7-02.昼からの報告会(2)
移民の受け入れが進められそうなら、あとは各自の報告会になるね。
誰から始めようかな?
「移民の受け入れ方法が大体済んだみたいだけど……。
他に報告や共有したいことはありますか?」
と、お互いを見渡すだけで積極的に手を挙げる人が居ない。
う~ん、トレモロさんとマリア様の順番に声かけてみようかな?
「トレモロさん、何かご意見はございませんか?」
「あ、はい。
私に発言の機会を頂き恐縮です。
まず初めに、このような場に同席させて頂き感謝しています。
その上で、私が果たすべき役割を確認させて頂きたいかと思います。
1.サンマール王国の王姉殿下をストレイア帝国に迅速に送り届けること。
2.ストレイア帝国において、上級迷宮で収集した武具をオークションにかけて、金貨2万枚以上を入手すること。
3.獣人族の移民希望者をレミ殿へ引き継ぐ際に、経済学の基礎を教え込むこと。
4.コーヒー、カカオにつきましては、エルフ族との交易分が確保出来次第、ストレイア帝国の貴族に高値で販売するルートを確立すること。
こちら4点をお伺いしている状況です。
ヒカリ様所有の空飛ぶ卵が使えない状況ですので、王姉殿下を連れてナポルの港に帰着するには本日から3週間程度掛かると思われますが宜しいでしょうか?」
「う~ん。
トレモロさんへの頼みごとが随分と積みあがってまってすね。出港までに余裕があれば、港の建設についてもトレモロさん達の意見を聞けたらと思いました。
これらの件の依頼の対価としてお礼をしたいのですが、何かございますか?」
「港建設の件の打ち合わせにつきましても承知しました。ヒカリ様のご都合に合わせて打ち合わせに臨みます。
お礼に関しまして、このような場に招待戴けているだけで十分です」
「トレモロさん、ありがとう。
お礼に関しては……。私がトレモロさんの役に立てることはありますか?」
「え?いえ……。ヒカリ様がわたしのためになど……」
「本当に?私は何もお礼出来ないかな?」
「いや、そんな、勿体無いお言葉です」
「う~ん……。レイさん、何かない?わざわざ来てくれたわけだし」
「ヒカリ様、ヒカリ様がお元気で何よりです。
そして、トレモロは交易が趣味であり実益を兼ねているだけ。ヒカリ様が気になさる必要はございません。
獣人族のサマリの件は私たち獣人族の問題ですので、ヒカリ様には最低限の仲介をして頂けるだけで十分です。
ですが……」
「レイさん、『ですが……』なにかな?魔族の金貨ならある程度あるよ?」
「あっ。魔族の金貨は後で相談させて頂くかもしれません。
それよりも……」
「うん?」
「チョコレートを獣人族にも分けて頂くわけにはいきませんか?」
「シオンとアリアに聞いて。私はどれだけあるのか判らないよ。
それに、ここから北の大陸まで持って帰るにはチョコが融けちゃうよ?」
「そうですか……。それは残念です……」
何かレイさんが本当に残念そうだね……。
小型冷蔵庫みたいなものがあれば良いけど……。
魔石も印も必要だし、たかだかチョコレートのためにニーニャに作って貰うのもねぇ……。
どうしよっかな……。
「ヒカリ様、私が言うのもなんですが、ヒカリ様の船であれば冷蔵庫が備わっております。そこまでチョコレートを融かさずに運ぶことができれば、ナポルの港までなら冷やしたままでの運搬が可能と思います。
ナポルの港での荷揚げ後の保温方法が今のところなく、冷蔵庫の設備はエスティア王国内と、こちらのマリア様のお屋敷のみで実用化されていると伺っています」
「トレモロさんの家には冷蔵庫無いんでしたっけ?
とすると、宮廷魔術師辺りで氷の魔法を使える人を連れてこないと、船に備え付けの冷蔵庫から出せないよね……」
と、トレモロさんも私も問題が解決できずに攻めあぐねていると、ステラから声が掛かった。
「ヒカリさんさえ良ければ、私が鞄を作りますわ。
小型の物であれば専属化されていない物に幾つか残りがありますの。
どうかしら?」
「あ~。ステラ、そのアイデアは良いかも?
チョコレートサイズなら小さなカバンに入るしね……。
問題は『誰が持っていたら命の危険が無いか』だと思うよ」
「ヒカリさん、私が作る鞄は専属化して動作させますので、奪われても機能は発現しませんし、中身を取り出すことも出来ません。
ユッカちゃんの持つ伝説の鞄ですと持ち主を選ぶ形にはなりますが……」
「そっか。
ステラ、今なん個ぐらいある?
