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6-24.ドワーフ族への訪問(1)

 アリアへの説明が終わったから、工房の設立を頼んでドワーフ族の元へ出かけることにしよう。

 でも、その前に……。

「マリア様、少々お願いがあるのですが……」

「ヒカリさん、どうしたのかしら?

 貴方が神妙な顔をしてお願いするなんて、珍しいじゃない」


「例のカカオからチョコレートを作成するために、シオンが担当している発酵までの工程と、アリアが担当することになる工程を専用の工房として立ち上げたいのです」


「良いわよ。リチャードに頼んでおくわ。

 他に何かあるかしら?」

「アリアが暫く滞在するとのことですので、アリアの家族のためにメイドを雇いたいと思います」


「クレオさんに頼んでおくわ。護衛が出来るメイドが必要なのかしら?秘密を守るためなら、シズクさんも手が空いているのでは無いかしら?」

「乳母としての役割と、家事支援で大丈夫かと思います。

 もし、工房の警護役が必要でしたら、警備員としての依頼をかけた方が良いかもしれません」


「シオンくんもそこが完成したら移るのよね。

 私もここを引き払って、そこに行こうかしら?」


「ああ、ええと……。

 シオンに確認をとっていませんが、リチャードに道の開拓をして貰いつつ、そのついでに送り迎えしてもらえば良いと思います」


「シオンくんは攫われてしまう危険があるから、かなり注意を払う必要があるわよ。

 だって、あの子、ここのメイドさん達にモテモテだもの……」


「そうなんですよね。

 本人は全く気が付いていないのですが、あの幼児の様な頃から女性を虜にしてしまうなんて、流石はリチャード殿下の血を引いているだけありますね」


「違うわよ。彼の人当たりの良さと、スキル持ちのせいなのよ。

 女性にとって、優しくピュアしてくれるご主人様なんて現れないもの……。

 その上、無制限に水を出して綺麗にしてくれるのよ?」


「あ、いや、まぁ、それはウンディーネ様の加護持ちですから……」


「そう……。

 チョコレート工房の話とシオンくんのことは分かったわ。適当にやるわよ。

 ところで私から2つ質問があるのだけど、良いかしら?」


「はい、何でしょうか」


「先ず、ヒカリさんはこの後どうするのかしら?

 それと、私にもそろそろ加護の話を教えてくれないかしら?」


「ええとですね……。

 私はこの後、ニーニャと一緒に延び延びになっていたドワーフ族を訪問して、ドワーフの人員派遣の協力を取り付けたいと思います。水不足との噂がありますので、水の出る樽を何個か組み立てられるようにして持ち込み、それによって信頼関係を築こうと考えています。


 次に、加護につきましては……。

 マリア様は『妖精の長』の存在はご存じでしょうか?」


「ヒカリさんが妖精の長という可能性は無いのかしら?」


「あ、ええと、私は違います。

 ですが、マリア様が妖精の長の存在を理解しているとのことですので、そこを前提に話を続けさせて頂きます。


 妖精の長にマリア様を紹介して、マリア様に加護の印を頂くことはいつでも問題無くお願い出来ると思います。


 ただし、マリア様が加護を頂いた場合の懸念事項が2つあります。

 1つ目は、見る人が見れば、マリア様が妖精の長と親密な関係であることが知られてしまうこと。

 2つ目は、先ほどアリアにも注意したのですが、『妖精の長はお願いを断れない』ということ。


 この2点になります。

 前者は、ある程度自衛はできますが、何せ誰が妖精の長の存在を知っていて、それをマリア様の加護の印から見抜くことが出来るのか、我々側には分からないということなのです。

 そうしますと、マリア様を利用して妖精の長の存在にアプローチしようよしたり、マリア様を仲介して妖精の長にお願いをさせるために利用するやからが出てくる危険性があります。

 更に言いますと、その種族において大きな権力を持つ人が『妖精の加護の印の有無』を判断することが出来るため、その大きな権力に対して中立的な立場であるかが問われます。

 まして、マリア様のような外交力と各地の権力者と接する機会が多い方であれば、そのような権力者からの要請を迫られる機会が増えることを懸念します。


 後者につきましては、大きな権力を持つ人が妖精の長の存在を知ると、どうしても利己的なお願いをしてしまう可能性があります。妖精の長達はその願いを叶えた場合の人間や種族への将来的なリスクを見通すことが出来たとしても、拒絶することが出来ないのです。

 つまり、権力持ちの人からすれば絶大な権力を自由に振り回せることになります。


 以上の2点がマリア様へ加護を付与頂くことへの懸念事項になりますが、ご理解いただけたでしょうか?」


「ヒカリさんは普段どうしてるのかしら?」


「前者につきましては、

 人族ではストレイア帝国の皇帝と上皇様。

 エルフ族ではスチュワート様。

 獣人族ではレイさんとレミさん。

 海人族ではエイサンさん。

 飛竜族では、北の大陸でお二人、南の大陸でお一人います。

 皆様、妖精の長の力の存在を理解して、尚且つ私と公平に接して頂けているので、今のところ大きな問題は起きておりません」


「ヒカリさんの知り合いだけで8人もいるのね……。

 この先は、加護の印が見える人は出現しないのかしら?」


「さぁ……。

 あ、シオンとリサにも見えるみたいです。

 ですので、世代交代などでも見える人が変わるかもしれません」


「加護の印が面倒なことは分かったわ。

 妖精の長へのお願いはどうするのかしら?

