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7-08.試験1日目(3)

 二回の休憩を挟んで最後の15kmが始まる。

 今のところ脱落者0名。

 これって、二時間で25km走ってきて全員合格って凄くない?

 単純に現代日本人と比べちゃいけないのかもしれないけれど……。

 あ、でも、一応は体力試験に自信のある人が名乗り出ているからそういうもんかな?


「じゃぁ、準備運動は終わりで午前のゴールまでみんなで走るよ~」


 と、ユッカちゃんが相変わらず可愛い感じで皆に声を掛ける。

 受験者は可愛いと思っているのか、恐ろしいとおもっているのか背後からでは様子が伝わってこない。肩を落としたり首を振ったりする様子が見られないのだから覚悟を決めているんだろうね。


 最後の15kmはナビに速度を計って貰ったら時速30kmぐらいだって。これは大学駅伝の選手以上の速度。私は重力遮断も身体強化レベル2もあるから特に問題無いけれど、もし身体強化レベル1だけで踏ん張っている人がいたとしたら、元々の体力がべらぼうにあるか、身体強化の呼吸が切れたタイミングの切り替えがとても上手なんだと思うよ。


 で、時速30kmで30分間を走りぬいて街道の終点であり、農園の終端が見えてきた。


「皆様お疲れさまでした~」


 って、ユッカちゃんが到着してくる人たちに優しく労いの言葉を掛けている。

 多少ばらばらにはなっているけれど、先頭から五分も待たずに私が到着したんじゃないかな?

 私が到着するとユッカちゃんが水の出る樽を用意しくれているんだけど、騎士団の人達全員がゼェゼェと息をして倒れ込んでいて立ち上がれない。当然ユッカちゃんが声を掛けても水を飲みに行くことが出来ない。


 ま、そりゃそうだよ……。

 最後の15kmだけを記録に残せば現代日本だったら日本記録が大幅に更新されちゃうからね。それも100人単位で一丸となって記録更新だもん。


「お姉ちゃん、みんな疲れて水を飲めないみたい」と、ユッカちゃん。

「う~ん。馬車も暫く到着しないからコップとかに汲んで配って渡してあげることもできないんだよね……」


「そしたら次の狩りの試験の見本を見せて、その間、騎士団員の皆さんには休憩して貰ってても良い?」

「良いと思うけど……。みんなは、ユッカちゃんのお手本が何してるか判るかな?」


「ええと、制限時間内に狩りをしてきてその獲物の大きさと数でポイントが貰えるんだよね?」

「うん。まぁ、ポイントもそうだけど自分の昼ご飯のおかずを調達して貰う感じでもあるよ。

 私が言いたのはルールでは無くて、ユッカちゃんの狩りの仕方がみんなは判るかなってこと」


「ええと……。運んでくる間に血塗ちまみれになるから、眠らせて持ってきた方が良いかな?」

「ユッカちゃんは獲物を見つけて、狩りが成功する前提の話になってるよね。

 私は索敵も大変だし、見つけた後で気付かれずに接近して獲物を仕留めるまでの話なんだけどね。

 まぁ、各自で頑張って貰おう」


「お姉ちゃん、それだとお昼ご飯はお湯とパンだけになっちゃうよ?」

「嫌なら自分で何でも取ってくれば良いんだよ。無ければ果物でも良いしさ」


「お姉ちゃん、いじわる?」

「いや、そういう狩りをするときの索敵とか隠密行動っていうのは重要でさ?それが試験に含まれていると思うよ。

 あとは、狩りした獲物を自分の食料として解体する技術とか、それを調理する技術も必要になってくるね」


「ヒカリ、私は照り焼きチキンが食べたいわ」


 と、横から唐突に話題に入ってくるラナちゃん。

 それって、ユグドラシルの高台で飛竜さん達と一緒に食べたときに作ったメニューだよね。あれはステラが狩りしてきてくれた鳥を調理したんだっけ……。

 ま、大丈夫かな?


「ラナちゃん、同じ鳥が狩れるか判りませんが準備しますね」

「ヒカリ、受験者の体力の回復を待っているとお昼ご飯がいつになるか判らないわ。ヒカリは試験官の分は別に作るべきよ」


「あ、はい。あと、後から馬車で来るコウさんと冒険者ギルドの方達の分も食材を調達しておく必要がありますね」

「ヒカリ、お菓子は良いから『照り焼きチキン』の準備をお願いしたいわ」


 二回も同じこという!

 そんなに気に入ったのか……。

 まぁ、別段問題無いからラナちゃんの意向に沿いましょう!


「じゃぁ、ユッカちゃん狩りに行こうか」

「うん。みんなにお手本をみせるんだよね。

 どれだけ取って来るかお姉ちゃんと私で勝負だよ!」


「そっか。じゃぁ、10分計の砂時計を使って10分を計ろう。

 この砂時計の砂が落ち終わるまでに、たくさん獲物を捕ってきたきた人の勝ちね?」


「わかった~!やろうやろう!」

「あと、鳥も一羽ぐらい入っているとラナちゃんが喜ぶよ」


「わかった!早くやろう!」


 と、ユッカちゃんは直ぐにでも始めたい様子。ただこれは試験だからちゃんと受験者にも説明しないとね。


 まだ息も荒くそれぞれに倒れ込んでいる人たち全員がみえそうな位置に簡単な台を作って、その上に砂時計を置く。10分計だからコップぐらいの大きさになってるから見えるかな?


