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1-14.出汁を作ろう(3)

 その日の夕方になって、エイサンが3人の海人うみびと族の人を連れて台所に現れた。


 格好は特に族長の礼服とかいう感じでは無くて、漁師とか狩人みたいな動きやすい軽装で、背中には大きな籠を背負ってる。

 皆、身長が180cmを超えてそうで逞しい。肌は浅黒く日焼けしていて、髪は黒髪だったり、ちょっと海風に焼けて銀白色に茶色が混ざったようなアッシュが掛かっている。

 リチャードが貴族でスマートな感じに対して、逆方向の精悍さが漂う感じだね。


「ヒカリ様、お久しぶりです。

 遅ればせながら、ご結婚とご出産おめでとうございます。


 尚、道中に於きましては、ちゃんと姿を消して飛行し、人気ひとけのないところから街道に入り、商人のフリをしてこちらに参りました。

 関所の受付でもモリス様への面談を希望しており、モリス様にお会いしてから、『ヒカリ様なら、台所にいらっしゃるであろう』とのことで、こちらへ伺いました」


 と、エイサンが挨拶の口上を述べると、後ろに控えている3人が恭しく頭を下げてお辞儀をする。


「エイサン、ありがと~。

 あと、前にも言ったけど、私に『様』は付けなくて良いよ。私も面倒だし。


 それより、その荷物って、例の頼んでいたものってことで良いのかな?」


「私は昆布が何か判りませんので、3種類の海藻を3つの籠に分けて採取してきました。ヒカリ様のお求めの物がこの中にあれば幸いです。もしなければ、範囲を広げてサンプルの採取を進めさせて頂きます。


 また、体長1mの魚もお求めとのことでしたので、あちらの籠には3匹ほど魚を獲って参りました」


「エイサン、いろいろありがとね~。

 お茶でも淹れるから、荷物を降ろして、そこら辺の椅子に座ってて貰える?

 なんか、伯爵になると、種族との交流もきちんとしないといけないって、モリスに注意されちゃってね……。

 

 正式に出迎えられなくてごめんなさい!」


「いえいえ。

 私こそ、種族を超えた交流が出来るのはヒカリ様のお陰です。

 また、ヒカリ様の周囲にいらっしゃった方達と挨拶が出来たこともありまして、南の大陸での交易がスムーズに進んでおります」


「へっ?何それ?」

「ヒカリ様、北の大陸のこの辺りは主に人族が住んでおりますが、ここから南へ行った大陸には、5つの種族が住んでいるのをご存じですか?」


「え……?何か、人種の坩堝るつぼだとか、魔族が居るとかは聞いたことがあるけど……」


「……そうでしたか。

 南の大陸には、人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、そして魔族が夫々(それぞれ)の領域を確保して争っています。


 一方、我々は、陸人りくびとに対する水中に住む種族として、血筋の違いはあれど、海人うみびと族同士で国を作って戦争をするようなことはございません。あったとしても、小さないざこざのみです。

 ですので、海人達はどの陸人達とも交易が行えるのです。そのとき、その種族の族長級の紹介状がございますと、陸人と対等な立場で交易が行えるので都合が良いのです。


 エルフ族のステラ・アルシウス様、ドワーフ族のニーニャ・ロマノフ様、獣人族のレイ・ペルシア様。このお三方のお陰で、我々海人族が陸人族に対して公平に取引が行えているのです」


「あ~。人族の紹介状が無くてごめんね~。

 今度、誰かに紹介状を書いてもらうよ……。

 私じゃ、まだまだ力不足だよ……」


「人族であるヒカリ様には大変申し訳ございませんが、南の大陸の人族は魔族に押されて、領地が縮小しております。我々との交易を進めるよりも、何とか領地を取り戻そうと必死の様子です。

