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7-28.後始末 トレモロさんとレイさん

 さ、途中で投げ出した試験の後始末をしよっかな……


「トレモロさん、レイさん、ただいま~」

「ヒカリさん、出立前に元気なお顔を拝見出来て良かったです。

 既にお聞き及びのことと存じますが、明日よりストレイア帝国に向けて出発します。

 王姉殿下の件、お預かりしている獣人族の件、エスティア王国への侵攻の件、夫々精一杯対応を取らせて頂きます」


「ああ、うん。レイさんも子育てで忙しい中、遠い所まで来てくれてありがとうね」

「ヒカリさん、2回目ですよ?」


「え?」

「サンマール王国に来られてヒカリさんが意識を失うのが2回目です。

 もう、滅ぼしちゃえば早いんじゃないんですか?」


「あ、レイさん、心配かけてごめんなさい。

 でも、出来ればもう少し辛抱してくれると有難いかな……」


「そもそも今回ヒカリさんが倒れた原因が良く分かりません。

 何故模擬戦が始まって、

 何故防御を得意とするヒカリさんが攻めに転じて、

 何故切断しようとした木刀が破裂して、

 それをヒカリさんが犠牲になって受け止めたのか。

 どれ1つをとってもヒカリさんが無理をされています」


「あ~。レイさん色々とごめんね。木刀の破裂以外はちゃんと説明出来るよ。


 模擬戦のきっかけはズィーベンさんっていう優秀な人が見つかって、奴隷の所有権を移そうとしたの。そうしたら『私はユッカ様の物だ』とか、騎士道精神と衝突してしまってね。私の考え方が甘かったよ、次からは気を付ける。


 防御が得意なのは相手もそうだったみたいで、全く攻めてくる様子が無かったの。受験者の試験の最中でもあったから、何日もそのまま立ち合って立ったまま時間が経過するのが勿体ないから切り崩そうとしたのがきっかけ。木刀が破裂とかしなければ上手く行ったとおもうんだけど……。そこだけは想定外でした。


 あと、最後に私が庇った件だけど、優秀な人が失明したら使いものにならなくなる。私は身体強化もしていたし、木刀の破片くらいなら背中で受けても致命傷にならないかなって思って咄嗟に体が反応していたよ。ただ、意識を失うほどの大惨事だったのはこれも想定外。


 やっぱり、木刀が破裂したのが想定外だったんだよ……。

 何なんだろうね?

 そこを押さえておけば次は似た失敗はしないと思うよ」


「ヒカリさん、『木刀が破裂した件』ですが、私なり各所と連絡を取らせて頂きまして、『きっと、木刀に破壊不能の印が刻まれていたのだろう』ということになりました」


「うん?木刀は壊れるし、実際に破裂して壊れちゃったよね」


「印自体を壊す方法もこれまでいくつか検討されておりまして、

(1)印のマークを修正したり上書きしたりして、本来の意味と異なる内容にする

(2)印が描かれた本体を破壊する

(3)印の機能を停止させる印を構築して、そこから元の印の停止を図る

などです」


「レイさん、丁寧に調べてくれてありがとう。

 でも、今回は『破壊不能』の印があって、木刀が破壊出来ないのだから、(2)は生じ得なかったんじゃないのかな……。

 あと、私は簡単な領地マーカーの印ぐらいなら書き換えできるけれど、模擬戦の最中に掌に握り込まれた印を書き換えるとか私に無理だよ」


「ええ。そこで有識者が各種可能性を検討して絞り込んだ結果として、『印の魔力容量オーバーが起きて印自体が破壊され、その結果溜め込まれたエネルギーが木刀本体へ流入し、木刀が破裂したのではないか?』ということが有力です」


