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6-40.ドワーフ族の支援(3)

「ヒカリ様、ドワーフ族の斧の件についてですが、残念なお知らせが……」

「カサマドさん、とりあえず、その残念な内容を聞くよ」


「簡単に言いますと、ドワーフ族の斧を担保にした借金の返済期限が切れて、魔族に所有権が移りました。

 そして、その斧は国営カジノの景品となっております。

 ですので、カジノで相当量のチップを稼いで、景品と交換する必要があります」


「うん?

 カジノのチップが景品に交換できるなら、魔族の通貨を持ち込めばチップに交換してくれるんでしょう?実質買い取れるってことでしょ?」


「私の説明不足です。

 ジャックポットと呼ばれる、大勝ちしたときの副賞になっておりますので、単純にチップでの交換にはなりません。

 ゲームでジャックポットを勝ち得るためには、相当数のゲームに参加しないといけませんし、そのゲームの参加には大量のカジノチップが必要になります」


「ニーニャ、どうする?」

「ドワーフ族には酒を飲んで賭け事する馬鹿者が多いんだぞ。

 身内の博打で負ける分には、貸し借りで相殺したり、殴られて済ますなどがあるが、公営の、それも種族を跨いだカジノで賭け事をして負けたら、それは仕方ないんだぞ」


「あ、いや、そうなんだけど……。でも、例の斧は必要でしょう?」


「ヒカリがハネムーンで豪遊すれば魔族も喜ぶんだぞ。

 斧が取り返せるかは、ヒカリの運次第なんだぞ」


「ニーニャ、私が遊ぶお金を用意してくれるの?」

「……。遊びに行く前に、ここの状態とサンマール王国を片付けるんだぞ」


「あ、うん。そうだね。片付いたら、カサマドさんにも付き添って貰おう。

 あと、フウマにも今から内偵しておいて貰うと良いよね」


「ニーニャ様、ヒカリ様、話に付いていけずに申し訳ございません。

 もし、我々が同行する必要があればお申し付けください。

 ただ、多少はこの精錬所の管理に人を残す必要があるかと……」


「カサマドは、その羽と角は隠せるのか?

 人族は魔族を無闇やたらと恐れている。

 個人的な恨みを抱いているのが者達がいる。

 可能であれば、無用ないさかいは避けるのが良い」


「ニーニャ様、多少窮屈な格好にはなりますが、翼は折りたたんで小さくして、背負い鞄に収納して擬態することが可能です。

 角は帽子などの装飾品で隠すしか有りません」


「ニーニャ、ちょっと横からごめんね。

 カサマドさんは妖精の加護とか貰ってる?

 あるいは、妖精の加護を確認できたりする?」


「それは伝説の中に登場する『妖精の長が親密になった相手に加護の印を施す』という、あれでしょうか?」


「そのアレだね」

「見たことがありませんので、見えるかどうかもわかりませんが……」


「ああ……。

 じゃぁ、私のこの左手の甲の飾りが見える?」


 と、念のため身に着けていた手甲のアミュレットをカサマドさんに見せる。


「はい、確認できます。

 できますが、それはその下にある入れ墨を隠すための装飾品でしょうか?」


「え?じゃぁ、私のひたいのも見えるの?」

「はい。ティアラのような髪から額に掛かる装飾品の下に、綺麗な水色の涙型の入れ墨が見えますね。普通、入れ墨にしますと、ヒカリ様のような綺麗な色を保つことが難しく、徐々に黒ずんでしまうのですが、とても不思議ですね。


 ……。

 まさか、ヒカリ様?」


「念のために確認だけど、テイラーさんとムカンさんは、カサマドさんと同じものが見えるの?」

「「いいえ、何の話をされているか分かりません」」


「ニーニャ、どうしよう……」

「ヒカリ、私も見えないけど、ルシャナ様達から色々貰っている。

 見えないから隠さない。問題無いんだぞ」


「まぁ、ニーニャだからいっか……。

 でも、私はこの後魔族の国とか歩くときに、色々見られるよ?」


「全員じゃないから大丈夫なんだぞ。

 きっと、翼持ち以外には見られないんだぞ」


「うん、じゃ、とりあえずは気にしないで行こう。

 ということで、カサマドさんは私の入れ墨のことは誰にも喋らない。

 私の知り合いを紹介して、入れ墨みたいなものが見えても気にしちゃダメ。

 これ、大事だから。

 いい?」


「何か、全然わからないことだらけですが、メモを残します。

 喋ってはいけない内容をメモしておかないと、いつの間にか自分で自分の首を絞めそうです」


「ニーニャ、なんだか色々と面倒くさいね」

「ヒカリだから仕方ないんだぞ。

 私も面倒になってきたから、今日は寝るんだぞ」


「色々疲れたから、ピュアでも掛けて寝ようか」

「それが良いんだぞ。明日から気を取り直して再開なんだぞ」


「ニーニャ様、ヒカリ様、もし、お疲れの様でしたら、私どもでご用意させて頂くことが可能なマッサージサービスは如何でしょうか?それともサウナが宜しいですか?」


「ヒカリ、任せるんだぞ。私はピュアだけして寝るんだぞ」

「カサマドさん、私達3人は寝床だけあれば、あとはピュアして寝るよ。

 明日以降に考えることにしよう。ありがとうね」


「ヒカリ様、もし可能であれば、その『ピュア』を教えて頂けますでしょうか」

「ああ、3人そこに立って。

 せ~の~、ピュア!

