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7-14.試験1日目(9)

 ユッカちゃんと逆方向に逃げてる2頭の確保に向かうよ!


 2頭のシャチを上空から追いかける。

 まだ潜水していないから空中から追跡できて楽だね。それでも時速50~60kmはあるから風の抵抗を受けながら飛行術を駆使していないと、単純な飛空術では追いかけることは困難かな?

 

 これって、こっちの気配に気が付いて潜られたら不味いかも……。

 シャチってどれぐらい潜っていられるんだろう?生物学上の分類が哺乳類だとすれば、無限に潜っていられないはず。でも、私やユッカちゃんみたいに身体強化ができていれば相当長い時間潜れる訳で、その場合は水中で追跡する方法を考えないとね……。


<<ナビ、シャチの潜水時間ってどれくらい?>>

<<地球の海洋生物調査の記録からは長いと10~15分、潜水して泳ぐ距離は大体200m程度ですが、潜水深度では1000m近くで確認された記録もありますので、一概には言えません。

 また、こちらの世界のシャチが身体強化を備えていて、海人族うみびとぞくと同じレベルで水中生活が行えることを想定しますと、先ほどの前提は不要な先入観を与えることをご承知おきください>>


<<ナビ、ありがとう。ちょっと海人族のエイサンにも相談してみる>>


 地球上の海洋生物のシャチと同様なレベルの生き物だったら今の私が追跡して捕縛することは出来そう。けれども、独自進化をしていたらナビの言う通り逃しちゃう可能性が高いね。

 ここはやっぱり、エイサンにも相談しておこう。


<<エイサン、ちょっと助けて>>

<<ヒカリ様、今そちらへ向かっております。シャチは危険ですのでどうか離脱してください>>


<<エイサン、襲われてて危ないのじゃなくて、シャチを取り逃がしたくない方向で助けて欲しいの>>

<<え、ええ?>>


<<30頭ぐらいの群れが来たんだけど、ボスみたいなの1頭と私が追いかけている2頭を捕まえるのを手伝って欲しいの>>

<<シャチ30頭が集まってくるのですよね。囲まれたら危険ですので至急離脱してください>>


<<集まってきたのは捕まえたの。逃げ出したのを捕まえたいの>>

<<全然意味がわかりませんが、ヒカリ様だから有りですね。

 分かりました。ヒカリ様と私でシャチを挟み撃ちにすれば良いのですね。シャチに接近できる位置になるように低空飛空術で向かいます>>


<<シャチって、身体強化使って潜ったりしないの?>>

<<ヒカリ様の存じ上げるシャチはその様なスキルがあるのですか?>>


<<いや、有ったら嫌だからエイサンに聞いてるんだけど?>>

<<クジラと同様にお考え下さい。また海神様のペットの可能性もございません>>


<<じゃぁ、エイサン大丈夫。私が追跡して何とかするよ。

 さっきから追いかけているんだけど、これって母子なのかな。

 大きい方が小さい方を凄く気にしながら速度落として泳いでるんだよね>>

<<ヒカリ様、お取り込み中に申し訳ございませんが、シャチの群れ30頭を捕まえて、残りがその母子だけということでしょうか?自然界の種を勝手に壊滅することは余り望ましくありませんが……>>


<<シャチって凶暴なんでしょ?どっか他の海域に住んでいるのが残っていればこの周辺のは全部捕まえても良いんじゃない?>>

<<人族の領域に無闇に近づかないように説得しますので、シャチの絶滅は控えて頂きますとありがたいのですが……>>


<<いや、だから、他の海域にもシャチは生息してるだろうから種が絶滅する訳じゃないでしょ。

 っていうか、シャチと話ができるの?>>

<<他の海域との巡回や交わりがありませんと、実質的にこの海域からシャチが途絶えることになり、それは種が絶えたと同様な状況となりますので、できましたら控えて頂ければと。

 それと、哺乳類系に分類できる水生動物でしたらコミュニケーションがとれます。音声による会話とは異なり、精密な意図を伝えることは適いませんが大体の意図は彼らも理解します。なお、魚類系とは上手くできません>>


<<エイサン、凄いね。そうしたらユッカちゃんが追いかけてる1頭も同じ家族だったりするかもよ。3頭で仲良く暮らせるなら一緒に逃がしてあげよう>>

<<承知しました。よろしくお願いします>>


 ユッカちゃんに念話で連絡したら、<<捕まえてそっちへ連れて行く~>>って、念話で返事が返ってきたから大丈夫でしょう。


 こっちはエイサンが私を感知できているみたいだからその辺は任せておいて、逃げるシャチ2頭を停止させて、エイサンに注意してもらう状況を作っておけば良いね。凍らせたら可哀想だから、接触して眠らせれば良いかな?ま、海面から見える位置だから大丈夫でしょう。


