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6-37.魔族との交渉(8)

 第一弾として、一部のドワーフ族の就労契約をキャンセル出来る様に借金の棒引きに成功した。さぁ、仕上げに入るよ!

「ニーニャ殿、私どもが準備できる金貨の量を知りたいとは、それはどのような意味でしょうか?」

「簡単に言えば、ここの精錬所の経営権を買い取りたい。

 この精錬所が原因で、洞窟の外側が草木も生えない荒れ地と化している。

 その状況をドワーフ族の一人として看過かんか出来ない。

 それに基づく提案をしていると捉えて欲しい」


「この精錬所は魔族の技術者たちが最新の技術を導入して設備を構築しました。これ以上の物は無いといえましょう。それ故に、この精錬所と洞窟の外の砂漠化は無関係です。

 たとえ、その因果関係を示すことが出来たとしても、これ以上の改善の余地は無いと考えられます」


「それは魔族国が所有する知識と技術者の範疇における判断であって、私の見解とは異なる。経営権を買い取り次第、現状の改善に関わる施策を実行するまでです」


「主旨は理解できました。

 ですが、経営権はお渡しできません。

 何故なら、この施設全体が国有の施設だからです」


「何処の所有であろうと関係ない。

 ここを実行支配し、砂漠化の原因を除去する策を打つ」


「つまり、この施設を制圧して乗っ取るということでしょうか?」


「いやいや。

 武力行使により制圧しても、ここの精錬に関わる活動は改善されない。

 単純に経営方針を変えるだけであり、生産活動を停止するつもりもない」


「意味が解りませんが?」

「結論から言えば、カサマド・ディアブロ殿、貴方を私の奴隷とします」


「……。」

「何か?」


「先ほどの契約書に基づく不履行が生じた場合には、

 私を奴隷にする権利か、魔族の金貨1万枚を所有する権利をニーニャ殿が手に入れることができます。私個人を掌握するよりも、魔族の金貨1万枚の方が財産価値は遥かに大きいと考えますが?」


「価値観の違いと言えましょう。

 また、カサマド様を奴隷にするからといって、これまでの経営手法の全てを捨てさせるつもりもありません。

 ご理解頂けましたか?」


「説明は理解しましたが、私の考え方の範疇の外側の考え方を提示頂いております。


 ですが、契約書の履行が行えないと、ニーニャ殿の奴隷になることは理解しました。

 では、この精錬所の施設において、金額が明示出来ている物のリスト、用意できる金貨の総額を見積もりましょう」


 カサマドさんと支援者二人がかなり慌てた様子で各種資料と契約書を集め始めて、この部屋に資料を積み上げる。

 各種族の金貨が入っていると思われる革袋も何個も部屋に運び込まれた。ただ、他種族の金貨は100分の1の価値しかないから、1000枚単位で積み上げても、魔族の金貨が10枚20枚で済んじゃう話なんだよね。


「ニーニャ殿、書類と魔族以外の種族の金貨が揃いました。

 契約書の合計額は魔族の金貨で2180枚相当。

 各種族の金貨の合計は24000枚。すなわち、魔族の金貨で240枚相当。

 これらの合計の2420枚が本日交換可能な魔族の金貨の数量になります」


 カサマドさんの示した書類と金貨の総額を確認して、ニーニャと私が手分けして、小分けにして納められた革袋を100枚単位で24袋、端数で20枚を床とテーブルの上に並べた。

 本当は一括してどちらかの鞄から取り出しても良かったのだけれど、重量と容量とリスク分散の観点から、『分散して所持している』と見せておくことで、無用なリスクを背負わなくて良いもんね。


「カサマド様、合計で2420枚の金貨になります。ご確認頂きたい。

 それと、もし先ほど契約書の最中に見本として示して頂いたオリハルコンの指輪と鑑定書が含まれている場合には、それは今回の取引から除外して頂きたい」


「承知しました。

 そうしますと、総計で金貨2400枚となりますので、こちら革袋から出ている20枚の金貨はお返しします。革袋24袋分の金貨の鑑定に入らせて頂きます」


 こちらも様々な種族の言語で書かれた契約書をニーニャと私で手分けして確認した。判らない文字とかあれば、ステラやレイさんに念話を通して翻訳して貰ったりして、何とか契約書の中身を理解しつつ、魔族の金貨2160枚相当(ただし、偽オリハルコンの指輪20枚を除く)の確認を終えた。


 あとは種族の金貨24000枚なんだけど、各種族ごとに、ランダムに抽出した10枚の平均値から1枚当たりの金貨の重量を算出して、あとは革袋の風袋ふうたいを差し引いた中身の重量を元に、金貨の枚数を算出する方法で計算することにした。だって、種族混ぜ混ぜで、金貨24000枚の真贋鑑定なんかできないよ……。

 途中で怪しい重量の革袋があったので、分割して重量を測定し直したら、結局のところ他の種族の金貨が大量に混ざっていて、平均重量が変化していただけとかがあった。面倒くさいことに振り回されたけれど、ある意味で真贋判定が出来ているってことにもなるね。


