6-48.帰還(3)
よし、このまま、サンマール王国に帰るよ!
「ただいま~!」
ニーニャ、リサ、私の3人で空飛ぶ卵を隠している場所から、城門の近くまで飛んで、そこから行きと同様に出入門の記録を残した上で、マリア様のお屋敷に先に帰ってきた。 なにせ、準備してある馬車に分乗してこの王都まで普通に移動すると二日以上余計に掛かっちゃうからね。この辺りは、馬車の御者さんとか、移住予定の皆さんに説明して了解を得ておいたよ。
「ニーニャ様、ヒカリさん、リサちゃん、お帰りなさい」
と、クレオが庭で笑顔で迎えてくれた。
「クレオ、みんなは?」
「マリア様とレイ様は、こちらのお館でヒカリ様達をお待ちしております。
他の方々は、移住者の住居の準備、道や農地の開拓、コーヒーやチョコレートの工房作成に取り掛かられています」
「そう……。みんな忙しそうだね……」
「いえいえ、ヒカリ様に比べれば大したことはで無いです」
「え?私達は何にもしてないよ。移住者を連れてくる契約を取ってきただけだよ」
「ヒカリ様、謙遜されずとも大丈夫です。皆様が状況を理解しておりますので」
えっ……?
マリア様には移住者の話をしたし、レイさんには念話で獣人族の人から面会の希望があることを伝えたけれど、それ以外は特に何も共有して無いよね……。
「リサ様とラナちゃんで念話を通してらした様です」
と、私の疑問を補う様に、クレオが説明してくれた。
「え?リサ?」
「お母様が魔族を平伏させて、連れて帰るのですから、備えるように知らせるのは当たり前です」
「私では無くて、ドワーフ族も獣人族も魔族も全部ニーニャのお手柄だよ。
それに、ちゃんと移住者の住居を準備するようにマリア様にはお願いしてあるよ」
「カサマド様が、『ヒカリ様は女神様ですね?』と、私に尋ねました。
私は『すこし怖くて、いい加減な所がありますが、人族のメイドです』と答えました。 しかし、カサマド様は『そういうことでしたら、私は私なりの考えで動きます』とのことです。
つまり、お母様の発言はまるで魔族の方々に伝わっていないのです!
このサンマール王国の王都に彼らを招き入れることの怖さが判っていないのです!」
「り、リサ……。それをラナちゃんに伝えたの?」
「はい!」
「ラナちゃんは、何て言ってた?」
「『ヒカリはどうやって、魔族を手懐けたのかしら』と、質問されましたので、
『お金で買いとったようです』と。
『それだけからしら』と、重ねて質問されましたので。
『友好の気持ちを込めてか、食事も振舞っていました』と、答えました」
「リサ、それ以外はラナちゃんは何も言わなかった?」
「心配なら、ラナちゃんに直接聞いてください」
「そう……。
クレオ、三人でマリア様に帰還の報告に向かいます。リサはマリア様への挨拶が終わったら、ご飯食べてから寝ても良いよ?」
「承知しました」
ーーー
帰ってきた3人とクレオさんの合計4人で、マリア様とレイが待つ部屋に向かったよ。
すると、マリア様から労いの挨拶があった。
「ニーニャ様、ヒカリさん、リサちゃん、移住希望者を連れ帰る役目を終えて、無事に帰って来られた様で何よりです。
ニーニャ様、エスティア王国からの派遣者、今回の移住者と技術伝承と指揮を引き続き執って頂くことになりますが、ご協力をお願いします。
ヒカリさんはレイさんと打ち合わせ後に、魔族の扱いについて相談があります。お二人の話が終わるまでは、私がリサちゃんの面倒を見るわ。
リサちゃんは、私と一緒に美味しい物を食べましょうね」
「マリア様、私はフワフワパンケーキが食べたいです」と、リサ。
「ああ、確かに、あれは美味しかったですね」と、ニーニャ。
いや、二人とも?
そこは美味しい物よりも、『ご心配おかけしました』とか、『これからの活躍にもご期待ください』とか、そういう儀礼的な言葉が出てくるんじゃないの?
私の普段の振舞に似てきたせいなの?
「ヒカリさん、とても素敵な食生活だったのかしら?