ーーー


「ヒカリ様、ユッカ様、お待たせしました。

 できれば、その3頭のシャチを水上へ下ろして頂けますか?」

「エイサン、この間の砂糖工場と飛竜さんの仲介ありがとうね。

 今日はこのシャチとの仲介お願いしますね」


 と、エイサンと私の挨拶。

 そしてユッカちゃんも会話に交じり始めた。


「お姉ちゃん、凍らせてる残りのシャチは食べて良いの?」

「まだそんなに時間が経っていないから死んではいないと思うけど、多少は夕飯の材料に貰って帰っても良いんじゃないかな?何頭ぐらい貰って良いかはエイサンと相談だよ」

「分かった~」


「ヒカリ様、ユッカ様、

 と、とりあえず、シャチを海の上に下ろして頂けますかね。

 この先、彼らと会話をするためにも彼らが恐慌状態で上手く話ができません」


「次逃げたら凍らせるよ?」

「うん。エイサンが言ってだめなら凍らそう!」と、私に追従するユッカちゃん。

「しょ、少々お待ちください。彼らに話をして逃げないように問いかけてから下ろして頂きますので」


 エイサンは空中に浮かんで跳ね回っているボスみたいなのと、私が眠らせた2頭に近づいて接触した上で会話を始めた。

 すると、ボスの方はエイサンが話しかけ始めたら少し暴れるのが収まってきて、脱力し始めた。下手に空中で脱力すると、自重じじゅうに対する浮力が働かないから背骨とか折れないように筋肉を引き締めておいて欲しいよね。

 まぁ、重力遮断しているから、そういうのは大丈夫だろうけれど……。


「ヒカリ様、『覚えていろ!子孫が人間に復讐するだろう』と、会話になりませんが……」

「それを説得するのがエイサンの使命でしょ。私たちはこの3頭をそのまま夕飯にすれば良いだけだし」


「しょ、少々お待ちください」


 なんかこのくだりは飛竜さんのときにもあったよね。

 エイサンが仲介してくれてもそれぞれの種族の違いで話が噛み合わないやつ。

 私はクジラでもイルカでもシャチでも食べられるなら食べちゃえば良いと思うんだよね。まぁ、確かに絶滅させるほど乱獲しては不味いと思うけど……。普通に牛だって馬だって鳥だってみんな食べてる訳なんだしさ……。


「ヒカリ様、少々経緯を伺っても宜しいでしょうか」

「なにを?」


「ヒカリ様が1頭のシャチを捕まえたという理解で宜しいですか?」

「私というかユッカちゃんかな」


「それで、騒ぐのを無視して、凍らせていったのですね?」

「うん」


「仲間を取られて怒っています」

「私たちの夕飯だから文句言わないで。負けたのはそっち」


「シャチはこれまで海中で負けた経験が少なく、餌になる前提がありません。

 その時点て『人に負けた。人に食べられる』ことが許せないようです」

「うん、でも負けたから。食べて良い?

 エイサンが説得できないならここの3頭も凍らせて食べるよ」


「も、もう少々お待ちください……」


 これはまた『勝負しろ!』とか言われるパターンか!

 ユッカちゃんならともかく、私は水中戦でシャチに勝つ想像が出来ないんだよね……。 面倒だからこのまま凍らせても良いんじゃないかな?


「ヒカリ様、その……そのですね?」

「もう一度勝負しろって、言ってきたのかな?

