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7-12.試験1日目(7)

 と、そんな会話をしているとユッカちゃんが少量の獲物を持って皆と戻ってきた。狩りでポイントを稼げたのは僅か5名。

 ってことは、85人中5人しか狩りして来れなかったってこと?ユッカちゃんの研修でも、狩りして獲物を得るのは簡単じゃないってことね。


 5人分のポイントを記録して、獲物の処理を終えた頃にコウさんの馬車が到着。サイとか馬とかが有ったからワニは放出しなくても100人分のおかずにはなったよ。付け合わせのご飯、パスタ、ジャガイモなんかを調理して出して、みんなでご飯を楽しんだ。

 まぁ、散歩して、狩りに失敗しても美味しいごはんが食べられるなら良いんじゃないかな?


 狩りの獲物の処理については、狩りの成果が冴えずユッカちゃんと私で狩りした分が100人の胃袋に沢山収まったので、心配するほどの量は残らなかった。コウさんに昼食の残りを持って帰って貰うように頼んだ。皮とかの素材は使えそうなものだけを持って帰ることにして、あとは穴を掘って埋めておくことにしたよ。


 じゃ、試験の続きに戻って朝の拠点まで走って帰ることにしようかな。


ーーー


「ユッカちゃん、帰るけどまだ走れる?」

「お姉ちゃん、なんで?」


「行きも走って、狩りも沢山して、帰りもまだ走っても大丈夫かなって思ったの」

「私もリサちゃんも大丈夫。ラナちゃんは飽きたから馬車で寝て帰るって」


「そう……。受験者のみんなは大丈夫そう?狩りとか獲物の解体で疲れたとか無いかな?」

「わかんない。試験の続きをするかお姉ちゃんが決めて」

「うん……。一応確認してみるね」


 お腹いっぱいになって、散り散りにゴロゴロしたり、雑談している皆を集めずに、そのままの状態で、こちらから大声で話掛ける。


「受験生の皆様、昼食も休憩もとられたと思いますので、帰路につこうかと思います。

 試験を再開して、帰りも走る予定ですが皆様準備は大丈夫ですか?」


 と、ここで何か異様な雰囲気。

 なんかこう、意欲よりも、恐れに近いどんよりした反応が返ってきた。


 これってなんだ?

 ユッカちゃんと私の普通では無い反応だから、もう疲れて帰れないってこと?