そして、それを魔族にも振舞っていたのかしら?」
「あ、いや……。
ニーニャ達が作業しながらの食事でしたので、その支援をするために食べやすい物を作っただけです。
リサの分は、寒かったのと、ちょっと疲れてそうだったので少しだけ手間を掛けましたが……。
魔族の方達には、あくまでニーニャ達に提供した残り物ですので、同じ様な温かい食べ物では無かったはずで……」
「リサちゃん、おばあちゃんも一緒にその美味しい食べ物を食べたいな……」
「マリア様、ゴードンさんにお願いすれば作って貰えるかもしれません。あの人はお母様より素晴らしい料理人ですから!」
「ヒカリさん、ゴードンはレシピを知っているのかしら?」
「いや……。甘味系はゴードンにはあまり共有しておりません……」
「リサちゃん、ええと……。
レイ様とお母さんのお話が終わるまで台所で他の物を食べて待ちましょう。
ニーニャ様におかれましては、寛ぐなり、ご一緒に甘い物を召し上がるなり選択頂ければと思います」
「マリア様、私は空飛ぶ卵の中で朝食を食べておりますので、お腹は満ち足りております。それよりは工房の進捗が気になりますので、そちらまでの案内と移動にクレオさんをお借り出来ますでしょうか」
「ニーニャ様、分かりました。クレオ、ニーニャ様の案内と移動支援をお願いします。
ヒカリさんの真似をして、不用意に飛行して移動しないように」
「マリア様、承知しました。私はヒカリ様と違い、透明化のスキルを所持しておりませんので、人目に付く状況での飛空術の駆使は憚られます。ニーニャ様にはお時間を取らせますが、馬又は馬車で案内させて頂きたいと思います」
「クワトロ、レイ様とヒカリさんにお茶の用意を。私はリサちゃんと台所へ向かうわ。
ヒカリさんの手が空いたら、案内をして頂戴」
「はい。承知しました」
いや~。
いつものマリア様の手際良さ……。
私も工房の様子とか開拓状況とか移住者の住む場所の手配とか気になるけれど、先ずは目先のことから片付けていかないとね。
特に、フワフワパンケーキはラナちゃんに見つかると、かなり不味いことに……。
ーーー
「レイ、お待たせ」
「いえいえ。ヒカリさんが無事で何よりです。
念話では簡単に伺っていますが、どういった話なのでしょうか?」
「良く分からない。レイさんで扱いに困るなら、獣人族の村へ返してくる」
「ええと……。本人はペルシア王国の王位継承権の第三位であると宣言されている訳ですよね?」
「うん。あと、レイとレミを探していたよ。
そもそも、ペルシア王国が一旦滅びても、王位継承権って意味があるの?」
「獣人族の1つの国が滅んでも、獣人族の全てが滅んだ訳ではありませんからね。
ある旗の下に1つの種族が集うのは、種族の宿命ではないでしょうか?」
「ペルシア王国の正当な王位継承権を持つ人達が、ちゃんと新しい国を設立しようとしているのだから、滅んだ国の王位継承権の下位の人が名乗りを上げても、それって無視して良いよね?」
「当人と話をしてみないと分かりませんが、王位継承権を持つ者が生き残っているのであれば、祖国を再興させようとする意志があってもおかしくありません。
実際にレミはそのように考えて私を探していましたし……」
「とすると、国王になりたいとか、国の重要な役職に就きたいとか、利権が欲しいとか言い出す可能性ってあるかな?」
「可能性はありますが、そもそも、レミが新しい王国を立ち上げようとしていることすら、まだ南の大陸には伝わっていないと思いますが……。
伝わってないと言えば、私もレミも消息不明で、形式上はペルシア王国は滅んでいますしね……」
「ああ、じゃぁ、レイやレミが偽物の可能性を疑っているかもしれない?」
「私の視点からは、私が本物であると自負出来ておりますが、私のこれまでの経歴を振り返ると、どう見ても奴隷以下の存在ですよね。レミも同様です。
ヒカリ様と出会ってから全てが変わりましたが……」
「レイさぁ?
私がそこに登場しないで、レイさとレミさんが今の状態にあることになる説明は出来ないかな?」
「正直、かなり難しいと思います。
『人族に討伐されて、奴隷の身分に落ちた』までは良いでしょう。そして、『娼婦として客を取っていた』のも事実です。
ですが、『獣人族の奴隷の娼婦が娼館のオーナーになったり、ストレイア帝国の貴族と結婚すること』は、普通に考えてあり得ません。『それは何かがおかしい。話の辻褄が合わない』と、突っ込まれます。
またレミについても同様で、獣人族が犯罪奴隷としての身分から、ストレイア帝国から下賜された領地に滅んだはずの獣人族の村というか国のようなものを立ち上げることは不可能です。『ストレイア帝国は何のために滅ぼして、何をもって、その建国を認めるつもりなのか』と、問われれば、誰も返事が出来ません。
ただ、レミに関して言えば、『ロメリア王国を支配下に置く際に、大きな活躍をして、その成果を認められて小さな村を与えられた』と、説明できなくはありませんが……。
ヒカリ様に、何か良いアイデアがございましたら、その意向に沿って、話を進めさせて頂ければと思います」
「確かに……。
レミは、村を作ってそこで暮らしているだけだから、まぁ、大丈夫だよね。
レイは、どうしよう……。
でも、レイは王位継承権を放棄した上で、レミに譲っているんだよね?だったら、顔合わせはするけど、『私は権利を放棄しているので、レミに聞いてください』って、押し通せば良いんじゃないの?」
「ヒカリ様は、いずれトレモロが下賜された領地にペルシア王国を作ることを視野にいれておられますよね。そのときに私の存在をどのように説明されますか?
まさか、『レイが率いる村人が、ストレイア帝国へ侵入して領地内に勝手に王国樹立を宣言した!』何て話は通らないと思いますが……」
「なんか、面倒になってきたよ……」
「ヒカリ様の存在がそのような存在ですので……」
「私が面倒な存在っていうこと?」
「いいえ。ヒカリ様の凄すぎる存在を隠すためには、多大な苦労が必要であり、それをしてでも、ヒカリ様の存在は秘匿されるべきだと申しております」
「私がどっかに逃げて隠遁生活を送るっていうのは?」
「今更そのようなことをしても、ヒカリ様の築き上げた成果は残り続けます。ですので、これまで通りに、ヒカリ様には存在して頂いて、何らかの方法でその素晴らしさを隠し続けるしか、方法は無いと思います」
「じゃぁ、その獣人族の人に、『黙ってろ』で、押し通すのは?」
「可能であれば、それで構いません。どなたかの奴隷印が付いていれば、それも可能だと思います。その辺りの情報はどのようになっていますか?」
「あ、聞いてない」
「それですと、出たとこ勝負で面談するしか無いですね……」
「じゃぁ、まだ2~3日あるけど、レイと面談するときに私も立ち会うってことで良いかな?」
「そうしましょう」
ふ~。
なんか面倒なことだねぇ~。
でも、仕方ないかな。とりあえず、レイのことは保留して、マリア様たちと合流だね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定ですが、
チョコレートの日に備えて、投稿日が変わる可能性があります。
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