1-11.海賊退治(4)
「皆様すみません。私の判断した結果が今回の海賊事件を引き起こしたと考えます。皆様のお知恵を借りて、なんとか南の大陸と交易を再開させたいと思いますので、協力頂けますでしょうか」
交易は重要。ここを止めることは出来ない。
だって、トレモロさんとか、砂糖とか関係なく、土地ごとの役割分担ってのがある。それぞれの土地の利点を生かして、win-winの状況を作るためにお互いに交流しなくちゃ。
「ヒカリはどうしたいんだぞ?」と、ニーニャ。
「南の大陸と交易を続けたいです。
もし、人族の王国と交易が出来ないのであれば、他の種族でも構いません。他の種族との交易に必要な人脈は皆様の力を借りたいと思います」
「ふむ……」と、ニーニャ。
「ヒカリさん、あの……」と、ステラが何か言いたげな雰囲気。珍しいね。
「ステラはどんな意見?」
「エルフ族は定期的な交易に向いてないと思います。こちらに来てお世話になって分かるのですが、人族ほど勤勉ではないです。なので、ヒカリさんが求めるような品質や量を集めて、それを人族と定期的に交流する習慣がありません。
もちろん特産物はありますし、成り行き任せの不定期な交易は過去から行ってきています。ですが、自動織機だとか、農耕地を増やして生産性を上げるような話には関心が高まらないとおもいます」
「ヒカリ、ドワーフ族も似たようなもんなんだぞ。
というか、ここに連れてきたドワーフ族の働き方を見ていれば分かったと思うが、我々は農耕や採取には不向きな種族なんだぞ。鉱石の採掘や精錬は別だがエスティア王国のそういった技術レベルは人族の中でも高い方なんだぞ」と、ニーニャが続く。
そっか……。そもそもの考え方が違うってことね。
南の大陸に移住して、領地を確保して、独自の交易網を作った方が早いかな……。
「ヒカリさん、まさか、ここを離れて南の大陸に拠点を設けるとか考えてないわよね?」と、マリア様から私の考えを見透かしたかのようなコメントが出てくる。
「ヒカリ様、私も寡聞にして詳細は判りかねますが、南の大陸は種族間の争いが絶えないと聞きます。そのような状況で人族が新たな領地や国を確保したとなると、余計な争いの種になる可能性がございます。
であれば、不本意でしょうが、南の大陸で起きている種族間の争いにおいて、サンマール王国を優位な状況に支援し、恩を売ることです。そうなれば我々と友好的に、あるいはこちらの意にそった交易をしてくれるでしょう」と、モリス。
「ヒカリさん、駄目よ?『じゃ、ちょっと、他の種族を制圧してくる!』とかは。貴方はまだ子育てに専念しないと!」と、マリア様から考える間も無く釘を刺される。
「あ、はい……。
とすると、今、南の大陸まで自由に行けて、そこで足場を固めつつ種族間の争いを優位に進めてくれる人って……」と、私。
「フウマが家族を置いて出かけられるか。リチャードが貴方達家族を置いて出かけられるかね。レナードはロメリア王国の内政支援のために残しておかないと、旧国王派が結託して革命を起こされたら不味いわ。
あとは、私で良ければ貴方の騎士団と一緒に、サンマール王国に拠点を築いておいても良いわ。当然、上皇陛下と上皇后陛下の委任状を貰ってから向かえば海賊対策にもなるわね」と、マリア様。
うっ……。
そんなこと頼んでいいの?
マリア様は完璧だよ。その通りだと思うよ。
皇后陛下の誘拐教唆に関しても、きっちりと片付けて頂けた訳だし。
ただ、そんな2年も3年も王妃が王国を離れて良いの……?
「ヒカリさん。何か勘違いしてないかしら?」
と、マリア様が考え込む私を見て話を続ける。
「『海賊が出ました。
襲われた船のオーナーはエスティア王国在住です。
安定した交易路を確保するために、国が軍を出動させる』
これって、当たり前のことでしょう?
当然、エスティア王国はストレイア帝国を構成する王国なのだから、その海軍の出動に対して、上皇陛下が許可を出すもの当然でしょう?別に現皇帝陛下が委任状を出してくれても構わないけれど、どちらでも効力が一緒なら早い方がいいでしょ?」
あ、あれ……?
