7-05.軍団をまとめよう(3)
<<ユッカちゃん、今念話で話しかけても大丈夫?>>
<<大丈夫~。今日も緊急お茶会?>>
<<ううん。ユッカちゃんに手伝って欲しいことがあるの>>
<<飛竜さんを助けに行ったり、クジラ捕ったり、迷宮に潜ったり?>>
<<う~~~ん……。もっと、地味で詰まらないかも?>>
<<お姉ちゃんらしくないね……>>
<<あ、でも、ユッカちゃんのためでもあるよ。
ユッカちゃんが率いる騎士団員さん達に仕事を与えることだし>>
<<お姉ちゃんがリチャードさんの代わりに指揮をするんでしょ?
ちょっと、カッコイイ!>>
<<う~~~ん、ちょっと違う。
仕事を割り振る前に、適性を確認することから始めるのね。
例えば、万事屋の試験とか、ナポルで許可証を貰ったときの試験とか、ああいう感じ>>
<<ヒカリお姉ちゃんはなんでも合格!>>
<<あ、いや、私のことは置いておいて……。
今度は私とユッカちゃんでその試験をして、合格者を選びたいの。
合格した人には高度な責任ある仕事をしてもらって、不合格な人には簡単なことをしてもらおうと思う>>
<<う~~~ん。合格した人がいっぱい仕事をして、不合格な人が楽できるの?>>
<<ああ……。う~~ん……。
『出来ない人に頼んでも上手く行かないから出来る人に頼む。でも、お金もいっぱいあげる』
『出来ない人には、それなりの仕事をしてもらって、その分お金も少しだけあげる』
そういう風に仕事と賃金を割り振りたいの。
そのための能力を確認する試験をしたいの>>
<<『働かざる者、食うべからず』>>
<<うんうん。端的に言えばそれなんだけど。
今回は私が直接指揮を執らなくても、リーダーがチームを率いて成果を出す仕組みを作りたいのね。
例えば、ニーニャがドワーフ族を率いていろいろなチームに仕事をさせたり、エイサンが海人族を率いてサンマール王国の砂糖工場やメルマの街の乾物工場を運営してくれてたり。獣人族のレミさんが毛織物の繊維の調達とかしてくれてるのもあるね。
あんな感じ>>
<<お姉ちゃんは、今度は何をするの?>>
<<運河づくり、上級迷宮から収集品を効率良く集める仕組みが新しい事業かな。
あとは、カカオやコーヒーの木の農園整備したり、街道を整備したり、農産物を加工品にすることかな>>
<<人によって、向き不向きがあると思う>>
<<ユッカちゃん、その通りなんだよ。
だからその向き不向きを判断したいのね。
それと、そのまとめ役であるリーダーには全体を把握してもらう必要もあるしね>>
<<お姉ちゃん、ちょっと面白そう>>
<<え?何が?>>
<<お姉ちゃんが考えている『人を調べる試験』が面白そう。
それをすると、誰が何の仕事に向いているか判るんでしょ?>>
<<あ~。そこまで万能では無いけれど、リーダー、体力、知識の3タイプには分けたいと思う。そういう試験をするつもり。
それをユッカちゃんに手伝って貰いたいの>>
<<いいよ~。ステラさんに言ってくる。お姉ちゃんのところに飛んでいくね>>
って、念話が切れた。
もう一度話しかければ良いんだけど、ユッカちゃんの意識が飛んでるから、無理に話しかけても仕方なし。
とりあえず、ユッカちゃんが興味を持って手伝ってくれることにはなったから、ユッカちゃんが来るまで他の準備を進めようかな?
ーーー
ニーニャは辺りに居なかったので、言付けする用事が終わったらしいトレモロさんを見つけて話しかけてみるよ。
「トレモロさん、ユッカちゃんには来てもらえることになりました。
あとは、騎士団員の方達に試験をすることを通達することとか、名簿や試験結果をメモする用紙を準備しようかとおもってます」
「ヒカリ様、ご提案申し上げても宜しいでしょうか?」
「はいはい。何でもお願いします」
「ハピカ殿に羊皮紙を数百枚用意するように依頼をかけました。今日中ですと、金貨50枚程度で調達いただけるとのことです。
次に、冒険者ギルドのマスターに人材派遣をお願いしました。馬車を操縦できて仮の支援が出来れば良い人物を3名。それと10人乗りの馬車を3台も3日間借りて頂くことにしました。これが3日間の料金で金貨30枚。
そして、コウとカイに雑務全般で支援をするように、船に呼びに行かせました。ヒカリ様の護衛や調理補助、海での漁の際には少なからず支援できるかと思います。
ここまでの手筈で何か問題はございますでしょうか」
「無いです。
ところで馬車3台は何に使うのですか?よく考えたら脱落者の回収を考えていなかったけれど、その準備をしてくれてますか?」
「ヒカリ様、脱落者が30人も出るのですか?
