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7-15.試験1日目(10)

 シャチを一頭冷凍させて、拠点に帰還するよ

 凍結させたシャチに光学迷彩と重力遮断を掛けて受験者たちを集合させていた拠点に戻った。そこにはトレモロさん、ペアッドさん率いる料理人チーム、あとはコウさん達の馬車が到着していたよ。

 馬車が戻ってきているってことは、シャチ狩りに相当時間を掛けちゃったかな……。それにしては受験生達がまだ戻ってきてないね……。

 

 とりあえず、荷物を下ろして服を身に着けてから光学迷彩を解除するよ。


「トレモロさん、コウさんただいま。

 コウさんの馬車が到着したってことは随分と待たせちゃったかな?」


「ヒカリ様、ユッカ様お帰りなさい。

 コウの馬車はライト様のご加護により、速く移動することが出来たとのことです」


 と、トレモロさんが挨拶を状況説明を返してくれた。

 うん……。

 ラナちゃんではなくて、ライト様?

 なんで光の妖精の長の名前をだしてるかな……。


「コウさん、ラナちゃんはまだ馬車にいるのかな?

 それと、ライト様の加護って何?」


「ヒカリ様、その巨大なシャチは……。

 あ、ええと……私の質問の前にラナちゃんですね。

 ラナちゃんはおやつを探しに散歩に行かれました。

 ライト様の加護はラナちゃんからそのように説明を頂きました。

 『ライト様の加護があればこの馬車は光の様に速く走ることができるわ』

 と、説明がございましたので、速く帰れた理由をトレモロ様に報告しました」


「そう。じゃぁ、ラナちゃんがライト様の加護を導いてくれたのですね。ラナちゃんには改めて感謝しておいた方が良いし、そのことは不用意に広めない方が良いかもしれませんね」

「はい。承知しました。

 それで、ヒカリ様の後ろにある凍ったシャチですが……。

 凍ったシャチが漂流していたのですか?」


「いや、ユッカちゃんが捕まえて、二人で凍らせてきたよ。

 残りはエイサンに頼んで開放してきた」


「シャチが凍る?残り?エイサン?」

「え?」


「ヒカリ様やユッカ様が不思議なことができることは承知しております。

 ですが……。

 この海域のシャチは凶暴で有名です。集団で襲い掛かって来ます。1頭を捕らえることに成功してもシャチの集団に襲われます。この巨大なシャチを瞬間的に凍らせる魔法も存じあげませんのでこのような状態が起きていることが理解できず……」


「エイサンにも同じこと言われたよ。エイサンは南の大陸にある砂糖工場の経営者ね。ついでに海人族の族長ね。

 で、『シャチ1頭ぐらいなら持って帰っても良い』という妥協点を見出して、残りはエイサンに任せてきたよ」


「すみません。判らないことが分かりました。

 ヒカリ様との会話はトレモロ様にお任せすることにします」


 と、何かを諦めたコウさん。ここからトレモロさんにバトンタッチだ。


「ヒカリ様、詳しくは後ほど妻のレイに確認します。

 とりあえず、我々は受験者の監督役として何を進めましょうか。

 ちなみに、そこの料理人チームを残して85名はカイと共に船で漁に向かっており、暫く帰ってこないと思います」


「トレモロさん、シャチの話は面倒だから食事しながらで良いですよね。

 これからこの凍ったシャチを解体して夜ご飯の準備に使いたいかな。

 調理道具は私の鞄とコウさんの馬車に積んである物を使う。

 料理人はペアッドさんのチーム。

 追加で必要な食材とか調味料は市場に行って買い足して貰うのが良いかな。

 どうでしょう?」


「ヒカリ様、承知しました。支度を進めます。

 とろで……。

 カイのチームが漁に出てそれなりの魚を食材として確保してくると思いますが、そちらはどの様に処理しましょうか。試験のポイントだけ確認し、不要な物は破棄しても構いませんが……」


「トレモロさんの大型船の冷凍室が空いていればそこにいれるかな。

 ここからマリア様が借りている館まで運びに行くのは時間が掛かるから不便だよね」


「ヒカリ様から借用している船も沖合に停泊中ですので少々都合が悪いですね」

「だったら、ニーニャにここの拠点に穴を掘って冷凍倉庫を作って貰おう」


「承知しました。ニーニャ様にお伺いして依頼を掛けます。

 設置場所はここの拠点の拡張性と市場への利便性を兼ね備えた位置にします」


「トレモロさん、本当ならこういう仕事はモリスに依頼するところなのですが、今回は急遽必要になったため、トレモロさんのご助力に感謝します」

「こちらこそ、コウがヒカリ様から身体強化のスキルを学んだと喜んでおりました。ありがとうございます」


「ああ、うん。

 身体強化のスキルはあまり広めな方が良いよ。本人が攫われちゃうからね。

 他人に見つからない範囲でなら自由に使って良いと思う」


「承知しました。

 ところで……。

 先ほど、海人族のエイサン様という方の名前が出ておりましたが、どのような人物でしょうか?」


「あれ?トレモロさんに紹介していませんでしたっけ。

 メルマの街では昆布とか鰹節の工場を経営していて、サンマール王国の外れでは砂糖工場を作って経営してくれているよ。元々のサンマールの砂糖の製造量より安くて大量に仕入れることが出来るようになったでしょう?」


