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6-44.リサの不安(3)

「ニーニャ、ただいま~」

「ヒカリ、お帰りなんだぞ。まだ昼過ぎなんだぞ。勝負が一瞬で着いたのか?」


「いや?二人とも疲れたから、ご飯食べに帰ってきた」

「すると、ご飯を食べたらまた向かうのか?」


「カサマドさん、リサ、ご飯食べたらもう一回行く?」


 後ろに仲良く並んでいた二人は、すっごい嫌そうな気配を出して、静かに首を横に振った。


「ニーニャ、もう良いみたい」

「そうなのか?なんか、二人とも納得いってないみたいなんだぞ」


「納得が行かないのは別の件で、疲れている方が先なんじゃないかな?」

「だったら、たっぷり食事をして、ゆっくり寝ると良いんだぞ」


「二人とも、ニーニャが優しくて良かったね。ご飯食べてからお昼寝すると良いよ」


 二人のプライドとしてはズタズタなんだろうけれど、幼稚園や保育園で子供がお昼寝タイムを促されている感じになってしまうのは否めない。

 でも、ニーニャも私も悪気があって揶揄からかっているわけでは無いし……。


 二人の食事の面倒をみて、宿泊場所で二人仲良くベッドに入ったところを確認してから、私はニーニャの待つ応接間に戻ることにした。後ろで二人がボソボソ会話してるみたいだけど、気にしないでおこう……。


ーーー


「ニーニャ、お待たせ。どこまで進んだ?」

「ヒカリ、いくつか決まったことがあるんだぞ。


 最初は、水の湧き出る樽な。

 樽の方は設置場所の土台と囲いをしっかり作ってから置くことにしたんだぞ。盗難もあるが、万が一に壊れてしまっては元も子もない。組み立て方と、最後の印の発動のさせ方だけ教えてあるから、そこは残ったメンバーが上手くやってくれるんだぞ。


 次は、重力軽減トロッコが欲しいんだぞ。

 ヒカリの許可が出れば、トロッコ自体は私が作る。レールを石で作るか金属加工で作るかは彼らと相談になる。石だとヒカリのナイフが必要になるから加工に時間が掛かって面倒なことになると思うんだぞ。


 そして、食料備蓄倉庫の製作。

 ヒカリが持ってる食料をここに置いていく物を格納する倉庫が必要なんだぞ。もし、肉類があって、冷蔵倉庫が必要なら、魔石と冷却スイッチの印を作る必要があるから早く私にいって欲しいんだぞ。


 製錬炉の無害処理技術の導入。

 ドワーフ族の精錬方法では時間が掛かり、魔族の幹部が来たときに納品に間に合わない。かといって、今のままだと外の砂漠化が止まらない。

 ドワーフ族の持つノウハウと知恵を石板に印の形で示すことで、それを複数作成して、無害化処理される製錬炉の作成に取り掛かることになる。時間が掛かるがその進め方が良いと思う。ヒカリの意見も確認したいんだぞ。


 最後に、ドワーフ族のサンマール王国への派遣についてだが、2家族の移住希望者が居るんだぞ。それぞれが6人家族だから12名になる。そのうち8人が働ける年齢で、健康な人材なんだぞ。住居と指示系統をしっかりと与えれば、一般的なドワーフより大きな成果を出すと期待できるんだぞ。


 どうだ?」


「ニーニャ、凄くない?」


「褒めて良いんだぞ。でも、実はほとんど何もしていないんだぞ。私はヒカリのやりたいことを伝えて、皆の意見をまとめただけなんだぞ。


 それで、ヒカリへのお願いは大丈夫なのか?」


「うん。


 まず、樽の防犯は考えて無かったね。

 移動しようとしたら、機能停止が掛かるような印を付けると良いかもね。『ここから動かしたら水が出なくなる』って、皆が判れば動かそうとする人は居ないし、大事に扱ってくれるよ。


 重力軽減トロッコは……。

 う~ん……。

 保留が良いんじゃない?

