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6-31.魔族との交渉(2)

 魔族は自国通貨に絶対の自信があるみたいだから、まさか複製されるとは思って無いだろうね。そこの心の隙を突いて、本物と遜色ない通貨を作成するよ!

 ドワーフ族の人達と別れてから、魔族のカサマドさんの所へ戻って面談が終了したことと、明日も見学とか面談の申し入れをするかもしれないので宿泊することも伝えた。ただし、洞窟の外で自分たちで野営するし、朝食の準備も必要ないことも連絡しておいたよ。

 まぁ、相手はニーニャ名義で請求書を作成してあるだろうし、それを持っていけば誰かの借金が上乗せされるだけで、とりっぱぐれは無いのだろうから私達がこのまま引き払って帰っても問題視することは無いのだろうね。


「ヒカリ、これからどうするんだぞ?」

「ニーニャとリサを先に空飛ぶ卵まで連れていく。その後で3人のドワーフさん達を私が連れていくよ」


「彼らは空を飛ぶことに不慣れだし、念話も使えないから優しく扱って欲しいんだぞ」

「わ、分かった。多分大丈夫。簡単なドワーフ族語なら理解出来てるから」


「ここで彼ら3人を待たなくていいのか?」

「明日の朝までに金貨50枚相当。あるいは銀貨なら5000枚相当を作らないといけないからね。時間との勝負だよ。

 もし、余裕があったら材料を追加で調達して、金貨10万枚ぐらいは作り上げたいところだよ」


「金貨10万枚は無理だろう。

 けれど、金貨50枚か銀貨5000枚は何とかなるかもしれないんだぞ」

「うん、明日のためにもがんばろうか!」


ーーー


 で、早速ニーニャ、リサ、ドワーフ族3人と私の合計6名が、夜になってかなり冷え込んでいる崖の上に集まった。


「ヒカリ、皆に作戦の説明をするんだぞ」


「はい!これから全体の方針を説明するね。

 今の魔族との通貨の交換レート100倍は承諾できない。

 けれど、貴方たちから警告頂いている通り、半日程度滞在した分に関しては魔族の通貨で支払う必要があるから、そこの準備は進める必要がある。


 相手と同じ土俵に立ててから、次の交渉が始められると思う。そのために、今から魔族の金貨50枚又は銀貨5000枚を作成するよ。


 何か意見はあるかな?」


「ええと、ヒカリ様とお呼びすれば宜しいでしょうか?

 我々はドワーフ族としてニーニャ様を誇りに思っておりますし、ニーニャ様が親愛なる気持ちを込めて会話できる方を見たのは寡聞にして聞きません。

 ですので、『様』という敬称でよろしいでしょうか?」


 と、村長を名乗っていた人から私の敬称で相談があった。

 ニーニャと私の関係は色々と微妙な関係なんだけれども、ニーニャは私のことを信用してくれているし、私もニーニャを信用しているし、協力できることならなんでもする。

 まぁ、今はそこを問われている訳では無いので、私がさっさと進めたいという気持ちを伝えておけば良いよね。


「あ~。気楽にヒカリとかヒカリさんで良いよ。敬語も不要。

 面倒なことに気を使ったり、時間を割くのは止めよう。

 他に質問が無ければ、魔族の通貨の複製の具体的な作戦に取り掛かりたい」


「ヒカリさん、承知した。

 ここまで大胆に『贋金を作る』と宣言する人も初めて見た。

 その案に全力で乗りたい。

 だが、こんな崖の上では材料や機材が足りないんじゃないかい?」


「ニーニャが全部持ってる。

 あと、ニーニャは妖精の子の召喚もできるからある程度の精錬や火力については心配ないと思うよ。

 ケガや体力の方はリサが面倒みてくれるから、人族の言葉で話しかけてくれれば良いよ。

 水と食料はこれから私が出す。他にもここには無くて簡単に手に入りそうなものなら私が調達してくるよ」


「ニーニャ様、失礼ですが、精錬した物を合金にする溶鉱炉、金床かなどこつちといった機材、そして肝心な原料となる鉱石が必要と思います。

 洞窟でお会いしたときと現在では、背負われているリュックが1つ増えただけの様に見受けられますが……」


「溶鉱炉は今は不要。スキルと妖精の子の支援で行う。

 金床と鎚は自作したオリハルコン製のものを使う。

 金、銀、鉄、鉛、その他の基本的な金属はこの鞄に入っている。

 これ以上、説明は必要か?」


「承知しました!

