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6-28.ドワーフ族への訪問(5)

 よしっ!

 覚悟を決めた以上は、前進あるのみ!

 ちゃちゃっと飛んで、割れ目の所の門番に会いに行くよ!

「あ~。ちょっとすまないが、ここら辺にドワーフ族が住む村が在ったと聞いているが、知らないだろうか?」


 ニーニャを先頭に、荷物を背負った私が付いていく。リサは作戦通り私が胸側に抱っこする形で抱えているよ。


 割れ目の中に入って、狭くて薄暗い中を5mほど進むと二人の門番が居た。

 身長2m近い、とても背が高い男性二人。

 頭のコメカミ辺りから、牛の角みたいのが両脇から2本生えている。

 ちょっと見た感じ、背中に翼が生えていたり、背中側が不自然に衣服が膨らんでいる様子はない。まぁ、門番のような下っ端がすることに軍隊の指揮官クラスが配置されることは無いよね。


 ちょっと、先入観バリバリだけど、ゴツゴツしたオークとかの鬼を想像させるような顔つき。ただ、理性や分別がある知的な態度も見受けられるから、話しかけた途端に戦闘が始まることは無いかな?



「貴方たちはどちら様で、どういったご用件でしょうか?」


 なんと、ニーニャがドワーフ族の言葉で話しかけたにもかかわらず、魔族と思われる、門番の一人がニーニャのドワーフ族語に対して、ドワーフ族語で丁寧に用件を確認しにくる。


 魔族舐めてた。

 これって、門番というより、受付とか守衛さんの態度だよ。

 

 喧嘩しても負けそうなだけじゃなくて、少なくとも2種族語を駆使できて、ビジネスマナーも心得ているときたもんだ。

 『部下の教育っていうのは組織としての規律と意識、そしてそれを管理する上司が重要』って、父が言っていたけれど、この挨拶だけでそれが整っていると分かる。


 ニーニャの外交力がどれくらいなのか過去に拝見したことは無かったけれど、舐めた態度をとると、こっちが完全に刈り取られちゃう。


 もう、この挨拶の段階から戦いは始まってるね。

 気を付けなくては……。


「これは大変失礼しました。北のドワーフ族の一人として南のドワーフ族との交流を目的に訪問させて頂きました。

 私はニーニャと申します。こちらは私の世話をしてくれる人族のメイドを旅の途中で雇いました」


<<ヒカリ、念のためだが、ドワーフ族語は理解しているか?前に私が銘を入れた指輪から私の名前を読み取ったり、南の大陸の人族の言葉を直ぐに覚えてしまえるぐらいだから大丈夫だとは思うが……>>

<<ニーニャ、大丈夫。話についていけてる。そして高度な探り合いも理解してるよ>>

<<わかった。このまま続けるんだぞ>>


「なるほど、ニーニャ様とおっしゃるのですね。

 ところで、他にお連れの方はいらっしゃらないのですか?

 女性ばかりで、まして世話役のメイドが小さな赤子を抱えていらっしゃる……。

 旅の道中の護衛は雇われなかったのでしょうか?」


 面倒な質問だねぇ。

 こちとら魔族と会う予定はなく、ドワーフ族だけの面談を考えていた。護衛とか要らない簡単な旅程で考えて、友好的に軽く訪問するつもりだったのに……。

 

 ただ、こんな砂漠をを超えて崖の割れ目を訪問するとなると、力仕事が出来る人が必要と考えるのが普通だよね……。

 さて、どう切り抜けるかな……。


「途中の獣人族の村までは別の護衛兼荷物持ちを雇っていました。

 ですが、そこからここまで特に大きな崖登りもなく、片道1週間も掛からないと聞きましたので、身軽な装備でメイド親子を伴って訪問しております」


「と、しますと、そちらのメイドは人族でありながら頑強であると……。

 もし、宜しければ名前を伺っても宜しいでしょうか?」


 門番に促されて、ニーニャが「自己紹介しなさい」という仕草でこちらを見る。

 ここは下手に嘘をつくのは不味いけれど、手の内を見せない方が良いのもあるかな……。


「ニーニャ様のメイドをさせて頂いております。

 若輩者であるため、名乗るほどの者ではございません……」


 と、ドワーフ族語で簡潔にかつ曖昧に濁してみる。

 が、更なる突っ込みが!


