1-10.海賊退治(3)
「ヒカリさん、どうかしら?」
「ま、マリア様には参りました。フウマの実力は分かっているつもりではありましたけれど……」
と、私は驚きのあまり、呆然としつつ、ギリギリで返事を返すことができた。
「そうなのよ。もっと大規模な戦闘が行われて、フウマの活躍シーンも想定していたのだけれど、借金の減殺が皇后陛下にとっては重要だったみたいね。ヒカリさんの騎士団の隊長さん達も活躍の場が無くて残念がっていたわ」
「あ、マリア様、でも、今の話では私も少しは関係するかもしれませんが、モリスやユッカちゃんはあまり関係がないのではないでしょうか?」
「モリスは貴方を支える有能な執事長だって噂が立っているようよ。だからこそメルマを超えてヒカリさんの領地に入る前に仕掛けてきたみたいだし。
ユッカちゃんは直接話にはでてこないけれど、上皇夫妻が東方の辺境の国へ保養に向かうのは上皇陛下の息子の1人であるハンス様の消息を探しに行くということを知っていたみたいね。そうなるとユッカちゃんにも少しは関係してくるでしょう?」
「ま、まぁ、確かにモリスのおかげでハミルトン家の領地は切り盛りできていると思いますし、ハンスさん達のお墓が見つかれば、ユッカちゃんへのつながりも見えてくるかもしれませんが……」
「ヒカリさん、
ということで、貴方だけでは無いけれど、現皇后陛下のお怒りを買うには十分な行動をここの領地の皆でしているのよ。
トレモロ・メディチ侯爵と貴方が一緒にアジャニアへ行って醤油を調達したっていう話も知られている訳だし」
「マリア様、確かにそうかもしれませんが、あの船のオーナーが私であるとはほとんど知られていません。リチャードも私の船とは考えていなかった様です……」
「うちの子は本当に馬鹿ね。親としての教育が悪かったのかしら……。
トレモロ卿がアジャニアへの大航海を成功させたのは新型船とその設備のお陰であることは査問会で返答済み。
その新型船とその艤装はメルマで造られたものであって、最近高度な科学を有するとするエスティア王国のハミルトン伯爵領のすぐ傍に位置しているわよね?」
「ま、マリア様、それはちょっと違うんです。イワノフさん達がメルマの商人たちの指令で造っていたのです。私はそれを拾ってきて、ちょっと改造したくらいで……」
「結局は同じことよ。『辺境のエスティア王国に住む小娘のせいだ』って帰結する訳だもの」
はぁ……。何でこうなった……。
折角情報統制を敷いて、私がメイドの小娘であるように浸透させているし、私も我慢して表舞台に出ない様に気を付けてたのに……。これって、皇后様の女の勘ってやつなのかもしれないね……。
って、上皇夫妻の誘拐を指示した皇后陛下はどうなったんだ?
「マリア様、あの……。皇后陛下はどのような処遇に……」と、アリア。
「アリアさん、自分のことよりも皇后陛下のことが気になるのね。
皇后陛下の前で皇后陛下の依頼を受けた執事を拷問にかけたのよ。ただ、皇后陛下からは執事の声が聞こえて姿も見えるけれど、執事からは皇后陛下のお姿は見えない細工がされた部屋でだけれどもね。
詳細は凄惨を極めたから言えないけれど、執事の家族にも登場してもらって、執事の家族には私が審議の魔術によって、嘘が付けないことを確認したあとで、執事本人に質問を行ったの。
執事本人にも、質問を始める前に、私に対して嘘を付けるか別室で待機している皇后陛下の前で試験を行ったわ。試験の方法はこんな感じよ。
『貴方の手には黒い石か白い石がある。その握っている石と、貴方の発言に相違があったら嘘。合っていれば真実。
例えば、貴方が白い石を握って、握っている石は黒と言ったなら、それは嘘ということになるわ。今から、貴方が嘘をいうか、真実を言うか10連続で試すわね。』
アリアさんならこの試験がどういったものか分かったと思うの。相手が握り込んだ石が何色であろうと、行動と発言に矛盾があればそれが検知できることになるわね。
