7-15.試験1日目(11)
今の所、1日目の試験は順調に進んでいる。
シャチの対応をしてきたエイサンと冷凍倉庫をつくったニーニャ、引っ越しの住居の整理が進んだカサマドさん、そしてトレモロさんという異種族てんこ盛りな状況。
ひとまとめにして挨拶をしてみたんだけどね?。
「トレモロさん、そのような手筈で進めるのでしたら、ちょっと料理の面倒みてきます。
あと、受験者用の夕食も大丈夫か確認してきますので少し席を外しますね。皆様が集まるまで少々お待ちください」
ペアッドさんのチームの所へ凍ってるマンボウを持ち込んで、少しずつ解凍を始める。カチコチに凍っていると骨とか鱗とかの硬さで身の部分の判別が出来ないから、ちゃんと処理できたか良く分からなくなっちゃうからね。あと寄生虫の有無を確認するためにも身をしっかり確認できた方が良いしね。
あとは……。
ガラスの大皿だと見栄えが良いのだけど、流石に今回アリアが持ってきてくれた物の中にはそんな立派な大皿は無い。まな板で良いかな?
味付けは塩か魚醤。薬味のワサビは無いから何にしようかな?白身魚だからべつに気にしなくてもいっかな。
それよりお酒なんだけど……。
本当なら白ワインとかスッキリしたお酒を用意した方がいいんだけど……。
日本酒も無いしねぇ……。
まぁ、この地場で醸造されているお酒が甘く無ければそれでもいっかな?
白いご飯は炊いてあるし、木桶をお櫃代わりにして水分飛ばしてあるから盛り付けるだけだね。
スープは……。日本人なら味噌汁と言いたいところだけど、直ぐに用意出来るのはアラ汁になるかな。ヒレとか骨とかを出汁として煮だして、根菜類を添えれば十分だよね。
試験官用の夕飯の指示をペアッドさんに任せたので、次はシャチの解体チームの様子を見に行く。
こっちはシャチの大きさとカチコチになっている状態を融かせないとのことで、全く手つかずの状態だった。
確かに解凍しないと何から手を付けて良いか判らないよね……。冷蔵温度に近い所まで解凍して、あとは「大きな魚だと思って捌いて」と、丸投げな指示を出しておいた。焼いたり煮たりすれば食料になると思うんだよ。調理出来なかった部分はどうせ冷凍倉庫に入れてしまう訳だし、細かいことは気にしないでおこう。
と、そんな指示をだしていると、冷凍倉庫を作るためにニーニャが到着。他種族との挨拶の用件もあることも伝わっていたみたいで、カサマドさんも一緒に連れてきてくれた。この二人にも皆と顔合わせしての場に同席してもらっておこう。
ーーー
「皆様、縁あってお集まりいただいております。今日は私こと、人族のヒカリ・ハミルトンが皆様を仲介させて頂きます。先ずは皆様の自己紹介からお願いします」
と、簡易小屋で簡易テーブルの席についた皆へ私から挨拶を促す。
「私は人族のトレモロ・メディチと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「私は海人族のエイサンと呼んで頂ければと。よろしくお願いいたします」
「私は魔族のカサマド・ディアブロと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「私はドワーフ族のニーニャ・ロマノフと申します。どうぞよろしくお願いいたします」「私はラナよ。この子はユッカとリサ。よろしくね」
まぁね?
試験の最中で試験してるのだから、私とユッカちゃん、ラナちゃん、リサが同席しているのは仕方ない。仕方ないというか後々面倒になるよりは末席で大人しくご飯を食べていてくれれば、余計なお願いごとが生じなくて良いしね。
「ヒカリ様、ここに獣人族とエルフ族が加われば大きな種族の分類では全員と面識を持てるまたとない機会でございます。この場を設けて頂けたことに感謝します」
と、魔族のカサマドさんから謝辞が述べられた。
で、他のメンバーもうんうんと頷いている。ニーニャも最初はちゃんと挨拶するし、皆の会話も聞いているんだよね。多分、そのうち飽きて寝るかどっか行っちゃうんだろうけどさ。
「ヒカリ、私は顔合わせが終わったので後はヒカリに任せるんだぞ。冷凍倉庫、300人分の靴の手配、運河の設計の打ち合わせなどやることが多いんだぞ」
と、私が謝辞への挨拶を返す間もなくニーニャは離脱を宣言する。それも私にだけ語り掛けるラフな会話スタイルで……。
「に、ニーニャ、食事だけでも食べてからにしたら?」
「ヒカリ、分かったんだぞ。もう少し付き合うんだぞ」
「今日は白いご飯とお魚がメイン。あとは魚のスープとこの地方で作っているお酒もお願いしておいたよ。ほとんど完成しているから、直ぐに運ばれてくると思うよ」
「ヒカリが出す料理なら何でも良いんだぞ」
「ヒカリ様、今晩の夕食ではシャチを召し上がるのですか?」
「エイサン、シャチは食べないよ。受験者にあげる。
私たちの今晩の食事はマンボウっていう魚。
刺身にして、塩か魚醤でたべて貰うつもり。大豆由来の醤油の方が好きだけど異国の地では贅沢いってられないしね。
あと、魚の肝とかも結構おいしく食べられるんだよ。生で食べるから寄生虫はちゃんと避けて置く必要があるけどね」
「しょ、承知しました。私どもで手伝えることがございましたら、何なりとお申し付けください」
「うん。特にないよ。トレモロさんとかと交流して仲良くなっておいて。何かのときに助けてくれるかも」
<<エイサン、ニーニャと子供たちを除いて念話は使えないから注意してね>>
<<そちらも承知しました>>
と、大きなまな板に刺身にされたマンボウが運ばれてきた。別に活造りとかそういうのじゃないから、見た目には大きな木の板の上に白く透けた魚の残骸みたいのが並んでるだけっていうね……。
まぁ、ドンマイ。
「ヒカリ様、魚を生で召し上がるのですか?」
と、カサマドさん。
少しオドオドしているから、魚を生で食べる習慣が無いのかな?
