6-50.緊急お茶会(1)
「ヒカリ、緊急お茶会ってなんだ?」
と、一番最初に到着したのはリチャード。
『なんだ?』とかリチャードに聞かれる前に、こっちこそ『なんで?』だよ。
なんでリチャードに声が掛かって、なんで一人で最初に到着するのさ?
「リチャード、お忙しいところすみません。
緊急では無いのですが、お茶会を皆で楽しむことになったようです。
ところで、誰から聞きましたか?」
「リサが念話を通してくれたんだが?」
「そう。
でしたら、リサと一緒に皆さんを迎える準備をしてくれますか?
リサだとまだ背が低いので、飛びながら食器を並べてくれていますので」
「分かった。ところで何人集まるんだ?
既にリサが10人分ぐらいはこの部屋に並べてくれている訳だが」
「リサは誰に声を掛けたの?」
「ラナちゃんとお父様の二人だけです」
「リチャードは誰かに声を掛けましたか?」
「ヒカリの緊急招集だから自分は飛んで来た。トレモロ侯爵、大商人のハピカ殿の二人には声を掛けておいたぞ。彼らは念話が使えないだろう?」
「あ、ありがとうございます。
そうしますと、この部屋だけでは狭いですね……。
誕生パーティーの様に中庭でテーブルを並べてお茶会にしましょうか。
クワトロにも声をかけて、リサと3人で会場設営の準備をおねがいします。
私は引き続きここでマリア様とゴードンと一緒にお茶菓子の準備を続けます」
「わかった。ところで、ここにある二人分のお菓子はなんだ?」
「マリア様とリサの分です」
「何故二人分なんだ?試食用なのか?」
「深い事情が……」
「まぁ、わかった。気にしなくていい。
母とリサちゃんは、それの試食をしていて構わないです。
クワトロと私で会場設営を行います」
ーーー
次に到着したのはエルフ族の人達とドリアード様。
「ヒカリさん、緊急お茶会って何かしら?」
と、ステラ。
後ろにはスチュワート様、ナーシャさん、ユーフラテスという名前で呼ばれているドリアード様。多分この人たちは誰かから連絡を受けて飛んで来たんだろうね。
「ステラ、ごめん。色々と情報伝達に齟齬がありまして……」
「簡単に言うと?」
「『美味しい物食べるから、みんな集まれ』ですかね」
「それは緊急事態ね。私に声をかけてくれて良かったわ」
「ステラ、ユーフラテスさんに、カカオの木の育成の支援をして頂いていて、中々難しい調整をしていたと思うのだが……」
「スチュワート、貴方はナーシャと一緒に戻って良いわよ。ユーフラテスさんはご自身の意思で戻るかどうかご判断いただくわ」
「私はヒカリさんの招集であれば、ここで何が起こるのかを見てみたい」と、ユーフラテスさん。
「私はステラ様に付き従います」と、ナーシャ。
「ステラ、私が独りで戻っても上手く調整が進まないことは判るだろう?
だが、カカオの木の育成は急ぎでは無かったのか?」
「スチュワート、1~2日遅れても大した問題じゃないわよ。あの後、ユーフラテスさんと一緒に熟成したカカオの実はそれなりの量を収穫してシオンくんに渡してあるもの」
「ステラ、いつだ?私は聞いてないぞ?」
「貴方は旅の疲れと、リチャードさん達と懇親会をしていたじゃない。夜のうちにナーシャとユーフラテスさんと一緒に樽10個分は採取したわよ」
「いや、待て。
懇親会があったのは一晩だけだ。翌朝からはモリス殿を中心に開拓の区画割や、開墾そして植樹に精を出していたはずだ。
仮にステラがその一晩で樽10個分の採取ができたとしても、その後でそれらを回収して運搬するための時間が無かったはずだが?」
「良いわ。スチュワートはヒカリさんのこと何も知らないもの。黙ってお茶会に参加すれば良いわよ」
「ステラ、何故会話が成立しない?