 私が居ない所で、高度な技術を持つことが分かると、魔族に回収されたり、技術を探ろうと拷問に掛けられたりするかも。ただ、レールと車輪、そこに魔石を組み合わせた動力補助を作れば、今の人手による運搬よりは断然楽になると思うね。

 トロッコとは別に、アジャニアで水車を使った水の汲み上げ機構を作った様に、深いところから掘り出した鉱石を地上にまで上げるためのリフトのような機能を魔石補助を用いたり、そのリフトに使うゴンドラにだけ重力遮断を掛けるのは良いかもね。


 食料備蓄については……。

 小麦なら半分置いて行って良いよ。ただ、半分でもニーニャが関所に建てた倉庫2棟分あるから、準備よろしくね。それと、小麦粉も冷暗所で保存した方が日持ちするから、冷蔵庫とまではいかなくても、15℃以下で風通しの良い場所がいいね。

 お肉はクジラなら一頭分ある。というか、ゴードンさんの今回の訪問が無くても元々常備してある。これを置いて行くので良ければ、ニーニャが言ったように、冷蔵庫か冷凍庫が必要になるね。

 これだけあれば、300人が3ヶ月分の食料にはなると思う。足りなければ様子見つつ、また飛んできて置きにくれば良いし?


 製錬炉の詳しいノウハウは聞いても解らないから任せる。洞窟の外の砂漠化を止めたいよね。それが私の一番のお願いだよ。


 移住の件はマリアさんとかハピカさんに伝言すれば、準備しておいてくれる。住居に必要な広さとか、機材とか家具とか分かったら今から注文しておくから、リストにしておいてね。


 そんな感じで良いかな?」


「私は大丈夫なんだぞ。

 あとは、カサマド、テイラー、ムカンの3人と良く話をしておくんだぞ。

 それが終われば、さっきの手配を整えて、サンマール王国に帰ることが出来るんだぞ」

「ニーニャありがとね。じゃ、ドワーフ族の方は任せた。

 カサマドさんは寝ているはずだから、テイラーさんとムカンさんと話をするよ」


 ニーニャと交代するようにして、テイラーさんとムカンさんが部屋に入ってきた。

 礼儀正しいビジネスマンって、感じだよね。身長は2m近くあって、青黒くて、角も生えてて、ちょっと威圧感あるんだけれど、それは風貌のせいであって、態度では無いから仕方ないよね。


「ヒカリ様、お話があるとニーニャ様から伺いました」


 と、テイラーさん。ムカンさんはテイラーさんの横で並んで黙って立っている。


「あ、うん。そこに座って話をしよう」

「承知しました」


 昨日の応接間のテーブルの所で、私と魔族の二人が向かい合わせに座って、打ち合わせの準備を始める。ついでだから、お茶菓子とお茶もだしておこう。


「ここに残る魔族のメンバーと、サンマール王国に派遣してくれる魔族の人の人選は終わりましたか?」


 私は質問を投げかけると、いつものリラックスした感じで、お茶菓子を木皿から摘まんでボリボリと食べながら返事をまつ。

 その様子を面と向かってみているテイラーさんとムカンさんは、お茶菓子の方が気になる様で、私の質問に答えてくれない。

 むぅ。まぁ、良くないね。


「あ、気になるならお茶菓子下げる?それとも先に食べる?」

「あ、いや……」

「すみません。集中します」


「あ、気楽な感じでって思ったけど、返って迷惑だったね。一旦下げるよ。終わったらみんなで食べよう。

 それで、サンマール王国に同行いただける人は誰に決まりましたか?」


「ヒカリ様、ここからサンマール王国まで陸路ですと半年、海路であっても二ヶ月近く掛かると見込まれますが、我々の理解は合ってますでしょうか?」


「うん?そんなもんなのかな?それがどうかしたの?」

「奴隷である我々が何かを意見することは申し訳ないのですが、ニーニャ様からも『なんでもヒカリに相談そるんだぞ』『秘密が漏洩する危険を避けることを最優先にするんだぞ』と、ご指示頂いておりまして……。


