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6-29.ドワーフ族への訪問(6)

 さぁ、何がでてくるかな?

 今度こそ、ディアブロを名乗る背中に羽の生えた人物が登場したりするのかな?

 館の大きさは私が関所に持っている館と同じぐらいで、お城っていう雰囲気ではない。

 外観も石を積み上げたような感じで、素朴な山小屋風。大きさや見栄えだけで言えば、サンマール王国の王都にあるマリア様の館の方が敷地も建物も立派に見える。


 館の中に入るといくつかの執務室と客室、そして所長なんかが暮らすための個室がある感じ。ただ、これまでの感じからすると、華美な装飾を施すことよりも管理するための最低限の什器じゅうきを備えているだけなのかもしれないしね。


 それほど長くない距離を案内されて、奥まったところにある他より少し豪華そうな扉の前に到着し、案内をしてくれていた魔族の人がドアをノックして、


「ドワーフ族のニーニャ様、そのメイドのヒカリ様、そしてヒカリ様の娘さんの3名のお客様をお連れしました」


 と、来客を案内してきたことを告げる。

 すると中から『入りなさい』と、返事が返ってきた。


 案内係が扉を開けて中に通されると、割とこじんまりとした、会議をするなら数名で満員になりそうな執務室兼応接室の様な場所だった。壁には備え付けの書庫のような物があって、羊皮紙の束がいろいろな分類で並べられている。ひょっとして、まだここには紙の文化が発達していないか、紙の生産量が少ないのかもね。


「初めまして、カサマド・ディアブロと申します。どうぞおかけください」


 と、所長が自己紹介ををし、我々に席を進める。

 同時に、案内をしてきた門番は一旦扉を閉めて下がってしまった。


 ディアブロを名乗って背中には黒い翼がある。

 背丈は門番より少し低く185~195cmぐらいなのかな? それでも私より20cm近く背が高いから、それだけで威圧感がある。顔は魔族に共通なのか鬼というかオークの様なかなり堀の深いメリハリの効いたゴツゴツした顔つき。

 肌は青みが掛かった黒なのも共通だね。ただ、この色合いは洞窟の割れ目に中で灯されている薄暗い照明のせいで、日中の屋外だと少し照りとか色合いは変わるのかもしれないね。


「私は北の大陸から来たドワーフ族のニーニャと申します。こちらはメイドのヒカリとその娘になります」


 と、ニーニャが戸口で立ったまま挨拶をすると、


「遠いところ、わざわざ訪問頂きましてありがとうございます。

 さぁさぁ、立ち話もなんですので、荷物を下ろしておかけください。

 いま、案内係の者にお茶を淹れさせています、お茶などしながらゆっくりとお話が出来ればと思います」


 日本でいう所のビジネスマナーっていうのかね?

 私は社会人経験が無いけれど、就活マニュアルとか、面接マニュアルとかそういったシーンで出て来そうな応対のされかた。

 逆に、こちらも正当な貴族のマナーよりも、過度な儀礼に囚われずにビジネスの場に相応しい対応をした方が良いのかもしれないね。

 この辺りの加減は一々ニーニャに念話を通さずに、ニーニャに任せて成り行きに従おう。


「それでは失礼します」


 と、ニーニャが荷物を下ろしつつ、私にも荷物を下ろして身軽になるように指示を出してから、上座から席に着く。私もリサを抱えたままその隣に座ると、初めてカサマドさんがニーニャの向かいに座った。


