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7-10.試験1日目(5)

 私は丸太の切り出してきて、直径1m、厚さ80cmぐらいに20枚ぐらい輪切りにした。丸太の輪切りはラナちゃんのナイフを使って以前にもやったことがあるし、ちゃんと断面が綺麗に切れるから余裕余裕!この辺りはさっき出しておいた機材や調味料と一緒にペアッドさん渡しておく。


 それよりもだ。

 暫く待たせていたラナちゃんの昼食の準備だね……。


「ラナちゃん、お待たせしました。今から調理に掛かります」

「ヒカリ、良いわ。ヒカリは試験官なんだもの。

 でも、照り焼きチキンが食べたいわ」


「はい、調味料はあります。鳥はユッカちゃんの捕ってきたものと、私が捕ってきたワニがありますが、どちらが良いですか?」

「美味しければ何でも良いわ」


 そ、そうきたか……。

 だったら、草食動物の肉でハンバーグ作って照り焼きチキンソースでも良いことになるんだけども……。


「お肉は硬めと柔らかめはどちらが好きですか?」

「照り焼きソースを沢山味わえるのが良いわ」


 ええと……。『シェフにお任せ』ってやつね?

 任せられた以上は自分で好きな味付けで作っちゃおう。この前はみりんとか無くて、辛目のスパイスと醤油でアレンジしたけれどもだ。今回はカカオとかコーヒーがあるし、副産物というかクロマト測定に使った蒸留したアルコールとかある。


 ってことは、もう一工夫……。


 しなくてもいっか。

 ワニ肉の特性が良く分からないから前回と同じパターンで作る。肉が硬めだったら隠し包丁を入れて、そこに照り焼きソースが馴染むようにする。

 もう一つは草食動物の方から、脂身と筋の辺りを貰ってきて、良く刻んだうえでハンバーグを作ろう。この2本立てなら文句はないでしょ。


 そうと決まったら、早速料理に取り掛かるよ!

 

 まずは、ワニの解体から……。

 体長5mのワニとか重くて持てないから重力遮断してさっき輪切りにした木の台の上まで引っ張ってくる。次に解体方法なんだけど、ワニ皮を鎧とかに流用するかもしれないから、変則的だけど脇腹からナイフを入れよう。内臓の中心線を掴め無いから、解体の前に鰐皮だけ剥いで置く感じね。


 面倒だから、腕、尻尾部分は落としちゃって、頭というか首周りは先に皮だけ切り取っておく。剥製とか作るならちゃんとしないとだけど、肉と皮を分別するだけだからこんな感じで良いと思うんだよね。

 

 剥いだ皮、手、足、尻尾は後から手を付けるとして、頭と本体の解体作業だ。お腹側の中心線から刃物を入れて、筋肉を左右に分ける。内臓を包む筋膜をうまく利用して、内臓や血が大量にこぼれださないように注意しながら処理を進める。


 今度も内臓は木のバケツに入れて脇に置いておいて、本体の脇腹付近のお肉を捌き始める。バラ肉とかそういう感じで脂肪も多少はついてそう。このあばら骨と背筋の辺りをブロックとして取り分けて、ここを照り焼きソースで仕上げる方向で進めよう。



 肉の準備が終わったから、次はサイドメニューとソースづくり。

 ちょっとスパイシー風味な照り焼きソースは以前に飛竜さんの朝食に作ったときのレシピを流用する。ご飯は2-3人用の簡易コンロを取り出して、そこでご飯を3人前ぐらい炊く。

 照り焼きチキンの付け合わせのジャガイモとか人参を用意すると良いんだけど……。これはオーブンとか無いからねぇ……。肉の固まりを大鍋で蓋をする形で疑似的に焼き物にして、その脇に根菜類を添えて調理しておこうかな。

 よし!これで照り焼きワニの準備は完成!


 次は草食動物の解体中のメンバーから内臓の脇の脂が載った筋肉をもらってきて、玉ねぎ、パン粉、塩、胡椒を混ぜ混ぜしてハンバーグの準備っと。

 ここは材料さえそろえばあとは直火じかびの鉄板の上でも、火加減を調整すれば焼き上げられるから問題ないね。


 よしよし!

 あとはご飯が炊きあがったり、肉やハンバーグが焼きあがるのを待つだけだね。

 ラナちゃんへ報告だよ!


