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7-11.試験1日目(6)

 ま、いろいろな意味を合わせて考えると、今日この場のお昼ご飯は手早く済ませることを優先して、試験官の仕事に戻ればいいかな……。

 量も味付けもラナちゃんにご満足いただけた様なので、ラナちゃんには食後のお昼寝をしてもらう。

 ユッカちゃんは残りのチームを引き連れて狩りの講習に向かった。リサは私の肩に載せて一緒にペアッドさんのところに戻って機材の説明をすることにしたよ。


「ペアッドさん、上手く行ってますか?」

「あ、ヒカリ様。その……。なんと言いますか……」


「うん?」

「我々なりに頑張って対応を進めていますが、評価がどうなるか判らず……」


「狩りの試験は受けないのでしょ?だったら違うスキルがあることを示して、そっちで採用されるように頑張るしか無くない?」

「ヒカリ様?」


「うん?」

「我々受験者が不合格でも、別の用途で採用頂ける可能性があるのですか?」


「体力もあって、料理というか食事の提供が出来る人は軍隊にとって重要な役目だと思うよ。特に食事に際しては保存食の確保とか腐敗対策をしておくこと、食中毒の予防とか色々と気を遣うことは多いと思うよ」

「ヒカリ様、ですが昨日トレモロ・メディチ卿より試験の説明を受けたときにはその様な話はございませんでした。

 ですので、我々不合格者はこの後どのような処分になるかを気にしており……」


「ん……。どうしよっか……。

 料理人の腕前とか試験に含めてなかったからねぇ……。

 ん……」


「ヒカリ様?」

「うん?」


「もし、我々が此処で捨てられずに今朝の居留地へご同行させて頂けるのであれば、何なりとお申し付けください。役に立って見せます」

「いや、不合格者も連れて帰るよ。そうしないとみんなに怒られるし、私も嫌だもん。

 

 それよりも……。

 今、『何でもする!』って言った?」


「ハイ!我々に出来ることであれば何なりと」


「さっきさ、私がワニを解体していたのを見ていたと思うけど、貴方たちも解体できる?」

「普通であれば出来ません!ですが、ヒカリ様のご用意された器具を借りれば我々でも可能です!」


「ん……。つまり、今手に持ってるナイフの凄さが判るってことね?」

「これまで見たことが無い逸品であると思います」


「この場での活動が終わったら、ちゃんと返してもらえるよね?」

「え?」


「返さないつもり?」

「いやいや、逆に返さないで良い可能性があるとすら考えませんでしたが」


「コッソリすり替えて、他のナイフを返したりとか?」

「それに何の意味がございますか?」


「『このナイフを転売すれば高く売れるぞ~』とか」

「私は犯罪奴隷の身分におとされておりますので、主人であるリチャード殿下の収入になるだけですが」


「ん……。だったら、ナイフ盗んで、誰かに渡して、その人が転売したら?」

「ええと……。ヒカリ様、我々に信用がございませんか?」


「信用するも何も、今日初めて会話してるよね」

「であれば、ヒカリ様の信用を得られるように努めます。何なりとお申し付けください」

 なんか、話が脱線したけどとりあえず今日直ぐに盗まれる心配はなさそうだね。

 そしたら、実際の作業の話に移ろう。


「じゃぁ……。

 ここで解体している肉や内臓をなるべく食料として保存して持ち帰りたい。そのために必要な道具、材料、調味料なんかを教えて」


「ハッ!

 ナイフは十分に足りておりますが、内臓を取り分ける木のお桶が不足しはじめています。部位ごとに種類を分けて保管することで、内臓が腐るのを防げます。

 内臓を素早く水洗いしたいのですが、樽から出る水だけでは素早い肉や内臓の処理に不十分です。

 先ずは、解体における作業で不足している物は以上になります。


 次に、保存食の作成となりますと、いくつかの方法が考えられまして……。


 1つ目は、天日にこのまま2~3日干す。ただし、突然のスコールに注意して雨避けが必要になります。また、虫などが卵を産みつけ、そこから傷んだり食中毒の元になる毒素が出ることが考えられますので、そういった虫よけをしながら日干し作業をお行う必要があります。


 2つ目は、焚火の上で強制的にいぶしながら乾燥させます。焚火に使う木材の種類に応じて、木の独特の香りが付きますが、煙に混ざって灰が付着すると味が台無しになるので、焚火への木のくべ方に注意が必要になります。


 3つ目は塩漬け、又はハーブ漬けにする方法です。これは提案はするものの、大量の塩と保管するための容器、そして塩漬けにした食材から出る水分の処理などが必要になり、材料費、手間、時間が掛かるのでヒカリ様に同行して拠点に帰れなくなります。


