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7-21.試験2日目(3)

 試験2日目。

 今のところ順調だね。

「ヒカリ様、休憩をご配慮頂きありがとうございます」

「うん。適度な休憩を入れた方が、後々体調の管理がし易いからね。

 無理して脱水症状を引き起こしたり、ハンガーノックになると復帰に時間が掛かるよ」

「疲れを癒すためでは無くですか?」

「う~ん、まぁ、エネルギーを循環させたり、老廃物をリンパ管に押し込む作用を待つためには休憩は良いかもね。あと、呼吸を落ち着けるためにも。

 ただ、それだけでは駄目でさ?

 エネルギーの元を体に取り入れる必要があるし、水はその循環やエネルギーの生成を助けるね。発汗を促せば熱中症の予防にもなるしね」


「良く分かりません」

「うん。朝の筋肉痛を癒す方法にも必要な知識でさ。ここをちゃんと押さえておけるかどうかで、身体強化の持続性とか効率も変わるよ」


「我々はこれ以上に強く成れるのですか?」

「強くなれるかはおいておいて、今より効率よく身体強化が使えることは良いことだと思うよ」


「ヒカリ様は犯罪奴隷に落とされた我々に何をさせたいのでしょうか……」

「あ~。戦争の道具とか考えて無いよ。ただ、国力を増強させるためにみんなの力を借りたいし、チームで自律的に行動できることが望ましいね」


「『チームで自律的に』ですか?」

「ん~~~~。

 なんだろう……。

 好き勝手とか、自由奔放とは違うんだよね。

 皆が達成したい共通の目的に向かって、各自が考えて動く。

 そんな感じ」


「皆の共通の目的ですか……」


「例えばだけど……。

 今は目先の試験官と受験者の立場で会話をしているし、今の目的は『試験を無事に終わらせること』ってなってるよね。

 そのために、試験官側の受験者側も必死に頑張ってる。そしてそのサポートをしてくれる人も一生懸命に活動している。

 これは良いよね。

 

 でね?

 『なんで試験をしているのか?それが今必要なのか?』

 って、疑問が湧いてくるのだけど、それは『遠い将来に向けての体制づくりの為』に必要なことがだから優先的に活動しているの。


 こういった遠い将来から逆算して目先の具体的な行動に落とし込むことをバックキャスト的な方策の決め方というよ」


「目先の成功が未来に繋がっているのですか?」

「割とそんな感じ」


「ヒカリ様の考える未来とはいつのことですか」

「私は居ないけど、長寿命の種族や私の子孫は生き残ってることを願うよ」


「ヒカリ様の死後の未来を考えるのですか?」

「そういうのを誰かが考えないとね。遠回りすることになるよ」


「わかりません……」

「ごめんね。分かって貰える人と進めるよ……」


「お母様、大丈夫です。私が伝えます」


 と、いつの間にか水の給仕から戻ったリサから声が掛かる。


「リサ、ありがとうね。でもリサ一人が無理して伝える必要は無いよ」

「お母様、お母様の目指すものは結果が見えないのです。伝わらないのは当然です。

 ですが、私は見えなくてもお母様を信じます」


「リサは……。うん……。自由に生きて良いよ。

 その自由がリサにとって幸せだったら尚良いかな」


「お母様、私は自由は怖いです。自分で考える責任がまだありません。

 お母様に習います」


「リサ……。私が教えられるものは教えるね。リサが自由を選択出来るように……」


 と、ここでラナちゃんから声が掛かる。


「ヒカリ、リサ、そろそろワニを獲りに行くわよ。良いかしら?」

「「ハイ!」」


 休憩中の会話から私の伝えたいことがズィーベンさんに伝わらないことが分かった。リサには何をすべきか伝わっていないけれど、気持ちは寄り添ってくれそう。


 この違いは何なんだろう……。

 まぁ、一つずつ目先の課題をクリアして、少しずつ進んでいることを実感してもらうしかないかな……。リサだって最初は私のことを魔族だなんだって言っていたぐらいだし。

 いずれ伝わるようになると信じたい……。


ーーー


 って、そんなことを頭でモヤモヤと考えながら最後尾を走っていると昨日の昼食をしたところまで到着。ここから班に分かれて昼食の獲物を狩りしてきて貰いつつ、ペアッドさんの兵站部隊が到着するのを待つ感じかな。


