6-53.緊急お茶会(4)
さて、今度は夕食会のメンバーと留守だった間の報告会をしないとね。
でも、夕食会にサンマール王国の大臣達を招いて、色々な食事をお披露目するんだって……。
魔族の奴隷をサンマール王国に住まわせる許可を貰って、ゆっくりとお茶会をすることが出来るようになったよ。
私のテーブルは、マリア様、リチャード、リサ、シオンと私の家族だけの構成だね。
で、私はホッと一息ついて、普通にお茶を楽しんでいた訳だけれど……。
「ヒカリ、サンマール王国の大臣達が折角集まったのだから、夕食へ招待するのは如何だろうか?」
「え?私にそれを振るかな……」
「嫌なのか?」
「いや、ゴードンとメイドさん達には夕飯も増えた人数分をお願いしてあるけれど、普通の夕飯を提供する準備してくれているだけだと思うよ?」
「このお茶会のフワフワっとした食べ物と、貴重なはずのコーヒーはどういうつもりだ?」
「気持ちの行き違いで、『ちょっと作ってあげる』が、緊急お茶会になっただけだよ。
夕飯もお茶会のついででしか考えてないから、特別なメニューとか無いよ」
「私は未だにヒカリのことが理解出来ない」
「……。ごめんなさい……」
「ヒカリが謝ることではない。
だが、ヒカリの普通が、普通の人にとっては特別な物であることを、どうやって認識して貰えば良いのか私には分からない。
そして、どこまでがヒカリの普通なのかが全く想像できない」
「メイド兼お母さんが、子供におやつを作ってあげるのはおかしいこと?」
「王太子妃がキッチンに立つことは普通では無い。
だが、ヒカリがキッチンに立ちたいという希望を叶えていると思っている」
「なら、メイドが子供ににおやつを作って与えることは?」
「1~2歳の子供はよくわからないが、王族の子供は料理人達が提供した物を食事として提供されている。ご婦人たちの交流会や昼間に設定されたパーティーなどの場でない限り、お茶会も無いし、甘味を食する習慣も無い」
「じゃ、私がお菓子を作って、リサやシオンに与えることは普通では無いってことね?」
「であればこそ、『緊急お茶会』という名目は、ヒカリのしたいことを叶える上で非常に理に適った内容であると思う」
「なんだか面倒だね……」
「傍から見たら、ヒカリのことを面倒だと思う人も多いと思うぞ。
私はそのような発言をする者が居たら切り捨てるが」
「リチャードが切り捨てる人を増やさない様に、私は台所に入らない方が良い?」
「いや、そんなことは言ってない。
ヒカリには苦労を掛けていると思うが、私としてはヒカリに作って貰った食事などを嬉しく思っている。それは母や父も同様だ。ゴードンもきっと同様であろう」
「私はどうすれば良いの?
私の普通と思う範囲で、夕ご飯をサンマール王国の人達に提供しても大丈夫?」
「母の方がサンマール王国に長く滞在しているため、その辺りの加減は私よりもよく分かっていると思うが……」
リチャードも加減が良く分からないらしく、同じテーブルに座るマリア様にお伺いを立てた。
でも、以前に果物のバナナを提供したときに、サンマール王国の料理を知らない様な感じだったのだけど……。
「リチャード、ヒカリさん。
先ず、ヒカリさんとゴードンが作る料理は北の大陸の普通では無いわ。貴方たちの婚約の儀や結婚の儀で提供したような食事で無くてもよ。貴族御用達の特別なレストランで予約を入れて、一人金貨10枚支払っても出会うことは困難ね。
次に、サンマール王国での食事だけれど、優秀なメイドのクレオが先読みして北の大陸の食材や料理方法をアレンジして提供してくれたおかげで、北の大陸の普通の料理を食べて生活することが出来たわ。
逆に、サンマール王国の貴族の食事会には誘われない様にしていたから、こちらの食生活の普通がどの辺りにあるか良くわからないのよ……。
でも、あちらの席に座られているハピカさんやトレモロさんなら、その辺りの加減が良く分かっていると思うわ」
「かあさん、ありがとう。
とすると、彼らに夕飯の意向を伺いつつ、ハピカ殿とトレモロ・メディチ卿に提供するメニューについて話を尋ねるのが良いかも知れませんね……。
ヒカリ、一緒に挨拶に伺って夕飯へ招待しつつ、メニューの相談を伺おう」
「ハイ!」
普通とか普通じゃないとか、どうでも良いと思うんだけどね?
でも、他国の大臣に失礼があってはいけないし、ハピカさんには色々お世話になっているから、その辺りへのお礼の意味を込めてもてなすのはアリかも?
