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6-47.帰還(2)

 その日の夕刻、洞窟の中の精錬所の外に、サンマール王国へ移動する20名が集まった。

 ドワーフ族の移住者12名、獣人族の移住者3名。魔族の移住者2名。

 サンマール王国から来たニーニャ、リサ、私の3人。

 

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。

 これからサンマール王国へ移動します。色々と初めてのことを体験すると思います。ですが、それらは基本的に口外できないことと思っておいてください。


 漏らした内容次第で、その情報を知った可能性のある方達全員に奴隷印を施すか、場合によっては行方不明になって頂く必要があります。

 逆に、情報を漏らすことで、貴方たち自身が『情報源であったこと』を消去するために殺されてしまう可能性があります。

 ですので、自衛できる自信が無ければ、これから見聞きすることは口外無用です。


 なにか質問はありますか?」


 と、獣人族の一人から手が挙がる。


「ええと、貴方はヒカリ様とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「私のことは、公式の場で無ければ、ヒカリさんと気楽に呼んでください。貴方の名前は?」


「サマリ・ペルシアと申します。

 ですが、ペルシア王国は滅んでいますので、単にサマリと呼んで頂ければと思います」

「わかりました。サマリさんの質問は何でしょうか?」

「私はとある人物を探すために、人族を調査しておりました。ですが、サンマール王国へ到着した途端に、罠に嵌められて魔族に売られました。

 これからサンマール王国へ向かうことになりますが、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫の意味が私には分からないよ。

 ただ、魔族との契約による身分は解消してあるから、奴隷印が付いていなければ問題無いんじゃないの?衣食住は準備して貰っているよ」


「奴隷の印につきましては、そちらにいらっしゃるニーニャ様の登録に切り替えて頂きました。ニーニャ様も『サンマール王国へ着くまでの仮の期間だけだ』とのことで、ご了承頂いております」


「じゃ、問題無いんじゃないの?他に何かあるの?」

「サンマール王国はストレイア帝国の属国のはずです。きっと、ペルシア王国の生き残りを探している可能性が高いです」


「レイさんかレミさんに言って助けて貰えば良いんじゃない?私は良く分からないけど。多分、ニーニャはそこまで考えて奴隷のあるじになることを許容したのだと思うよ」

「え?レイ、レミと申されましたか?」


「う~ん。ニーニャ、暗くなってきた。後でも良いかな?」

「ヒカリが質問を受け付けるから、こんなことになってるんだぞ。『黙って、ついてこい』それだけで十分なんだぞ」


「わかった。

 じゃ、これから崖の上にとめてある乗り物まで移動するから。ついてきて。

 ところで、飛べる人は何人いるかな?」


 誰も手を挙げない。

 訓練したはずのリサやカサマドさんとテイラーさんですら手を挙げない。

 どういうこと?


「ニーニャ、どういうこと?」

「ヒカリが運べばいいんだぞ」


「じゃ、もう、私が独りで取って来るから、ニーニャがこの辺りを平らにしておいてよ」

「ヒカリ、何を今更言っているんだ?『ここにあの乗り物を着陸させると人目につくし、存在が明るみに出るのが不味い』という話で、崖の上に置いてきたんだぞ」


「じゃ、乱暴だけど、縄で全員を連結して、一度に連れて行くよ」

「ヒカリ、横暴なんだぞ!

 ……。

 だが、仕方ないんだぞ……」


 もう、何が何だか、作戦とか無くなっちゃってるけども……。

 全員を一つのロープで連結してから、重力遮断100%と全体を光学迷彩掛けてから引っ張っていくことにしたよ。

 我ながら雑だと思う……。

 でも、本当に真っ暗になると余計に色々面倒だから、いいことにする!


 速度を落として、逆凧揚げみたいな感じでロープを引っ張りつつ崖の上に到着。

 崖の上では、まだ夕暮れが続いていたよ。寒さは相当厳しくなっていたけどね。


「じゃ、みんな。

 これから乗り物に乗ります。

 足元は整地されていないので、転ばない様についてきてください。

 ロープは乗り物に乗ってから、ゆっくり外してください」


 言うだけ言って、どんどん進む。

 空飛ぶ卵に押し込んで、ニーニャに操縦を任せるまでは、余計なことを言わないことにしたよ。


「ニーニャ、全員無事に空飛ぶ卵に乗り込んだよ。

 運転は任せておいても良いかな?」


「ヒカリ、運転は大丈夫なんだぞ。

 行先はもう一台の空飛ぶ卵が隠してある場所で良いんだな?