 ですので、それほど慌てて紹介状を書いていただかなくとも、例えばこちらのメルマの港の使用許可を戴けるだけで十分でございます」


「メルマはランドルさんの持ち物だから、ランドルさんに紹介状を書いて貰うよ。

 ところで、海人さん達が私たち陸人と交易するときって、どんな物を交換してるの?」


「先ほど念話の中でお話ししましたような、人族では採取困難な大きくて重たいシャコガイなんかは、装飾品としての価値があるようで、高額で引き取って戴けております。

 あるいは、アコヤガイと言われる真珠を生み出す貝や、そこから採取した真珠なんかも高価買取をして頂いています」


「私が頼んだような食料とかは?」

「陸人の漁師の方が、家族や港町で捌ける範囲で漁をされています。我々が追加で供給しても、その需要がございません。

 何せ、魚類は肉類に比べて保存も加工も難しく、取引先が限られておりますので」


「ふ~ん。そっか……。

 一応、冷蔵庫とか冷凍馬車とか作ったから、新鮮な状態で魚介類を保存できるようになったよ。あとで見せてあげるよ。獣の肉とか、クジラ肉なんかも冷凍して保存してあるんだよ。

 うちの領地としては、十分に魚介類の需要があるんだけど、それはまた今度にしよう。

 

 今日は、取ってきた海藻を早速みせてもらってもいいかな?」


「ハイッ、是非とも!」


 エイサン達が持ってきてくれたかごを順番に確認していく。


 1番目の籠は……。

 赤紫色の細い何かがごっちゃりと入っていた。

 これはテングサだね。トコロテンの材料にもなるやつ。

 これって、もう少し暖かい地方だろうし、浅瀬に生えるんじゃなかったっけ?

 まぁ、異世界だから地球と全く同じって訳では無いだろうけれど……。

 引っ張り出してみると、確かに一房で2-3mは繋がってる。幅も個人家庭で室内に飾るようなクリスマスツリーみたいに、細長い円錐形をしてた。当然、葉の先の方は細かく枝分かれしてて、テングサっぽかったよ。

  これは、これで、手間暇掛ければ貴重な食材になるから貰っておこう。


 2番目の籠は……。

 茶褐色でヌルヌル感のある海藻が入ってる。

 これはワカメだね。背丈も1-2mぐらいで、幅も20-30cmぐらい。色合いとか形は昆布に良く似てるけど、肉厚じゃないね。

 味噌汁に入れたり、海藻サラダにしたら美味しいのだけど、離乳食には使えないかな~。

 これも貰っておくといいけれど、ちょっと残念。


 3番目の籠は……。

 2番目の籠に似た海藻が入ってる。

 引っ張り出すと、肉厚で重たくて、全容が見えてこない。籠から徐々に引っ張り出すんだけど、一人じゃ、籠から全部出しきれなくて、台所の床を擦りそうになる。それを見かねた海人族の人達が持ち上げるのを手伝ってくれて、台所の端から廊下へと続く扉付近まで数mの長さに達した。

 そして、葉がとても肉厚で重たい。

 これって、最上級の昆布なんじゃないかい?どうやって干したらいいのかさっぱりわからないけどさ?


 取り敢えず、昆布を元の籠にしまってから、ゴードンさんとメイドさん達に籠の中身を洗って、干すように指示を出す。

 指示を出し終わったら、お茶を飲みつつエイサンに話しかける。


「エイサン、この3つの籠の中身は全部欲しいです。そして一番欲しかった昆布は最後の籠にはいってた、長い物です。

 お礼はどの様にしたら宜しいでしょうか?」


「ヒカリ様のお子様の姿を拝見したいのと、ヒカリ様のクッキーを戴きたいことぐらいでしょうか……」


「うん。砂糖もあるし、クッキーはこのまま夕飯まで待ってて貰えれば作れるよ。ただ、子供たちはさっき授乳を済ませて寝たばかりなので……。

 もし、エイサン達が夕飯まで滞在できるなら、その頃には起きて泣き出すと思う。それまで待ってて貰えると有難いです。


 っていうか、今回のことはともかくとして、海人族は陸人と交易をして、何を貰って帰るの?全然想像がつかないんだけど?」


「基本的に陸人と同じです。

 ただ、どうしても陸人にお願いをしなくてはらないのが、漁具や武具になります。何せ、我々は火を使いませんので、鍛冶が出来ません」


「食料とかは必要ないの?」

「海藻は食べる者がほとんどおりませんが、魚介類は豊富ですので、自由に調達できますし、飢える者もおりません」


「衣服は?」

「陸人と会う以外では、ほとんど着用していません。やはり、衣服は水の抵抗を受けますので、泳ぐのには不向きです」


 マッパ族か!そうなのか!