「その肌の色から推察するに、北の大陸に住む人族と見受けられる。

 ひょっとすると、マリアなる人族のメイドとは貴方のことだろうか?」


 うわっ!

 ここでマリア様の名前がでたよ!

 これって、王姉殿下の影響で魔族側にいろいろばれてるんじゃないの?

 下手に隠すと整合が取れなくなって、ボロボロになりそう。

 ここは守るべきものと、出すべき情報を切り分けないとね。


「いいえ。私はヒカリと申します」

「そうでしたか……。

 ヒカリ……。ヒカリ……。

 うむ、残念ながら存じ上げない。申し訳ない。


 ところで、マリアという優秀なメイドが北の大陸には居ると伺ったことがあるのだが、メイド仲間でそういった噂を聞いたことはあるだろうか?」


 これは明らかに王姉殿下とマリア様の関係を前提に探りを入れてきているね。

 そして、私がマリア様と近い関係にあるとなると、面倒なことになる予感がするよ。


「ええと、すみませんが、北の国ではマリアという名前はさほど珍しい名前ではございません。私がマリアという人物を知っていたとしましても、それが該当するマリアさんであるか、分かりかねます」


「そうか、しつこく詮索して申し訳なかった。

 ここの主に連絡を取るので、許可が出るまで、ここで少しお待ちいただけるだろうか」

「「ハイ」」


 挨拶を交わした門番の一人が足早に崖の割れ目の奥へと通じる道を走っていく。一方でも一人の門番が無言で私達3人を上からめつける。

 ま、まぁ、ちょっと怖いけど、私たちは何にも悪いことしてないもんね。堂々としていれば良いさ。


 残された門番さんに軽く会釈して、荷物を下ろして休憩を始める。

 ニーニャもリサも私もそこそこ疲れた風を装っているから、簡易的な食料を摂取することに問題はないはず。例えば、お茶とかお茶菓子ならね。


 ただ、この世界の一般とは少し違ったようで、メイドが簡易的な台座を整えてそこに茶器とお茶菓子を並べてお茶を始めるのは、門番にとっては不思議な事らしい。

 支配して、圧迫するような睨めつけるような視線から、好奇心から何をしているのか知りたい様子に変化したよ。


 三人でというか、リサは堂々と立ってむしゃむしゃと食べられないから、私がクッキーを割って小さくしたものを口に運んであげる形でお菓子を食べつつ、ステラがブレンドしてくれたハーブティーを付近の石に優雅に腰かけてお茶を続ける。


 ハーブティーの香りとお菓子の香ばしいサクサクとした音が気を引くのか、門番が増々こっちの様子を伺ってくる。


 仕方ないから、ニーニャに耳打ちをして、許可を貰った風を装ってから、クッキー1枚とステラのハーブティーを持って、「どうぞ」ってなもんで門番さんに手渡した。


「ありがとうございます」


 と、一言ドワーフ族語でお礼が返ってくる。

 いや、本当に優秀なんじゃないのかな?

 何というか、礼儀正しいのは躾なんだろうけれど、ドワーフ族を物理で制圧している雰囲気じゃないのが何とも……。


 物理なら、いろいろな科学の力を駆使して相手を上回る力を見せることが出来るとおもう。けれど厳しい規律に精神面を鍛えられて相手の非を付いてくるような論戦だとすると、感情的に物理で反撃に出ようものなら、それはまんまと敵の戦略に乗るような物。全部相手の掌で踊らされるのだから、その後の外交戦略とかも入念に準備が整っているだろうね。

 そして、一時的な反撃による物理攻撃によって与えたダメージも全て記録しておいて賠償責任を要求してくると思う。


 これって、いわゆる現代知識のチート戦略なんじゃないの?

