6-54.夕食会
さて、夕食会のメンバーと留守だった間の報告会は後回しだけども……
緊急お茶会メンバーが、そのまま夕食会へ席を移す様な流れになった。
当然、移動時間だけでは間が持たないから、お茶会で出したフワフワパンケーキの話とかコーヒーの話も雑談レベルでしておいたよ。
フワフワパンケーキは「極めて稀な職人芸」として提供していることとか、コーヒーは、「まだ流通経路に載ってない様な貴重な食材を使用している」なんて、希少性をアピールして情報を秘匿出来るように話をしておいた。
で、まぁ、皆が触りたくない魔族の話だとか、購入した土地にエスティア王国が主導で港を作るなんて話は避けていたし、こっそりと開拓中のコーヒー農園やカカオ農園、上級迷宮までの街道の敷設なんかも、サンマール王国の大臣達がいる前では誰も話題に出さなかった。
夕食会が始まって、珍しいとされるクリームソースのパスタとか、香辛料やハーブを利かせて、下処理も丁寧にした魚料理なんかも、話題に花を咲かせることに成功した。
皆が食材や料理に唸りつつ、「きっと料理人もメイドさんも素晴らしい方達なのでしょうね」とか、お褒めの言葉を頂いたよ。
と、ここでトレモロさんが悪気なく、メイドさんについての言及を始めた……。
「そういえば、私も到着したばかりで良く分からないのですが、最近になってA級冒険者に登録されたメイドさんが二人ほどいらっしゃると小耳にはさみました。
もし、ヒカリさんのご家族が王都から出て居住地を構えるとなると、そういった優れたメイドを雇い入れることが役立つと思えるのですが……」
と、そのA級冒険者のメイドの話を聞いて、冒険者ギルド等の利権発行をしている部門のジュリアン・ジューンさんが目を見開いてギョッとした反応を示した。
ひょっとして、冒険者ギルドマスターから、クレオさんと私がA級冒険者に登録したことと、そうなった背景まで含めて報告が行っているのかな?
だって、マリア様も私もクレオもこのことは口外してないし、大っぴらに話をすると、『他国の王太子妃が冒険者ギルドのメンバーに襲われた』何て事件に発展しちゃうからね……。
で、リチャードは私とクレオさんがA級冒険者に登録したことなんか聞いてないし、お酒も入っているのか、本当に家族のことを大事に思ってくれているのか、トレモロさんの話題に相乗りする。
「トレモロさん、その話は少し前に伺いましたね。そのときはヒカリが必要無い様な返答をさせて頂きました。
ですが、今日の魔族の受け入れの話からすると、何等かサンマール王国の住人達からの反感を買うことに備えて、護衛メイドを拡充することは良いアイデアと考えられます。再度、具体的に検討するのが良いですね」
マリア様は『余計な事言うな視線』をリチャードに送る。
念話で伝えても良いのだろうけど、念話は普段から使い慣れていないと、いきなりこういう場で念話で根回しは出来ないよね。
ジュリアン・ジューンさんは目を伏せたままで、話がこれ以上進むことを恐れて、この場での発言を求められない様に防御態勢に入っている。
一方、魔族の受け入れのためにマリア様の館から拠点を移すことを実行するために、何らかの支援が出来ないかと、A級冒険者メイドの話を初めて聞いた大臣達は賛成の意見を相次いで述べる。
や、やめて……。
余計な事を言うと、トレモロさんとリチャードが激怒するよ?
「あ、あの……。皆様のお気遣いにはとても感謝します。
ですが、クレオさんも居ますし、それほど大きなトラブルに見舞われるとは思えません。そうであれば、メイドの管理や雇用費も捻出する必要がありますので……」
私なりに、やんわりとこの話題を終結させようとしてみたものの……。
「でしたら、私が私的にその二人のメイドを雇用して、マリア様の新しい拠点へ派遣するように依頼を掛けましょう。そうすれば管理も雇用費も私が負担することになります」
と、ハピカさんも余計なこと気遣いをする!