「ヒカリ様、コンブとカツオブシについては今度お伺いいたします。

 砂糖工場に関しましてはマリア様の紹介で取引をさせて頂いておりますが、量も質も良く助かっております。ヒカリ様がオーナーだったのですね……」


「オーナーとかそういうのじゃないよ。サトウキビの栽培とそこから搾り汁を作ったり、煮詰めて砂糖の塊にする工程を海人族に委託しているだけだよ。

 あんまりいじめないであげてね」


「妻のレイが娼館を経営していた前例もありますので、海人族が砂糖工場を経営していても何ら問題ございませんが、それにしてもヒカリ様の人脈は……。

 それでは今後の種族間のお付き合いのためにも、エイサン様という方を介して族長に正式ご挨拶をさせて頂いた方が宜しいですかね?」


「うん?エイサンが族長だよ。今、シャチの処理中。終わったら来てもらおうか?」

「ヒカリ様、シャチはヒカリ様の後ろで凍っております。他にもシャチを捕まえてその処理を委託しているのですか?」


「あ、いや……。シャチのことは忘れよう……。

 エイサンを呼んでおくから一緒に夕飯をたべましょう」


「そうしますと、どこかの商館なり旅館を手配して、そこで歓待の儀を催すように至急手配をかけます」

「いやいや。私達と一緒で良いよ。あと、クッキーとかあると喜ぶ。

 新作のコーヒーとかチョコがあれば喜ぶかもしれない」


「エイサン殿は貴族の子女でいらっしゃいますか?」

「いや、普通に男性で体格もしっかり、筋肉も張ってるよ」


「ヒカリ様、種族の族長であられる方ですよね。我々共で簡単に提供できる夕食会へ招待して失礼に当たりませんか?」


「わかんないけど、怒られたことは無いね。大概が喜んでくれてる風だよ。


 ちなみに、私は晩餐会っていうのは婚約の儀と結婚の儀でしか体験したことないよ。

 あとは、スイーツコンテストのときに、アルバートさんに連れて行ってもらったロメリアにある貴族向けの料理。なんかVIPルームに連れて行ってもらって美味しかったですけど、あれは晩餐会とは言わないし……」


「ヒカリ様、族長のエイサン様のことはヒカリ様にお任せすることにします。


 参考までですが、ヒカリ様の婚約の儀と結婚の儀は知る人ぞ知る伝説の食事会となっております。

 帝国から辺境の地にある王太子の婚約と結婚の儀であるため、招待された人は少ないですが、噂が噂を呼び当日のデザートメニューを再現すべく、ストレイア帝国では砂糖の欠品が暫く続くことになりました。

 その他の肉類、海鮮類は冷凍保存技術が発達しておりませんので、素材の時点で再現する技術が無いのですが、その辺りは巷の噂では『伝説のシェフが居るに違いない』と、素材に注目することは出来ていないようですね。


 最後にロメリアにある貴族向けの料亭のことですと、1人前金貨10枚ぐらい必要なはずですが、あちらのレベルがヒカリ様にとって『印象に残る食事』となる訳ですか……」


「リチャードとの結婚式の料理は私が全部選んで良いことになって、今サンマール王国に来ているゴードン料理長が指揮と作成をしました。大人数をもてなすための制約条件とか有りましたので、提供できるメニューで結構揉めた覚えがあります。


 トレモロさん夫妻には私たちの結婚の儀へご出席頂けず申し訳なかったですが……。

 トレモロさんとご一緒しているときの食事は見栄えに凝っておりませんが、味や保温容器を気にしなくて良いので、良い素材と良い料理方法でそれなりの状態のものを提供させて頂いてますね。

 ですので、味だけで言えば巷の噂よりは良い物を提供頂いていると自負があります」


「ヒカリ様、そのような意味ではエイサン様が形式にこだわられる方で無ければ、ヒカリ様の提供される食事の内容に全く問題ありません。ご相伴しょうばんに預かりますこと光栄です」


「じゃ~~、試験はカイさんに任せておいて、シャチとは別のご飯を作ろうか~。

 何が良いかな……」


「ヒカリ、ワニが良いわ。ワニ。ワニの照り焼き」


 うわ……。

 いつからラナちゃんが……。

 それでもって、ワニはお昼に食べたでしょうに……。


「ラナちゃん、ワニが気に入りましたか?食材は残っているので、ワニの照り焼きでも構いませんが……。

 私たちは受験者の分を作る必要があるので、ユッカちゃんと獲ってきたシャチにしようかと思いますが、それでも宜しいですか?」


「ヒカリ、シャチは美味しいのかしら?」

「シャチは判らないですが、ユッカちゃんが捕まえたマンボウという魚は美味しいと聞きます」


「魚?生臭くて、カサカサが食べ難くて、チクチクするあれかしら?」

「ラナちゃんは魚料理は召し上がっていませんでしたっけ?」


「ヒカリ、質問しているのは私よ?」

「あ、はい。小型の魚を生のままだったり、単に焼いただけの料理ですと、ラナちゃんが体験した様な感想になるのも仕方ありません。

 ですが、今回獲ってきたマンボウは大きいのでちゃんと調理すればそのような食感や臭いにはならないはずです」


「マンボウ……。ヒカリがそこまで言うなら食べてみても良いわ。

 シャチはヒカリが食べて美味しかったら、食べてみても良いわ」


「分かりました。マンボウはラナちゃんと試験官用に。

 シャチはペアッドさんチームに任せましょう。

 残ったらニーニャに冷凍庫を作って貰ってそこに格納しましょう」


 いやぁ……。

 私は何をやってるんだ?

 試験官として評価して、食事は野宿同然の簡易的なものしか作らないはずだったのに……。


 まぁ、いっか。

 料理人チームが作れたし、100人全員が漁に出かけられる程度には元気に戻って来れたし。これはこれで大きな収穫だと思うよ!



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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