7-24.試験2日目(6)
試験2日目の昼食後の休憩中。
ズィーベンさんチームと私達母娘の対抗戦をするよ。
試験2日目の昼食後の休憩中。
ズィーベンさんチームと私達母娘の対抗戦をするよ。 中央には一辺が20mのそこそこ踏み固められた土の模擬戦エリア。特に柵とかは無い。その周囲は5mの距離を置いて約100人の観客が見守る。模擬戦エリアの脇に3mぐらいの高さの櫓を立てて、そこに審判3人が座る。その真ん中にユッカちゃんが立って、開始の合図をだすことになった。
模擬戦のメンバーは6:2で中央の線を挟んで5mぐらいの距離に対峙してユッカちゃんの合図を待つ。基本的に魔法は禁止だから事前詠唱とかは無しだね。
「では、皆さん。1回戦目を開始します。はじめ!」
相手は前衛の2人が木刀を正面に構えて2歩前進。他の四人は脇にだらしなく木刀を掴んだ状態で戦闘態勢に入らない。舐められているね。まぁ、貴族の婦女子相手に6人で総攻撃したら観客がいることもあって、見栄えも体裁も悪いしね。
こちらは対峙する姿勢を見せて、大人と幼児が二人で横に並んで正面に木刀を構えている。傍目にはリサはお母さんの後ろに隠すべきだろうけれど、そういうのはリサにも失礼だし、1回戦の作戦上は負けることが目的だからどうでも良い。
相手の2人が2歩前進したのに対して、こちらは半身下げて、左右のどちら側からでも受けられる姿勢をとる。
二人が同時に私をめがけて打ち込んでくる。
リサは無視する作戦だね。戦力を集中するのは良いと思うよ。ただ、第二回戦で同じことが出来るとは思わない方が良いよ……。
リサは2:1の私の戦いに巻き込まれないように少し私の後方に回り込むように下がる。私が力負けして押されていくのをなにも手も出せずにアタフタして見ている様子を見せている。
私は木刀でガッシガッシと打ち込まれるのを必死な形相で受け続ける。受け続けているんだけど力負けしながらも耐えて、力を逃がそうと後ろに後退しつつ、リサをチラチラ見ながら庇う様に行動していることで、リサと私の連携が上手くできていない素振りを見せる。
本当は上級迷宮の最奥でボス部屋とその周辺で1週間も訓練を積んでいるのだから、相手と味方の位置関係を考えて自分の立ち位置を決められない訳が無い。そもそもリサは私の後ろに下がらずに、油断している四人の足を木刀で薙ぎ払えば一瞬で戦闘不能に出来ちゃうわけでさ。
まぁ、演出としての作戦だよ。
リアル時間で5分も経たずに角まで追い込まれていく。途中でリサはアタフタして自ら場外負け。場外に踏み出してしまった自分に気づいた様で、ガックリと膝を落として、「負けました」と宣言する。
私もそのリサを追うようにして場外負けになったので負けを宣言する。
「第一回戦、ズィーベンさんチームの勝利です。続いて第二回戦の勝ち抜き戦を始めます。一人目の人は双方開始線の位置に立ってください。他の人は場外にでてください」
ユッカちゃんが可愛い声を場内に響かせて、一回戦の終了と直ぐに二回戦が始まることを告げる。私たちは汗もかかない程度にしか疲れていないので、直ぐに開始出来る訳だけど、彼らもそのまま行けるのかな?
まぁ、ユッカちゃんが審判を務めているから文句を言っちゃいけないね。
私達母娘の代表はリサ、相手はいきなりズィーベンさんが出てきた。
ええっと……。チームの統率力はあるけど、武力は6人の中でも低い方ってことかな?それとも大将戦を待たずして勝負を短時間で決めてしまおうという、騎士道からの情から出た行動?
