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7-07.試験1日目(2)

 と、休憩して食料や水を配布していると、食器が無いことが問題になり……。

 私が配布している軽食の列に並んでいる受験者というか騎士団員の一人から質問が挙がった。


「あの……。ヒカリ様。こちらはどのように取り分けて頂けば良いでしょうか?」

「簡易食糧だから、パンで一切れの肉を挟んで、それを素手すでで食べる」


素手すでですか?」

「水で手も洗ったでしょ?何か問題でも?」


「我々、元とは言え騎士団員ですので素手で食事をとることに慣れていない者もいます」

「うん?戦争で出陣したときの食料とかはどうしてたの?」


食器類カトラリーが食事と共に配布されておりました」

「今は無いから素手で。嫌なら食べ無くて良いよ。馬車が到着するまで待てないから、その辺りは自分たちで考えて」


「承知しました。ですが、あそこに座られている少女はお皿とフォークの様なもので召し上がっておりますが……」

「ラナちゃんは別格だからね。試験官だし。光で足元を照らしてくれてたでしょ?」


「ラナちゃんという方なのですね。神様か何かでしょうか?」

「神様じゃないけど、無礼の無いようにね」


「もう一つ、その……。

 『ラナちゃんが足元を照らしてくれた』

 とのことですが、大魔法使いの生まれ変わりのような存在でしょうか?」


「大魔法使いじゃないけど、余計なことを本人に尋ねて気分を害さないように気を付けてくださいね。居なくなったら帰りの夜道を照らす手段が無くなるよ」


「つまり、先ほどまで我々の足元をや視界を個別に100に人分を照らしてくれていた方という認識でよろしいでしょうか」

「うん。宜しいからとても大切に扱ってね」


「承知しました。食事の件とラナ様の件はそのように皆へ周知します」

「うん。宜しくね」


 まぁ、今の所普段の体力づくりを怠っていなければ、問題無くついてこれる内容だしね。そこで休憩があって水や食料が振舞われるのだから文句も出ないはず。

 サンドイッチは元々手で食べる様に開発された食事なのだから文句を言うのは筋違いだよ。サンドイッチが開発されていないから初めて見る食料としての質問だったことにしよう、そうしよう。


 さて、15分ぐらいの休憩と片づけを終えて残り30kmの走破に向けて再開だよ。

 と、今度は走り出す前にユッカちゃんから質問が。


「お姉ちゃん、みんな付いてきているから速度上げても良い?」

「良いよ。でも、全員が脱落すると私が面倒だから、様子見ながらでお願いね」」

「わかった~」


 何がどう分かったかは私には分からないけど、先頭はユッカちゃんとラナちゃんに任せたまま再出発。リサは私の肩の上に載せたまま継続して走るよ。


 さっきまでのが軽いジョギングのようなペースだとしたら、今度は地域のマラソン大会とか小学生の持久走ぐらいのペース。時速15kmぐらいになってるね。このペースだと残り2時間で到着するかな?


 と、流石にこのペースが続くと列が縦長にばらけ始めた。

 一応は長い列の塊にはなっているけれど、一人一人の間隔がひろがってきて、100人が50mぐらいの距離にちらばっている。

 でも、まだ落ちこぼれは居ない感じかな?


 1時間が経過したところで、2回目の休憩のためにユッカちゃんが静止の合図。

 そこから皆で休憩して水と簡易食糧の補給。

 今度もラナちゃんはランチプレートに果物とお菓子を盛ってあるものを食べてる。


 で、1回目の休憩のときに質問をしてきた人と同じ人が、また私に質問をしてきた。毎回同じ人になるね。何かそうい係の人でも決まっているのかな?


「ヒカリ様、少々宜しいでしょうか?」

「うん。なに?