 私は肉食系女子じゃないけど、エイサンみたいな逞しボディーがマッパで泳ぎ回ってるとか、目のやり場に困るんじゃなかろうか……。

 ま、いっか。


「じゃぁ、海人が必要な捕獲道具や武器防具を鍛冶して提供すれば需要があるってこと?」

「ハイ。そのような物が有難いです」


「ドワーフ族の方が良いんじゃない?」

「彼らは、その、何といいますか……。

 拘りが強く、要望以上のハイスペックな品物を、納期を守らずに必死になって製作する気質がございまして……。

 我々としては、取引が成立したのであれば、有る物を提供頂ければ良いのですが……

 その点、人族は商売熱心で、こちらの要望に合わせた既製品を、それなりな値段で素早く製作したり、加工して提供頂けており、助かります」


「分かった。

 今度、ニーニャに頼んで、メルマにドワーフ族のお店を構えられないか相談しておくよ。そのとき、人族の支援者も付けておくように言っておく。

 お店が出来たら、紹介するから贔屓ひいきにしてあげてね?」

「承知しました!」


「でも、それだけだと、やっぱり、人族側で交易するための対価が無いねぇ……。

 ちょっと、他に何か無いの?」


「その……」

「エイサン、何?」


「ヒカリ様のクッキーを……」

「うん。作るよ?」


「その、定期的に購入することは……」

「え?」


「やはり、難しいことですか……。きっぱり諦めます!」

「いや、難しくは無いけれど……。

 ちょっと、砂糖っていう高価な材料が手に入り難くて。

 そこさえ解決すれば、潤沢に供給できるとおもうよ?」


「砂糖とは、南の大陸の特産品の1つですか?」

「うん。多分。甘くて、茶色いあれです」


「うん……」


 またエイサンが唸りだす。


「エイサン、どうしたの?」

「いや、どうやってあれを運んだら、ヒカリ様の元へスムーズに届けられるのかと……」

「トレモロさんっていう人に頼んで、南の大陸に買い付けしに行ってもらってる。

 原料はサトウキビっていう植物を叩いて汁をだして、それを煮詰めて乾燥させるだけのはず。だから、サトウキビ栽培さえ成功していたら、どんどんと安定して供給できるようになると思うよ?」


「サトウキビとは、水辺に生える、かじると青臭さの中に甘みを感じるあれでしょうか?」

「うん。多分それ」


「であれば、それほど難しくないかもしれません。

 ただし、サトウキビの育成までで、そこから火を使って煮詰める作業は陸人達の協力が必要になりますが……」


「じゃぁ、海人族からは、海藻とサトウキビをもらって、こちらは鍛冶製品とクッキーを交換に用意すれば良いってこと?」


「もし、そのような交易に応じて頂けるのであれば、直ぐにでも契約書を作成して頂けると有難いです」

「良いよ。良いけど、私は今、その権限が無いの。

 モリスと主人のリチャードと相談して貰っても良い?

 今日の分のクッキーはちゃんと用意しておくから」


「承知しました!」


 クッキーねぇ……。

 いや、有難いんだよ?手作りの物を人様に喜んでもらえるってのは……。

 ただね?火も使えない海中で、クッキーは保存できないし、すぐに湿気ると思うんだよ。オーブンで温め直して、カリっとさせる技も使えないしさ?

 

 ま、いっか。

いつもお読みいただきありがとうございます。

余裕がなくなったら週末1回のペースにさせて戴きます。

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