 でも、夕飯の準備も100人分の寝る場所や機材も用意してないし。

 それに夕飯の試験と支度の準備でカイさんとトレモロさんが向こうで待ってるし。

 待ってる上に、念話を通せないから連絡する方法も無いし……。


「あ~~~。ズィーベンさんとペアッドさんの二人、ちょっとこちらへ来てください」


 私が独りで考えていても仕方ないから相談をすることにしよう。私では無い人の普通について意見を伺った方が速いもんね。


「「ヒカリ様、何でしょうか?」」と、二人が直ぐに私の所に集まってきた。

「二人の意見を聞きたいよ」


「ヒカリ様、どの様な用件でしょうか?」と、ズィーベンさん。


「帰路も走るつもりなんだけど、受験者の皆がどんよりした反応になってる。

 何か不都合があるかな?」

「一言で申し上げれば、『疲れた』ということになります」


「ご飯も食べて、休憩もしたよね?」

「何事も無く、食事を提供頂いて1日で80kmを走りきる試験だったのであれば、ここに居る100名全員が達成出来たと思われます」


「うん、じゃぁ、帰ろう」

「ですが、真っ暗な闇の中を走破したり、走破速度が身体強化が必要な速度であったり、特殊な狩りの訓練があったため、普通とは異なる緊張感を強いられました。

 これは肉体的な疲労とは別の疲労でして、食事や休憩では補えません」


「試験官が受験者を助けただけでしょ?私だって食事の支援をしたし」


「つまり、

 『何故普通の試験では無かったのか。

 これはこの先も大きな難題が降りかかってくるのではないのか』

 という、恐れが生じていると思われます」


「戦争に比べればマシでしょ。何の危険も無いよ」

「戦争がどういう物かは各自で想像がつきます。

 実際に辺境の制圧に向かった経験をした者も居れば、先祖がそのような遠征に加わり褒賞を得た家系の者も居ます。

 ですが、今回の試験は想像がつきません。つまり、この後何が起こるか判らないのです」


「うん……。それで?」

「ですから、それがヒカリ様のお尋ねになった答えとなります」


「じゃ、この後の試験の予定を言うね。

 行き来た道を帰る。

 その後で夕飯の準備。

 今日の試験はそれでお終い。

 何も怖くないね」


「午前中の走破で身体強化の使用回数が尽きた者が居ます。また、狩りの最中に魔力が枯渇した者も居ます。

 行きと同じ速度では帰れません。脱落することが見えている人が居るのです」


「何それ、全然わかんない。

 リサ、ユッカちゃん、ちょっと来て」


 と、そばで帰り支度をしていた二人を会話に巻き込む。


「お姉ちゃん、何?」

「お母様、また受験者をいじめる相談ですか?」


「もう、みんな魔力が尽きて、帰りは普通の速さでしか帰れないって。

 どう思う?」


「元気な人だけ走って帰ろう?」と、ユッカちゃん。

「お母様の普通は通用しないというだけです。帰れる人が帰りましょう」と、リサ。


「二人とも、『帰れない人は後から帰ってくれば良い』ってこと?」

「うん」

「お母様の拷問に付き合わされる人が可哀想です。好きにさせてあげるべきです」


「私はそれでも良いけど、後から歩いて帰る人は夕ご飯抜きになるし、夜になると真っ暗で危ないよ?」

「夕ご飯の支度が終わったら私が迎えに戻るよ~」と、ユッカちゃん。

「ラナちゃんに頼んで、光の妖精の子を着けて貰えば良いのです」と、リサ。


 二人とも皆で帰る気満々だね。


「わかった。

 でも、明日はチーム編成してもう一回同じことするんだけど大丈夫かな?」


「私は大丈夫」と、ユッカちゃん。

「私も大丈夫。ラナちゃんもお願いすれば協力してくれます」と、リサ。


 この二人は何も考えてないな……。

 私が相談したのが間違いだったかな……。


「ズィーベンさん、ペアッドさん、そういうことで大丈夫ですか?」


 と、ここでペアッドさんから手が挙がった。


「ヒカリ様、明日も同じ試験をするのでしたら、

 我々の食料調達チームはここで野宿して、明日皆様を受け入れる準備を整えたいかと思いますが、如何でしょうか。

 我々15名は先ほどの狩りの試験を受けておりませんので不合格です。

 であれば、皆様の支援をして試験を成立させるための助力を行いたいと考えます」


「ペアッドさん、夜は魚料理だよ。

 ここだと川で獲れる生き物だけだよね。それに釣り具や網、もりとか持ってきてないし」


「小動物であれば罠を仕掛けることである程度でしたら明日の朝までに捕獲できます。

 付け合わせは森からバナナや芋の類を採取してきます。狩りが出来なくても何とかなるでしょう。

 役割分担をして、野営する場所の支度も並行して進めます。これだけの広さがあれば、直ちに魔獣や動物に襲われる可能性が低いでしょう」


「野営の道具や狩りの道具はどうするの?私の道具を貸したままこの場を離れるのは少し怖い」

「確かにそうですね。我々にはまだ信用がありません……」


「ま、その辺りは、後から馬車できたコウさんに聞いてみるよ。

 とりあえず、ペアッドさんチームはここで野営して食料の調達の任務に当たって受験生をサポートしてくれるってことで良いよね。


 ズィーベンさんはどうしよう?」


「ヒカリ様、正直申しまして、『今日帰った後に海で狩りをする』というのは現実的ではありません。する前から諦める者がほとんどで試験とならないでしょう。

 ですので、もう少し目的を絞って頂けると助かります」


「うん……。

 呼吸の仕方を変えるだけで、帰りの走破は出来ると思うんだけどね。

 どうしよっかな……。


 リサ、呼吸の仕方を教えれば帰りぐらい行けるよね?」


「お母様の好きにすれば良いのです。

 教えて解決できるのであれば、教えて連れて帰れば良く、ダメならラナちゃんに支援頂いて歩いて帰れば良いのです」


「わかった!