「早速で申し訳ないのですが、この銅の精錬工場が出来る前に存在していたドワーフ族の村を訪問しにきたとのこと。

 ですが、今は崖の麓に形成されていたドワーフ族の村は解散し、一部の村人はここの精錬工場で働いて頂いております。

 もし、就業時間後でよろしければ、彼らに面談が可能か言付けましょうか?」


「カサマド様、ご配慮いただきありがとうございます。

 ここの工場へ移り住んだドワーフ族の者たちがここで働いているとのことですが、彼らはどのくらいの時間働いていて、我々はいつごろに面談ができるのでしょうか。

 このような洞窟の中では時間の経過も分かりづらいかと察しますが……」


「ああ。


 魔族の国においては、時刻が導入されております。

 暦は他の種族と同じ6日間で1週間、5週間で一ヶ月。12ヶ月が1年。

 次に、時刻ですが、慣例に習い1日を24時間で計算しております。

 朝の9時から夜の9時までの12時間が就業時間となっております。

 休憩時間はあるのですが、食事をとったり、栄養補給や疲れを休めたりとゆったりと面談をするのは難しいと考えます。


 宜しいでしょうか?」


「つまり、1日を何らかの方法で24に分けて、そのうちの半分を就業時間として、働く時間を決めているということですね?」


「ええ。もとの時刻は魔族の国にありますが、そこの基準時刻を元に、砂や水の溜まる量を測定して、1日の時間を管理しております。

 そのため、働く者も管理する者も時間という平等な管理の下で仕事をして頂いております」


「なるほど、それは興味深いです。時間という概念も、その就労時間を管理する方法もです。

 しかし、そこまで日々一生懸命働いているとなりますと、仕事が終わってからの面談は彼らも大変でしょう。仕事の休日の様な物はございますか?」


「一ヶ月に2日間ほど、自由に仕事を休んで良い日がきまっています。家事や趣味、買い出しなど、好きなように利用して頂いています。

 ただ、彼らも生活の為に優先して休日を使いたいと思われますので、後程確認を取りますが、『明日から休みをとって面談に応じよう』となるかは、私がこの場で回答することは出来ません」


「配慮頂きありがとうございます。

 それでは、元の村の代表者又はその後継者に、『北から来たニーニャというドワーフ族から面談の希望がある』と、申し送りして頂けますでしょうか」


「承知しました。

 今お茶を淹れている者がここに戻りましたら、そのように伝えましょう。


 ところで、本日は面談が出来るとしても夜遅くなると思われます。今晩の宿についてはどのようにお考えでしょうか。外部からの来訪者の場合、宿を提供させて頂いておりますが、ご利用になられますか?必要な様であれば、今晩の夕食と共に今から手配させましょう」


 あ、これヤバいやつ。

 『無償で提供する』とか、どこにも書いてない、言って無いやつ。

 ボッタくり価格を明日請求されても文句いえないってやつね。


<<ニーニャ、値段を聞いて>>

<<承知>>


「お気遣い感謝します。

 ですが、このような人里を離れた地ですと、食料の調達も大変でしょう。

 我々がご迷惑をお掛けすることになりませんか?」


「いえいえ。遠方からわざわざおいで頂きまして、大変でしょう。

 小さなお子様もいらっしゃって、お疲れでしょうし、些細な内容にはなりますが、少しでも旅の疲れを癒して頂ければと思います」


<<ニーニャ、これ誘導されてるやつ。危険>>

<<承知>>


 この文化レベル、ビジネスマナー、時計と就業時間の導入。

 そして、ボッタくりの話術のテクニックとか、転生日本人が指導しているんじゃないの?

 でも、魔族だよね……。

 人族が裏から魔族を操ってるの?

 アジャニアの科学教の例もあるし、異世界人が転生して、その知識をもって統治している可能性を十分に疑ってかかった方が良いね。


「そうですか。そのようにお誘いを頂いておいて、お断りして、野宿するのもご迷惑をお掛けするかもしれません。

 ですが、持ち合わせが余りなく……」


「ええ、お代などお気になさらずに。

 好きなだけ滞在頂ければよいと思います」


<<ヒカリ、これは不味いのか?>>

<<まだ、一言も無償とは言ってないよ。場合によっては私たちの宿泊費をここで労働している人に肩代わりさせることまでを視野に入れないといけない>>

<<む、そこまでを読む必要があるとすると、この先、相当面倒なんだぞ>>

<<私もそう思うよ。警戒していこう>>


「ですが初見の方に、お土産も無く世話になるのはこちらも恐縮してしまいます。

 どこか、空き地があれば、旅の続きとして仮眠を取らせて頂こうと思いますので、野宿に適した場所をご案内頂けますか?」


「そうですか……。宿の件は了解しました。

 久しぶりのお客様ですので、旅のお話など伺いながら夕食会をご一緒出来ればと考えていますが、如何でしょうか」


「夕飯は、一食一人当たり、おいくらで提供頂けますか?」

「外部の方ですと、夕食会はお一人様銀貨5枚、飲み物代は別にて、ご参加頂いております」


<<ヒカリ、どうするんだぞ?>>

<<支出としては問題無い額だよ。

 この先の交渉において、色々な情報を得ておく必要があるから、全て断る必要もないかな。ただし、手持ちの銀貨が人族の通貨しかないから、交換レートを確認して貰えるかな?>>