 ここの銅の精錬所の運営についてなのですが、我々魔族の親族や婚約者が二ヶ月に一度会いに来てくれます。そのタイミングで我々管理メンバーが不在になると、訪問者に理由を説明するための策を講じる必要があります。

 また、カサマド様も態度には出しませんが、偶にこられる婚約者の訪問に際して寂しい思いをされるはずです」


「じゃぁ、その前後で帰ってくれば良いね。二ヶ月もかけてここまでを往復するのだから、1-2日ずれても『用事で出かけている』とか言えば大丈夫でしょう?」


「はい。都合がつかずに1-2日待たせたことはこれまでにもありますので、その程度は問題になりません。

 ですが、一週間も不在で放置した挙句、面談が叶わぬまま魔族の土地に戻らせることとなると、不信感を抱き、周囲への余計な詮索をしたり、何らかの調査活動を始めたりする可能性がございます」


「確かに、いつ到着するか判らないのが不味いね……」

「ヒカリ様、到着タイミングの問題では無いと思うのですが?」


「到着タイミングが判れば、サンマール王国まで呼びに来てもらって、そこから戻れば間に合うでしょ。

 さっきの、『1-2日なら待たせても大丈夫』って話は、実は問題があるの?」


「ヒカリ様が女神の力で、転移門を設置して、その通行を可能にして頂けるということでしょうか?」

「女神の話はもう良いから。私のことを女神扱いするのは禁止ね。

 それよりも転移門ってあるの?」


「吟遊詩人の語りの中には登場します。魔族の国で私が存在を確認した訳ではございません」


「やっぱり、空間跳躍って難しいんだね。私も解らないよ。

 じゃ、そういうことで、なるべく正確に訪問者たちがここに到着する日時を知る方法が必要だよね」


「転移門が無いとすると、遠話術えんわじゅつになるのでしょうか。

 ここに居なくても、会話だけで誤魔化すことが可能かもしれません」


「遠話術ってなに?魔族は使えるの?」

「女神様なら吟遊詩人のサーガに出てくる技が使えるのでは?」


「私には解らないよ。どんな感じ?」

「遠く離れた所の人と、伝書バト、狼煙のろしなどの通信手段を用いずに、会話を成立させる方法です」


「どうやるの?」

「女神様に出来ないのであれば、きっと吟遊詩人の作り出した夢のようなお話になりますね」


「そうしたら、具体的に考えないと!」

「馬車が出発したら、狼煙のろしを上げるのは如何ですかね?」


「この洞窟の中では見えないよね」

「馬車が出発したら、先触さきぶれの早馬を出すのはどうでしょうか?」


「ああ、馬車が到着するより、2日間早く馬が到着すれば良いね」

「ヒカリ様、ですが、ここに到着するまでが二日間早くなったとしても、ここからサンマール王国まで片道2ヶ月掛かることはどうしましょうか」


「二日あれば、ここからサンマール王国まで移動できるから」

「今度こそ転移門ですね?」


「いや、普通に飛べばいいでしょ」

「高さ2000mの崖を超えて、直線距離で2000km以上離れています。無理です」

「カサマドさんとリサなら特訓すれば何とかなるよ」

「話が全然見えてきませんが……」


 う~ん……。

 空飛ぶ卵も、飛竜も使わず、念話も使わずに距離を稼ぐって、飛空術で飛ぶしか無いと思うんだけどね……。

 それ以外に何があるかな……。

 う~ん……。


「やっぱり、飛ぼう!」

「わかりました。飛びましょう!」


「一緒に特訓する?」

「特訓しましょう!」


「じゃ、今日はいろいろ二人も疲れてるから、明日から特訓かな。三日ぐらいで何とかなってね」

「明日までに、他の全ての業務の引継ぎを終わらせ、特訓に時間を割ける様に調整を進めます」


「ありがとね。じゃ、明日からよろしくね」

「承知しました!」


 うん。

 良い感じじゃないかな?

 リサも飛び方を知りたがっていたみたいだし。

 魔族の人3人はニーニャの奴隷印が付いているから無闇に秘密を口外しないだろうし……。

 ま、大丈夫でしょ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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