7-01.昼からの報告会(1)
何故朝から会議じゃないかって?
しょうがないじゃない……。
みんなが寝不足なんだもん……。
「お母様、もうお昼です。皆様がお待ちです」
優しくリサが声を掛けてくれて、相変わらず小さな手で私のほっぺったをペチペチと叩く。
久しぶりに自分のベッドで寝たね。
あと、種族間の交渉とかも無くて、ほっと一安心したのはある。
ついでに言うと……。
リチャードにいっぱい可愛がって貰って疲れたのもある。
ただ普通であれば、朝ごはんのタイミングで誰かが起こしてくれるのだけど、今日は昼まで誰も起こしてくれなかった。あんまり無いことだけど……。
ひょっとして、みんな何処かへ仕事に取り掛かっているのかな?
「お母様!」
さっきより、ペチペチ感が少し強まってリサが頬を叩く。
「あ、はいはい。リサ、起こしてくれてありがとう。起きます、起きます!」
「お母様、ハイは一回で良いのです」
「うん。わかった。で、みんなはどこに居るの?もう、出かけちゃった?」
「『皆様がお待ちです』と、最初に言いました」
「あ……。
え?皆が私を待つような、そんな緊急事態ってあったけ?」
「簡単にいえば、お母様以外の方達も夜遅くまで起きていたようです。
昨日はチョコレートを召し上がられて報告会がお開きになったので、
報告会をすべきと待機されているようです」
「リサは凄いね~」
「お母様、わたしのことはいいのです。皆様がお待ちなのです」
リサ……。
お母さんが褒めて、ちょっと照れてる?
なんか照れ隠しの様相を見せて私を急かすね。
「ありがとね。直ぐ行くよ」
ピュアと着替えを手早く済ませて、リサを抱え上げて昨日の食堂へと向かう。
すると、昨日のメンバーとほぼ同じ20人近くが集まっていた。
けども、なんだか……。
昼ごはん近い時間なんだけど……。
妙に疲れてそう……。
ひょっとして、私以上に疲れてる?
「皆様おはようございます。昨日は報告会を保留にしてすみませんでした。
チョコレートはお楽しみ頂けましたか?」
皆がお互いのパートナーの顔を見合わせる。
みんな、チョコではなくて、チョコの作用を楽しんだ訳ね……。
アリアが私を急かして解散させるわけだ……。
「あ、ええと……。
普通に体を動かして汗をかいたり、牛乳やヨーグルトなんかで中和されるという話もありますので、次回はそういった方法もお試しください。
それで、皆様が体調に問題が無ければ、昨日の続きを再開したいのですが」
返事も無く頷くだけ。
なんか反応が薄いんだけど、まいっか。
「移民の受け入れは、魔族2名、獣人族3名、ドワーフ族が3家族かな。
ここで何か質問とか問題とかある人は居ますか?」
と、ここでクレオさんから手が挙がる。
「ヒカリ様、当初は王都内の宿屋で短期的に受け入れて、その後はそれぞれの特技に合わせた職種に就いて頂こうと考えておりました。
ですが、昨日のサンマール王国の大臣達との話し合い結果を聞いたところによりますと、王都内で宿を取ることは難しいかもしれません。
一旦は、開拓拠点の傍にあるチョコレート工房に簡単な宿泊施設を設けて、そこで過ごして頂くのが良いと思います。
これは今日中に準備を整えます」
「クレオさん、ありがとう。
魔族の世話はリサがしてくれるよ。
獣人族との関係調整はレイにお願いしたい。
ドワーフ族の受け入れはニーニャが指揮して欲しい。
良いかな?」
と、ここでリチャードが手を挙げる。
「ヒカリ……。
流石にリサに魔族の相手をさせるのはどうかと思うぞ?