私は狩りの装備や300人分の簡易食糧や水の運搬を想定しておりましたが……」
「300人も試験をするのだから……。半分以上は不合格だと思うけど?」
「ヒカリ様?」
「うん?」
「片道40kmは譲れない距離ですか?」
「身体強化すればいけるでしょ。それくらい出来ないと上級迷宮に潜れないよ?」
「わかりました。試験内容を説明するとともに、『上級迷宮に潜れる程度の戦力』を最低ラインとして試験を実施することを告知することにします。
受験前から不適合と自己申告してきた者たちはどうしましょうか?」
「あ~~。するまえから不合格と分かっている人の試験をしたら時間も食料も勿体ないね。ただし、事務作業で役立つ人がいるかもしれないから、そこは別の試験をすることも通達しておいてね。
体力試験を辞退して、筆記試験にも能力を見いだせなかった人は……。
半分は農園の整備。ナーシャさんかユーフラテスさんに言って使って貰って。
残りの半分は街道の整備。ニーニャに言って、ドワーフ族の指揮下の入って貰って。
これでどうかな?」
「承知しました。受験拒否の者の待遇はそのように通達します。
ところで、食料や狩りの準備はどうされますか?
ヒカリ様が人数分を準備されるのでしょうか?」
「麦とか米、煮炊き用の鍋、水なんかは私が用意してもいいけど……。
奴隷さんたちは狩りをする武器とか防具って持ってるの?
持参していれば自分にあった武具を使って貰っていいけれど、犯罪奴隷に落とされるタイミングで装備品を回収されちゃったりしていないかな?」
「サンマール王国の元騎士団員達は自前で装備を用意していまして、それを徴収されることは無かったようです。ですので各自が最低限の騎士団の装備は所持していると見做して良いです。
ですが、その騎士団の装備が果たして遠距離移動や狩りに向いているかと問われますと、ちょっと難しいかもしれません」
「うん?狩人用の装備を全員分用意する必要があるっていうこと?」
「そうかもしれませんね……」
「う~~~~~~ん……。
うん~~~~~。
んん~~~。
どうしよう……」
「ヒカリ様、単なる思い付きで恐縮ですが、先日ニーニャ様よりご案内いただきました、上級迷宮での収集品を貸与するのは如何でしょうか?試験名簿と共に貸与した武具を控えておけば管理上は問題無いかと思われます。
それに武器屋に突然300人分の丁度良い狩りの武具を準備させても間に合わない可能性が高いです。
如何でしょうか?」
「あ~~。いいかも?
アジャニアでやったときみたいに、貸与する武具に所有者の印を付けておいて、紛失した場合に追跡出来るようにしておいた方がいいね。紛失したと申告があったけれど、実は転売されていたとか、そういうのは避けたい」
「承知しました。ニーニャ様に言付けをして、高価な物を除いた汎用品を冒険者ギルドの応援部隊に馬車で運び込ませるようにします」
「他に何か準備することはあるかな?」
「羊皮紙が到着してからになりますが、名簿と背番号となる名札の作成。あとは試験結果を記録する用紙を準備することでしょうか。
念のためお伺いしますが、3日間300人分の食料の当てはあるのでしょうか?」
「美味しい料理とかに拘らなければ、狩りした獲物を食べれば良いんじゃないの?私も最初のころはユッカちゃんが色々な獲物を捌いて調理してくれた物を食べたし」
「ええと、その……。獲物が300人分確保できる前提なのですね?」
「え?」
「40kmを走破して、そこで狩りに成功しないと食事にありつけない訳ですよね?」
「いや?
散歩して、そこらの獣を索敵して、捕まえてくるだけでしょ?
確かに獣人族やステラ達みたいに、美しく獲物を捌いて調理するのは難しいだろうし、内臓なんかも癖があるから臭う場合もあるけどさ?
なんか変かな?」
「それも試験の範囲に明示しておくことにします」
「トレモロさん、な、な、なんかさ?私は不安になってきたよ?」
「ヒカリ様、私もアジャニアへ大航海に向かうときと同じぐらい不安になってきております」
「エスティア王国からきている上皇様の騎士団員達はユッカちゃんの名前を出せばなんとかなるよ。たぶん。
サンマール王国の犯罪奴隷に落とされた騎士団員達がどういう反応するかだろうねぇ……」
「ヒカリ様、先ずはヒカリ様の意向に沿った試験内容を実施することを通達して、その試験に応募する人としない人では、割り当てられる職務や報酬が変わることを説明します。
その上で、試験参加者人数が決まり次第、具体的な準備や修正を加えるのは如何でしょうか?」
「うん、ま、そっか。そうだね。それでいこう!」
まぁ、確かにね。
私は全員試験に参加してもらうつもりだったけれど、奴隷という身分を運命として受け入れている人からしたら、やる気も何もないかもしれないしね。
そんな人たちに無理に試験を受けて貰ってもお互いに無駄だよね。
よし!明日から試験だね!
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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