 出来たでしょ?」


「ヒカリ様、今日これ以上質問はしません。明日もよろしくお願いします」


ーーー


 その晩、ニーニャの奴隷となった魔族たち3人は、ニーニャ、リサ、ヒカリの3人を寝室に案内すると、本日のまとめに取り掛かった。


「カサマド様、あの大量の金貨は何でしょうか?

 大金貨5000枚といいますと、1枚20gとして100kgになります。

 ニーニャ様たちが所持する旅行者の鞄で運べる量と重さではありません」


 と、テイラーが口火を切る。


「重さだけならば、何とかなる。ヒカリ様は身体強化のスキル持ちだ。


 それよりも、荷物の容積に比べて、入っていた物が多すぎる。1つずつは、金貨にしろ、ニーニャ様の間食にしろ、樽の部材にしろ、夕飯に使った食器や食材にしろ、『ちょっと荷物が多めだが、冒険者が工夫すれば何とかなる範囲』だろう。


 今日の話の流れからすると、金貨があとどれだけ残っているかもわからず、樽の部材もあと何セットあるかも不明。食材についても、いろいろと隠し玉があるに違いない。とすると、ヒカリ様は吟遊詩人のサーガにある、伝説の鞄を持っていることになる」


 と、ムカンが続く。


「もし、ヒカリ様が本当にエスティア王国の王太子妃であったならば、何年も前から今日の計画を進めていたに違いない。

 先ず、あの量の魔族の金貨を集めるにしても、相当な年数と費用が掛かる。

 魔族の金貨を一度に大量に交換できたとしたても騒ぎになる量だ。単純に5000枚と皆が言うが、交換に必要な人族の金貨の枚数は50万枚だ。1万枚ごとに証書を発行していたとしても、500枚の証書が何処かに残っているはずだ。

 それを周囲に知られずに短期で集めることは出来ない。


 とすると、今回の訪問は何年も掛けて用意周到に準備された条件に我々が嵌められたことになる。嵌められたと言うと聞こえが悪いが、契約上のルールに基づいて、交換できない魔族の金貨を一度に大量に突きつけることで、我々を奴隷としての支配下に置くことになった訳だ。

 もし、彼女らが悪意をもって行動していたとすれば、我々3人を奴隷にするよりも、魔族の金貨1万枚の証書として、本国に突きつけることで、これまで魔族が稼いできた他種族の金貨を全て掃き出して、それでも不足する分は種々の契約書をほとんど破棄する必要があっただろう。


 もし、ニーニャ様とヒカリ様が今日我々に指示を出した、『就労者の待遇改善と、精錬所の改修に伴う砂漠化の復旧』に関する内容がここに来た本当の目的だとすると、我々が優先してきた価値観とは異なる。

 

 ドワーフ族があがめるノームと呼ばれる妖精の長であるとか、主神とこの世界を繋ぐ女神と呼ばれる存在かもしれない。その前提で今日の一連の会話や行動を振り返ると、『女神の行動を秘匿するための、お粗末な隠蔽劇』とも考えられる。

 

 女神であれば、なんでもありだろう?」


 と、カサマドが今日の出来事を丸く収めようとする。


「つまり、女神様であれば、魔族の金貨をいくらでも作れて、それを提示できたということですね……」


 と、テイラーがカサマドの〆に納得したかのように追従する。


「確かに女神であれば、伝説の鞄を作ることもできるかもしれない」

 

 と、ムカン。


「それだけではない。


 水の樽の組み立てに際して、『ステラ・アルシウス様とニーニャ・ロマノフ様に作らせた』との話があった。

 どのような偶然が重なれば、種族の族長クラスであり、相互に交流も無い人たちを従えて、指示を出すことが可能になる?

 ヒカリ様は『身分を偽る過程で二人に支援して貰っている』との説明があったが、それぞれ個性のある種族の長を一堂に集めて支援をさせる状況を作ることが困難であり、その二人が人族のメイドを支援するなど我々の常識から考えてあり得ない。


 更にもう一点。ニーニャ様が作られたオリハルコンの指輪だ。

 私が購入していた偽物のオリハルコンの指輪を作ったのは人族の皇妃である。ところが、今回の女神様の身分はストレイア帝国の属国であるエスティア王国の王太子妃だ。帝国を構成する属国が皇妃の偽物作成にケチを付ける真似をすれば、属国は簡単に制圧されてしまう。

 もし、ヒカリ様が本物の王太子妃であるならば、そのような危険を冒す訳が無い。

 あの指輪を作って頂いた状況は、『ニーニャ様がニーニャ・ロマノフ様である』ことを示すとともに、『ヒカリ様がニーニャ様に直接命令を出せる存在だ』と、我々に間接的に説明するための芝居であったのだ。


 きっと、私がヒカリ様の存在や会話の内容を素早く理解出来ず、何度も質問を重ねていたため、『判らないなら教えてあげる』とのお言葉であったに違いない」


「「なるほど……」」


 と、カサマドの筋道を立てた検証内容に二人が頷く。


 魔族の3人にとって、一度に多くの奇跡を見せつけられ、その奇跡の元となる多くの布石も説明されていないのであれば、『女神の奇跡だろう』と、納得のいく答え出すことで心の平穏が得られたのであろう。


 この『女神の奇跡』と『法王の奇跡』が対決するのは、この事件より、ずっと先の話ではあるが……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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