リサの前世の亡骸を回収してきたのだから、ヒカリも魂の転生を信じているのだろう?年齢とか性別以前の問題だと思うのだが」
「リサ、ダメ?」
「私が出来ることは少ないです。チョコレートを作ることも農園の管理も開拓の指揮も出来ません。
魔族の人と一緒に過ごすことが私の価値となるのでしたら私が対応します。
時間があるときには飛行訓練や、立ち合いをしても良いですか?」
「あ、うん。
あとは、法王とか、カジノとか、飛竜研究の話を聞いておいて欲しい。
概要が掴めたら魔族の国に向かったフウマに話の裏取りと整合を取って貰うよ」
「わかりました。大丈夫です。
クレオさん、アリア様やシオンが作業している工房と住居にする場所を後で教えてください」
リチャードよりもリサの方が覚悟を決めているというか、何というか……。
リサ自身が宣言をする以上は、魔族語が判らないリチャードが代わりをすることも出来ないし、自分がしなくちゃいけない開拓の指揮も止められないしね。
「ヒカリ、優先順位を確認したいんだぞ?」
と、次にニーニャが手を挙げた。
「ニーニャ、優先順位は何に関してだっけ?」
「色々あるんだぞ。
1.空飛ぶ卵の操縦方法の伝授
2.上級迷宮までの街道整備
3.上級迷宮の資源化
4.コーヒーやチョコレートの製造のための機材の整備
5.運河と港の作成
6.魔族との国境までの街道の整備
いつになったら、空気搬送システムや飛竜の力を借りて良いんだ?」
「う~ん……。
飛竜の力と空気搬送システムは、王姉殿下がストレイア帝国に戻って、ロメリアやエスティア王国に侵攻を開始するまでダメかな。
下手に技術や情報を提供すると、サンマール王国の技術としてストレイア帝国に接収されちゃうよ。
だから、暫くは神器と人海戦術を駆使した力業で進めるしか無いと思う。
魔族の国境までの街道整備は暫く不要な感じ。
だけど、空飛ぶ卵の操船技術は1~2週間で習得してもらいたい。昼間が無理なら夜でも良いから、ドワーフ族の人達の手の空いたタイミングで教えてあげて。リサの情報収集もあるから、そこは昼と夜とで時間を分けてつかって欲しいよ。
とすると、優先順位が高いのは、
1.空飛ぶ卵の操船技術を伝授すること
2.コーヒーやチョコレートの機材の作成
3.運河と港の作成
かな?コーヒーやチョコレートは試作機が上手く動いているなら、今回連れてきたドワーフ族の人に分担して作業して貰えば良いよ。
運河と港は水を一度避けないといけなくなるから、クロ先生に手伝って貰ったり、乾かすときにはルシャナさんやシルフに手伝って貰えば良いと思う。
あと、追加で、
4.靴の整備
が、あると良いと思った。
この先、リサや私が履いているいるような靴が無いと作業性が悪くなるだけじゃなくて、感染症とか皮膚病になりやすくなる。靴の中が乾燥していて滑りやすく無いだけで色々と変わると思う。
どうかな?」
「ヒカリ、分かったんだぞ。
魔族へ操縦方法を教えるのは私が面倒を見るんだぞ。
コーヒーの機材や靴は今回空飛ぶ卵を操縦してきた者に指揮を執らせる。
街道の整備の全体指揮はリチャード殿下にお願いしたい。技術的なサポートはこちらで対応する。
運河とか港は……。
ヒカリがイメージする物を我々とクロ先生の家族にヒカリが説明して欲しい。昨日の雑談だけではイメージがつかめない。
よろしく頼む」
「ニーニャ、ありがとう。そんな役割分担で進めよう。
運河と港の話は後で別の会議をすることになるね。
最後に、レイさんの方は問題無いかな?」
「ヒカリ様、昨日クレオさんにご案内頂いて獣人族のサマリと簡単に面談を済ませました。結論から言えば、トレモロと私と息子がナポルの町へ帰るタイミングで一緒に連れて行きます。そしてレミの所に預けてしまえば大丈夫です。
ですが、南の大陸の獣人族の村も魔族に搾取されているらしく、魔族との契約によって借金が積みあがってしまっているとのこと。このままサマリと一部の獣人だけが北の大陸へ移り住むことは、たとえヒカリ様の指示であっても不満が残る様でした。
そこの不満を解消できることが望ましいですが、かなり高額な借金を抱えている様でして、合理的な返済が出来ないとなると解決は難しいかもしれません」
「レイさん、一時的な解決にしかならないだろうけれど、もし借金を立替えるとしたら、その金額はいくらぐらい?」
「魔族の金貨で1000枚と聞いています」
「うん。それなら即金で支払えるね。だけど魔族からまた借金漬けにされちゃう方が問題なんだよね……」
「ヒカリ様、念のためですが、魔族の金貨は他種族の金貨との交換レートが1:100です。つまり、人族の金貨で支払おうとしますと、10万枚の金貨を準備する必要があり、そう簡単に準備できる額ではありませんが……」
「あ、うん。それなら余計大丈夫。
ちゃんと契約で縛られていて、契約書が残っているはずだから、そこを逆手にとって攻めればその借金は返済できるよ。
問題は継続的に借金漬けにされてしまう獣人族を魔族から解放する方法がね……。
レイさんから見て、サマリさんに経済学を教えればトレモロさんの助手になれそうなぐらいの賢さは有りそうだった?」
「そうですね……。
ヒカリ様のお眼鏡に適うかはサマリ次第だと思います。
レミのときも直接的にも間接的にもヒカリ様とお仲間の力添えがありまして、今のレミがあると思います。もしそのような機会を頂ければ、いずれはヒカリ様の役に立つ人材になるかと思います」
「そっか。なら、今度具体的に話を詰めようね」
よし、先ずは3種族の移民に関しては受け入れまでは上手く行きそうだね。
良い形で定着してくれれば、種族間のわだかまりも無くなっていくと思う。
魔族の話はおいておいて、南の大陸も種族間が良好な関係であると良いと思うんだよ。
チョコレートの開発と試食会ができましたので、一旦ここで章を区切らせていただきます