ーーー
「先ほどは、魔族の受け入れの件に相談にのっていただきありがとうございました。
お礼と言っては何ですが、この後もご都合が付くようでしたら夕食を共に楽しめたらと思う次第ですが、如何でしょうか?」
リチャードがサンマール王国の大臣達が集まって座るテーブルに私を従えて挨拶をした。でも、大臣達からは反応が無い。
そりゃ、さっき魔族の話の交渉で疲れちゃったと思うんだよね……。
だったら、無理して夕飯とか誘わなくても良い気がしてきたよ……。
この人数分の料理をキャンセルするのは大変だから、キャンセルなら早めにゴードンに連絡してあげた方が良いかな?
「リチャード殿下、少々お話をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
と、大商人のハピカさん。
リチャードが無言で頷くと、肯定と捉えてハピカさんが話を続けた。
「先ず、魔族の件への配慮ありがとうございます。
また、このような重要な案件を事前に共有頂けましたため、サンマール王国としては大事に至らずに対処できたと思います。
次に、このお茶会での提供頂いているお菓子の様な物と、黒い色をした飲み物についてなのですが……。
急にこのお茶会に招待頂いたというのは言い訳ではございますが、この会に見合うお土産物を各自が持参していない事情がございまして、私を含めて皆様が恐縮しております。
それに加えて更に夕食への招待となりますと、我々としましては用事が無くても用事を作ってでも辞退せざるを得ないと申しますか……。ですが、ホストのご意向を無視して辞退するのも失礼に当たるため、大変困惑している次第でありまして……」
「ハピカ殿、先ほどの件といい、夕食への見解といい、我々の不理解を助けて頂いていることに感謝します。
確かに、今日のお茶会に関しては、普段のお茶会では提供しない様な特別な内容であったことは確かです。ですが、魔族の件について相談に乗って頂く上での相談料とでも受け止めて頂ければ宜しいかと思います。
また、夕食では普段使いの食材を元に料理を提供することで、皆様が気遣うことが無いように配慮したいと思いますが如何でしょうか。これは皆様のおかげで魔族の件が解決に至ったという、我々からの感謝の気持ちになります」
「そ、その様に申されますと、私としては断りようが無く……。
サンマール王国の大臣方のご意向は個別に伺う必要がございますが……」
「ふむ……。大臣の方々、以下でしょうか?」
リチャードとハピカさんの会話を受けて、大臣達の様子を伺うけれど、お互いをそわそわと見比べるだけで、良いとも悪いとも返事が貰えない。
まだ何か問題があるのかな?
面倒だし、食事を残すと食材が勿体ないから強制的に食べて行って貰うことにすればいいよ……。
「リチャード殿下、少々宜しいでしょうか?」
と、外交担当のコリン・コカーナさんから発言があった。
なんか、少し、恐れている様な緊張感が漂う雰囲気。
何がそんなに怖いのかな?
リチャードが黙って頷いて発言を促した。
「その……。正直、色々と混乱しております。
このお茶会に呼ばれた理由も解りませんし、お茶会と言うには話題として提供頂いた内容が非常に高度な機密内容を含んでおりました。
その一方で、提供いただきましたお茶会でのスイーツと飲み物が鮮烈過ぎまして、議題とお茶会のばのギャップについていけておりません。
そして、夕飯へご招待いただけるとのことですが、やはりその場でも今と同じような高度な機密情報の提供が行われて、見たことも無いような食事を共にするのでしょうか……」
「ふむ。コリン・コカーナ殿、率直なご意見ありがとうございます。
ヒカリ、何か別の隠し玉があるのか?」
「食事に関しましては、皆様にとって不慣れな物であるかもしれませんが、エスティア王国の方達には食べなれている物ですので、大きな問題とはならないと考えます。
話題につきましては……。
その場での会話の流れというものもございますので、こちらから大きなお願いをさせて頂く予定はございません」
「と、その様な内容になります。
珍しいかもしれない食材や料理を一緒に楽しんでいただき、会話に花を咲かせることができましたら、双方にとって良い場になるかと思います。
答えになりましたでしょうか?」
「は、はい……。では、ここに卓を構えているメンバー一同ご相伴に預からせて頂けますと幸いです……」
うん……。
とすると、特別な料理ではなくて、エスティア王国の普通の夕飯を出して貰えば良いのかな?それだったら、特にゴードンにメニュー変更を伝えずとも大丈夫かな……?
ただ、まぁ、本当は夕食会の場を報告会の場として時間を確保したかったのはあるけれど……。
ま、いっか……。
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