「トレモロさん、大丈夫だよ。
刺身包丁とか無いから薄造りには出来てないけど、それでも新鮮だから塩とか魚醤で美味しくたべられるはず。肝の部分も同じように食べられるからね」
しゃぁない。
私が先に食べて安心させるしかないね。
小皿に魚醤を垂らして、私専用のお箸でまな板の刺身を一切れ取ってそこにちょっと付ける。それを一旦白いご飯の上で余計な魚醤を拭いてから口に入れる。本当はお行儀が悪いとかあるけれど、この魚の表面の脂を拭った塩味がご飯とよく合うからそこは勘弁しておいて欲しい。
口に入れると、最初は魚醤特有の塩味。そして次に白身魚の表面が脂を纏ってツルツルとした舌触り。次に一口噛むと特有の少しザラッとした食感とほんのりと磯の香が鼻に抜ける。お刺身はこの調和が良いよね。
う~ん、デリシャス!
コーヒーとは違った日本の洗練された食文化に目を瞑って浸っているとラナちゃんから声が掛かった。
「ヒカリ、それは美味しいのかしら。手で食べても大丈夫かしら?」
「あ、ラナちゃん。お箸かナイフとフォークの組み合わせで食べると良いかも。
手づかみはちょっとはしたない感じがするね。
皆様、見ての通り普通の人族が食べても問題有りません。ご自由取り分けてご賞味ください」
ユッカちゃんはアジャニアに行ったときにお箸の使い方を教えてあるけど、ラナちゃんとリサには教えたことは無いから私が取り分けてあげる。そして夫々がフォークで刺してお刺身を食べていた。
うん、まぁ、夕飯としては成功かな?
だけどね?
なんかさ、雰囲気が変なの。
種族間の顔合わせをしてもらって、紹介も終わって美味しい夕飯を食べているんだから何も問題ないはず!
マナー違反は多少はあるかもしれないけど、ざっくばらんに種族も身分も無しで楽しんで貰っているんだから細かいことは良いと思うんだけどね……。
「ヒカリ様、醤油は……」
と、私に何かを言いたげで、途中で言い淀むトレモロさん。
「ヒカリ様、この調味料は……」
と、エイサンからも声が掛かる。
「ヒカリ様、ヒカリ様の普通の食事は……」
と、カサマドさん。
いやいや、何?
『お刺身を醤油で食べる』まぁ、魚醤だからちょっと違うけど、それの何が悪い訳?
「え?不味いの?文句あるならペアッドさんにシャチ出してもらうよ。
でも、ラナちゃんもリサも満足して食べているみたいだから、それって子供以上の我儘だって自覚してますよね?」
「ヒカリ様、ち、ち、違います。初めての体験で表現する言葉が無く……」
と、カサマドさんが慌てて返事をする。
「不満を失礼の無い言葉に変換することが出来ないぐらい困ったということ?」
「ヒカリ様、ヒカリ様、どうか落ち着いてください」
と、トレモロさんが割って入る。
「トレモロさん、無理しないで良いよ。
トレモロさんなら生魚とか、そういう魚料理にもの慣れていると思ったんだけどね。無理しないで。ペアッドさんにシャチに替えて貰う様に言っておくよ。
ユッカちゃん、ラナちゃん、リサは好きなだけ食べて。
なんか面倒だから私はニーニャが作ってくれてる冷凍倉庫用の氷を作ったら寝るね。
皆さんは、ごゆっくりどうぞ~」
文化の違い、食習慣の違いを強制しても仕方ないし。
そもそも、顔合わせの交流のための場を設けただけなので、食事は脇役。
変な物を出していなければ、まぁ、いんじゃないかな?
今日はなんだかんだで朝から動きっぱなしで疲れたし。
明日も早朝から試験があるから早めに寝よう!
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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