わたしが苦笑いしながら黙って返事をしないのを見て、リチャードが漸く私の態度がおかしいことに気がついた。
「ヒカリ、何か不都合があるのか?メイドが増えたら子供たち慣れるまでの時間も掛かるし、言語や文化の違いもある。嫌な物は嫌と言えば良い。
だが、門番代わりに護衛として雇うのは良いかもしれないな。第二のクレオさんが誕生するのであれば、我々としても心強い」
だ~か~ら~~~~!
それは第二のクレオさんではなくて、クレオさん本人なの!
もう一人は私だから、私は既にメイドのお母さんとしても仕事をしてるわけでしょ?
もう、念話通してみようかな……。
<<リチャード!ちょっと!>>
「ヒカリ、なんだ?」
<<念話、念話!>>
「言いたいことがあるなら、言えば良い」
<<みんなの前で言えないから、念話なの!」
「うん?ひょっとして……」
「リチャード、皆様の前で一人で喋ってますが?」
と、念話に慣れてないリチャードに音声で話しかける。
<<ヒカリ、何で念話なんだ。不味くないか>>
って、なんで~~~?
なんで、こっちが音声に切り替えると、そっちが念話に切り替えるのさ!
こう、なんていうか、傍目にはコメディーだよ!
『お笑いヒロインと愉快な仲間たち』
って、吟遊詩人に語られる……。
<<皆の前で話が出来ないから、仕方なく念話なの!
何で気が付かずに喋っちゃうかな……。
適当に誤魔化してよ……>>
「ああ……。すまない。
少し考えごとをしていた……。
独り言がででしまい、申し訳ない……」
普段のリチャードらしくない、煮え切らない発言になってしまう。
私が念話を通したから混乱させちゃったね……。
でも、あのまま放置しておくのも不味かったからさ?
「リチャード。
子供たちもクレオさんには慣れてきていますが、新しく来られる方との相性があるかもしれません。
それに、魔族の方が新しい拠点に住んでいることになりますので、そのメイドさん達からの嫌悪感や情報漏洩のリスクを考えますと、暫くは今のメンバーのままで対応を進めることが良いと思います。
如何でしょうか?」
スラスラと口上を述べた私に対して、「確かにそうかもしれない」なんて雰囲気を醸し出すことができたので、一応は保留になったけれども……。
「では、今度私が直接冒険者ギルドに出向いて、その新規に登録された者たちと面談をするのが良いかも知れないですね」
と、リチャードがこの話題に終止符を打つ。
ま、まぁ、良いんじゃない?
いつでも面談できるし……。
それよりも一旦この場を〆て本来の報告会をしたいんだけどさ……?
この後、サンマール王国の冷え冷えのフルーツ盛り合わせと、ステラのハーブティー、フレッシュジュース何かを食後のデザートに提供して、今日の所はお開きにした。
チョコレートのお披露目は二次会に持ち越しだよ!