「印の考え方が良く分からないけど、電気回路みたいなものかな?その回路の許容量を超えると発火したりして壊れちゃうんだよね」


「ヒカリさんの電気回路が何か分かりませんが、水路に流す水の量を考え方を印に流す魔力の量のことに例えると理解し易いそうです。

 『今回は水路にあふれるぐらいの水の量を流したので水路が壊れた』

 そういうことの様です」


「ってことは、私は破壊不能の印を破壊するぐらいの魔力を注ぎ込んで、挙句自分の魔力で木刀を破裂させて、その破片で自らケガを負ったということ?」


「そこだけを切り取って表現をすればそういうことです。

 ですが、私はヒカリさんに模擬戦を仕掛けるなどという恐れ多いことをする時点で抹殺して良いと思います。

 挙句、ヒカリさんが何も出来なくなる様な制限のルールをどんどんと加えたと言うではありませんか。身勝手極まりないです」


「レイさん、ごめんね。ごめんね……」

「ヒカリさん、もう終わったことです。けれど、出来れば私も直接的にヒカリさんのお役に立ちたいです。何もできない自分が情けないです……」


「いや、十分に活躍してくれているよ。

 トレモロさんとの仲を取り持ってくれていて、情報連絡網を構築してくれているし。この後のロメリア王国とレミさんとの関係を調整する役目も担ってもらう。この先の北の大陸でおきるストレイア帝国の侵略に対する対抗措置では非常に重要な存在だよ。

 これまでの活動にも感謝しているし、これからも期待してるよ?」


「そうですか……。ヒカリさんに褒められると少し照れますね。娼館による裏情報の収集と、獣人族との調整役は私にお任せください!

 これからもトレモロと共に夫婦でヒカリさんにお仕えしますわ」


「あ、うん。仕えるとかそういうのは良いから。

 トレモロさんにも出発前の忙しい時期に試験の後始末を任せきりでご迷惑をおかけしました」


「いえいえ。ご迷惑なんてとんでもございません。

 先ほどのレイからの説明にも有りました様に、試験を通しての信頼関係の構築と、基礎身体能力の向上。そしてチーム員として果たすべき役割を認識させ、メンバーの個性に基づいたチーム編成をたった二日間で成し遂げた訳です。

 そこからは誰が指揮官になろうと大概のことでは文句を言いません。ドワーフ族の方達の指揮に従って、皆が自分たちの役割を果たすために自ら考えて行動しています。


 私共はここに居るよりも早くストレイア帝国に帰り、ヒカリ様の作戦が上手く進むように各種準備を進めたいと思います」


「トレモロさんにもいっぱいお願いしてますもんね……。王姉殿下の帝国内での誘導、迷宮収集品のオークション販売、獣人族の一人へ経済に関する教育の施し。ここでは運河の設計にも協力してもらったし、今回の試験でも助けて貰ってるし……。

 何かお二人にお土産でも持って帰って貰えたら良かったんだけどね……。

 準備が間に合いませんでした。」


「ヒカリ様、そのですね……。

 事後報告で申し訳ないのですが……。今報告させて頂いても宜しいでしょうか?」


「うん?私は良いよ」

「ステラ様からレイ宛に鞄を頂きました。例の機能を有する鞄になります。アリア様から口の部分を密閉できる構造の蓋が付いたガラス容器を幾つか頂きました。シオンくんとステラ様が作成したチョコレートとコーヒーを分けて頂き、それらを収納してお土産とさせて頂きます」


