃村だよ。魔族に占領されている地域。普通には入って来れないよ>>
<<ヒカリ様、それはかなり不味いことをしていませんか?>>
<<誰もいないし、所有権も放棄されている場所だから特に問題無いよ>>
<<ですが、魔族の領域なのですよね?>>
<<魔族が勝手に人族の領地を奪ったらしいよ。良くわかんないけど>>
<<ヒカリ様、周囲に魔族の気配や建物等は無いのですね?>>
<<上空から着陸する前に確認した範囲では、村は無かったし、道も使われている気配は無かったよ>>
<<でしたら、周囲に危険な動物や毒虫はいないか確認されましたか?>>
<<私の索敵範囲で危ない生物はいないね。虫よけはユッカちゃんから教わったクリームを塗ってるよ>>
<<食事は?寝床は?>>
<<私の鞄に入ってるし。寝床はリサの生家を清掃して確保したよ。刈り取った草を敷いて、その上に寝る。毛布は鞄に入ってる。
っていうか、これくらい普通だよね?>>
<<王太子妃だとか、貴族に使えるメイドですとか、子連れで市場に買い物へ行くお母様方の普通ではありません。
マリア様やリチャード殿下が不在のこの状況で何かあれば私が責任を問われます>>
<<ニーニャもステラもエイサンも大丈夫って言うと思うよ?アリアやシオンは『わかりません』って答えるかもしれないけど。
っていうか、今更そんなこと言う?>>
<<ヒカリ様、私が普通の心配をすることは間違っていますか?>>
<<心配が無い様に、問題が無いって連絡を入れたんだけど不味かったかな?>>
<<今までその様な連絡が有りませんでしたので、今日は突然のことでビックリしています>>
<<ごめん。じゃぁ、今後は黙って活動するよ。
出がけに香辛料を押し付けて、行先も言わずに出かけて来ちゃったから心配しているかと思っていたよ>>
<<シオン様はヒカリ様が怒られていることを気にされていましたが、『お姉ちゃんがいるから大丈夫』と仰っていました。
私はヒカリ様の家族の中に入っていけませんね……。執事失格です……>>
<<モリス、モリスは優秀な執事だよ。そして領主代行もしてくれてるし、領地で各種権利の登録をしてくれたり、種族間の交流を上手くこなしてくれてる。
それだけじゃなく、アリアやアルバートさんも支援してくれている。私は感謝しても感謝しきれないよ>>
<<ヒカリ様、ヒカリ様の普通の範囲で良いのでご連絡頂ければありがたいです。
また、何か困りごとが生じている様でしたら直ぐにご連絡ください。
今後ともよろしくお願いいたします>>
<<モリス、また帰ったら挨拶にいくから。今回は大したお土産は無いけど、パイスさんの受け入れの準備はよろしくね>>
<<承知しました。ご武運をお祈り申し上げます>>
なんか、モリスに連絡して余計なことしちゃったかな~。
でも、連絡入れた方が良いと思ったんだけどな~。
ん~~~。
こういう加減が出来ないから私はコミュニケーションが下手なんだろうねぇ……。
少なくとも家族とは上手くコミュニケーションをとっていけたら良いな……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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