当の執事は9連続で私に真偽を見破られてとても焦ったのね。最後は手に石を握らない状態で私の質問を待ったの。つまり、『貴方は白い石を握っている』に対しても偽の反応、『貴方は黒い石を握っている』に対しても偽の反応だったの。だから私は3つ目の質問をしたわ『貴方は石を1つも握ってない』と。
私は、執事、家族、皇后陛下の全員が確認できる場所で最後の1回を含めて10連続で執事の発言の真偽を正解したわ。
あとは、質問をして執事に嘘があると家族にちょっとした協力をしてもらって、その姿を執事本人に見てもらっただけね。1時間も経たずに皇后陛下の依頼で誘拐を計画したことを語ったわ。
だから、私がヒカリさんと一緒に働いているメイドのマリアだとしても、誘拐を計画した執事を捕らえている以上は、皇后陛下としては自身の責任を追及されることになるわ。
結果として、皇后陛下には体調不良を理由に本国のサンマール王国へ帰還戴くことで話をつけることにしたわ。
だから、まぁ、今回の海賊が発生したのかも知れないのだけれども……」
いやいやいや……。
私、皇后陛下が本国に帰ったって知らないし。
私、皇后陛下の執事を拷問したって知らないし。
マリア様がハミルトン家のメイドを名乗ったとか知らないし。
これ、皇后陛下の逆恨み事件だよね?
「マリア王妃、私も少々伺っても宜しいでしょうか」と、ステラ。
「ステラ様、何かしら?」
「帝都から馬車の護衛にヒルダさんのお名前が出ていましたが、女騎士団長の任が解かれたとのことでしょうか?」
「ええ。自ら申し出たそうよ。『女神様に会いに行きたい』と、こちらへ来る道中で語っていたわね」
ヒルダさんて誰?女騎士団長?上皇后陛下のシルビア様は聖女だけど、女神って……。私の知らないファンタジーがいっぱいだ。
「そうでしたか。無事に保護出来た様でよかったです。ただ、ストレイア帝国の皇后が帰国してしまっては、その必要も無かったかもしれませんが」
「ええ。ステラ様や女神様に会えることを楽しみにしていたみたいね。私の知る限りではエスティア王国には女神の伝説は伝わってないので、女神様の様な人物がいるってことなのかしらね?」
「ああ、ええ、きっとそうですね。ありがとうございました」と、ステラ。
なんか、ステラの反応がおかしい。ステラ自身が女神を名乗ったのかな……?ま、いっか……。
「ということで、ヒカリさん、海賊じゃなくてサンマール王国へ帰国した皇后陛下を退治するってことで良いかしら?」
わ、私なのか?
そもそも宝飾店潰したのはステラとニーニャの為だったわけだし。
今回の誘拐事件を潰す必要があったのは、上皇后夫妻が保養でこちらに来ることが目的だった訳だし。
私の船っていうより、ハミルトン伯爵が船のオーナーって勘繰られて襲われた訳だし。
「ヒカリさん、何か不満がある様なのだけど?」と、マリア様が追い打ちをかける。
「あ、いや~。本当に私のせいですか……?」
「別に貴方がストレイア帝国を制圧するための戦争を起こしてたら、皇后陛下からの逆恨みを買う必要は無かったわよ。貴方が戦争を避けたがっていたから、個人的な始末で片付けていたのだけれど?」
そっか……。私のせいか、そういわれれば、そうだね。
だって、制圧して殺してたら、そんな逆恨みを買う必要は無かった。
ただ、それをしたら、種族間の争いに発展しただろうし、ユッカちゃんもおじいちゃんに会えなかったと思う。当然、私も無事に結婚の儀や出産を行えなかったかもしれない。
うん。私が選択したし、皆が私の為に動いてくれた結果だよね。
ここで私がブレたらダメだ!
「皆様すみません。私の判断した結果が今回の海賊事件を引き起こしたと考えます。皆様のお知恵を借りて、なんとか南の大陸と交易を再開させたいと思いますので、協力頂けますでしょうか」
よし、このまま進もう!
いつもお読みいただきありがとうございます。
余裕がなくなったら週末1回のペースにさせて戴きます。
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