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7-03.軍団をまとめよう(1)

 マリア様の屋敷から王都の城外にある開拓拠点がある場所まで、トレモロさんとニーニャと私が馬車に同乗して移動することになった。


「トレモロ様、ニーニャ様、私の無知を承知でお伺いしたいのですが宜しいでしょうか」

 と、私が敬称を付けて声を掛けると、馬車の向かい合わせに座る二人が神妙な面持ちで私の方へ顔を向ける。特に拒絶も意見もなさそうだからこのまま話を続けてみよう。



「そのですね。

 先ほどリチャードとの会話をお聞きになっていたと思いますが、国防を司る軍隊の指揮系統や人事制度はどのように構成されてるのでしょうか?」


 と、私の問いかけに対して直ぐに姿勢を正してトレモロさんから説明が始まった。


「ヒカリ様、それは規模に依りますかと。


 例えば小さな村の防衛要員であれば、その村の顔役が候補を任命して、当番制又は輪番制で警備に当たるのですね。指揮系統は顔役や村長が権限を持ち、その人件費は当番制になるで村を構成する家族から自費で提供されます。ただし、その分祭事での供用する供物が免除されるなどの軽減措置が行われるのが普通ですね。

 まぁ、村長やそこの顔役の独裁制ですので、ルールなどあって無い様なものです。


 次に国という規模として最低100人以上の国が所有する軍隊がある場合を考えるとします。この場合、人族の多くでは騎士団という形をとりまして、国が所有者になります。王制の国家であれば国王が最高責任者ではありますが、100人規模の騎士団員全員の面倒をみたり、戦地での指揮を執ることは普通は行いません。専門の軍部としての指揮官を立て、その指揮官に委任する形となります。


 つまり、先ほどのリチャード殿下とヒカリ様の会話から推察するに、『国を統べる地位を継ぐべき人なのに、何故騎士団員を統括することが出来ないのだろう』というヒカリ様の疑問は、ヒカリ様からすると当たり前の疑問ですが、リチャード殿下からすれば指揮する必要が無いため、考慮するべき事柄では無いこととなります。


 なんとなく、お答えになりましたでしょうか」


「トレモロ様ご丁寧にありがとうございます。ニーニャ様のご意見は如何でしょうか?」


「ヒカリ様、トレモロ・メディチ卿のご説明の通りかと思います。

 ただし、軍部の様な使い捨てのコマとしての人員編成と、工房を持ちそこで技能伝承を必要とするような人材育成の場では考え方が異なります。


 『その人員を育成して活用していくのか。それとも戦争での使い捨てのコマとして考えているのか』どちらを目指しているかにより、それぞれ別の回答が必要になる可能性がございます」


「なるほど……。お二人ともありがとうございます」


 そっか……。

 使い捨てのコマとしての有効期限付きであれば、生き延びるための自覚や力量は本人の意識に依存することが大きい。

 だったら、『言われたことをヤレ』っていう、リチャードの指揮の取り方は効率も良いし、理に適った考え方になるね。


 私が勘違いしていたよ……。

 この世界では命の価値が非常に低いんだった……。

 多産多死型の社会なのだから、『人を育成する』なんて考え方は非効率で勿体ない……。


 どうしよっかな……。

 私は現代日本で育ったせいなのか人を使い捨てのコマとしえ考えられないよ……。

 でも、王国の騎士団員から犯罪奴隷として身分を落とされた立場としてみれば、死を恐れない人材が今度は目的も無く使い回されるとなると、やる気も成長も無いだろうね……。

 これは何か考えないと……。


「トレモロ様、ニーニャ様、犯罪奴隷に身分を落とされた騎士団員たちのやる気を出させて成長を促す様な方策はありますでしょうか?」


 と、私の次の問いかけに対しても、トレモロさんから即座に次の説明が始まった。


「ヒカリ様、国所有の騎士団員成れるということは、その時点で優秀な人材である可能性が高いですし、その団員たちもそのことに誇りを持っているはずです。

 ただし、一部の家督とコネを利用した親の七光りによって騎士団員の身分を保証された者もいるかもしれませんので、そこの篩い分けは必要かもしれません。


 今回の経緯を伺っているところに拠りますと、『上司の命令のままに行動した結果として犯罪者として責任を取らされて犯罪奴隷の身分に落ちた』と、考えている者たちが多いと思われます。その落差たるや相当なものがあるでしょう。


 まして、事件の敵側とも見なせるエスティア王国側人物の下で暮らすとなると、単に落胆するだけでなく、自暴自棄になって自害したり、破滅を恐れずにあるじへ歯向かう恐れもございます。


 そのような状況下にありますと、素直にヒカリ様の意図を汲んで行動頂ける様になるのは困難かもしれません。そういった意味でリチャード殿下の様に、使い捨ての人材として、人手不足の場所へ人を提供するという考え方は、不要な干渉をせずに済み、安全で的を射た指揮の仕方と言えます」