「皆さん、これからユッカ先生と私で狩りをする見本をみせます。ユッカ先生には時間制限を設けないと皆さんの獲物がなくなるため、こちらの砂時計を使って時間を計ります。


 ここにある砂時計は……。

 あ、これはガラスの容器に砂が入っているだけでして、こうやってひっくり返すと上にある砂が下にある器に移動します。この砂は少しずつ落ちるので全部落ち終わる時間が10分間になります。


 この10分間にユッカ先生と私で狩りをしてきてこの場所に獲物を並べますので、そのポイントでユッカ先生と私の勝敗を決めます。ポイントは狩りに危険がと伴う動物、大きな獲物で皆の食料に適している動物などはポイントが高いです。鳥や蛙なんかでも数を稼いで食料になるようであれば、まとめてポイントを付与します。


 つまり、単に狩りの腕前だけでなく団体の食料調達に貢献できるかもポイントの対象となります。ただし、今回は果物や植物などは狩猟の対象としませんので食糧調達の貢献度が高くてもポイントは付与しません。


 説明は以上になります。

 これから砂時計をひっくり返して、ユッカ先生と競争をしますので皆さんはそのまま休憩していてください」


 サンマール王国語で早口でまくし立てたけど、まぁ大体話は通じているでしょう。ストレイア帝国語しか判らない人は周りの人から話を聞いておいて貰えば良いや。


「じゃ、ユッカちゃんスタート!」


 と、砂時計をひっくり返して二人で狩りに出かける。

 当然のごとく二人とも光学迷彩を掛けて姿を消してから飛空術。みんなには気配察知で追いかけて貰わないと見えないけど、まぁ、見えなくても狩りの成果を見て貰えば良いからその辺りは気にしない。


 ユッカちゃんはかなりの高速で山のほうまで飛んで行った。一方、私は受験生たちの狩りの獲物を残しておいた方が良いから川の向こう岸まで飛んで行くことにしたよ。


 で、この辺りでも川幅は数十メートルあるから大きな獲物が居そう。

 魚介類は夜に狩りをする予定だけど水場にあつまってきている動物がいるなら、それはそれで有りだね。


 とりあえず、索敵して獲物を見つける。

 川に流れ込む支流の辺りに馬だか牛だかの草食動物と思われる群れを発見!あれを2~3頭持って帰れば十分な食料になると思うよ。100人分には足りないけどね。


 気配を絶って接近して背中に乗ってから眠らせる。これを3回。

 眠らせた3頭は光学迷彩と重力遮断を掛けて、風船みたいに浮かせておいて、ひもで引っ張る。


 これで狩りと食料調達はできて……。残りは3分ぐらい?

 ラナちゃんの照り焼きチキンが無いから、残り時間で鳥を狩れればいいんだけど……。

 流石に飛んでる鳥とか、樹木の巣でひっそりと休んでいる鳥を狩りするのはしんどい。ユッカちゃんならともく、私も出来なくはないけど時間が掛かるからね。


 だったら、水辺に水鳥とかいないかな……。

 って、あれ?

 ワニだ。丸太のようなワニの背中が出てて、その上で鳥が休んでる。

 どうもあれは、ワニの寄生虫とか獲物が歯に挟まったのを食べてくれる共生のような関係らしいね。


 鳥は小さすぎて食べるところが無いから、ワニを持っていこう。あれも白身で淡白な味だってきいたことがある。筋肉が発達した場所だとコリコリした特有の触感が味わえるのだとか。まぁ、そんなこと肉の味のことは食べてみるまで良く分からないけどね。


ーーー


 馬みたいな四つ足の草食動物3頭と丸太のようなワニを一匹を風船のように紐で繋げて砂時計が置いてある皆が待機している場所まで戻った。


 砂時計はまだ少し残っているから、私の時間はセーフ。

 砂時計が残り僅かになったときに、ユッカちゃんもギリギリで到着。


「お姉ちゃん、獲物は?」

「ユッカちゃんこそ獲物は?」


「ニヒヒ……」


 って、ユッカちゃんが重力遮断と光学迷彩を解くと、広場の皆の前に大量の獲物が出現した。

 鳥は大小織り交ぜて10羽。

 リスとかウサギのような小動物が5匹。

 何より目を引くのがサイみたいな大きいのが一頭居た。これは鼻の辺りが角に変化しているし、鎧の様な皮膚を持っているから、日本人の感覚ならサイでいいのだと思う。角有りのカバとか言われたら、それはそれでありだけども……。

 まぁ食べられればなんでもいいけどね。


「ユッカちゃん、凄い!私の負けかな……」


 と、私もユッカちゃん同様に重力遮断と光学迷彩を解いて、草食動物3頭、体長5mぐらいありそうな巨大なワニ一頭を出現させる。


「お姉ちゃん、その丸太みたいなのは何?」

「うん?私の知っている言葉だとワニっていうよ。トカゲとかの仲間で巨大な種類かな。

 

 それより、得点はどうつけようか……。

 ユッカちゃんの小動物は一匹1点で15点。その大きなサイは20点。合計で35点でどうかな?

 私のは、草食動物が一頭5点で15点。ワニは10点。合計25点でどうかな?」


「いいよ~。私の勝ち~」

「ユッカちゃん、凄いね~。じゃぁ、今度は受験者に狩りしてもらって、その間に私たちは調理できるお肉に捌いちゃおうか」


「うんうん!」


 と、ユッカちゃんと私が和やかに獲物を見せ合って、勝敗を決めていたんだけども……。

 

 受験生達が反応無いのね。

 いや、チョットは感心するとか、拍手するとか無いの?

 疲れちゃって、よく見てなかった?


 なんか、少しイラっとするね……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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