ヒカリ様は素晴らしい方ではあるが、今のカカオの実の回収の話とは全然関係ない。それにカカオの木の栽培はヒカリ様から指示された大切な役目だ。ゆっくりお茶会に参加している場合ではないだろう。何故判らない?」
「ヒカリさん、私達4人もお茶会に参加したいわ。準備で協力できることはあるかしら?」
と、ステラはスチュワートさんの話をぶったぎって、みんなでお茶会に参加してくれることになったよ。確かに、スチュワートさんは領主として交流している以外だと妖精の長のことしか知らないもんね。ま、放っておこう。
ーーー
次に到着したのは、人族で馬車に分乗してきた一団。
北の大陸のトレモロさんとか、モリスとか、シズクさんとか。あとは、サンマール王国のハピカさん、ジュンジュさん、コリンさんとか。この人たちは結構な人数でマリア様の館に押しかけた形になったね。
「ヒカリ様、緊急お茶会と伺いました。どういった内容でしょうか。
きっとお茶会は名目であり、表沙汰に出来ない重要事項の話をされるかと思い、トレモロ侯爵やサンマール王国の大臣の方達ににもご同行頂きました」
「あ、モリス……。お茶会なんだよ……。ごめんね?」
「ヒカリ様、ですがマリア様から一昨日伺った内容から推察しますと、ドワーフ族と獣人族に加えて魔族の移民もいらっしゃると伺っております。ヒカリ様の帰還後、直々に説明があると思ってい居たのですが……」
「うん。ちゃんと例の場所から馬車に分乗してで移動中だよ。ニーニャとリサと私達だけ3人が先に帰ってきた」
「ヒカリ様、ということは、やはり緊急で打ち合わせする用件が出来たということですね?」
「いや?別に……。
移住者さん達は馬車の移動で二日くらい遅れて到着するよ。それまでに住居の手配が済んでいれば良いと思う」
「ですが、サンマール王国としてみれば、ドワーフ族や獣人族ならまだしも、魔族の移住者をすんなりと受け止められる環境にはございません」
「え?」
「ヒカリ様の伝説は結構です。王姉殿下の話も内々に確認しました。
そこまでして魔族との関係に配慮して頂いているのに、魔族を門から馬車で普通に移民として王都に連れてくるのですか?」
「不味い?」
「直ぐに打ち合わせを!」
「じゃ、この後のお茶会で話しよっか。ゴードンに一緒に来た人数を言っておいて。あと、クワトロとリチャードが中庭でお茶会のセッティングしているからテーブルとか椅子の準備を手伝ってください」
「承知しました!」
ーーー
「ヒカリ?」
「は、はい?」
後ろから呼ばれて振り向くと、そこにはラナちゃん御一行が。
ラナちゃん、シルフ、ルナ様、クロ先生、ルシャナ様。
あとは、ユッカちゃんとアリアとシオンが一緒。
これで大体全員集まった感じなのかな?
「ヒカリ、そこにある食べ物が載ったお皿は何かしら?」
「マリア様とリサが、『ラナちゃんの分が揃ってない』と、手を付けないで待っていた名残になります。二人は人数が増えた分の手伝いをしています」
「ヒカリ?」
「何でしょうか?」
「随分賑やかなようだけれど、何が起こっているのかしら?
普段、貴方は帰還パーティーの様なものは開催しないわよね」
「なんだか、緊急お茶会をすることになった様です」
「あら、奇遇ね。
私はリサちゃんに招待されたわ。
ヒカリからは招待されなかったけれど」
「私も知りませんでした。
こんな緊急のお茶会が開かれるとは思っておらず、少し休憩がてらお茶をしようとしていました」
「ヒカリ?」
「はい、何でしょう!」
「ヒカリは、私を除け者にしようとした訳では無いのね?」
「はい。皆様がお忙しいと思い、特にお声を掛けませんでした。
夕食時に集まったメンバーへ帰還の報告をすれば良いと思っていました」
「そう……。だれがこんなに人を集めたのかしら?」
「さ、さぁ……。ラナちゃんはどなたに声を掛けたのですか?」
「お茶と言えば、ステラとユッカよ。
シルフ達は『僕も付いていく』と言うから連れて来たわ。
保護者であるクロとルシャナ。ルナを一人だけを残せないわ。
ユッカがアリアとシオンも連れてくることにしたようね。
リサちゃんに呼ばれた人数として、それほど多くないわ」
「そ、そうですよね」
「周りにチョコレート工房の人が居たら、直ぐに飛べないじゃない。
『買い物に出かける』といって、チョコレートづくりの作業から抜け出してきたわ。
だから、来るまでに時間が掛かったのよ」
「は、はい。色々とお気遣いありがとうございます」
「ヒカリ、お茶会でお披露目したいものがあるのだけど」
「は、はい。何でしょうか」
「チョコレートよ」
「え?」
「ステラ達のカカオの収集、ドワーフ族の器具、アリアの試作の提案、シオンの人を動かす力。その甲斐あって完成したわよ。あとはアリアとシオンから説明して貰った方が良いわね」
「分かりました。お茶会の人数分が用意できるのであれば、是非お披露目の場とさせてください」
「ヒカリ、リサが美味しいというパンケーキ、私も楽しみにしてるわ」
「はい!」
いやはや……。
こう、何というか……。
個性が強い人たちは突破力があるし、団結力もあるから助かるけれど……。
この緊急お茶会は、私が予想していない動きになってるね……。
ま、まぁ、帰還の報告もあるし……。
ゴードンには増えた人数に合わせて夕飯の準備もお願しておかないとね!
ーーー
流石!皆様が優秀でいらっしゃる!