 ところでさっきも質問してくれたよね。貴方の名前と騎士団での役割を教えてくれますか?」


「カシム殿の副隊長を務めておりましたズィーベンと申します」

「ズィーベンさんね。これから機会があればよろしくね。

 それで、貴方の質問は何?」


「皆が一丸となって行動できております。

 実はこれは試験ではなくて、これから軍事行動を起こす秘密裏の準備行動なのでしょうか?」


「ううん。全然。というか私が本気出して走らないように制限掛けてる。

 皆が余裕なら最後の15kmは全力で走っても良いよ?」


「全力……ですか?」

「単語が分かり難かったかな。

 本気で振り切る気で目的地まで最速で移動するっていえば理解してもらえるかな?」


「試験官とされている、ユッカ様、ラナ様、ヒカリ様、そしてリサ様は本気を出されていないのですか?」

「え?」


「あ、いや。驚いているのはこちらですが……」

「いや、こっちも本気出してると思われていてびっくりだよ。

 だって、カシムさんの副官だったなら、エスティア王国で制圧に失敗して模擬戦でも負けたときのこと覚えているんじゃないの?」


「え?」

「いやいや、驚いて確認の質問をしているのはこっちだよ」


「約2年前のエスティア王国での模擬戦のことは極秘事項のはずですが?」

「極秘っていうか、ユッカちゃんは参戦してるし、私は全体を観てたよ」


「ヒカリ様とユッカ様は領主の館に滞在されていましたよね。

 そこでカシム様から制圧完了の報告を受けていたはずです」

「そのあと、貴方たちは飛竜さんに連れられて、模擬戦会場へ移動させられたよね」


「え?」

「『え』じゃなくてさ。誰が連れて行ったのさ?」


「いや……。大魔法使い……。例えばラナ様でしょうか?」

「ラナちゃんは大魔法使いじゃないし、関与して貰っていません。

 飛竜の会話できる人にお願いして連れて行ってもらいました」


「あの……」

「なに?」


「ヒカリ様は、メイドでリチャード殿下に見初められてご結婚されたのですよね?」

「半分は。私もリチャードが良い人だと思っていたから一方的な話では無いよ」


「ここに居るヒカリ様と同一人物でしょうか。あるいはどちらかが影武者なのでしょうか。噂に聞いている話と、私の目の前でお話をされているヒカリ様では話が違い過ぎます」

「カシムさんとかユッカちゃんから何も聞いてないの?」


「伺っている話ですと……。


 『メイド長の推薦によりヒカリというメイドがリチャード殿下に見初みそめられた。

 ヒカリ様が平民のままでは王子殿下とご結婚できないため、無理やりに伯爵の称号を得るために他種族の支援を取り付けて多大な成果を達成した。

 伯爵の称号を得ることが出来たので、めでたくリチャード殿下とヒカリ様がご結婚の儀が無事に執り行われた。ヒカリ様がメイド出身の平民ではあるものの、エスティア王国へもたらした多大な成果があるので、ヒカリ様へ文句を言う人は居ない』


 ということになります。

 ですが、今朝から試験官として我々と共に行動されている目の前のヒカリ様はメイドなのでしょうか?」


「先ず、ズィーベンさんが聞いている話は合ってる。

 次に、私はエスティア王国ではメイドだよ。サンマール王国でもA級冒険者登録証を所持してるのでメイドが出来るよ。

 他に何かある?」


「噂の凄腕A級冒険者メイドですか?

 ですが、それではエスティア王国で伺っている話と合致しませんね……」

「え?」


「あ、いや。サンマール王国に滞在中のヒカリ様が影武者では無いとすると、エスティア王国で噂されているヒカリ様の人物像と矛盾が生じますね」

「それは不味いね。どうしよう……」


「何が不味いのですか?」

「私が気が付いてない所で矛盾が生じていて、不味いことが起こる気がする。抹殺して隠蔽する?」


「今のは独り言でしょうか?そして抹殺される人に私も含まれてますよね……」

「隠蔽できれば、抹殺する必要は無くなるんだけど……」


「ヒカリ様が何らかの伝手つてを利用して、実力もなくA級冒険者登録証を手に入れた可能性はございませんか?」

「ちゃんとした試験をしてないけれど、クレオさんと一緒に合格したっていうのはあるね」


「つまり、ギルドマスターのコネを利用して無試験だったということですかね?」

「全部じゃないけど、裏話があって、『資格頂戴』っていう話の流れにはなったと思うよ」


「つまり、実力はA級冒険者ではないけれど資格を持つメイドでいらっしゃる。その様にヒカリ様のサンマール王国での噂を上書きすれば、エスティア王国の噂と不一致が起きている問題が無くなりますかね?」