 と、以上のことから、大量に木材を切り出してきて燻すのが手っ取り早いと考えられます」


「どれも時間が掛かるね。皆と一緒に帰れないよ」

「で、ですが、解体するだけでも夕方になります」


「先ず内臓は私が出した木桶に番号を振って取り分けておいて。

 次に、干し肉とかにする予定の肉類は冷凍して馬車で持ち帰るよ。

 皮とか牙を加工して何かに役に立つならそれも回収して麻袋に入れておいて。馬車に載せて帰る。

 それならどうかな?」


「ヒカリ様、解体を最速で進めること承知しました。

 それで、もし質問して良ければ『レイトウ』とはなんでしょうか?」

「簡単に言えば、氷の魔法。凍らせると腐敗する時間を遅らせることが出来るの。

 だから凍らせたまま保存して持って帰って、時間のあるときに保存食に加工すれば良いよ」


「ヒカリ様、今朝のラナ様に氷の魔法を駆使頂くこと恐れ多いことと思われます。可能であればヒカリ様からお願いして貰っても宜しいでしょうか……」


「氷だよね?

 リサ、氷出せる?出せなければ、解体処理した肉とか内臓を凍らせてほしいのだけど」

 と、さっきから私の肩の上で話を聞いていたリサに声を掛ける。


「お母様、人使いが荒く無いですか?私は幼児です。試験官です」

「試験官だって色々手伝うでしょ。私だって解体を手伝ってご飯作ったし」


「お母様は、自分の食料を捕ってきて、自分の食事のために調理しただけです。

 それは自己満足の領域であり、皆のための活動ではありません」

「リサ……。ちゃんと、道具も持ってきて使い方とか説明してるし、塩とかそういった物はちゃんと大量に渡してあるよ?」


「だったら、お母様も水をだしたり、氷を出すのを手伝ってください」

「そんなことしたら、私が魔法使いの認定をされて、『何もできないメイド』じゃなくなる」


「私だって、こんな小さな体で魔法使い認定なんてされたらおかしいじゃないですか」

「いや。リサもラナちゃんも既に魔法使いだよ。休憩のときに沢山水をだしてくれてたし」


「あ、あの、ヒカリ様、お二人で揉める必要はございません。

 肉類は少々勿体ない気もしますが、皮や牙など素材として活かせる部位のみを持ち帰ることにしましょう」


 と、ペアッドさん。

 いや、そういう話じゃないんだよね……。

 私だって全力出せば、全部の素材を持って帰れる。

 何せこの鞄にはクジラ一頭を解体した分の肉類が入っている訳でさ。


 問題はどうやって鞄に入れるかなんだよね……。

 ちゃんと肉から血がしたたら無いように加工処理されていれば問題無いけど、血塗ちまみれの状態で鞄にいれると、鞄の入り口付近が血で汚れちゃうから嫌なんだよね……。


「お母様、どうされましたか?」


 と、リサからも追い打ちが掛かる。

 どうしよっかな……。


「ヒカリ、どうしたのかしら。ワニは美味しいわ。持って帰りましょう」


 昼寝をしてもらっているはずのラナちゃんまで!

 そして、ワニ肉を気に入られて持って帰りたいらしい……。

 もう、『勿体ないけど捨てていく』というペアッドさんの提案は無くなったね。


「ラナちゃんがお気に入りであれば持ち帰りましょう。

 私が処置して私の鞄にいれて帰ります」

「ヒカリ、それが良いわ。私はお昼寝に戻るわね」


 って、お~~い!

 これ、心読まれていると分かっていても、こう、なんか、うん……。

 ま、ワニはワニで美味しかったから良いんだけども……。


「ペアッドさん、リサ、ワニ以外はどうでも良いことにしましょう。

 馬車で到着するコウさんと相談しましょう。

 必要があれば、こおりがどこかから降ってくると思います」


 リサもペアッドさんも目を見開いて、口をポカンと開けて顔を見合わせる。


 なに?

 ラナちゃんへの対応の話?

 それともこおりが降る話?

 ひょうが降るぐらいなんだから、氷が降っても良いでしょうに……。


「二人とも、その顔は納得がいってない?」

「お母様、空から氷が降ることはありません。大魔法使いの氷の魔法かエルフ族の族長クラスの方の天候を操る魔法であれば出来るのかもしれませんが……」


「リサ、分かった分かった。氷は降らない。

 けど、馬車一杯分の氷はどこかから出てくるかもしれないから、その方向で準備をしよう。

 私はワニ専門ね」


「「ハイ」」


 いや、二人とも何が判ったのか……。

 ま、いっか。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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