 『農地くれ』『船くれ』『ロメリアに勝たせろ』

 そんな風にお願いができるのかしら?」


「表現の仕方はともかく、そういったお願いが出来ると思います」


「ヒカリさんは、どんな風にお願いをしたのかしら?」


「前提として、

 『ここの居心地が良いと感じるならいつまでも自由に過ごしてください。旅立つときがあればご連絡ください』

 と、お願いをしてあります。

 その上で、

 『ロメリアとの戦争が始まるので、間接的に支援して欲しい』

 みたいなお願いはしました。

 あとは、こう、何といいますか、会話の中から先読みして私がしたいと思っていることを実現してくれるような感じでしょうか」


「ヒカリさん、それって……」


「何でしょうか?」

「いや、いいわ。

 それ以上のお願いの仕方が思い浮かばないもの……。

 私は『誰にお願いをしてはいけないのか』を教えてくれないかしら?」


「あの……。

 『妖精の長が誰かを知りたい。そして加護が欲しい』という話ではありませんでしたか?」


「貴方の話を聞いて、考えが変わったのよ。


 まず、加護の印は貴方のアドバイス通り、私が加護の印を持つことの方が危険が増大するわ。だから加護の印が欲しいというお願いは無しにするわ。


 次に、私は『妖精の長へお願いをしたい』と言ったつもりは無いわ。加護の印が貰えるのなら、そうい話を聞きたいとは言ったけれど。

 

 なので、『誰にお願いをしてはいけないか』を確認したいのよ」


「ええと……。私がマリア様へ妖精の長を紹介すれば宜しいでしょうか?」

「そんな簡単に出来るものなの?

 飛竜に会いに行くのだって、ユグドラシルに住むドリアード様に会うのだって、相当難易度が高いと思うわよ?」


「加護の印の件が無ければ、特に問題無いと思います。

 マリア様が欲しければ、私と同様に妖精の子も貰えるかもしれません。

 光の妖精の子がいると暗いところで便利ですよね」


「分かったわ……。

 紹介をお願いするわ……。

 失礼の無い様に気を付けて頂戴ね?」


「いま、この館には多くの人が出入りしていますので、ここのマリア様の居室へお呼びしても良いですか?」


「えっ?」


「えっ?」


「ヒカリさんが驚いてどうするのよ。

 私が『失礼の無い様にね』と、言った傍から、『ここに呼びます』とか、あり得ないじゃない?」


「あ、いや……。機嫌が良さそうなので大丈夫かなと……」


「機嫌?妖精の長に感情があるの?

 もう、全然わからないわ……。

 こう、何か神の様な、人間とは異なる超越した存在なのでしょう?」


「あ、いや……。

 人間臭く振舞って頂いているのだと思います。

 『みんなにばれない様に』って、お願いはしているので……」


「はいはい……。もういいわ。覚悟したわ。

 ヒカリさんの好きなタイミングで声を掛けてもらって、ご都合の良いタイミングでここを訪問して貰って頂戴」


「としますと……。

 お茶の用意をしておいた方がいいですね……」


「クワトロに用意させるわ。都合が付いたら声を掛けて」

「でしたら、私もお茶菓子を作りに行きますね。

 マリア様はここでお待ちください」


「分かったわ。夕飯の時間以外は最優先で対応するわ。

 直ぐにお茶を淹れさせる準備をしておいて、私はこの部屋で待っていれば良いのね」


「はい!」


 ま、まいっかな?

 ラナちゃんとクロ先生たちに念話を通して、マリア様の居室を訪問して貰う様に言っておいた。彼らが移動中に私はいつものクッキー作りを急がないと!


 台所でゴードンと南の大陸の食材とか食事についての雑談をしつつ、クッキーを焼き上げていると、ラナちゃんから念話が入った。


<<ヒカリ、いつまで待たせるのかしら?>>

<<ラナちゃん、今、どちらですか?>>


<<マリアさんの執務室よ。あなたが呼んだのよね?>>

<<もう直ぐ、クッキーが焼きあがるので、少々お待ちください>>


<<そんなこと分かっているわよ。

 マリアさんが『ヒカリさんがクッキーを焼いているので、良かったら一緒にお茶にしませんか』って>>


<<ラナちゃん、他の妖精の長達はどちらに居ますでしょうか?>>

<<ウンディーネとノーム、あとヒカリに紹介していない妖精の長を除いて、全員いるわよ>>

<<クロ先生、ルシャナ様、ルナちゃん、シルフ、ユーフラテス様ですか?>>


<<そうよ>>


<<直ぐ行きます。ですが、お茶の準備が……>>

<<ステラが淹れてくれているわ。大丈夫よ>>


<<わ、分かりました。直ぐ行きます>>


 え~?何が起きてる?