 ここで銀貨5枚と思っていたら、べらぼうな交換手数料とられたりとか偽貨幣をつかまさせられたりとか、陳腐なテクニックに引っかかる旅行者ではありたくないね。


「そうですか……。

 この先滞在することになると思いますので、今日の夕食はご一緒させて頂くのも良いかなと思いますが……。

 ところで、銀貨5枚と申しますと、北の大陸のストレイア帝国の銀貨かサンマール王国の銀貨しか持ち合わせておりません。

 魔族またはこちらの工場で使える銀貨との交換レートは如何なものでしょうか?」


「魔族の通貨は偽造防止に特殊な構造をしておりまして、金や銀の含有率とは異なる価値を備えております。そのため、従来の価値観を元にした等価交換ではございません。予めご承知いただけますでしょうか」


「ふむふむ。

 すなわち、魔族の国で流通している通貨を、人族の通貨と交換して貰う場合には金属の含有量による等価交換ではなく、技術料を含めた貨幣を他の種族の貨幣で購入させて頂くという見合いで考えれば宜しいでしょうか」


「理解が早くて助かります。その通りです。

 ですので、あくまで我々の通貨を購入して頂く形となります。

 こちらの施設を利用する際に発生する料金や、提供させて頂くサービスなどに対する対価は全て魔族の通貨または借用書の形でお支払い頂く形となります」


「承知しました。

 魔族の国の通貨を購入させて頂く場合、その費用を教えて頂けますでしょうか」


「はい。

 人族の間で流通している通貨ですと、魔族の銀貨1枚を購入するために金貨1枚をお支払い頂く形となります。魔族の金貨1枚に対しては、人族の金貨100枚という形になりますね」


「つまり、今晩、夕飯をご一緒させて頂くためには、大人2名で魔族の銀貨10枚。すなわち人族の金貨10枚を用意する必要があるということですね?」


<<ニーニャ、小分けにした革袋から金貨10枚を先払いして、実際に魔族の銀貨10枚を見せて貰おう。あと、幼児であるリサが、今晩の夕食会の人数に含まれ無いかも、念のため確認しておいて>>

<<承知>>


「我々はドワーフ族を訪問する予定でしたので、余り持ちあわせがありません。またいつ訪問できるか判らない土地の人物に借用書を書くのも気が引けます。

 念のため、大人2名の食事代で今日の夕食会に参加できるということでよろしいでしょうか?」


「ああ、私どもの説明不足です。

 お一人様当たりの料金となりますので、幼児の方も参加されるのであれば参加費を頂く形になりますので、三名ですと銀貨15枚。あるいは人族の金貨15枚のお支払いという形になります。

 あ、人族の通貨でお支払いするのではなく、あくまで魔族の通貨を購入するという説明を省いているとお考え下さい」


「承知しました。先払いで金貨15枚をこちらに提示させて頂きますので、魔族の通貨で銀貨15枚を確認させて頂けますでしょうか」


 と、ニーニャがショボショボの小さな革袋から金貨15枚を取り出して並べてみせる。こっちは支出の限界で、これ以上お金を毟り取るのが無理と思わせておくよ。


「承知しました。早速銀貨15枚と夕食会に3名参加する手配を進めさせて頂きます」


 いや……。

 ニーニャに交渉役を任せちゃったけど、これは不味いね……。

 色々な罠をくぐり抜けてきたけど、結局夕食1回で金貨15枚だよ……。

 これ、施設の案内とか宿泊費、朝食代、お風呂代、飲み物代とかを追加で請求されたら、とてもじゃないけど、手持ちの金貨だけで支払いきれない。


 それにしても交換レートが実質100倍ってのは、ちょっとした借金で簡単に破産しちゃうね。これって、とんでもない話だよ……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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