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6-32.魔族との交渉(3)

 よし!ナビと一緒に分析した結果をニーニャ達と共有するよ。

「ニーニャ、お待たせ~」

「ヒカリ、どこまで分かったんだぞ?」


 構造分析の結果から、三層構造で中層を表裏の銀で挟む構造。中層は外周が銅で出来たドーナツ状。中心部は鉛の円板が嵌め込まれている。

 そして比重が1枚の貨幣全体で銀の重さになるように整っている。

 組成分析はそれぞれの金属の精錬度は95~99%。不純物は均質に混ぜ込まれた合金ではなく、不純物が点在していることを簡単に説明した。


「ヒカリ、分かったんだぞ。

 圧延板の作成と打ち抜き、圧接までの加工はドワーフ族で行うんだぞ。ヒカリは圧延板を加工するための平面となる石材を切り出してきて欲しいんだぞ」


「えっ?どれくらい大きさで、どれくらの面精度が求められるの?」

「1m角の石材を切り出して、適当にスライスしてくれれば良いんだぞ。

 平面の精度はこっちで整えるんだぞ」


「分かった。他に私がすることある?」

「それが終わったら、食事の支援をしつつ、金貨の分析をして欲しいんだぞ」


「あっ……。そうだね……」

「じゃ、早速作業に取り掛かるんだぞ」


 と、ニーニャに説明を終えてから、一旦1m角の岩を切り出してきて10cm厚さぐらいでスライスしてから重力遮断を掛けたまま並べておく。あとはニーニャ達にお任せだ

 次にリサと一緒に食事の支援をすることにした。だって、金貨の分析が終わったって、金貨の製作が同時並行で行える訳がないもんね。



 で、リサの食事作りの支援に戻ると……。


「お母様、先ほどニーニャ様への説明の中に、『ドーナツ状』という言葉がありました。どんな形なのでしょうか?」


「えっ?」

「『え』じゃ、ありません。お母様が言いました」


「あっ……」

「身に覚えがあるのですね?」


「……。あ、ある……。」

「では、驚くことでは無いですよね。どのような形状かを教えてください」


「この銅と鉛で出来た円盤を見てくれる?

 外側が銅で、内側の円が鉛で出来てるよね。

 この外周部をドーナツ状って説明したよ」


「なるほど……。

 では、『ドーナツ』とは、何でしょうか?

 秘密の暗号か何かですか?あるいは妖精の長の一人とか……」


「あ、ああ……。お菓子かな……」

「お母様、何がそんなにオカシイのですか?」


「いや、お菓子って、甘い食べ物のことだよ。何も隠して無いよ。

 少し苦い思い出があるだけだよ」

「甘いお菓子が苦いのですか?

 それはコーヒーの様な不思議な飲み物のことでしょうか?」


「不思議っていえば不思議だよ。熱を加えると小麦粉が膨らむんだからさ。

 天然酵母でフカフカのパンを作るみたいに、小麦粉を練った物が油で揚げるとフワフワになっちゃうんだからさ?」


「それは誕生日のお祝いに戴いたケーキのことでしょうか?」

「あ~。あれより断然簡単なの。技も要らないし、手軽な割に美味しいし」


「それは、王国騎士団が来たときにユッカ様に作って頂いたフライドポテトの様な物でしょうか?手軽でフカフカ、サクサクで美味しかったです」

「ジャンルとしては似てるね。両方揚げ物だし。

 ただ、今日はドーナツ作ると色々と汚れるし、油の始末も面倒だからやりたくないかな……って」


「油を使わないで焼けば良いのでは無いでしょうか?

 ジャガイモも油で揚げすに、焼いたり茹でたりして食べます。

 何か不味いでしょうか?」


「いや、なんか、そんな風な流れになるような気がしていたんだよね……」

「何が問題なのでしょうか?」


「美味しい、新しいものを作ることになっちゃいそうだな~って……」

「簡単に作れて、手軽に食べられて、そして美味しいのであればドワーフ族の方達への軽食としても提供できます。夕飯以外に食事の時間を使うことが難しいかもしれませんし。

 良いことの様に思われます」


「分かった……。

 ドワーフ族と魔族との交渉が落ち着くまでは、今から食べる物はみんなに内緒だよ?

 マリア様のお屋敷に戻ったら、みんなと一緒に作るからさ」


「何が問題なのかサッパリ分かりませんが、お母様が何かに対して不安を抱えていて、それは過去に苦い思い出があったということですね。

 配慮します」


 いや、配慮っていうか、絶対に守って欲しいんですけど!

 ラナちゃんやユッカちゃんに知られたら倍返しだからね?

 厄介なのは、今はマリア様もラナちゃんに絶対服従だろうし……。

 

 ま、まぁ、2000km近くも離れているから、帰るのを待っててくれるだろうしね。 多分大丈夫だよ。

 多分……

 

 さて、リサのご要望のホットケーキを作ろう。

 南の大陸では鳥の卵は北の大陸よりも安く手軽に手に入る。けれど乳製品が手に入りくいね。牛乳控えめで卵を多めでホットケーキを作るとなると……。


 ああ、スフレパンケーキってのがあったね。

 あれ、生地に使う小麦の量が少ないけど、メレンゲで膨らませて、フワフワに仕上げることができる。サンマール王国ではエイサンの砂糖工場から砂糖も潤沢に手に入ったから、少し甘めのメレンゲを作って膨らませれば良いね。

