6-51.緊急お茶会(2)
「皆様、本日はお忙しい中、急なお茶会にお集まり頂きありがとうございます。
ここで提供させて頂いている品々は各方面の専門家の方々にご協力を得て成しえた貴重な物です。僅かばかりではございますが、お茶と一緒に楽しんで頂ければ幸いです。
ただし、入手方法や製造方法の説明を求められてもお教えすることが出来ない事情があること、予めご承知おきください。
さて、本日皆様にお集まりいただきました本題なのですが……」
と、ここでリチャードお茶会の開催の挨拶をしつつ、本題に入る前に話を区切る。
そして、わざと私に目を向けて、お互いの目が合うのを確認してから話を再開した。
「私の妻であるヒカリが、とある事情により魔族二人を世話することになりました。
この件について皆様のお知恵と意見を拝借したくこの場でお願い申し上げます」
マリア様経由で話を聞いている人はどうでも良い反応。
サンマール王国の重鎮達は、リチャードやモリス経由からも話が通っていなかったらしく、そこのテーブルからざわめきが生じた。
「リチャード殿下、既に人族の領域に入っているのでしょうか?」
と、外務大臣のコリン・コカーナさんから問い合わせがある。
いや、入国とか人族の領域とかそんなレベルの話になるの?だって、フウマ達が護衛として同行している商人さん達は、きっとガッチリ魔族の人達と癒着しているはずだよ?
「ヒカリ、どうだ?」
と、立ったままのリチャードが小声で私に確認をする。
「多分、王都まで馬車で二日ぐらいの距離。人族の村には寄ってないと思うけど、馬車で移動中だと思うよ」
「皆様、聞こえたでしょうか。既にサンマール王国の領域内の街道を馬車で移動中。おおよそ二日程度で王都まで到達する見込みとのこと。
他に質問はございますか?」
「ヒカリ様、その魔族の方達は客人扱いの待遇になるということでしょうか?」
と、大商人のハピカさん。
客人っていうか、仲間だから……。
そんなに敬意を表して接してもらう必要ないんじゃないかな?
「身分はドワーフ族の方の奴隷扱いですね」
「つまりは、そのドワーフ族の方の指示であれば全て制御出来るのですね?」
「はい。そのドワーフ族の方は私と知り合いですので、何か要望があれば私経由でお願いすることも出来ると思います」
「承知致しました。であれば、厳重に監禁するような環境は不要になるかもしれません」
と、かなり緊張していた様子が、少し落ち着いた感じ。
監禁とか失礼だよね~。
「ヒカリ様、私から追加で質問しても宜しいでしょうか」
と、外務大臣ののコリンさんから再び声が上がる。
「はい。何でしょうか?」
「そのドワーフ族の方がどのようにして魔族の方を奴隷契約の下に置くことが出来たのか、ヒカリ様はご存じでしょうか?」
「う~ん。奴隷契約にする証紙を元に、奴隷契約にしてたよ」
「魔族や人族の奴隷商人へ対価を支払って譲り受けた訳では無いのですか?」
「う~ん。奴隷商人の仲介では無かったですね。
なんか、借金を返すとかなんとか。その肩代わりをする代わりに奴隷になるみたいな?」
「つまりは、契約書に基づき、本人の意思によって、ヒカリ様の知り合いのドワーフ族の支配下に身を置くことになった訳ですか……」
「そんな感じです」
「(ヒカリ、相手はサンマール王国の大臣だ。もう少し礼儀正しく接しなさい)」
と、横から小声でリチャードから注意された。
いや、もう、どうでも良いじゃん?
何がそんなに怖いのさ……。
一々丁寧に接していても時間ばかり掛かって面倒だよ……。
「言葉遣いが不適切で失礼しました。
そのような流れで、魔族の方を受け入れる事情が生じましたので、各種手続きを進めさせて頂ければと考えております」
「国内の権利の行使に関してはジュンジュ、実際の動きはハピカ殿にお願いするのが良いと思います。もし、奴隷契約の譲渡が必要であれば、ギルド長の伝手で奴隷商人を紹介致しましょう」
「コリン様、不慣れな事柄への適切なアドバイスを頂きありがとうございます」
カサマドさん達の奴隷印はニーニャが押さえてくれているから、奴隷商人は必要無いとして……。住居は既にマリア様とハピカ様で進めてくれているはずで……。
あとは移民というか移住するための権利?でも、奴隷って主人が居れば物扱いで移動できるんじゃないっけか?