「へぇ~。良く間にあったねぇ……」

「私には全然分かりませんが、皆様『結構本気で頑張った』とのことです」


「いや、ええと……。後で皆にお礼を言っておきます。

 チョコレートとコーヒーだけではこの旅のお礼と、この先のお願いには足りないけども……。次回までの宿題ということで大目に見て貰えますか?」


「ヒカリ様、これも報告出来ておりませんでしたが、ニーニャ様より、『ステラの印が付いた水の出る樽を差し上げます』とのことで、4つほど頂きました。

 ヒカリ様がオーナーとなっている船には艤装として水の出る樽が備わっているのですが、今回は単体の樽として頂きました。この凄さがお判りになるでしょうか?」


「あ~。あれは便利だね。旧型の船にも載せられるし、魔石も不要だし、盗難防止の印もつけてくれているはず。

 魔石は消耗するし、妖精召喚して水をだすには、妖精召喚の魔法を唱えられる必要があるもんね。船旅に専属の召喚士を雇い続けるのも勿体ないしね。

 ドワーフ族を助けに行くときに作って貰ったものだし、今後は観光迷宮にも設置できると良いかなって思っているよ」


「ヒカリ様は船乗りにとって女神の様な存在です。大変感謝しております。皆に代わってお礼をさせて頂ければと思います」


「いやいや、待ってよ。作ってくれたのはステラとニーニャでしょ?感謝するのはあの二人だよ」

「ヒカリ様が倒れられたとの報告と共に、各自が役割を果たすことが重要となり作戦会議を開いたのですが……。

 『トレモロさんがお母さんに会えずに帰られると、「お土産を渡し損ねた」って、後からお母さんが悲しむね』と、食材を取りに拠点に戻られたシオン様が申しまして……。

 そこから先ほど述べた様なお土産物が集まった次第でありまして……」


「シオンか……。あの子は気遣いの達人なんだよね……」

「私はお礼を申し上げる立場なのですが、他の皆様はそのシオン様の発言に同意され、この2日間で用意頂けた次第でございます」


「そういうのって、国王とか上に立つ立場の人が持つ全体観として重要になると思いますけど、トレモロさんから見て如何ですか?」

「国王に必要な物の1つとして、有った方が良い才能の1つと考えられます。ただ、ご本人にその気が無いのが問題かもしれませんね」


「まだ生まれてきたばかりだけど、あの子そういうの無いですね。欲も無いし、自分が人に施していることの影響力とかも分かってない。私が見ていない所で攫われないか凄く心配」


「いえいえ。シオン様であればお優しいので周りに気を遣って無茶をされません。

 我々夫婦はヒカリ様が攫われたり、何処かで負傷して帰って来れなくなる方が可能性が高いと思っていますよ。ヒカリ様には護衛がいくら付いていても無駄ですから」


「あ……れ……?」

「何か忘れ物でもございますか?」


「私、そんなに無事に帰って来れて無いかな?」

「私もレイも今回挨拶できずに帰国することになりそうでした。

 そもそも今回サンマール王国を訪問することになったのも、迷宮が魔物が溢れたとの第一報を受けてですし、着いたら着いたで王姉殿下に喧嘩を売った外国の商人が騎士団に制圧されたとか。冒険者ギルドに護衛依頼を掛けようとしたら、揉め事を起こした貴婦人がA級冒険者資格を二人同時に獲得しており、それがヒカリ様ご本人であったりと。

 何かおかしなことを申し上げましたでしょうか?」


「あ、十分十分。トレモロさん達は10日間ぐらいしか滞在していないはずなのに、凄い情報収集能力ですね。

 お二人には出発前夜のお忙しいところ、挨拶の時間を取って貰ってありがとうございます。長話をしてしまい、すみませんでした」


「ヒカリ様の行動履歴が私の情報網を軽く上回るのです。これでも帝国の情報通として名が通っているのですけどね。

 きっと、私が知る範囲外の行動をきっとしているのですよね。

 ユグドラシルの登頂に成功し聖女の加護を頂いていたり、南の大陸の飛竜を制圧したり、海神様と面談したりとね」


「え?」

「何かおかしなことを申し上げましたか?」


「いや、トレモロさんの想像力に脱帽……」


「ヒカリ様でしたら私の想像を上回ることを成し遂げくれますので、吟遊詩人のサーガで南の大陸に関係がありそうなことを並べてみただけです。吟遊詩人の想像力は素晴らしいですね」


「あ……。そういう……。

 レイさんとかエイサンとかからコッソり話を聞いている訳では無いのですよね?」


「ヒカリさん、もう十分お見送りの挨拶を頂きました。

 吟遊詩人のサーガについては私とトレモロで温めておきますわ」


 うん。

 キリが無いから。

 というか、かなり想像が核心を突いているから。

 よし、これ以上心配のネタを作らないうちに帰って貰おう。そうしよう。

いつもお読みいただきありがとうございます。

お盆休み中につき、不定期です。

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