「じゃぁ、私が篩にかけて、人材の選別をする。


 1.危険で使えない人は迷宮に送ってただ働き。

 2.危険じゃないけど、体力が有って頭の悪い人は港、街道、農園の整備。

 3.頭が良いけど、体力が少し足りない人は、設計、規則作り、種族間交流。

 4.意思も、知性も、体力もある人は指揮官として育てる。


 こんな感じで進めても大丈夫でしょうか?」


 ニーニャは、『ヒカリが面倒なことを考えてるけど、私は手伝わないぞ』って、私から目を反らして会話を回避している。

 トレモロさんは私の話を真面目に受け止めた上で、驚きと緊張を隠せない感じ。


「ヒカリ様、あの……。

 ナポルの町で実施しているような万事屋よろずやの許可証発行のために行っているようなテストを実施するのでしょうか?」


「流石はトレモロさんです。

 あんな感じで試験をして、さっき言ったような人選をしてしまって、早くチーム編成してしまえば良いかなって」


「ヒカリ様、少々宜しいでしょうか。

 私の少ない経験ではありますが、試験監督官の知識や技能、体力も問われます。100人以上の騎士団員達を試験をするとなると相当な時間が掛かります。


 また、サンマール王国に居た者と北の大陸から連れてきた者へ同じ試験を課する場合には、地の利や知識の差が生じてしまい、不公平な試験となり後々禍根を残すおそれもあります。


 試験で篩い分けをすることに反対はございません。試験方法などの支援が必要であれば私も微力ながらご一緒に考えますし、試験官が不足する様であれば、うちのコウやカイを活用頂いても構いません。


 如何でしょうか?」


「ん~~~~。ユッカちゃんと私で大丈夫かな。ユッカちゃんを2、3日借りたい」


「ヒカリ、私は良いんだぞ」と、ニーニャが即答。

「ヒカリ様、差支えなければ簡単に試験方法を伺っても宜しいでしょうか?」と、トレモロさん。


「ん~~~~。

 1日目は、走る。狩りする。帰って来る。狩りする。

 2日目は、チームに分けて、走る。狩りする。帰って来る。狩りする。

 3日目は、言語、忠誠心、知識、頭の回転の良さなんかを面談で確認する。

 とか、考えたよ」


「ヒカリ様、率直に申し上げても怒らないで頂けますでしょうか?」

「うん?」


「今までの話は一般論でございますので、ヒカリ様がどう受け止めようと構いません。

 ですが、これから申し上げることにつきましては、『ヒカリ様の意図に反する内容であり、行動を抑制する内容が含まれる恐れがある』ということになります。

 そのような発言を許可いただけますでしょうか?」


「うん?私って、そんなに他の人の言うことを聞かないっけ?」


「ヒカリは偶にそういうところがあるんだぞ。

 というか、他人に任せずに自分で走りたいときは勝手にどこかに飛んでいくんだぞ。

 物理的にも障壁を乗越えて飛んでいるんだぞ」


「ニーニャ……。

 それは皆に迷惑を掛けないようにと思って……。

 簡単に結果が得られるならそうした方が良いかなって……」


「ヒカリ、トレモロ・メディチ卿はそのことを恐れているんだぞ」


「ニーニャ、ありがとう。

 トレモロ様、先ずお話をお伺いします。その上で勝手に飛び出したりはしないと誓います」


「承知いたしました。それでは幾つかの確認をさせてください。


 まず、ヒカリ様の試験内容を試験管理をする側として深読みすれば、おおよその意図を感じ取ることができます。


 ですが、ヒカリ様の立場で先ほどの試験を突然始めようとしても、試験を受けることすらしない輩が多数出るでしょう。

 また、試験に参加したとしても、適当に誤魔化したり本気を出さずに試験を終える人も多く出ることが想定されます。

 その試験実施の意図と取り組みの成果及び結果に対する不合格時の取り扱いを最初に宣言し、本気で試験に臨むことを伝える必要があると感じました。


 次に、初日の単独行動に対して、翌日はチーム編成で同様な内容を実施させると想定できます。ですが、チーム戦であるのか、チームの編成による不公平が試験の結果にどのように影響するかによっては、試験そのものを妨害したり、他のチームを妨害することで相対的な優位を勝ち取ろうと行動し、ヒカリ様の意図した試験内容にそぐわない試験結果となることを危惧いたします。

 そのため、『状況判断能力』『チームワーク力』等の特性を把握するためには、班編成の仕方と、そこから得られる結果について、ある程度取り決めをすることで、試験を前向きに取り組める内容とすることが望ましいと感じます。

 例えばですが、『初日の個人の記録と二日目のチーム記録を対比して、その平均値が

向上しているかどうかを試験の判断基準とする』といったルールを準備して提示することになります。


 最後に面談に関してですが、お二人だけが150人もの騎士団員と直接面談をするには、時間が掛かるのと、襲撃されたことの対応が懸念されます。

 それゆえ、一次審査として筆記式の課題を与えて書面上で特製をある程度篩に分けて、そのあと面談者の人数を絞り込むとともに、面談チームの人数を増やすことにより、迅速で有意義な結果が得られると感じました。


 如何でしょうか?」


「あ~~~。

 トレモロさん、参りました。その通りです。

 私の数少ない発言にも関わらず、3日間の試験の意図を読み取って頂けています。

 具体的に、試験方法と通達の仕方について一緒に考えて貰えますか?」


 うむ~~~。

 何も考えてなかった。

 トレモロさんはナポルの町で信頼されているのには理由があったんだろうね……。

 流石だよ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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