たぶんアリアも欲しいと思う」
「リサちゃんがお持ちの小型のでしたら3個。
クレオさんに差し上げた中型は残り1個。
ゴードンさんやヒカリ様がお持ちの大型の間口の物は残り0個ですわ。
如何いたしましょうか?」
「レイさんとアリアで良いかな?」
「ヒカリさん、わかりましたわ。後で専属化の処理をしてお渡ししておきます」
と、アリアとレイが涙滲ませて喜んでいるのだけど、そんな凄いこと?
その一方で、トレモロさんはともかく、スチュワートさんとリチャードがこっちを睨む。
なにさ?あんたたちも欲しいの?
「スチュワートさん、リチャード、何か用件がありますか?」
「「あ、あの……」」
二人で返事が被った。
何か言いたいことがあって、言葉に詰まっている雰囲気まで被った。
「一人ずつどうぞ。スチュワートさんからどうぞ」
「ヒカリ様、私にもその伝説の鞄を頂くことは可能でしょうか?」
「先ず、ステラが作ってくれないと。
あと、この鞄の存在が漏れると色々な人が死ぬんだけど?
その辺りの覚悟が出来ていれば、私からステラにお願いするよ」
「であれば、私からステラに頼みます。ヒカリ様の手を煩わせる必要はございません」
「スチュワート、何を言っているか判らないわ。
ヒカリさんの許可が無いと、例え鞄を作っても貴方に専属化しないわよ?」
「なっ……」
「スチュワートさんの覚悟が判らないから今度で良いよね。
リチャードは?」
「ヒカリの言う『覚悟』とは何だ?」と、リチャード。
「簡単に言えば、
『ばれない工夫』『ばれたら命にかかわる重大さの理解』
この2つが有れば良いよ」
「ほう……。リサにはそれが出来て、私にはそれが出来ないとでも?」
「リサには、その理解が済んだタイミングで渡したよ」
「なるほど。では、私にも『リサが理解したこと』と同じことを教えて欲しい」
「リサ、どうする?」
「お母様、アレをお父様に教えるのですか?危険すぎます!死にます!
お父様、鞄は諦めてください!」
リサが必死に止めるけど、今は私が無視する。
「クレオ、3日で上級迷宮に潜れる準備を整えて。同行者はクレオ、ナーシャ、リチャード、スチュワート、魔族一人。リサも同行したければ連れて行ってあげて。
ステラは私が持っている大口の鞄を大急ぎで1個作成をお願い。クレオさんに持って行ってもらう。
ニーニャ、魔族の一人には3日以内に空飛ぶ卵の操船方法を覚えて貰って、その後で上級迷宮の探索に同行してもらう。
マリア様とモリス、ユッカちゃんにはリチャードの指揮の引継ぎを3日間で済ませてください。
皆様良いですか?」
「お母様、私が同行するのは構いません。
ですが、お父様が可哀そうです。物を知らずに発言しただけなのです。許してあげてください」
「リサ、よく考えてよ?
罠の位置と罠の解除の仕方が載っている地図があって、
ナーシャさんの光の妖精が居て、
何回も上級迷宮に潜っているクレオさんが付き添っていて、
ステラの容量無制限の鞄があるから、水や食料か回収品の収集に問題が無いんだよ?
もし戦力の不足があればリサが手伝ってあげられるでしょ?」
「そ、それでも……。お父様は普通の人なんです……」
「リチャード、スチュワート様、貴方たちは普通の人なので、ステラに鞄を作って貰えるに値しない人物ということで諦めて貰えますか?」
「ヒカリ、幾つか質問があるが……。
先ず上級迷宮の最深部まで行くのであれば2週間以上は掛かるだろう。
私が不在の間の指揮はどうするんだ?全体の動きの中でヒカリの提案だけを優先して受け入れる訳にはいかない。私以外に同行者をあてがってくれるのは有り難いが、夫々の指揮しているチームでの仕事がある。
そこをどう考えているんだ?」
「もう、その時点でどうでもいいよね……。
リサ、リサの言う通り普通の人には無理だよね……」
「お母様、お父様は普通の人なんです。
私だってお母様と出会わなければ皆のことを優先的に考えます。
ですので、普通の人にお母様と同じことを要求することは諦めてください」
「あ! リサさ。でもさ。
クレオさんとナーシャさんが二人で普通の冒険家チームを率いて最深部のボス部屋まで行ってきたでしょ?