ーーー


「ラナちゃん、お待たせしました。もう少しで焼きあがります」

「そう。でも、ユッカとリサがまだみたいよ?」


「ご飯が炊けたら、ラナちゃんだけ先に召し上がりますか?」

「ユッカもリサも試験官よ。待つべきじゃないかしら?」


 この区分が微妙だなぁ……。

 試験官だけ先に食べることは問題が無くて、試験官というかユッカちゃんとリサには気を遣うっていう……。私の位置づけも聞いてみたいけど、余計なことは言わないでおこう。


「でしたら、肉が硬くならない程度に温まったら、火から遠ざけておきます。ユッカちゃんとリサの手が空いたら皆で食べましょう」

「そうね。それがきっと良いと思うの。ヒカリはお肉が焦げないように見てると良いわ」


 べ、べつに、ラナちゃんが見張っていてくれても良いんですけども。

 私だって、解体したワニの残りの処置とか色々と。

 ユッカちゃんが残していったメンバーの様子も気になるし……。


「ヒカリ、私は肉の焼き方とか判らないわ。

 そこに残った受験者に狩りの仕方を教えることも出来ない。

 ワニの余った肉はそこの解体チームに任せればいいじゃない」


 う。ちょっと油断すると心を読まれるっていう……。


「ラナちゃん、お気遣いありがとうございます。

 もう、先にラナちゃんだけご飯食べて、試験官として見回るのは如何でしょうか?ユッカちゃんも暫く忙しそうですし、リサも解体と水洗いの支援で暫く掛かりそうです」


「ユッカとリサがどう思うかしら?」

「『先に食べていてください』って言うと思います」


「私はユッカとリサと一緒に美味しいご飯を食べたいの」

「はい」


「どうすれば良いと思う?」

「二人とも試験官として受験生の世話をしてますからね……。

 終わるまで待ちますか」


「私も世話をしたわ」

「はい。ラナちゃんにもお世話になりました。役割分担の違いですね」


「ヒカリ、お肉を焦がさずに、ユッカやリサの分担が速く済む方法は無いかしら?」

「リサの水に関しては、多少不便でもご飯をしている間だけ、リサの支援を止めれば良いと思います。ユッカちゃんは一度戻ってきてもらわないと、何とも言えません」


「わかったわ。焦げないうちに食べましょう。ヒカリは4人前の料理の準備をして頂戴」


 な、なにがなんだかわからないけど、分かったよ。

 料理を配膳する準備をするよ。


 新しく木の台を切り出して、そこに食器を4人分並べる。

 中央に、スパイシー照り焼きソースの掛かったワニ肉と、ハンバーグを積み重ねる。

 もう、各自で食べたい分だけ取り分けて貰えばいいね。

 ご飯とスープも用意して、お昼ご飯だけどまぁまぁの品揃えかな?

 何より、お肉と照り焼きの両方からの臭い攻めはある意味で十分な打撃になるよね。

 さてさて……。


「ラナちゃん、どうぞ。リサもおいで。あと、ユッカちゃんですが……」

「来るわ」と、ラナちゃん。


「お姉ちゃん、お待たせ。直ぐにご飯食をべて、次の講習に行くね」


 と、突然現れたユッカちゃん。

 いや、ええと……。

 私が呼んだことになってるのかな?

 余計なことを言うとえらい目に遭うから適当に話を合わせておこう。


「ユッカちゃん、忙しいところごめんね。

 料理が冷めるし、ラナちゃんも皆と一緒が良いみたいだったから」

「うん。大丈夫。

 でも、お姉ちゃん、受験者の皆は我慢してるみたいだよ?」


「ペアッドさんのチームに任せてるから大丈夫じゃないかな。

 さっき、ユッカちゃんと私で獲ってきた獲物を捌いてくれてるよ。もうすぐ荷馬車が到着するからみんなの食事も出来るんじゃないかな?」


「受験生だからお姉ちゃんのご飯が食べられないの?」

「受験生ってわけじゃなくて、100人分も私は作り切れないし。

 そもそも自分で調達した獲物を自力で調理してもらいたかったけど、そこは省略してあげる訳だし」


「そっか。じゃぁ、お姉ちゃんがその部分の試験を免除してあげたのね?」

「免除するつもりは無かったけど、ペアッドさん率いるチームが狩りの試験を辞退したから、そのメンバーの活用を考えたよ」


「お姉ちゃん、凄い!これが試験の目的だったのね?」

「え?いや……。不合格者にご飯を上げない訳にはいかないでしょ。たまたまだよ」


「でも、残った人たちはちゃんと獲物を綺麗にさばいてるよ」

「うん、なんか、ペアッドさんは自分の腕前だけでなくて、獲物を捌く指揮もできるみたい。ゴードンとは別の意味で料理人として抱えることができるかもね」


「じゃぁ……。私達が先にご飯を食べても大丈夫?」

「フォローは私がしておくよ。ささっと食べてしまって、試験官の続きをしよっか」


「ユッカ、リサ、みんなでたべましょう」と、ラナちゃんから合図が掛かる。

「「ハイ」」


 何が正解、不正解かで言えば、試験官が受験者の気をちらすようなこはしてはいけないし、それぞれのチームに対して問題が無いかを見守る役目もあるよね。


 だけどさ?