これって、ひょっとして、マリア様が海軍を率いてサンマール王国で暴れたいだけなんじゃないの?
いや、いいです。
王妃ですし、義母ですし、メイドさん達にはお世話になってますし、平民の私とリチャードの結婚も許可してくれました。なんでも好きにして頂いて結構です!
「ヒカリさんが考えているようだけれど、他の人の意見はあるかしら?特にフウマはシズクさんを置いて出かけられるのか良く考えた方がいいわ」
「マリア王妃、私のご家族へのお気遣い感謝します。
ですが、私はリチャード王子の護衛の任を仰せつかっております。また、王子からの依頼でヒカリ様の警護に当たっております。リチャード王子のご命令が変わらぬ限りは、それを継続したい所存であります」
「そう。だったら、私が行くべきかしら。
ヒカリさん、貴方の騎士団と隊長をお借りできるかしら。あと、貴方の船もだけれど」
「ぜ、全員でしょうか?」
と、私はあわてて返事する。
だって、念話や魔術が使える優秀な人たちだよ?ストレイア帝国から派遣されている騎士団員達に比べて能力の差が半端ない。そりゃ、身分として比べたら伯爵の私兵団だから、比べることすらおこがましいレベルだけどね。
「ヒカリさんの近衛騎士団の隊長は5人よね。
アイン、ドゥエ、サン、クワトロ、レミ
アインは元帝国騎士団の小隊長まで務めたそうよ。ヒルダさんと仲良くなってるようなので、邪魔をしたら可哀想ね。
ドゥエは盗賊団の親玉ね。今回の話に挙がった誘拐犯の強盗団のことも知っていたわ。そこの指揮をさせたいの。
サンさんは、帝都でアルバートさんと一緒に諜報活動をしてもらってるから外すわけにはいかないわ。
レミさんは獣人族の村を作りつつ、出産の準備で大事な時期だから。というか、もう、独立した種族の族長として暮らしていく状況よね。
だから、クワトロと、その隊員を借りたいの。良いかしら?」
「はい!」
いろいろ判らないことはある。私の隊長さん達って、元は奴隷だったのだけど、いろいろ仕事を一杯頼んでていて、ゆっくり身の上話を聞く時間が取れなかったんだよね。
クワトロさんが優秀なのは知ってる。でも、マリア様の説明では、なんでクワトロさんが奴隷になったのかは分からなかった。まぁ、いっか。
とにかく、上皇夫妻の身代わりの護衛をお願をしたときと同様に、今度は海賊退治のお願いをしよう。
ーーーー
今回のうちの夕食会で相談した結果をレイさんに念話で報告した。
レイさん側もかなり正確に状況が整理出来ていて、私たちと海賊の心当たりは一致していた。ただ、トレモロさん自身がこのことを公にして動くことも出来ないので、対策を立てにくく壁に当たっている状況だった様子。
荷揚げ中の他の中型船の様子や、残った荷の様子は判らないけれど、私の大型船は無傷。そして砂糖の樽も何個かは確保できていることが判った。
先ずは、ユッカちゃんにユッカちゃん専属の飛竜で砂糖の買い付けに行ってもらう。そこで、今回の海賊事件を『飛竜の念話』で知ることにした。
今度はその特別な手段で手に入れた海賊事件の情報をうちの領地の別荘に住んでいる本物の上皇陛下に伝えて、海賊退治の軍を出す任命書とサンマール王国で居留するための推薦状を書いてもらった。
「ヒカリさん、それじゃ先に行ってるわね。少なくとも、子供達ちが一人で歩けて、喋れるようになったら追いかけてらっしゃい。
できれば、ユッカちゃんの不思議なカバンか空飛ぶ円盤のどちらかは完成させて欲しいのだけど。
それと、南の大陸から取り寄せたいものがあったら、念話で何でも注文してくれて構わないわ。貴方の船にいくらでも積み込んであげるわ」
「ハイ!ご武運を!」
挨拶を終えて、元気な姿で飛竜にのるマリア様達を見送る。
なんか……。
子育てを終えたお母様達がちょっと羨ましいな……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
余裕がなくなったら週末1回のペースにさせて戴きます。
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