普通の人でもある程度は行けるはずだよ!」
「お母様の下に生まれる前の私は一個中隊の騎士団の補佐役を務めていました。ですが、一個中隊を率いてもあの迷宮をクリアすることは不可能でしょう。
普通では無理なのです。ナーシャ様や冒険者登録所でA級登録されている人たちが普通では無いのです」
「ヒカリ、リサ、ちょっと待て。
上級迷宮の中はきっと大変なんだろう。確かに私は不慣れかもしれない。だが、耐えれば皆についていけると思う。
だが、サンマール王国での指揮の話は違う。
ヒカリがA級冒険者の登録証を持っていて、私の妻であるという身分を明かしたとしても、サンマール王国から引き取った犯罪奴隷の騎士団員約30名を従わせるのには苦労するだろう。
そして、エスティア王国から続々と到着している元ストレイア帝国の騎士団員300名も同様だ。
そこの話をしているのだが?」
「リチャード、ストレイア帝国から派遣された騎士団員はユッカちゃんがいれば大丈夫だよ。サンマール王国から派遣されている犯罪奴隷の騎士団員は私が何とかするよ。
ドワーフ族の指揮はニーニャが手伝ってくれるし、交易関係はトレモロさんが手伝ってくれる。だから気にしないで」
「ヒカリ、そんな簡単な話では無いと思うが……」
「リチャードもそんな簡単な話では無いと思うよ?」
お互いに会話が噛み合わない。
しょうがないから、夫々が思うようにやるしかないよね。
「では皆様、全体の報告で共有すべきことが無ければ個別の打ち合わせに入りたいと思うのですが、宜しいでしょうか?」
全員から「ハイ」と、元気な肯定の声と頷く姿があった。
そして、やることが決まっている人はそれぞれに声を交わしながら部屋から出て行った。
ーーー
残されたのはリチャード、ニーニャ、そしてトレモロさん。
ニーニャとトレモロさんとは港建設の話をしないといけないから待っていてくれたんだと思う。でもリチャードは何だっけ?
「リチャード、準備は良いの?」
「ヒカリがそれを言うか。指揮の引継ぎはどうするつもりだ?
それが終われば直ぐにでも上級迷宮に潜る準備を始める」
「今日のリチャードの予定は?」
「今日の報告会の件が無ければ、街道建設に向けた宿泊所や資材置き場の建設の指揮だ」
「朝から今の時間まで、その指揮を受ける人達は何をしてるの?」
「待機するように指示を出してある」
「じゃ、今から行くから各班のリーダーは昼ご飯を済ませて待つように伝えて」
「国が取り纏めている正式な騎士団では無い。班編成もないし、リーダーも立ててない」
「どうするつもりだったの?」
「ドワーフ族の方達から必要な人員があれば、その都度人員を宛がう。
手が空い者は清掃や食事の仕入れ、食事の準備をしてもらっている」
「ま、待って。前回の護岸工事とか、ロメリアからの空気搬送システムの整備とかのときはどうしてたの?結婚の儀をしたお城も作って貰ったよね?」
「全体の指揮はしていた。だが、基本の班編成は既に終わっていたので、そのリーダーに指示を伝えるだけで十分だった。個別作業内容はドワーフ族やフウマがしていた」
「あぁ……。そう……」
「ヒカリ、これから顔合わせと指示を出しに行くぞ?」
「う~ん。私がリチャードの代行ってことで良いよね。リチャードはクレオさんの準備の手伝いをしてくれるかな」
「本当にヒカリはそれで良いのか?」
「うん、まぁ、こっちは何とかするよ。
トレモロさんとニーニャは一緒についてきてくれるかな。
現地まで馬車で移動しながら打ち合わせをしたい」
いや~~。なんていうか人事制度とか無いのかな?
騎士団はその団長を任命して、その団長が指揮すれば良いのかな?
う~~ん。
そうだとすると、兵站とが軍馬の整備ってだれがやってたの?
未開の地だと、道を拓くことも必要だったろうから、その都度の班編成と指揮を執らなきゃいけないのだろうし……。
リチャードはそういうことを学習する機会が無かっただけ?
それとも、その場の成り行きで、その場にいるメンバーが考えれば良いの?
でも、隣の領地で辺境を統治していたレナードさんは全体を観ていた感じがするんだけどねぇ……。
参考までに馬車の中でトレモロさんやニーニャに聞いてみようかな……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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