「それをすると別の問題が出てくる」


「別の問題ですか?」

「私に実力が無いと分かると襲われて罠に嵌められたり監禁されたりする」


「王太子妃のヒカリ様を監禁するのですか?」

「あ、馬車に監禁された事件は内緒。噂が広まると色々な人が処刑されるよ」


「ヒカリ様、私はヒカリ様との会話は全く知らなかったことにして、試験を放棄しても宜しいでしょうか?」

「え?」


「『サンマール王国で監禁された事実を隠蔽し、予防のためにA級冒険者証を手に入れた』ということになりますよね?」

「冒険者の資格を入手するきっかけは、監禁よりも罠に嵌められた方が重要だったかも」


「……」

「質問は終わり?」


「そうしますと……。


 『ヒカリ様はメイドであり、簡単に監禁されたり、罠に嵌められてしまう程度の実力なのは、エスティア王国でもサンマール王国でも同じ』


 ということで宜しいでしょうか?

 

 『ただし、サンマール王国で監禁された事実は秘匿されるべきだし、その代償として予防のためにA級冒険者証が発行されているので、A級冒険者登録証を持つヒカリ様に何かがあると国際問題に発展するし、事件が発覚すれば事件を起こした一族が根絶やしになるという』


 その様な噂の修正で宜しいですかね?」


「あ、それだと良いのかも?」


「少し安心しました。

 ヒカリ様がラナ様のような大魔法使いであったり、ユッカ様の様に1個中隊編成相手に模擬戦で勝利を収めることの出来る人物でないと分かって良かったです。


 ところで、もう一つ疑問があるのですが……」


「うん?なんか矛盾があるなら聞いてね。頼りにしてるよ」


「そのですね……。


 今回の試験に参加している半数がサンマール王国の騎士団員についてです。彼らは我々同様にヒカリ様に関わる何かに抵触したことにより身分を剥奪されたということでしょうか。


 当然、我々が犯罪奴隷の身分に落とされていることを彼らは知りませんし、我々も彼らがどのような経緯で共に試験を受けているのか存じ上げません」


「あ~。監禁されたことが直接の原因ではないけれど、そのときの事件の顛末てんまつがきっかけかな」


「あ、あ、あ、あの……。その話は私が聞いても大丈夫な話でしょうか?」

「なんで?質問したのはズィーベンさんでしょ?」


「ヒカリ様は王太子妃としてサンマール王国を訪問されているのですよね?」

「王族に接待されるような公式の場では名ばかりの王太子妃で新婚旅行に来ているけど、普段は一般の旅人が観光しているだけだね」


「あの、そうしますと……。

 『お金持っていそうな、隙だらけの旅人がさらわれて監禁される』

 といった状況に遭遇しませんかね?」


「攫われそうになったのは依頼中の出来事。

 監禁されたのは宿泊拠点が襲撃されて、猿轡と目隠しをされて、後ろ手に手足をに縛らてて、馬車の荷台に閉じ込められた感じだね。

 たから私が王太子妃であることとは関係ないし、旅人の格好とも関係ないね」


「すみません。護衛はいらっしゃらなかったのですか?」

「いたから無事なんでしょ?」


「つまりは、誘拐も監禁も未遂で終わったということですね?」

「まぁ、どうでもいいよ……」


 と、ズィーベンさんとの会話が面倒になってきたところでユッカちゃんから声が掛かった。


「おねえちゃん、もう出発しても良い?みんな待ってる」

「あ、ユッカちゃんごめん。出発しよう。

 ズィーベンさん、気づきを色々ありがとう。試験が無事に合格できることをお祈りします」


 エスティア王国での情報統制とサンマール王国での情報に矛盾が生じるところだったけれど、ズィーベンさんとの対話で未然に防げそう。感謝だね。

 彼が試験に合格したらリーダーとして役に立ってもらおう!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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