 『ちょっと集まって』って、お願いしただけだけど……。

 暇だったのかな?

 とにかく、焼き上げたクッキーを持って急いでマリア様の執務室へ戻らないと!


「皆さん、おまたせ~。クッキーが焼きあがりました」

「ヒカリさん、遅いわよ。

 今、ラナちゃん達家族が訪問してくれたの。

 ヒカリさんが丁度クッキーを焼いているから、『一緒にお茶をしませんか』って誘っていたのよ。

 ラナちゃんが、ステラ様にも声を掛けてくれて、お茶を淹れに行ってくれているわ」


「マリア様、皆様、私の段取りが悪くお待たせしてしまい申し訳ございません。

 ちょっと紹介をしたい人が居るので、その会のためのお茶菓子の準備をしていました……」


「ヒカリさん、そっちの段取りはクワトロにさせるから、ラナちゃん達とお茶を楽しみましょう?」


「マリア様、少々宜しいでしょうか?」

「ええ、良いわよ。何かしら?」


「こちら、ライト様、クロ様、アマテラス様、シルフ様、ルナ様、ドリアード様です。

 妖精の長の皆様方、こちら私の義理の母であるマリア様です。

 改めて紹介させていただきました。

 今後ともよろしくお願いいたします」


 マリア様の顔が少し引き攣った。

 けど、何も言われない。

 その前にラナちゃんから声が掛かったから。


「ヒカリ、マリアさんに私達を紹介したかったのかしら?」

 

 と、ラナちゃん。


「はい。出来れば、加護の印は無しで、妖精の子を分けて頂けると有難いかなと」


「それはヒカリの『お願い』かしら?」

「いいえ。妖精の長達の不都合なことであれば、自由に断って頂いて構いません。

 また、妖精の子を宿すのに適切で無ければ、マリア様に諦めて頂くことになります」


「マリアさん、ヒカリから何を聞いているか分からないけれど、私たちは自由にヒカリの元を離れることが出来るの。

 だから、何をするか決めるのも自由なの。

 分かるかしら?」


「光の妖精の長であられるライト様、人族のマリア・ウインザーより改めて挨拶をさせて頂きます。お会いできて光栄に存じ上げます。

 義理の娘のヒカリを介してご紹介頂き、この世の至福のときに巡り合えましたこと、深く感じ入る次第であります。

 また、これまでの非礼の数々を詫びるとともに、この先私からお願いをすることが無きよう、心に留めて過ごしたいと思います」


「ヒカリ、マリアさんは何に畏怖いふを抱いているのかしら?

 ヒカリに相互に紹介して貰って、楽しくお茶をするだけよね。

 だって、私達は自由なのだから」


「ライト様、私は全力で妖精の長達の存在を秘密にするように皆に伝えて来ました。

 そうであれば、ライト様達は自由であり続けられると信じています。

 また、マリア様もその秘密を守れる方であり、その秘密を守るために自衛も出来る方と信じたからこそ、本日紹介させて頂きました」


「ヒカリ、マリア様が何を恐れているかを聞いたのよ。

 貴方がどう感じて紹介したかは関係ないわ」


「責任の重さでは無いでしょうか?」

「マリアさんには何も責任は無いでしょう?」


「『妖精の長達の気分を害して、もし去ってしまうきっかけを作ったら』という責任では無いかと推測します」

「ヒカリは別に構わないのでしょう?」


「はい。その様な状況にならないことが望ましいですが、そのときは仕方ありません」

「だったら、マリアさんが悩むことは無いじゃない。

 マリアさん、そういうことでこれまで通りで良いわ。

 あと、加護の印は不要で、妖精の子が欲しいのね。誰の子が欲しいのかしら?」


「ライト様、人族の身でありながら、能力を超えた力を授かることは非常に危険であると愚行する次第であります」


 と、ラナちゃんの質問に答えるマリア様。

 まぁ、加護の印の話は、多くの人には見えないけれど、妖精の子を駆使できるとなると、いろいろな人に見られる可能性が増えるからね。

 そうしたら今度は「いつから、誰から、どこで」なんて言う風に、質問攻めに遭う。その辺りの面倒な状況を察知して、「私には不要」って言いだしているのかもね……。


「ヒカリ、どうしたら良いのかしら?」

「マリア様も今日お会いしたばかりで、混乱しているのかもしれません。

 日を改めてお願いすることになるかもしれませんが、その時でもよろしいでしょうか?」


「私たちはいつでも良いわよ。

 それよりステラが遅いわね。お茶はまだかしら……」


 緊張の余り声も無く、表情がこわばるマリア様といつも通りの妖精の長達。

 そしてそこにお茶を淹れて持ってきたステラ。

 

 ま、まぁ、みんなでお茶をしてリラックスすれば良いんじゃないかな?

 私はニーニャとドワーフ族を訪問してくるよ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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