「ヒカリ、私が採点係の当番をするからヒカリはワニを獲ってくるのが役割分担として良いと思うの」

「そう……。じゃぁ、先に獲ってくる。ラナちゃんとユッカちゃんとリサは留守番しつつ、みんなの狩りが上手く行くように手伝ってあげてね」

「「「はい」」」


 さて、ワニ、ワニ、ワニっと……。

 ナビにワニを探してもらうのが早いいかな~。

 エーテルの大きさで捉えても、ワニだかカバだかを判別できるほど私の索敵能力は高くない。であれば、効率的に進めるためにも頼れるものには頼った方が良いよね。


<<ナビ、早速で悪いけど、ワニを索敵して貰えるかな?>>

<<ヒカリ、大きさと必要な頭数、索敵範囲を指示ください>>


<<う~ん。大きさ3m以上で、5頭ぐらい。範囲はここから2km以内で先ずは探して欲しい>>


<<3m以上と以下を各種混ぜ合わせて20頭ぐらいの集団がいます。そこを右目に投影すれば宜しいですか?>>

<<ああ。丁度良いね。案内をお願い。

 ついでに、そこの周辺のワニ以外の危険物質や危険生物が居たらそこの索敵もお願い。判る範囲での病原菌やウイルス、蚊による媒体とかも含めてくれるとありがたいよ>>


<<今のヒカリの装備と体力から分析して、目標のワニ以外に致命的な阻害要因はありません>>

<<ナビ、いつもありがとう>>


 よし、索敵不要なのは楽だね。ここから直線距離で500mぐらい飛んだところにいるから、サクッと狩りしてこよう。


 上空から接触して凍らせる。凍らせたら昨日のシャチの様に上空に浮かせておく。これを大型のワニを選んで5頭ぐらい凍らせる。

 凍らせ終わったらロープで連結してたこの様に引き連れてラナちゃん達が居る所まで戻る。

 なんだか、倉庫からお肉の塊を取ってくるの同じ感覚でワニが捕まえられるのは良いね。


 次は、調理っと。

 昨日みたいにワニ革を大きく採れるように皮を剥いで、解体を進めて肉の締まった部位を選んで取り分ける。あとは昨日と同じように魔石で動作するキャンプ用のコンロを取り出してタレを付けて焼くだけ。

 昨日より素早く完成っと!


「ラナちゃん、出来ました!」

「ヒカリ、これは昨日と同じワニの照り焼きね」


「はい!昨日と同じなので素早く調理出来ました」


「ヒカリ、何がそんなに誇らしいのかしら?」

「ラナちゃんをお待たせすることなく調理出来たかなと……」


「ヒカリ?」

「何か問題がありますか……?」


「リサ、これは昨日と同じで鉄板で無いわね?」

「ラナちゃん、これは昨日と同じ料理の1つです。鉄板ではありません」


「あ、焼いた鉄板のままだと火傷の危険がありましたので木製の食器に移しましたが……。鉄板の上で熱々の状態で食べる方が宜しかったですか?」


「ヒカリはどうして、こう……。何かに夢中になると他のことを簡単に忘れるのかしら? リサは朝の私とヒカリの会話を覚えているかしら?」


「確か、ガツンと鉄板で殴ってワニを食べる話をしていたかと思います」

「リサ、良いわ。その通りよ。

 『心にズ~ンと響くような料理』をヒカリと相談したはずなの。

 そして、ヒカリなりに何かを考えていたはずで、それが鉄板だったはずなの。

 これは昨日と同じだから鉄板では無いわ」


 あちゃ……。

 異世界で『鉄板の味付け』とか言い出したのは私だったよ!

 リサとかズィーベンさんと色々と話をしていたらすっかり忘れた!


