表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/302

6-30.魔族との交渉(1)

 魔族との通貨交換レートが100倍とか、とんでもない状況。

 ここから何らかの交渉を始めるってのは大変そうだねぇ……。

 その日の夕飯まで、時間があるということで、精錬所や鉱石採掘所の施設の案内をしてもらうことにした。


 精錬所は色々な設備を魔石のエネルギーで動かしていて、熱と蒸気が凄いことになってた。ナビに大気汚染や水質汚染を調べて貰ったところ、人体に直ぐに被害が出るものでは無いけれど、植物へのダメージは大きいし、長年蓄積されれば人体へも影響があるとのことだった。


 私も公害発生当時の鉱山とか精錬所の様子は分からないけれど、様々な場所で色々な作業をしている。ただ、一見して分かるのが種族がドワーフ族に限定されていないこと。これって、ひょっとすると様々な種族を奴隷として雇い入れているのかな?

 休みもほとんどなく、借金も普通には返せないような額を背負ったら、奴隷に身分を落として、残された家族や村の為に働くしかないんだろうね……。


 これって、日本で初めての公害とされた足尾銅山鉱毒事件と同じ話になるよね。あれが事件なのか、人災なのか、公害なのかは後々の人々の解釈で色々と違って見えるんだよね。科学的な要因だけを抽出して、その原因を追究すれば、そこの鉱山から銅を採掘して精錬していた事業者の責任ってことになる。


 けどさ?

 日本政府が主導で富国強兵を目指していて、効率優先で銅の輸出を元に先進国の技術者や鉄鋼の技術を手に入れるために、政府を挙げての必死な活動だった訳でしょ。そんな状況で、田舎の山の木々が多少立ち枯れても、それは大事の前の小事として日本政府は本気で取り扱わなかったのだと思う。


 ここもさ、多分ドワーフ族が借金を抱えて、その借金返済のための施設として銅の大量生産を効率良く行うために造られたとすれば、公害とかどうでも良いんだろうね。それに、ドワーフ族の村が解散状態になって、残った人々は精錬所で就職出来るんだから。

 ただ、そのきっかけは何だったのか、今晩か明日にでもドワーフ族の人と面談して、詳しく話を聞いておきたいよね。


 うん、まぁ、色々だよ。

 そんなことを考えつつも、ニーニャやリサには念話で共有せずに案内人に従って、見学通路と思われる道に沿って案内をしてもらった。


ーーー


「ニーニャさん、夕食は如何でしょうか?」

「はい、旅の道中は携行用の簡素な食事でしたので、ゆったりと温かい食事が頂けるのはありがたいです」


「北の大陸のストレイア帝国では食文化も最近発展が目覚ましいと伺っていますので、このような食事で楽しんでもらえたなら幸いです」

「本当に素晴らしいですよ。ところで、ストレイア帝国の食事でどのような物が新しいのでしょうか?あまり長く滞在したことがなく、人族のみやこの食事は疎く……」


「先ず、冷蔵保存技術が向上し、これまで以上に魚や肉が鮮度良く提供されるようになったとか。

 次に、南の大陸の特産品である砂糖を利用したお菓子の発展が目覚ましいと伺っています。

 最後に正体は不明ですが、遥か西方にあるアジャニアからもたらされた調味料が絶妙なんだとか」


「なるほど……。

 料理とは素材や調理するテクニックだけでなく、素材の保管技術の向上や、異国文化との交流によって発展することもあるのですね」


「ええ。料理はそういった発展する例の一つと言えますね。

 ニーニャさんも、ドワーフ族同士での異文化交流を目的とした旅だったのでしょうか?」


「はい、そのつもりでしたが、村は離散した後でしたね。少し残念なことです」


「我々も魔族の持つ技術とドワーフ族の持つ知識とを合わせて本日ご覧頂いた様な銅の精錬施設を構築することが出来ました。

 見学の最中は案内をすることに注力させていたため、詳細を説明することは出来ませんでしたが、もし何か知りたいことがありましたら適宜お話をさせて頂きますよ」


 ニーニャは適切に異文化交流のための話をしながら、相手の進めるままにお酒を飲みつつ会話を続けていた。この後、ドワーフ族との面談があるから酔い過ぎないように加減はしてくれたみたいだけど、そこそこ飲んでたんじゃないかな?