 そんなこんなで、こっちも書類と金貨の確認には、昼ご飯を途中で挟んで数時間も掛かったよ。でも、まぁ、これで決着の見通しが付いたから良いんだけどね。


「ニーニャ殿、提示頂きました魔族の金貨2400枚の確認を終えました。全て本物であると鑑定できました」

「カサマド様、こちらも契約書の中身と合計額の確認がとれました。そして各種族の金貨の合計枚数も確認できました。

 ただし、一部の金貨に、他の種族の集計の混ざっている物がありましたので、合計枚数は一致しましたが、種族ごとの内訳の枚数が変わっていることをご承知おきください」


「ニーニャ殿、こちらの集計ミスを確認・ご指摘頂き申し訳ない。これで金貨の売買契約は完了ということで宜しいでしょうか」

「契約の範囲で金貨の売買が成立したことに、双方合意できたと考えます」


「では……」

「ええ、カサマド様の身柄を引き受けるために必要な魔族の金貨を提示頂きたい」


「はい。

 ここにある物は、引き取りを断られたオリハルコンの指輪と奴隷契約により従っている者たちだけになります。

 彼らの売却先を考えますと、何らかの支度金を提示したく、一人当たり各種族の金貨10枚。これを30名分として各種族の金貨で300枚をご提示頂きたい」


 往生際が良いのか、それとも何か起死回生の逆転のネタがあるのか……。

 随分とあっさりと負けを認めるね……。


<<ニーニャ、私の認識だと、一度奴隷印が付くと外せないって認識だけど合ってる?>>

<<ここで私の奴隷になると、今後一生奴隷印が付いて回るんだぞ。私もヒカリと同じように、カサマドが奴隷になることを簡単に認めていることが気になるんだぞ……>>


<<ナビ、主神が集めているこの世界の情報の中に『奴隷印の解除』に関する記述が何処かに無いかな?>>

<<リアルタイムな情報は収集出来ていないのはご承知のことと思われますが。私がアクセスできるデータベースには、奴隷印の解除に関する情報は有りません>>


<<ニーニャ、わかんない。直接聞いてみようか?>>

<<分かったぞ、やってみるんだぞ>>


「カサマド様、確認ですがこの後、追加で私が金貨100枚の交換を申し出たら、カサマド様には私の奴隷印が付くことで良いですか?」

「私がその提示額を今日中に交換できないと認めて、ニーニャ殿の要求が私を奴隷にする選択をした場合、先ほど作成した契約書に基づき、私はニーニャ殿の奴隷となります」


「その背中の翼、そしてディアブロ家の家名を持つ魔族として、王族関係者と見受けられるが、他種族の者の奴隷となることに精神的な苦痛は生じないのでしょうか?」


「ああ、なるほど。

 私が何らかの罠を張っていて、この状態をひっくり返し、挙句ニーニャ殿に金貨1万枚分の借金を背負わせる可能性を危惧されておられるのですね。


 そういった心配はご無用です。

 正直、私は頑張ることに疲れたのですよ。

 この施設を運営するための規律の維持のための厳格な処罰、契約書作成に伴う各国の法律と語学の勉強、種族ごとにことなる文字の読み書きの習得、国からの精錬施設に対する銅の生産量のノルマ要請などなど。

 

 かなり、頑張っていたのですがね……。

 そして、優秀な部下も育ち、就労契約に従って熱心に働く人々を管理してきました。ですが、その重荷から解放されるのです。

 ある意味で、晴れ晴れとした思いですよ」


「そうでしたか……。

 この先、銅の精錬量が未達になった場合、国への違約金として支払う予定の金額はどの程度積めば大丈夫ですか?」


「ニーニャ殿にご心配頂かなくても大丈夫です。今回の契約の結果として私は経営から任を解かれるため、後任の者がその責任を負うことになるでしょう。

 

 ですが、まぁ、参考までに見積もりますと、今後の銅の生産量が半減した状態が1年続いたとすると、合計で魔族の金貨で5000枚は積み上げる必要があるかと思います。

 先ほどの取引を行った金貨2400枚分は、私の私財と交換したため所有権は私にあります。その上で私がニーニャ殿の奴隷に組み入れられることになるので、残りの2600枚の金貨を用意頂ければ大丈夫でしょう」


 ニーニャと私でアイコンタクトを取ると、無言で午前中に出した金貨の24袋に続いて、今新たに金貨26袋をテーブルと床に積み上げた。


「これで、カサマド様は私の奴隷になって頂けるか?」

「承知しました。ニーニャ様の仰せのままに」


 と、カサマドさんはニーニャと向き合って座ったまま、支援をしていた二人の魔族に指示を出して、自分のうなじを見せる。一人の魔族がニーニャとの売買契約書を持ってきて、その署名部分にある印をカサマドさんに当てて、何かの呪文を唱える。

 それでカサマドさんはニーニャの奴隷になった。


「ニーニャ殿、差支えなければ、この者たちも私の奴隷に加えたいのですが宜しいでしょうか?」

「私は構わないが、本人たちの意思もあるでしょう?」


 そうニーニャが尋ね返すと、二人の魔族はカサマドさんの左右に座って、うなじをカサマドさんに向けた。カサマドさんはその項に対してなんらかの呪文を唱えて、奴隷印を描き終えた様子。


「さぁ、これで魔族3名はニーニャ様のご自由にお使い頂けます。

 それなりに有能である自信はございますので、なんなりとお申し付けください」


 うん~。

 なんか、あっけなく終わったかな?

 もし、これ以上罠が無いとすれば、色々と情報も聞き出せそうだね……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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