 ただ、柔らかすぎると、スプーンとかで掬って食べないといけないから、その辺りは食べやすさを取るか、味と触感を取るかのトレードオフになるね。

 まぁ、試作はリサ用に柔らかめに作っておいて、ドワーフ族さん達の休憩用にはちょっと形が残るぐらいの固さのレシピに変更すれば良いかな。


 私の鞄は持ってきているから、食材や調理器具はいつもと同じ様に使える。不足していた小麦についても、今回ゴードンに沢山持ってきてもらっているから大丈夫だよ。


 あとは、さっきニーニャに渡した石材とは別に、調理用の場所と食事が出来るテーブルなんかを石から切り出して作った。別に、ここに加工した石材で出来たテーブルが残っていたとしても、次に人は来ないだろうし、来たとしても風化してて何が何だか分からなくなっているから大丈夫だと思う。


 リサを台座に座らせて見学が出来るようにしておいて、早速調理を始めた。

 粉をふるって、そこに卵のうちの卵黄のみ、重曹、牛乳を混ぜておく。一方で、卵白だけを集めておいて、そこに多めの砂糖を混ぜて手早く泡立てる。つのが立つぐらいまで硬めに仕上げたメレンゲが出来たら材料の準備は終わり。

 ニーニャに作って貰った魔石で動くコンロにフライパンを並べておいて、油を敷いて温めておく。


 その準備が終わったら、さっきの粉を混ぜたドロドロとメレンゲを合わせて、フワフワな何かをつくる。レシピ本だと、耐熱用のクッキングシートやシリコンカップで型を作っておくのだけど、メレンゲが固めに仕上がっていれば、外枠が無くても、一応なんとかなっちゃう。


 高さが4~5cmになるようにモワモワと盛り上げた状態にして、フライパンに蓋をして、とろ火の火力に落とす。これで大体片面10~15分待ちだね。ここは焦げないように中まで火を通す必要があるからどうしても時間がかかっちゃう。


 この待ち時間を利用して、生クリーム作ったり、ジャム取り出したり、お皿やスプーンを用意して準備を整えて待つ。


 簡単な料理な割に焼き上げに時間が掛かるけど、その待ち時間に見合うフワフワ感は中々体感できない物だよね。今日は焼き上げ時間を利用して、盛り付けにもチョット拘っておしゃれにしてみたり。リサはお城の晩餐会とかに出席したことが無いから、この前の誕生会みたいな、おしゃれで美味しいデザートはあまり経験してないはずだから喜ぶんじゃないかな?


「リサ、出来たよ」


 と、二人分の盛り付けたお皿をテーブルに並べる。


「お母様、なにか、こう……。」

「何?」


「誕生会の様に素敵なデザートが出来ています……。

 私一人がこのような物を食べていて良いのでしょうか……」


「あ~。

 材料も重曹以外特別な物を使ってないし、誕生会で出したケーキの方が手間も技術も格段に難しいし、機材も沢山使う。それにあの時は美味しいフルーツの盛り付けとかもしていたでしょう?」


「私にはよくわかりません。

 ですが、とても美味しそうなことは分かります。

 ラナちゃん、ユッカ様もきっと食べたかったかなと……」


「リサ、とりあえず試食して。

 問題が無ければ、簡易的な盛り付けで作り置きしておいて、ドワーフ族の人達の夜食にしよう。

 みんなには、マリア様のやかたに戻ったら作るよ。心配しないで」


「わ、分かりました……」


 ドワーフさん達は職人の性分なのかこっちの様子はきにしないで一生懸命トンカントンカンやってる。私達は親子でスイーツを食べるっていうね……。

 リサは私が食べている様子を見て真似ををしながら、恐る恐るスフレパンケーキをスプーンで掬って、食べてみる……。


 あ、目をまん丸にしてびっくりしているよ。

 子供って、顔の大きさに比べて目の大きさが相対的に大きいから、本当に目が丸く見えるね。転生者であっても、普段の言葉遣いが大人びていても、この幼児の様子は見てて可愛い。親の醍醐味とでも言うのかな?


 で、リサから感想が出てくるかと思いきや、口の中でモニュモニュと味わってからゴックンと音はしないけど喉が膨らんで飲み込んでいく様子をが傍目にも分かる。喉を通過した後は目を瞑って、口を半開きにして溜息というか、深く息を吐いているよ。

 私がステラとコーヒーを飲んだ時もこんな様子だったのかな?


 リサは一人で感慨深く楽しんでいる様子だから、私は自分の分をジャムや生クリーム、アクセントとしてのミントの葉を織り交ぜながら残りのスフレパンケーキを完食に掛する。

 リサがこれだけ喜んでくれているなら、多少アレンジして、固めに仕上げてもドワーフの人達にも喜んでもらえると思うんだよね。早く追加の作成に取り掛からないと!


 結果として、夜食用のパンケーキは完成した。

 甘味と柔らかさを抑えて、肉の薄切りとか、目玉焼きを挟んだようなタイプ。

 甘味を抑えずに、ジャムやクリーム、バターで味付けをしたタイプ。

 この2種類を何セットか作っておいて、手が空いた時に食べて貰えるように整えておいた。


 で、リサの方は、途中から恍惚こうこつとしちゃって、動かなくなっちゃった。いや、だって、誕生会のときは元気に皆で遊んでいたよ?今回だけこういうのって、どうなのよ……。

 周りに人が居なくて気を遣わないというか、ドワーフ族の言葉も解らないし、技術的な話も解らないから、ある意味で存在意義も無いし手伝えることが無いんだよね……。

 旅の疲れも出ているだろうし、美味しいもの食べて、子供らしく休むのも偶には良いんじゃないかな?


 さ、私は次の準備に取り掛かろう!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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