30人規模をのパーティー会場を即席で完成させたのは皆の連携の素晴らしさ。
中庭では幾つかのテーブルに分かれて席が用意されていたよ。
一番大変なのはゴードンだったりする。
何せ一人で30人分のパンケーキを焼き上げる必要がある。コンロがニーニャ特製の魔石で制御できる改造された物であっても、メレンゲを熱変性させつつ、パン生地を焦がさない加減というのは、非常に時間が掛かる。
時間が掛かるのだから、コンロの面積に制限がある以上は、これ以上の速さで焼き上げられない。
一度に30人前を焼き上げることができないのであれば、後工程の私はというと、出来上がった順番に、お皿に生クリームとカットフルーツの盛り付けをしていたりする。
「ヒカリ、まだかしら?」
全員分の用意が終わらないからラナちゃんに呼び止められていしまう訳で……。特別なキッチン作らないと30人単位で即時にフワフワパンケーキを提供することなんてできないから、時間が掛かってもしょうがないんだけどね?
と、呼び止められている私を横目に見つつ、ステラとアリアが貴重なコーヒーを皆さんに淹れてくれていたりと忙しそう。
「ラナちゃん、まだ全員分揃ってないですし……」
「ヒカリ、溶けるわ。早く食べましょう。後はゴードンとメイドに任せなさいよ」
「ラナちゃん、私が招待したことになってますし、私はメイドですし……。
それにステラやアリアも準備を手伝ってくれてまして……」
「ヒカリは、突然呼び出しておいて、こんな美味しそうなものを前に、まだ我慢させるつもりかしら?」
なんか、忙しいはずの私への視線が痛い。
ラナちゃんだけじゃなくて、他の皆からも視線が集まっている。
きっと、ラナちゃんの正体を知らない一部の人からすると、『あんな小さな子を待たせずに、先に自由にさせてあげれば』の視線。ラナちゃんのことを知っている人からすれば、『ヒカリさん、頑張って』という生暖かい応援が含まれているかも知れないけれど……。
「では、ラナちゃんのテーブルは人数分揃っていますので、先に食べてください。他の皆さんはゆっくりと順番に提供させて頂きますので」
この一言で、会場の全員の微笑みと、ホッと安心したため息が伝わってくる。
段々とラナちゃんとの付き合い方に慣れてきたかな?
その後、フワフワパンケーキが提供出来ていないテーブルはフルーツの盛り合わせを提供して繋ぎつつ、ステラとアリアのコーヒーや作り置きしてあったクッキーを織り交ぜてフワフワパンケーキが順番に焼きあがるのを座って見守った。
ま、まぁ、緊急お茶会としては成功してる状態になったんじゃないかな?
「ヒカリ、それで緊急お茶会の用事は何だったのか?」
と、横に座るリチャードから小声で声が掛かる。
「ええと……。お茶会だから、この様にして皆で楽しめていれば良いのでは?」
「ヒカリ……。お前の普通で考えるな。皆が驚いている」
「え?ああ……。無事に帰還したことの挨拶です?
でも、ここに居る全員にお知らせ出来ない手段もありますよね……」
「ち、違う……。そうでは無くて、このお茶会のレベルの話だ!」
「うん?いつもと同じレベルでしょ?」
「コーヒーは試作品が出来たばかりだ。フルーツ盛り合わせも北の国のメンバーには初めての物が多いだろう。そして、一部のテーブルで提供されているフワフワパンケーキとやらに皆の注目が集まっている。ステラ様のお茶やヒカリのクッキーが霞んで見える……」
「ああ……。そう……」
「つまり、ヒカリが世界を股にかけて珍しい食材や茶菓子を提供できるだけの広範な知識と伝手を持っているという権威を示すために、各界の重鎮を集めたお披露目の場という認識で良いな?」
「いや、全然。普通なお茶会しようとしたら参加者が突然増えちゃった感じ?」
「それはお集まり頂いた皆様に失礼だろう……。主催者として何か説明は無いのか?
もし、ここに並ぶ品々に事情があり、そのような説明が出来ないのであれば、皆が興味を示すような共通の話題は無いのか?」
「あっ……。アリアとシオンでチョコの試作品が完成したらしい。
あとは、魔族が移民としてやって来ることは、サンマール王国として受け入れ難いことらしいよ」
「ヒカリ……。チョコの話は私も試食していないのでおいておこう。
それよりも、何でドワーフ族の所へ支援協力のお願いに行ったのに魔族を連れて来るんだ?大問題に発展するんじゃないのか?」
「あ……。ついでだったんだけど、不味かったかな?
でも、マリア様には『連れていきます』って連絡しておいたし。
さっき、モリスからも『事前に打ち合わせが必要』って言われたけど……」
「よし、魔族の件に関しては濁せる範囲で情報を提供して、あちらのテーブルで同席されているサンマール王国の重鎮達にお伺いをしよう。
それで良いな?」
「はい!」
と、返事をしたものの、事前打ち合わせなしで進行しても大丈夫かな?
いつもお読みいただきありがとうございます。
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