 少し、速度を上げるから明日の朝には着くんだぞ」


「分かった。

 皆で乗り合わせる予定の馬車は多分大丈夫。

 あと、何か調整しておくことはある?」


「改めて緘口令を敷くこと。

 ロープを解くこと。

 食事を提供すること。

 それが終わって、質問タイムにすれば良いんだぞ」


「わかった。その辺りはやっておくよ」

「ヒカリ、もう少しなんだぞ。頑張るんだぞ」

「ニーニャ、いつも助けてくれてありがとうね。ニーニャも運転気を付けて」

「ああ、任せておくんだぞ」


ーーー


 ニーニャに言われた通り、みんなのロープを解いてから緘口令を敷く話と食事の提供を終えて、ちょっと皆さんの緊張が解けてきた感じ。

 こういう、時間にゆとりがあって、リラックスした状況だとお互いの意見の食い違う会話もこじれ難くていいと思う。


「それで、サマリさん、崖の下での質問の続きだけど、何が大丈夫なんだっけ?」

「ヒカリ様、その……」


「うん?」

「ヒカリ様はストレイア帝国の属国であるエスティア王国の王太子妃であると伺いました。本当でしょうか?」


「うん。公式での肩書はそうだね。

 でも、一般には『王子に一目ぼれされた、無能なメイド』として、情報統制がされているはずだけどね」


「ええ、ですが、その情報が間違っているとしたら、私は何を信じたら良いのか判らなくなりました……」


「いや?合ってるよ」

「いや、ですが、ヒカリ様は無能なメイドではなくて……。

 何か、こう……。聖女の域すら超えた……。

 女神様のような?」


「それは合ってないね。

 あ、でも、ここに来る前にサンマール王国の冒険者ギルドででAランクの認定を貰ったから、『迂闊に手を出すとひどい目に遭う』程度の資格は持ってるかも」


「わかりました。ヒカリ様が仰るなら、それが正しいのです。

 それでは、改めて2つお願いがございます。

 一つは、人族の領土で獣人族を匿えるような場所は無いでしょうか?辺境の村でも結構です。そこを紹介して頂きたいのです。

 二つ目は、先ほど崖の下でヒカリ様が仰った『レイさんかレミさんに聞いて』という発言の意図についてです」


「う~ん……。

 サマリさんは、レイさんの何なの?兄弟は居ないって聞いているんだけど?」


「ペルシア王国の第三位の王位継承権の所有者になります。王兄の第一子となります」

「レイさんは、サマリさんが生きていることを知ってる?」


「ヒカリ様、先ほどから『レイが生きている』前提でお話をされていませんか?」

「生きているけど、レイ・ペルシアとしては生きてないかな……」


「それは、どういうことでしょうか!奴隷として人族の支配下に置かれているとでも?」

「サマリさん、興奮し過ぎ……。私に詰め寄られても……」


「し、失礼しました!で、ですが!」

「う~ん。ちょっと待っててね……。考え事するから……」


<<レイ~~。今、念話しても大丈夫?>>

<<ヒカリ様、そちらはお元気ですか?

 今日、無事に帰路に着くとリチャード殿下とマリア様から伺っていたのですが……>>


<<うん。今、空飛ぶ卵の中から念話してるよ。レイの周囲は大丈夫?>>

<<はい。トレモロは各種交易の調整に駆け回っておりまして、今日も外で打ち合わせで帰って来ません>>


<<そっか。じゃ、このまま念話を続けるね。

 サマリ・ペルシアって、獣人族の男性は知ってる?>>


<<はい。名前は聞いたことがあります。ですが、一族で南の大陸の獣人族の方へ移住されていたかと思いますが……>>


<<ペルシア王国の第三位王位継承権を持っているって、知ってた?

 たしか、レイさんもレミさんも『王位継承権のある兄弟は居ない』みたいなこと言ってたでしょ>>


<<はい。父の兄の息子に当たる方ですが、ペルシア王国から離脱して南の獣人族の元へと移られましたので、継承権はあっても実質的には王位を継承する気は無いのではありませんか?

 それも、当時のペルシア王国は滅んでしまった後ですし……>>


<<そのサマリさんが、『レイさんが生きているかどうか』を知りたがってる>>

<<何故そのようなことに?>>


<<「獣人族がサンマール王国へ向かって大丈夫か?」みたいな質問をされたから、「レイさんかレミさんに確認すれば?」って、私が答えた。ごめんなさい>>


<<いえいえ。ヒカリ様のせいでは無いです。多分、今の私たちの状況を知らないので、色々と混乱しているのでしょう。連れてきて頂ければ、私が面談してゆっくりとお話をします>>


<<色々と面倒を掛けるね……>>

<<獣人族の問題ですから、容易いことです。お気になさらずに>>


<<分かった。ありがとね>>


 と、念話という名前の黙考もっこうを終えてから、サマリさんに話しかける。


「サマリさん、レイさんが会ってくれるって」

「ヒカリ様?今、なんと仰いましたか?」


「あっ。あ~~。

 『多分、レイさんなら、サマリさんと会ってくれると思うよ』って、ちゃんと言わなかったね。ごめん」


 不味い不味い。

 レイさんのアポ取りが出来た様な発言は不味いよね。

 折角、念話の件は伏せているんだしね。


「いいえ。ヒカリ様の言い回しに問題であったのでは無くて、レイ・ペルシアが生きていることは確定情報なのでしょうか?」

「こっちに来る前には、サンマール王国に滞在していたよ。生きていたよ」


「ヒカリ様、どのようにして、レイと知り合えたのでしょうか?」

「サマリさん、ごめん。

 みんなの食事の片づけをして、ニーニャと交代で操縦するために仮眠も取りたい。

 だから、続きはレイさんと会ってからにしよう」


「わ、分かりました……」


 そんなにガックリしないで欲しいな……。

 どうせ、明日の晩には会えてるだろうし……。


 よし、このまま、サンマール王国に帰るよ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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