 何から始めれば良いか、指示をいただけますでしょうか!」


「そこのリサちゃんと一緒に食事をして体力と気力を養っておいて欲しい。今日は長丁場になる」


「リサ、そういうことで、みんなと仲良く出来る?」

「お母様、私は残念ながらドワーフ族の言葉を理解できません。私に何が出来るでしょうか?」


「皆へご飯や飲み物の給仕と、回復のスキルで応援してくれれば嬉しいかな。余裕があれば皆が仮眠を取れるような簡易的なテントをここに立てて寝床を作ってくれても良いし。

 もし、退屈なら空飛ぶ卵に戻って寝てても良いよ」


「お母様、承知しました。全力を尽くします」


「ニーニャ、早速だけど何から始める?」

「ヒカリ、先ず灯りが欲しい。出来れば昼間ぐらいに明るくして作業できる様にして欲しいんだぞ。

 次に貨幣の分析。ヒカリの科学なら合金組成の分析も出来るはずなんだぞ。

 後は、もしあれば、正確に重さを量る道具とか、ラナちゃんのナイフで決められた寸法で金属を切り出す際に助けてくれると良いんだぞ」


「わかった。照明と分析ね。

 照明は念のため光学迷彩を張ってこの周辺から光が漏れないようにしておくよ。

 トンカントンカンする音は漏れるけど良いよね?」


「ああ、ここで何かをしていること気が付く人が居たとしても、明日には撤収して証拠は残さないんだぞ」


「おっけ~。じゃ、始めるね」


 先ずは、光の妖精の子に出てきてもらって、明るさを調整してもらう。基本的には全体照明と手元が暗くならないようにする照明の両方を調整してもらう様にした。周りは光学迷彩でドーム状に囲ってあるから外からは単なる暗がりにしか見えていないはずだよ。


 次に、分析ね。

 ドワーフ族の人たちから寄付して貰った金貨と銀貨の直径、厚さ、重さの平均値をナビと念話で通話して寸法を出しておく。

 これって厚さ方向はともかく、真円の上に直径のバラツキが少ない。さっき、ニーニャが言っていたのは、金属板を圧延してから丸い形状を打ち抜くか切り出すかして、形を整えているってこと?

 この時代では圧延機とかないはずで、金貨や銀貨は鋳造した後に、叩いて刻印を付けるぐらいかと思ったけれど、技術的に大きな進歩が見受けられるね。


<<ナビ、これ圧延技術が優れてない?>>

<<ヒカリ、表面の金属光沢から分析したところ、一種類の金属組成では当該する密度の金属が確認できません。合金であるか、内部に異種金属を挟み込んである可能性があります>>


 うっわ。

 これ側面からみると確かにサンドイッチ構造になってるよ。銀貨は表裏が薄くて銀色の金属。肉厚にサンドイッチされた部分は銅とか真鍮に見えるね。


<<ナビ、ありがとう。これ組成分析する前に構造分析しておいた方が良いね>>

<<それが宜しいかと>>


「ニーニャ、準備で忙しいところごめん。

 この貨幣、技術力がヤバい」


「ヒカリ、今更何を言っているんだぞ。

 魔族から銀貨15枚を購入した時点で気が付いたんだぞ。

 でも、ヒカリの作戦は理にかなっているから、私の技術でこの貨幣の完璧な複製を作るんだぞ」


 そうなんだよね。


 金属重量に基づく兌換通貨だかんつうかだったら、こんなことにならない。魔族の貨幣は信用通貨しんようつうかだから、魔族の技術力とか経済支配力とかを元にした貨幣であって、原材料の価値だけで考えたら他の種族の十分の一にもならない。


 裏を返せば、通貨の複製に成功すれば、資源の10倍の価値を創造できて、それをそのまま魔族の信用通貨に対してダメージを与えることが出来る。この作戦の意味をニーニャは多分理解してくれているんだと思う。