ーーー
と、円満な形でサンマール王国の大臣や関係者を送り出して、後から合流したニーニャ、レイさん、クレオさんを巻き込みつつ、本来の夕食会メンバーでの報告会が始まったよ。
「ヒカリ、二次会とは何だ?」
「いわゆる、報告会です」
「明日では駄目なのか?」
「皆様、日中はお忙しいことと、情報共有することで明日の予定が変わる場合がありますので」
「そういう報告は書面にまとめて提出すれば、後々齟齬が無くなるだろう?」
「記録に残した方が良い情報と残さなくても良い情報があるから、最初は口頭でも良いと思うよ。
色々な人の意見も同時に確認して、行動を決めることが出来る利点もあるし。
最後に決まったことに対して、背景と決定に至る経緯と、計画をまとめて残しておけば良いよ」
「ま、まぁ、分かった。ヒカリに任せる。だが、メイドの採用の件は議題に盛り込んでおいて欲しい」
「あ、うん。分かった。時間があればそこも報告内容に追加しようね。
大きな題目として……
1.農園開拓と上級迷宮への街道づくりチームの話
2.チョコレート試作とコーヒーの量産化チームの話
3.ドワーフ族への支援要請の話
この3つがあると思うけど、追加の話題はありますか?」
「お母様、魔族の移民の話が抜けています」
「おかあさん、チョコレートの試食を皆様が集まっているタイミングでお願いしたいです」
「ヒカリ様、獣人族の移民につきましても議題に挙げて欲しいですわ」
「ヒカリ、魔族に空飛ぶ卵の操縦をさせる話はどこに入るんだ?」
「ヒカリ様、開墾の際して世界樹の苗が非常に役に立ちます。可能な範囲で残りの世界樹の種を提供頂けませんか?」
「ヒカリさん、街道の他にも運河と港を造成するのでしょう?全体のイメージを設計に担うドワーフ族の方達へ説明して欲しいわ」
「ヒカリ、メイドの話は何処へ行った?」
みんな、言いたい放題。
いや、それだけ多岐に渡って一度に開発やら開拓やら進めているからね……。
そんなこと言ったら、私だって魔族と飛竜の関係とか、魔族の王国にある賭博場の話だとか、色々対策を考えたいことがあるんだけどさ?
ま、まぁ、少しずつ整理していこっか……。
「じゃ、みんな、報告の前に簡単なことから片付けて行って、時間が掛かるのは個別の報告会にしよう。
良いかな?」
半分押し切るような形ではあるけれど、この場の指揮は執らないとね。
そして、問題が解決に向かえば、皆も他の人の話を聞く余裕が出来るはず。
「まず、モリスの話の『世界樹の種』ね。
これは、手持ちはステラ、ニーニャ、ユッカちゃん、私が持っている分が今日の時点でで提供できる分。私の分だけでも50個くらいは残っているから、当面は大丈夫だと思うんだけど……。
追加で必要な場合は、ストレイア帝国に駐在しているアルさんに連絡を取って、アルさん経由で木こりの村に取りに行ってもらえば良いよ。
儀式をしたときに、雨霰の様に種が降ってきたから、樽に一杯や二杯は残っているはず。お礼をしておけば分けて貰えると思うよ」
ニーニャ、ステラ、ユッカちゃんと私がその場で拾っていた世界樹の種をテーブルに出し合う。みんなもそれなりに手持ちで持っていたみたいで、100個くらいにはなった。 それを見てモリスも「取りあえずは大丈夫そうだ」とのこと。
よしよし、次に行くよ。
「次に、メイドの話。
紆余曲折あるけど、A級の資格を取ったのはクレオさんと私。
だから、A級メイドを追加で雇い入れは出来ない。
次の話に行くよ?」
「ヒカリ、ちょっと待て!」
「待たない。嫌だよ」
私の容赦ない切り捨て。
リチャードと目線も合わせずに次の話題へ行こうとする。
けど、リチャードもキッと私をにらみ返すと、容赦なく次の話に移る前に会話に割り込んできた。
「そもそも目立たない様に行動するはずだったし、そのために冒険者ギルドに依頼をすることにしたのでは無いのか?
何でクレオさんとヒカリが資格を取っているんだ?計画から随分と逸脱している」
「色々とエスティア王国の万事屋とは違った仕組みだったし、人の意識も違った。だから、人を篩に分けてなくて、信用できる人と出来ない人が混在していた。
だから、トラブルの芽を最初から摘むように、こちらにも実力があることを示す必要があった。
以上。次に行くよ」
私が襲われたことは話題に上らせずに、片付けて行くことにするよ。
次は移民の話かな……。
でも、子供たちはそろそろ寝かせた方が良いよね……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今日はチョコの日なので二本立てになります。
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