 上下関係で言えば、奴隷の主とそこに従属する犯罪奴隷な訳で、その時点で公平性は無いわけで。食事を一緒にしなくてはいけない理由も無いし。

 それよりなにより、ラナちゃんのことがあるしね。下手に皆で食事をしようものなら、ラナちゃんに注目が集まって、変な噂が飛び交うのは避けたいところ。


 ま、いろいろな意味を合わせて考えると、今日この場のお昼ご飯は手早く済ませることを優先して、試験官の仕事に戻ればいいかな……。



「お姉ちゃん、これ美味しい。

 この白いコリコリしたお肉もハンバーグもどっちも美味しい。

 あと、白いご飯と肉汁と照り焼きソースが口の中で混ざりあって美味しい」


 と、ユッカちゃんから絶賛された。

 うんうん。良い感じ!

 私が食レポとかしなくてもユッカちゃんの感想で十分だよ。


「ラナちゃんとリサはどう?」

「ヒカリ、いつも通りね」


 と、素っ気ないラナちゃん。

 ラナちゃんが素っ気ないのは問題無い範囲。

 っていうか、前みたいに『お願いは無いかしら?』みたいな絶賛が起きると少し困ってしまう。


「ラナちゃんの口に合ったなら幸いです」


 と、お礼の言葉を簡単に述べておこう。

 で、リサは……?


「お母様、これは何ですか?」

「白い肉はワニだね。さっき丸太みたいの捕ってきたでしょ。あれを捌いた肉だよ。硬くて食べ難いならハンバーグの方を食べれば良いと思うよ」


「お母様、あの丸太のような生き物をお母様はワニと呼ぶのですね。そこは良いです。

 それよりも、あのワニをどうやって仕留めて、どうやって捌いたのかが問題になります。そこを分かっていて、料理の食材に使用していますか?」


「うん?」

「あれは、普通の蛇やトカゲとは違いますよ。わかっていますか?」


「うん。大きいし、あごの力が強いから、下手に噛まれると毒とかなくても人は死んじゃうよね。噛みつかれたら、体を回転させて骨や肉を引きちぎったり、自由に行動させないようにした上で水の中に引きずり込んで溺死させるらしいよ」


「お母様、ワニの危険性は良いのです。お母様が強いのは先の上級迷宮で嫌というほど知りましたので。

 そうではなくて、ワニ自体の甲羅のような皮の硬さをどの様に突破したのかという話です」


「え?ナイフで普通に?」

「お母様の普通で語らないでください。

 あの生物の外殻はミスリル銀級の硬さを持っていることで有名です。皮を剥ぐ前に、刃物が通らない訳です。ペアッドさん達がお母様の方を見て呆然としていたことに気が付きませんでしたか?」


「いや……。料理に夢中でそんなこと気にしてなかったよ……」

「はぁ……。お母様はどうして、こう、何と言いますか……。はぁ……」


 うわ~~。

 娘からため息混じりの説教を貰ったよ!

 マナー違反では無いし、文化や習慣に抵触するようなこともしてない。

 他人に言えない秘密を暴露してるわけでも無く、同じナイフを調理用に貸出してるんだから良いんじゃないの?


「別に問題無くない?」

「ミスリル銀を切れるナイフはオリハルコン級の武器だけです。

 つまり、戦争が起きたらお母様のナイフを槍の先に付けて先陣を切れば多くの兵士を簡単に倒すことが出来るのです。

 敵の王族クラスか軍師でも無い限り、オリハルコン級の防具を身に着けていることは無いでしょう。つまりは無敵状態です!

 分かりますか?」


「リサ、丁寧に説明ありがとうね。

 でも戦争する気無いし、調理に使っている範囲なら問題ないよね」


「ナイフが盗まれたらどうするのですか?」

「専属化してあるし、印も施してあるから追跡して回収できるよ」


「なっ……」

「いや、そんなことで驚かれても。奴隷印の応用を武器に施して貰っただけだよ」


「お母様、今の内容は皆に説明されていますか?

 また、もし盗んで逃亡を図った者が居ても追跡可能で処罰可能ということを彼らは理解していますか?」


「いや?普通に調理器具を貸し出しただけ。試験が終わったら都度回収するよ」

「はぁ……。

 お母様、分かりました……。

 この食事が終わりましたら私から皆へ補足説明をしておきます……」


 な、な、何でため息で締めくくられるかな?

 娘とのコミュニケーションってこんなに大変なのかな?

 私が悪い様には思えないんだけどね……。


 ま、気を取り直して試験を続けるよ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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