 じゃぁ、これから100人全員を集めて呼吸の仕組みと仕方を教える。

 それで身体強化が持続出来るようになった人は一緒に帰る。

 ダメな人はペアッドさん達と一緒にここに残って野営と受験者の支援。

 ズィーベンさん、ペアッドさんこれでどうかな?」


「「ハイ!」」


 返事は良いのだけど、実際にそれで上手く行くかは本人次第。

 生化学も生体反応も発達してなくて、空気も酸素も判らない人たちに『魔法以外の何か』を教えるのは大変なことだと思うんだよね。

 このとき、ちゃんとイメージが出来ていれば呼吸法も身につくし、それに基づいた身体強化も自然に発揮できるとは思うけれども……。


 ま、いっか!

 とにかくやってみよう!


ーーー


 と、そんなわけで、100人とコウさんが連れてきた冒険者ギルドの助っ人を合わせて100人ちょっとに呼吸の仕組みと呼吸法についてレクチャーしたよ。たまに両国の言葉で二回説明するシーンも有ったから大体1時間ぐらい掛かったかな。シオンやリサよりは上手く説明出来たと思う。


「じゃぁ、その呼吸と血流が体内を循環するイメージを意識しながら身体強化を発動してみて?」


 と、知識を元に実際に体の作用を体感してもらうことを促すと、全体の8割ぐらいから「お~~」とか「えっ?」とか、自分の体をシゲシゲと見つめる人とか、とにかく変化を感じられた様子が伺えたよ。


「あ~。じゃぁ、この呼吸法と身体強化を組み合わせて、これから朝の拠点まで戻ろうと思う。

 自信が無い人はここで野営。他の受験者の支援をしてください。明日また来ますので、そのとき合流してから帰路につきましょう。

 今日、ここに残りたい人は挙手!」


 って、手が挙がらない……。

 今度はサンマール王国語ではなくて、エスティア語で語り掛ける。


「今日、ここに残りたい人は挙手!」


 でも、手は挙がらない。ペアッドさんのチームからも手が挙がらない。

 どういうこと?


「あ~、全員走って帰れるってことね。

 何か質問は無い?」


 と、ズィーベンさんとペアッドさんの二人が同時に挙手。


「まず、ペアッドさんからどうぞ」

「ヒカリ様、私のチーム全員が走破して帰還可能です。試験は不合格で構いませんが、是非この呼吸法と身体強化を実際に試させてください。他の者も同じ意見です」


「ペアッドさん、分かった。予定変更で大丈夫。

 ズィーベンさんはどんな質問?」


「ヒカリ様、念のための確認ですが、これも秘匿される情報という認識で宜しいでしょうか?これは戦争が変わります」


「皆様、この身体強化のスキルは直接戦争に使うことを意図して皆様に教えた訳ではありません。

 ですが、皆様がこのスキルを所持していることを公にすれば、奴隷印が付いている立場上、貴方たちの取り合いが起こり、戦争のきっかけとなるでしょう。

 その点を良く留意して、スキルの使いどころを見極めてください」


「ヒカリ様、皆への伝達を代わって頂きありがとうございます。また、秘匿性につきましても重々理解しました。このスキルを教わった者もヒカリ様へのご恩を忘れることもなく、裏切ることは無いでしょう」


「あ~、うん。まだ試験の途中だからね。

 みんながそんなにやる気満々になったなら、帰りはちょっと速度上げて帰ろうね」


 なんか会場の受験者からさっきとは別の驚きの反応があったけれど大丈夫。

 気にしない。気にしたら負け。

 よし、行こう!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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