どっちにしろ、大将戦で勝負をつけることになるのだけども……。
「お母様、本気で6人抜きして良いですね?」
「うん。出来ればだけれど、双方が深手を負うような傷が無いと助かるよ。
でも、リサの身が一番、次に勝負、最後は相手の負傷と思ってくれて良いよ」
「相手の木刀を切り刻んだら、戦意喪失してくれるでしょうか?」
「木刀を跳ね上げるぐらいなら、リサを捕まえに来て、場外へ投げ出そうとするかもね。でも、お父さんと対戦したときみたいに、スパッと切っちゃったら戦意喪失するだろうし、そこから受け身を取れるようなゆるッとした投げ方なら場外負けを認めてくれるだろうね」
「お母様、上級迷宮の魔獣の方が簡単ですね。壊すことを優先に行動すれば良いので」
「リサ、まぁ……。そういうもんだよ……」
「お母様の意に沿う結果を出せるように最大限努力します」
「リサ、ありがとうね。気を付けて」
リサは木刀を右手で引きずりつつ、後ろ手に左手で私にヒラヒラと手を振りながら開始線に向かう。既に開始線で立っているズィーベンさんは本気の構えで立っているね。
リサと私が連携が取れていないだけで、リサには実力があると見えているのかな?
確かに、私は光学迷彩使って狩りをしているから、獲物を捌いたり調理しているところは見せているけれど、狩りをしているところは見せていない。昨日も今日も集団で駆けているときも列の最後尾から追いかけているから私が本当に走っているのか、他の人の支援でズルをしているのかも判断できない。そんな口先だけの試験官には従いたく無いのは判らなくもない。
普通に考えたら、身分隠しているだけじゃなくて、本当に実力も備わっていない貴族の婦女子が遊んでいるだけと思われても仕方ないな~。
「では、第二回戦の第一試合を開始します。はじめ!」
いきなりリサが跳んで、5m距離を詰めるとズィーベンさんが正面で構えている木刀を手首のちょい上付近から両断した。そこからズィーベンさんの右側面に回り込んで足首を抱えると、強引にズィーベンさんの重心を外側にずらす。グラッと傾いたズィーベンさんが姿勢を立て直す反射的な行動を利用して、そのまま足首を抱えたまま、引っ張った側と逆側へ跳躍してからの飛行術。
確かルール上は審判が10カウント終えなければ、浮遊していても良いのだから10秒以内に場外へ運び出せればリサの勝ちだね。
リサは重力遮断を併用しているから重さも感じさせずにほんの数秒で場外まではこびだす。そこから手を離して下に押すと、地面に落下する直前で重力遮断を解除。
リサ、100点満点だよ!こういった点数を付ける意味があるか判らないけどね!
「第二回戦、第一試合、リサちゃんの勝ち!
ズィーベンチームは第二試合の準備をおねがいします」
ユッカちゃんの審判としての声掛けがあるも、場内は静まり返っている。その中、ズィーベンさんを場外に放置したまま、リサは第二試合に備えて開始線まで戻って構える。
ズィーベンチームの思惑では独りで二回戦も簡単に勝利して、第二試合をする作戦を持っていなかったんだろうね。びっくりしていることもあるけれど、二人目の順番が決まっていないのは準備不足が否めない。
「第二回戦、ズィーベンさんチームの二人目は居ませんか?いなければリサちゃんの不戦勝とします。30秒以内に決めてください」
ユッカちゃんの2回目の呼び出しを聞くと、無傷で体力が満タンのズィーベンさんは自分達チームの所へ走って戻り作戦会議をした。ユッカちゃんのカウントダウンが残り5カウントぐらいの所で一人が出てきて開始線の位置に立ったよ。ただ、すこし体が震えていて、リサを見る目がおびえている。
「第二回戦、第二試合はじめ!」
ユッカちゃんの声が掛かるも、双方動き出さない。リサは平常心を保ったまま相手の出方を見る。けれど、第一試合で勝ったからといって気を緩める様子は無い。
一方、ズィーベンさんチームの二人目は試合開始の合図があったものの、まだ体の震えが止まらず、開始線に立ったまま動き出すことができない。
そのまま1~2分経過してからリサから念話で声が掛かった。
<<お母様、話になりません。この二回戦の試合形式を決めたのはズィーベンさんですが、試合になりません。先ほどと同じことをあと5回繰り返す必要があるのでしょうか?>>
<<リサ、了解。ちょっと直接ズィーベンさんの所に行って話をしてくるよ。リサはそのまま少しだけ待っててね>>
<<承知しました>>
私は模擬戦の会場をぐるっと周って、反対側のズィーベンさんの所まで行って直接話をすることにした。
