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6-36.魔族との交渉(7)

 魔族の通貨の複製、そして通貨の売買契約書も整った。

 ここから攻めるよ!

「ニーニャ殿、昨日のサービス料金の精算ですね。

 魔族の銀貨で87枚になりますが、お支払いはどちらの通貨になりますか?」


「支払いは魔族の通貨でお願いしたい」


 と、ニーニャが契約書を作るときに支払ったのと同様に私を見て、金貨を出す様に指示を出した。私もさっきと同様に、胸から革製の小袋をだして、その中から1枚の金貨をニーニャに手渡す。


「ただし、お釣りはドワーフ族の通貨でお願いしたい」


 と、先ほどまで契約書を作成していたテーブルの上に、魔族の金貨1枚を震えない親指と人差し指で挟んで、パチリと木製のテーブルの上に音を立てて置いた。


 カサマドさんはニーニャが提示した金貨を見ると、「ほうっ」っと、目を丸くして少し驚きの息を吐くと、いつものスマイルに戻ってニーニャに「承知しました。少々お待ちください」と返事をして、お釣りを取りに行った。


 カサマドさんがドワーフ族の通貨を持って戻ってくると、テーブルの上には金貨が10枚重ねで10本の柱があり、合計で100枚の魔族の金貨が並べてあった。


「ニーニャ殿、こちらはどのような……?」

「カサマド様、精算ありがとうございます。請求書の羊皮紙とお釣りの通貨を先ずは頂きたい」


「は、はい。こちらに。

 それで、そこに並ぶ魔族の金貨はどういったことでしょうか?」


「今、私とメイドのヒカリ、そしてのその娘の3人の精算は完全に終了したことで宜しいでしょうか?」


「ええ、はい。

 先ほど作成しました契約書に関しては、契約書の発行手数料として対価も頂いておりますので、精算が必要な事項は一切発生しておりません」


「では、先ほど作成した通貨の売買契約書に基づいて、こちらの魔族の金貨100枚で、ドワーフ族の金貨1万枚を購入させて頂きたい。

 もし、貯蓄してあるドワーフ族の金貨が不足する場合には、支払い方法について別途ご相談頂きたい」


「あ、あの……、ニーニャ殿、大変失礼な事ではございますが……」

「何でしょうか?」


「このテーブルの上に提示された100枚の魔族の金貨につきまして、鑑定をさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」


「と、申しますと?」


「以前、大量に魔族の金貨を示して、今と同様に通貨の売買の取引を申し出た種族の方がいらっしゃいました。

 魔族側としましても自衛のための偽造防止処置をほほどこしてあります。こちらの金貨の真贋を確認しても宜しいでしょうか?」


「なるほど。


 ですが、我々としても、入手ルートを明かすことは出来ないが、この魔族の金貨が本物であると信じている。それ故、我々の手の届かない所ですり替えを行われるリスクが有ることは避けたい。


 真贋の確認方法を秘匿したい事情があることは想像できますが、この部屋から持ち出さずに、囲いをするなどして真贋の判定をして頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」


「承知しました。支援頂く人を呼びます。

 それと念のためですが、もしこちらの金貨が偽物であると発覚した場合には、直ちに犯罪奴隷として拘束させて頂きますこと、ご了承ください」


「贋金と判明した場合の対応について承知した。準備と真贋の確認作業に入ってください」


 カサマドさんが二人の助手といろいろな機材を昨日から使っている応接間に持ち込んだ。天秤とか、厚さや外周の形を簡単に判定するための金属の板に長方形の穴や円形の穴が空いている銅板。そして、銅の針のようなものと金属の鎚。その他にも計量の参照用の試料となるような魔族の金貨や銀貨なんか並んだ。


「ニーニャ殿、申し訳ないがこちらで作業をさせて頂きます。部屋からは持ち出しませんので、囲いによる作業の目隠し処理を許容頂きたい。

 作業の間、少し離れたそちらでお待ち頂けますか」


 と、ニーニャと私達は同じ応接間の中にある小さなサイドテーブルと二人掛けの椅子を示された。一度に100枚も持ち込まれて、真贋判定の完璧さが求められるから、全数検査になるだろうね。

 時間も掛かるだろうから、3人でお茶でもしながら待つよ。ただ、リサは昨日のパンケーキを食べてから良く寝ちゃっているから、無理に起こさないでおこう。


 私たちは緊張の欠片かけらも無く、優雅にそして香り豊かにお茶をしながら、衝立ついたての向こう側から聞こえるカチャカチャとした音を聞く。焦って指示を飛ばすような様子もなく、ひたすら正確に作業をするために一つ一つの行動がマニュアルで管理されているかもしれないね。

 こういうところで、身内でもめる様子とか、慌てふためいて対応している様子が相手に知られちゃうと、動揺していることを悟られるし、交渉の場で有利に立てないからね。こういった辺り、やはり、平時から相当な訓練が積まれているんだと思うよ。