 とりあえず、ニーニャの話に戻ろう。


「ええと……、ニーニャ、銀貨なんだけど、表裏の金属とサンドイッチされた金属で種類が違う。サンドイッチされた部分がどんな金属か判らないよ」


「形状見本は1枚でも残っていれば良いから、好きな方向に切断して構造を分析するんだぞ」

「分かった。先に銀貨の構造分析と組成を分析するね」


「それが良いんだぞ。

 金貨は形状が圧延構造で、その上、密度も金の比重に近い。

 つまり、柔らかい金の貨幣でありながら、わざわざ圧延していることになるんだぞ。


 銀貨の技術力と手間を考えたら、金貨の方は偽造防止処理が全くされていない。もし、そんな金貨が他の種族の金貨の100倍の価値があると分かったら、皆が既に偽造貨幣を製造しまくっているはずなんだぞ。

 だから、きっと銀貨より巧妙な手段で偽造防止処理がされているんだぞ」


「分かった。先ず、銀貨から分析を始めるね」

「頼んだぞ。こちらは準備を続けるんだぞ」


 ニーニャ凄い……。

 昼間の魔族のカサマドさんと会話の応酬を交わしながら、貨幣の技術を周囲に悟られずに分析をしていたなんて……。

 それだけじゃなくて、さっき手渡されたばかり金貨についても形状と重さの感触を確かめただけで『普通の金貨に見えて、実は偽造防止処理が施されているはずだ』って、見抜いている辺りも凄い……。


 このさき分析を続けて、とんでもない物が見つかったらどうしよう……。


 とりあえず、銀貨の構造分析をした。組成分析はまだ出来ていないけれど、三層構造の真ん中の層は更に複雑な構造をしていた。外側が銅でドーナツ状に形成されていて、内側に鉛の円盤が嵌め込まれている。

 なんでこんな面倒なことをしているんだろ?


<<ナビ、構造分析の段階で、明らかに面倒なことをしている様に見えるけど、私の視界を通して何か分かることがある?>>


<<中央部の鉛の円盤と外周部の銅のリング状の面積比が、およそ1:1であると表面積から判断できます。


 一方で、地球の銅元素の比重は8.96、鉛の比重は11.35。このとき平均の比重は10.16となります。表面を覆う銀が純銀だとすれば、比重は10.5。


 つまり、構造的な偽造防止を取りながら、あたかも銀の比重に一致させることが出来て、多種族の銀貨幣と遜色ない銀の使用量に見せかけることが可能です。

 ただ、これはそれぞれの金属が100%精錬されている前提ですので、組成分析で確かめないと確証は得られません>>


<<ナビ、ヒントをありがとう。そうしたら同型の他種族の銀貨と同程度の重さに仕上がっていれば成功だね。


 それで、使われれている金属の組成分析はどう?>>


<<残念ながら、精錬度は95~99%程度です。

 ヒカリの分解過程で酸化した部分は有りますが、それ以前に酸化されている部分や不純物として取り除けていない元素をそれぞれ1~5%含んでいます。

 定量分析を行うとなると、ヒカリの好きな酸で溶出後にクロマトをかけたり、EPMAなどの元素分析機等を用いる必要がありますが、この場では適切に行えません>>


<<つまり、均質な合金ではなくて、不純物がクラスターとして偏在しているってことで良いのかな?>>

<<その解釈で良いと思います>>


<<原料の精錬において、特徴的な元素が残る精錬方法があって、その微量元素の有無によって、真贋を判定されることは無いかな?>>

<<特殊な科学技術を駆使して、それをスペクトル等のデータで証明できたとして、それを視覚的に判りやすく差を説明して納得させる科学知識のベースが確立されていません。

 つまり、分析結果を元に証明してもその証明が正しく理解できる人間がほぼ存在しません>>


<<じゃぁ、95~99%程度の精錬精度で止めて、構造的に同じ形状に成形して、最後は鍛造なりして、表面の刻印を合わせられれば良いかな?>>


<<ヒカリは異種間金属の貼り合わせ方法や、圧延板を作る際のひずみの処理に言及がありませんが、ニーニャとドワーフ族の腕でカバーすることでしょう>>


<<ナビ、ありがとう。贋金づくりは上手く行きそうだね>>


<<ヒカリとニーニャで取り組んでいることは、贋金ではなくて、本物の複製です。

 魔族側に通貨発行枚数と流通量の管理が行われていなければ、偽物と判定することが不可能になります。

 健闘を祈ります>>


<<ありがとう。頑張るよ>>


 よし!ニーニャ達と作戦会議だよ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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