「ズィーベンさん、第二回戦の残り5人を同じように片付けるべきかリサが迷っています。このままリサの不戦勝の勝利を宣言していただき、第二回戦を私たち母娘チームの勝利として頂くことは可能でしょうか?」
「ヒカリ様、リサ様は何者でしょうか?」
「そんな話は後だよ。リサが待ってる。試合を続ける必要があるか負けを認めるかを決めて欲しいの」
「正直、今のルールではリサ様に勝てる者は居ません。2回戦の負けを認めます。3回戦もリサ様が大将戦として出られるのであれば、3回戦の負けも認めます」
「3回戦は私が出るよ。ルールも変えて良いよ。
けれど、リサが立ちっぱなしだから2回戦の負けを認めてユッカちゃんに宣言してきてくれるかな?その後で3回戦の話をしよう」
「承知しました。少々お待ちください」
ズィーベンさんが模擬戦の会場の角を斜めにショートカットして審判席の櫓が立つユッカちゃんの所まで行くと2回戦の負けを宣言し、ユッカちゃんからリサの勝利が確定するとともに、私たちのチームの2回戦の勝利が確定した。
ユッカちゃんへ宣言をすると、ズィーベンさんが私の所へ戻ってきて会話を続けた。
「ヒカリ様、第三回戦はヒカリ様が出ることで本当に宜しいのでしょうか?」
「未だ一勝一敗で勝負はついてないよね」
「ですが、第二回戦の第一試合を見れば第三回戦をするまでも無く勝敗は決まっています」
「ズィーベンさん達はリサにも私にも勝てると思っている訳でしょ。まだ私の番が残っているよ」
「つまり、第一回戦を負けたのはわざとですか?」
「そうしないと、リサと私の両方に負けたことにならないよね」
「つまり、第三回戦でリサ様抜きで勝てる自信があると」
「ルール次第だけど、大将戦の一騎打ちなら勝てるんじゃないかな?」
「では、木刀の切断なし、飛行術なし、場外なしのルールでも大丈夫でしょうか?」
「傷つけないで勝つ方法が無いのは困る」
「防具無しの木刀での打ち合いです。良くて骨折のケガは負います。怖いですか?」
「う~ん……。まぁいいや。
木刀が折れても仕切り直しにしよう。ケガは自己責任にし、模擬戦中のケガに対しては身分に関係なく不問とすることにしましょ。
後は1本が決まったら確定として、寸止めルールは有にする?」
「寸止めとは?」
「剣技や力で耐えきれずに、一本入れる前の状態でケガをさせずに体に当たる直前で止めることだね」
「木刀での模擬戦の場合は、受け身を取ってそこから反撃する場合が作戦としてあります。この場合は寸止めルールに対して反撃した方が卑怯者扱いになりますか?」
「あ~、鎧を着ている前提で体で相手の攻撃を受ける戦法もあるってことね……。そこまで言われるとねぇ……。
なんか、ケガをしないで勝負がつく方法が欲しいなぁ……。
あっ。例えば、背中を地面に着けたら負けとかは?」
「相手の攻撃を逃がすために地面に転がることで、相手の力を削ぎ、そこから相手を自分の頭上経由で後方に投げ飛ばす技もあります」
「あ~、柔道の巴投げのことね。確かに柔道とかだと背中を付けても負けにならないけども……。でもそれって、既に木刀での立ち合いの範囲外になってませんか?」
「武器を失ったとしても戦闘が続くことはあります。戦場とはそういうものです」
「分かった。もういいや。
一本取るか、参ったと言わせるか、審判が止めに入るかの3種類で、それ以外は仕切り直しね。良いかな?」
「ヒカリ様がそれで宜しければ、それでおねがいします」
「じゃぁ、審判とリサに説明してから第三回戦を始めよう。準備おねがいしますね」
ユッカちゃんはルールが変わったことを承知してくれて、次にリサに事情を話して第三回戦のルールが変わったことを説明した。
ところがリサは少し納得がいかない。
「お母様、それですとお母様が攻撃を出すか、お母様がずズィーベンさんの攻撃を受け止める必要がでてきます。お母様らしくありません」
「まぁ、仕方ないんじゃないかな。
人は自分の生きてきた範囲とその経験の範囲でしか考えられないことが多いから。だから、勝ち負けではなくて、自分が上手くいく自身のある範囲の提案をしてきているんだと思うよ。
私は私なりの方法で戦いながら決着のつけかたを考えるよ」
「承知しました。お母様にお任せします。ご武運を!」
「うん、ちょっと頑張って来るね。見守ってくれると助かるよ」
さぁ、第三回戦だ!
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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