 不味いんじゃないの?


 まいったな……。


 と、表面上は和やかでありながら、ある一定の線引きがされた雰囲気の中でお茶を楽しんで暫くすると、先ほど出かけていた門番が戻ってきた。私達の様子を見て、一瞬ギョッとした様子を見せたものの、その感情を伏せて話を切り出した。


「お茶をお楽しみのところ失礼します。

 上司の許可が下りました。

 皆様と面談をしたいとのことです」


 なんか、出かけてから30分ぐらい掛かったかな?お茶はひと段落ついたから、了解した旨を伝えてお茶の片づけを始めた。

 私だって、一応はメイドとしての仕事もしてるし、ユッカちゃんと冒険したり、観光迷宮という名のダンジョンに潜っているのだから、こういったアウトドアでの食事の支度と撤収を速やかに行う技は心得ている。

 門番さんを長く待たせることなく、速やかに撤収して門番の上司さんとの面会に臨むことにしたよ。

 ちなみに、門番は代わりの門番を連れてきて、常にここに二人配置が徹底される管理体制。「人を連れて行っている瞬間、門番が一人になって対応が疎かになった」とか、そういった言い訳が起きないようにしてある。

 これは本当に隙がないね。


ーーー


 門を超えて細い岩場の道を4人で歩いていく。リサは抱えているから歩いては居ないけれども。

 私の妖精の子は飛んで直線的に移動していたから気が付かなかったけれど、道は険しくて両側が切り立った崖を見上げる形状になっていて狭い。そして、所々が崖の曲がり角になっていて見通しが利き難い。こういう場所って、要所要所に罠を張ったり監視員を立てたら防衛機能としては最高の難易度になるんじゃいかな?

 攻め落とすとしたら、籠城させて食料の尽きるのを待つしかないわけだけれど、どれくらいの食料の備蓄があるか判らないから、兵糧攻めが上手く行くかもわからない。ロメリアの城を攻略したときより、更に隙が無い感じだね。

 

 女性のペースに合わせてくれたのか、普通に散歩するぐらいのペースを掛けて約30分で大きな館のある崖の行き止まり地点まで到達。


 ちょっとまってね?

 今、片道歩いて30分かかったよね。

 今案内していくれている門番さんは往復+取次と指示を受けて、更に代わりの門番まで準備して30分で帰って来れたのだから、道に慣れているだけでなく、体力面も抜群に高性能ってことなんじゃないの?

 走ることだけが目的であれば、私もユッカちゃんやフウマと同じくらい速く走れるけれど、この険しい道を考慮すると、単なる速さと体力だけでなく、足さばきとかガタガタの地面を瞬時に読み取ってを進める敏捷性や機敏性が兼ね備えられているってこと。


 なんていうか……。

 軍隊?

 統制も取れて、体力や敏捷性を兼ね備えて、礼儀正しく、精神面も鍛えられている。

 こんな人たちがドワーフ族の村を制圧しているとなると、正攻法で攻め落とすのはかなり大変なことになるよ……。


「さぁ、つきました。

 あちらがここの銅の精錬所の所長の館になります。

 所長は既に部屋にてお待ちしております。

 この先も私が案内を続けさせて頂きます」


 念のため、館に入る前に周囲の索敵、結界の有無、ガス等の罠の確認はナビと目視の両面から確認をしておいた。

 館の中には何等かの仕掛けがあるのか、人員を正確に把握することは出来なかったけれど、外側には罠を張り巡らせているような様子は無かった。あくまで表面上は礼儀正しい外交姿勢を取ろうとしている感じなのかな?


 さぁ、何がでてくるかな?

 いきなり大ボスクラスのディアブロを名乗る背中に羽の生えた人物が登場したりするのかな?

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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