 私とリサはあくまでメイドが付き人として同席しているだけだから、リサを構いつつ、魔族のカサマドさんとニーニャの会話をフンフンと頷きながら聞いていた。私たちは水を勝手に出す訳にはいかないから、給仕の人に水の入ったカップを提供して貰った。でも、温いし、氷も入っていないから、あくまで乾いた喉を湿らすためのものと、水分補給と割り切るしかないね。


 と、そんな歓談を食堂で行っていると、案内係の門番さんがやってきて、面談の準備が整ったことを知らせてくれた。

 ここで夕食会はお開きにして、ドワーフ族の人達と面談をすることにしたよ。


ーーー


「ニーニャ様、挨拶もする前から申し訳ないですが、緊急を要するので先に述べさせて頂きます。全ての魔族の行動の対価として金銭要求があると思ってください。そして、魔族の通貨と多種族の通貨では交換レートが100倍になります。つまり、あっという間に身包み剥がされて、借用書へ捺印することが強要されます。


 ニーニャ様の借金を立替えられるか分かり兼ねますが、我々で捻出した魔族の金貨3枚と銀貨5枚をお受け取り下さい」


 と、ドワーフ族の一人から開口一番に借金に関する話があった。なんでも、話によると、取次料金、宿泊費、案内料金、飲み物代など、ありとあらゆるものが魔族の通貨で支払いを要求されるらしい。


 そして厄介なのが、ちゃんと書面に残してない場合、受け取る場合の通貨は本人達の種族の通貨と記載があるため、魔族としては通貨を利用した100倍の利ザヤを常に稼ぐことが出来る状況とのこと。

 ここに連れてこられて半強制的に労働を強いられている人たちの多くも、そういった借用書が魔族の通貨で示されていて、働いた代金は種族の通貨で支払われるため、基本的に一生掛けても借金を返すことは出来ず、残された家族にその請求が行く仕組みなのだとか。


「ああ、情報提供ありがとう。

 色々と気を付けていたつもりだが、既に多くのサービスを受けていて多額の借金をしている可能性が高い。何か工芸品を作って、それを魔族の通貨で購入して貰う必要があるかもしれないな……」


 と、ニーニャが貰った情報に対しての感想を述べる。


「ニーニャ様、魔族はそう簡単にこちらの言い値で取引をしてくれず、買いたたきます。それどころか、後から『本物との鑑定書が無く、信頼に欠ける』などと、言いがかりを付けて、魔族の通貨を返却するように求めてくる場合もあります。

 そういった事が全て契約書に記載されていますので、良く読んで口約束にならないように注意してください」


「アドバイスに感謝する。

 だが、そういった金銭管理はドワーフ族が最も苦手とする分野であり、私もそこまで注意を払うことが出来ないかもしれない。

 皆はどのようにして身に着けたのだろうか?」


「ニーニャ様以外にも多くの者がここを訪問しておりますが、同様な手口でからめとられています。嫌でも身につきます」


「状況、良く分かった……。

 ドワーフ族から支援の助っ人を求めるために、『水が出る樽』をその対価として持ってきたのだが、それ以前の状態だな……」


<<ニーニャ、念話で割り込みごめん。


 理由はともかく、明日の朝に請求される魔族の通貨の準備をしないといけない。

 魔族の通貨で金貨50枚とか請求されたら、私たちの手持ちでは対応できない。もし、借用書を書くことになったら、異種族の契約書の細かな点まで私達で見落としが無いように注意するのは困難だよ>>


<<ヒカリ、魔石を売るのはどうだ?>>

<<工芸品と同じ様に、相手の値決めに対してこちら側が交渉できる状況にはならない。

 こちらが有利な立場で交渉できる状況になれば、ちゃんと正当な価格で引き取って貰えるけど、今日の感じからすると暫くは無理かな>>


<<だったら、どうするつもりなんだぞ?>>

<<ニーニャがそこの金貨と銀貨を複製する。今、面談をしているドワーフ族の人たちにも徹夜で手伝って貰う必要があるかも。当然、私とリサも手伝うよ>>


<<わかった。話をしてみるんだぞ>>


「あ~。少し相談がある。

 どこか、静かに話が出来る場所はあるだろうか?」


「ニーニャ様、基本的にこの洞窟の中は魔族の領地であるとお考え下さい。誰が味方で誰が敵かもわかりません。

 そして、彼らが音を聞き取る装置や印を備えているのか、密告者が居るのか分かりませんが、多くの情報は筒抜けであるとお考え下さい」


「疲れているところ、申し訳ないが、洞窟の外に出ることは可能だろうか?」

「ニーニャ様、今月の休暇申請を明日に充てることにします。そうであれば、今晩からの外出許可が出ます」


「信用があり、同行出来る者は何人参加できる?」

「今、同席させて頂いてる私を含めた3名が宜しいかと」


「分かった。我々は居心地が悪いことを理由に洞窟の外で休むことにする。貴方たちも何等かの理由を付けて、洞窟の外に出てきて欲しい」


「承知しました。早速行動に移します」


 こう……。

 なんていうか……。

 ニーニャはニーニャ様と呼ばれている辺りからして、ドワーフ族で有名ってことで良いんだよね?

 それに、彼らがくれた金貨3枚って、普通の種族の通貨で換算したら金貨300枚相当になる訳で、相当な高額の寄付をしてもらっていることになるよ。

 挙句の果てには貴重な休暇をニーニャに全て捧げちゃうっていうのは相当な覚悟が要る行為だと思う。


 これから実行しようとしている贋金というか、本物と遜色ない魔族の通貨作成を成功させないとね!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


いいね!ブックマーク登録、感想や★評価をつけて頂くと、作者の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