 と、30分ほど掛かって、カサマドさん一人が100枚の金貨をお盆に載せて衝立の向こうから現れた。


「ニーニャ殿、大変お待たせしました。我々3人で鑑定させていただきましたところ、本物の魔族の金貨として確認がとれました。

 つきましては、ドワーフ族の通貨1万枚をご所望とのことですが……」


「真贋の鑑定お疲れ様です。ドワーフ族の通貨1万枚は何か不都合がおありでしょうか?」


「我々としては、金貨等の準備は行えます。

 ですが、この銅の精錬所を経営するためには各種族への賃金の支払いや食料等への支払いにある程度の資金を貨幣で所持しておく必要がございます。

 それゆえ、ニーニャ殿が許容戴けるのであれば、先ほどの契約書の記載にあるとおり、鑑定書付きの品物あるいは、金額が明示された契約書でのお支払いに代えさせて頂くことは可能でしょうか」


「契約書に記載の範囲での支払いであれば問題ありません。

 具体的には、どういった内容になりますか?」


「こちらの採掘所および精錬所で雇用している者たちの雇用契約書になります。

 元々借金の支払いのために元本分を契約書の形で示してあります。

 一人魔族の金貨5枚の借用書。これを20人分を受けて頂くことは可能でしょうか」


 ここは、ニーニャに念話を通して、相手に譲歩する姿勢を見せつつ、なるべく多くの情報を引き出さないとね。

 先ずはここの洞窟の中にある精錬所で雇用されている全体人数、それに奴隷として雇用されている人数、その他に家族や世話人として奴隷契約でも就労契約でもなく住んでいる人の人数。念のため、魔族の人達の雇用契約についても確認しておこう。


「ああ、確認なのですが、その就労契約をこちらで買い取るということは、本人たちは借金が無くなり、ここで就労を続け無くても良いことになりませんか?」


「ニーニャ殿のおっしゃる通りです。ですが、それぞれの種族の村から離れて、この洞窟での就労に当たるには、周囲とのしがらみや、種族の金貨や借金を効率良く入手できる手段といて、ご本に達が就労契約を結んだ結果となります。

 多くの場合、自分たちの収入を得るためにここに残る形となると思います」


「つまりは、就労契約は別途維持されて、就労するきっかけとなった借金を魔族の代わりに私が肩代わりするということでしょうか?」


ていに言えば、ニーニャ殿のお仰る通りです。

 ですが、この契約書はそれぞれの種族の言語で記載がされておりますので、その種族の下で通貨に交換できることは保証できます」


「ふむ……。

 ちなみに、こちらの精錬所では就労契約を元に働いている人は何名ぐらい、そして奴隷契約で働いている人は何名。その他の直接精錬に関わって無く、家族や間接的な役目を果たしてこちらに住んでいる人数はお分かりでしょうか?」


「何故そのような情報が必要でしょうか?」

「私が借金の肩代わりをすることで、自由意志でここでの就労から離脱する人が出た場合、その影響を予め確認しておきたく。

 私はここの精錬所の運営が不安定な状態になることを危惧する次第であります」


「なるほど……。


 直接就労契約を結び、借用書があるものは全体で200名。奴隷契約により働いている者は、直接、間接合わせて30名になります。

 就労者や奴隷の家族に関しては全数を把握しておりませんが、おおよそ250名程度と考えています。

 このような概算の情報でも宜しいでしょうか?」


「分かりました。

 つまり、ここで奴隷でなく就労している人の20人分の借金を肩代わりするという理解で宜しいですね」


「その通りです」


「承知した。その借用書の中身と枚数が確認でき次第、先ほどの魔族の金貨100枚分を相殺したいと思う」


「ご理解賜りありがとうございます。直ぐに就労契約のある者の名簿とそれぞれの借用書をお持ちします」


 よしよし!上手く行ってるんじゃない?

 少なくともこの段階で、ニーニャがドワーフ族の何名かに、ここから離脱してサンマール王国に来てもらえるようにお願いしても大丈夫な土台は出来たね。

 こちとら、まだ魔族の金貨が7000枚は余ってる。次は何を買い取ろうかな?


 小一時間掛けて、契約書の羊皮紙20枚と就労契約者の照合を終えた。


「ニーニャ殿、大変時間を取らせて恐縮ですが、これで取引は完了ということで宜しいでしょうか?」


「はい、先ほどの金貨100枚に関しては取引が無事に終わりました」

「ところで、ニーニャ殿にお伺いしたいことがありますが宜しいでしょうか?」


「何でしょう?」

「この魔族の金貨の入手元は伏せたいとのことですので、そこをお伺いすることは致しません。ですがもし可能であれば、ここを訪問された理由を伺っても宜しいでしょうか?」

「昨日の面会で述べたとおり、旅をする中でのドワーフ族の訪問という形となっています。何か困ることがありましたか?」

「つまり、偶然立ち寄られたドワーフ族が働く精錬所において、魔族の金貨100枚を提示して、ドワーフ族の借金を減殺されたのですね?」


「現在起こっている事実を端的に並べると、その通りの解釈で宜しいかと」

「なるほど。

 ニーニャ殿、念のための確認ですが、魔族の通貨の取引と他の種族の通貨の取引は先ほどの100枚で終了でしょうか?」


「うん……。

 カサマド様、今日準備できる契約書の類、鑑定書付きの品物の類、可能な範囲で交換できる他種族の通貨の合計量はどれほどになりますか?」


 さぁ、仕上げに入るよ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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