 ええと……。

 ガーリックバターと醤油で良いんだよね?


「ラナちゃん、リサ、すみません。

 色々と考えていて新しい調味料を試すことを忘れていました。

 今すぐに新しく焼き直します」

「リサ、楽しみに待ちましょう」


 さっき解体したワニが良い感じに解凍されているから、そこから新しく肉を取り分ける。これを鳥の唐揚げサイズに切り分けてから塩コショウで下味を付ける。

 次に、掌に載るサイズの金属製のカップを見つけてきて浄化。ここにバターと醤油を1:4ぐらいの比率で盛り付けて加熱開始。並行してニンニクをスライスして軽く油で痛めてからバターと醤油が入った器に投入して加熱。ガリバタ醤油の強烈な香りが鼻と胃を突くね。

 下味を付けたワニ肉に隠し包丁を入れて鉄板でミディアムレアに焼き上げる。寄生虫とかは捌く段階で確認してあるから問題無し。

 よし!鉄板に大粒なワニ肉とガリバタ醤油の漬け皿が付いた料理の完成!


「ラナちゃん、リサ、ユッカちゃんお待たせしました!」

「ヒカリ、これはどう食べれば良いのかしら?」


「大ぶりなサイズのワニ肉になっていますので、一口サイズにナイフとフォークで切って頂いて、そのあとこちらのガリバタ醤油の器で少しタレをつけて召し上がってください。ただし、肉汁もタレも鉄板も非常に熱いので火傷に注意してください」


「ヒカリ、分かったわ。説明はもう良いから次に進んで頂戴。

 ユッカ、リサ食べるわよ」


 次にって……。

 いや、先ずは味がラナちゃんのお口に合うかが気になる訳で……。

 場合によっては作り直しも考えないと……。


「ヒカリ、どうしたのかしら?」

「あ、あ、ええと……。お味は如何でしょうか?」


「ワニの素朴さと淡白さに対して、バターの油脂分でその淡白さが補われているわ。

 味と香りは少し焦げたバターの香りと醤油に含まれるうま味成分が補い合ってる。そこにニンニクの香りと熱々の食感を補う。

 食べる前から想像できなかったのかしら?」


「あ、いや……。

 料理のバランスは素材と調味料の相性がありまして……。昨日だしたハンバーグの様に柔らかくて脂分が元々あるような料理にはガリバタ醤油よりも、大根おろしと大葉のようなスッキリとした味わいが好まれる場合もありますし……。

 今回はラナちゃんの気に入られたワニに合う料理に仕上げたつもりですが、今度は個人の味覚や経験によって感じ方が変わりまして……」


「ヒカリ、美味しいわ。次の準備をしなさい。これで良いかしら?」

「まだ召し上がりますか?大皿に山盛りなっているので、試験官4人で食べても残ると思いますが……」


「違うわよ。受験者の皆の分よ。後から来るコウやペアッドの分もよ」

「ラナちゃん、申し訳ございません。

 ワニは調達できますが、調味料とするバターと醤油が100人分はありません……」


「ヒカリ、どうするのかしら?」

「何をでしょうか?」


「試験官が美味しい物を食べる。一緒に走ってきた人たちも美味しい物を食べるべきだと思うの」

「考えていませんでした」


「受験者の皆が食べられる何か無いのかしら?」

「今からですと流石に難しいですね。ペアッドさんの部隊が何らかの調味料を持ってきていれば別ですが……。

 今日の受験者達の獲物に合わせて調理するのが良いかと思います」


「ヒカリ、分かったわ。試験官と並行して100人が手早く美味しく食べられる料理も考えた方が良いと思うわ」

「は、はい!」


 いや……。

 私が100人を召し抱える訳では無いと思うよ?

 ユッカちゃんとリチャードの奴隷な訳だし。

 兵站部隊にペアッドさんを組み入れるとすれば、そういった人の意見も重要だし……。

 ただ、まぁ……。

 貴族のための食料調達だけでなく、普及しやすい素材と価格帯の料理も考えないといけないかもねぇ……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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