一応確認しておこう……。
「すみません。私の無知をお助け頂きたいのですが、奴隷としての身分でこの国に入る場合には、その持ち主の物扱いとなり、出入国に関わる身分証は不要と考えておりましたが、宜しいのでしょうか?」
「奴隷では各関所や城門を単独では通り抜けることは出来ません。
基本的には所有者と同行するか、所有者による証明書の携帯が義務付けられています。
ですので、ヒカリ様の知人のドワーフ族の方が同行していないことを証明する証紙を携帯することで自由に行動出来るようにはなりますが……」
「ジュンジュさん、回答ありがとうございます。
その証明書の発行はどなたにお願いすれば良いのでしょうか?」
「私の部下が発行できるのですが……」
「何か問題ありますか?」
「魔族の奴隷を登録した実績が無く……。
また、奴隷の代金を算定して、その保証金を積み立てる必要があり……」
面倒な話だねぇ……。
てか、これで魔族の王族のカサマドさんが奴隷になっているとか知れたら、色々と大きな問題になりそうだよ……。
あと、ニーニャとカサマドさんで交わした契約書に拠れば、魔族の金貨5000枚相当の補填か、魔族の金貨1万枚の違約金の支払いって話になってくる……。あの契約書が裏目に出る可能性があるね……。
「奴隷が魔族であることと、その身元保証金が必要という、2点が身分証明書の発行手続きで問題になるということですね?」
「そうなります。ですが、先ほどのご案内ですとあと二日で到着するのですよね……。
例えば、どうでしょうか?
王都の城外市場の一端で、証明書の発行が済むまでご滞在頂くのは……」
「つまり、茣蓙を敷いて、野宿をしろと?」
そんなに語調を荒げて強く睨んだ訳でも無いのに、皆の反応がすこしたじろぐ様子。
私は何かしたっけか?
「いえ、あの……。
ヒカリ様もお知り合いのドワーフ族の方も問題ございません。城内の好きな施設でご自由にお待ち頂ければと思います。
ですが、ギルド発行のA級ランクの身分証明書をご所持であっても、このルールを曲げることは難しいです……」
あ~、そういうこと……。
私がA級メイドのライセンスを持っているから武力を行使する前提で融通を利かせることを恐れていたわけね……。
私が想像していることと全然違う所で意見が食い違っているね……。
全く時間の無駄だよ……。
と、私が何も答えずに黙っているとマリア様から一言。
「ハピカさん、こちらでは大変お世話になりました。
ヒカリさんの気分を害してまでここに滞在する意味は有りませんわ。
交易の話も白紙、現在進めている上級迷宮までの街道の整備と収集品の専売の話も白紙に戻させて頂くことで宜しいでしょうか」
更にはトレモロさんからも、
「丁度、サンマール王国の重鎮達がいらっしゃるので話が早いですな。
私も砂糖の交易については、海人族との専属契約へ転換させて頂きます。その他の綿花や綿織物につきましては、獣人族の方へ。貴重なハーブ類につきましてはエルフ族の方達へと切り替えをさせて頂きたく存じます」
終いにはステラまでが……。
「スチュワート、帰って来たばかりで悪いけれど、エルフ族からサンマール王国への交易停止を始めて貰えるかしら。
期限はそうね……。ヒカリさんの機嫌が直るまでかしら」
な、なんで!なんでそうなるの!
別に念話で根回しした訳でも無いのに、勝手に私に忖度してる?
サンマール王国の人達が座っているテーブルが、なんか飛んでもない暗澹たる雰囲気になっちゃってるよ……。
楽しい雰囲気のお茶会が台無しだ……。
「(リチャード、何か言わないと……)」
と、リチャードにこの状況を好転する一言を貰うべく、隣に小声で話しかけると……。
「そうですね。
このお茶会をこの時点で開きにするか、魔族の奴隷への許可証発行について具体的な内容を詰めるべきか、どちらか決める必要がありますね。
もし、お時間が入用でしたら私どもで夕飯も提供させて頂きますし、仮眠室が必要であれば、客室の幾つかを開放して対応させて頂きます。
如何いたしましょうか?」
サンマール王国の重鎮達が座るテーブルでお互いに顔を見合わせている様子。小声で軽く話をする様子も無く、視線が交わされて皆が同調して縦に頷くと、外交官のコカーナさんから声が上がった。
「リチャード殿下による仲裁、誠に感謝します。
出来ましたら魔族の奴隷への許可証発行について具体的に進めさせて頂ければと思います。
つきましては、マリアさん、トレモロ様、ステラ様にもこの場での権利行使を保留いただきたくご助力願えますでしょうか……」
っていうか、なんでよ?
魔族一人がこの国に入るのになんでそんな問題になるの?
確かにこの国は魔族との戦争した経験があるから警戒する気持ちは判るけどさ?
まぁ、この辺りの国民感情を無視してまで強引に事を進めると、後で内乱の元になったりする場合があるから、完全な武力制圧をしておくか、魔族を完全に退けられていることを示す必要があるんだろうね……。
そういった作戦を練るためにも、カサマドさんを契約の下で連れてきているんだけどさ?
ま、いっか。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定ですが、
チョコレートの日に備えて、投稿が不規則になります。
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