 そもそも逃げ出したところをユッカちゃんに捕まえられたんだから既に負けてるじゃん?」


「ヒカリ様、そうなんですが……。『卑怯だ。人間のくせに。空中に逃げるのはズルい』などなどと言い張りまして……」

「う~ん……。エイサンが諦めればそれで全て片が付くと思うけど。

 あ、それかこっちの眠らせている2頭の目を覚まさせて、ボスの目の前の徐々に凍らせていくのも有効かも?」


「ヒカリ様は何でもできるのです。彼らは何も持っていないのです。

 譲歩頂くわけにはいきませんか?」

「このまま逃がしてもシャチの子孫が人間を襲う訳だよね。そういうのは良くない。

『あのときのシャチの恨みを思い知れ』みたいで私の知らない人が犠牲になるのは良くない。

 そもそもこれまでだって、人が襲われていたかもしれないし」


「『水中戦で一対一なら負けない』と申してます」

「いや、30対1でユッカちゃんに負けたよ」


「『油断した。何が起きているか判らなかった』と」

「結局残った3頭で散り散りに逃げたでしょ」


「『母子を逃がすためにおとりになった』と」

「結局3頭とも捕まったじゃない。負けは負けだよ。自分の実力の無さを思い知れば良いよ」


「お姉ちゃん、お姉ちゃんがそのシャチを飼えば良いよ」


 と、ユッカちゃんが私とエイサンの会話を見かねてか話に入ってきた。

 それにしても「シャチを飼う」っていうのは、水族館じゃないんだしね……。


「家畜じゃないから飼えないと思うよ。

 そんなことするぐらいなら、もっと違う動物を飼いたいね。

 鳥とか飼えれば卵が沢山とれて、お菓子が作りたい放題になるよ」


「お姉ちゃん、お菓子の話は今度でいいよ。

 今はシャチをどうするかでしょ」


「私は海人族じゃないから海洋生物を飼育出来ないし、会話も出来ない。

 だからシャチは食べるか逃がしてあげるかしかない。

 段々と面倒になってきたらからエイサンに全部任せて、最初に凍らせた1頭だけ持って帰ろうかな?」


「ヒカリ様、その……、それで宜しいのでしょうか?」

「うん。最初の1頭はカチカチに凍らせたから復帰は難しいと思う。

 それに夕飯1回分だけなら、その1頭でなんとなると思う。

 じゃ、ユッカちゃん最初の1頭だけ拾いに行って帰ろう」


「ヒカリ様、あの……」

「なに?後はエイサンの好きにして良いよ」


「ヒカリ様、この空中に浮かせている術を解除頂けませんか?」

「え?私に勝てるんでしょ。それぐらい自分達でやってよ。私たちは帰るよ」


「はい……」


 エイサンがどんな術で空を飛んでいるのか判らないけれど、飛ぶことの逆作用が出来れば解除できると思うけれど……。

 ただ、私の浮遊術は浮力を得るための動作ではなくて、そもそも重力という目に見えない力を遮断しているから、そこの科学的な知見が無いと解除できないかな……。

 ま、いっか。


「ヒカリ様、あの……」

「……」


「怒ってますか?」

「……」


「ヒカリ様、ステラ様やアリア様にお願いしても宜しいでしょうか?」

「あの二人には別の仕事を任せてる。私より忙しい。ここに呼び出すと仕事が増える」


「そ、それでは、ライト様にお願いをしに出向いても宜しいでしょうか?」

「えっ!」


「私にはシャチを海に戻す方法が思いつきません」

「……」


「ヒカリ様にはお願い出来ないのですよね?」

「……」


「彼らもどうせ死ぬにしても、海中で死んだ方が幸せだと思います」

「エイサンが持って帰って海人族で食べれば良いよ」


「ヒカリ様が駆使する冷凍魔法も駆使できませんので、いずれは空中で腐敗します」

「そうなるなら、それが彼らの運命なのでしょ」


「承知しました。

 海人族総出でシャチの寿命が尽きるまで空中で世話をします。

 ヒカリ様から依頼を受けております砂糖工場はしばらく休業になります。

 それで宜しいでしょうか?」

「私に喧嘩売ってる?」


「海人族の代表としまして、ヒカリ様にお願いをしているだけです」

「シャチを空中で世話しても種の存続は出来ない。無駄だよね」


「その種の存続のために先ほどよりヒカリ様にお願いをしているのです」

「シャチだからダメなの?」


「シャチと言いますか、海洋で共に暮らし、会話ができる間柄でございますので、その仲を取り持とうと思う次第でございます。

 先日の飛竜族との間柄も同様でございます」


「あ、エイサンには飛竜族のときに借りがあったね……。

 分かったよ。

 1頭はカチコチに凍らせたから戻すのは難しいので貰っていく。

 他のは多分生きていると思うから凍結も浮遊も解除する。

 それでいい?」


「ヒカリ様の温情に感謝します」


「ユッカちゃん、折角狩りしたけど、今回は1頭だけだね。ごめんね」

「お姉ちゃん、大丈夫。他の物を探してたべよ」


「じゃぁ、エイサン、私たちはこの後魔法を解除して街へ帰るね。

 悪いけど、シャチとの調整はお願いね」

「承知しました。ヒカリ様に最大限の敬意を持つように言って聞かせます」


 シャチと会話出来ないのに経緯も配慮も無いだろうに……。

 余計な期待をせずに今回のことは、水ならぬ、海水に流そう。

 ささ、余計な時間が掛かったね。

 夕ご飯の支度にむかおう!



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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