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6-21.コーヒーを作ろう(4)

 リチャードに任せたはずが、任せられてキラーパスが返ってきたよ!


 こういうのはステラに任せれば良いと思う。

 だって、さっきステラもスチュワートさんに紹介したいようなことを言っていたし……。

「スチュワート様、リチャード、承知ました。

 ステラ、コーヒーの実をエルフ族に販売したとしたら、どれくらいの金額で買って貰えるかな?」


「焙煎して、曳いた粉の状態からの販売であれば、コーヒーの素性は知られないから、永続的に販売することは出来そうね。

 仮にコーヒーの実が何か分かっても、あそこまで仕上げることが大変よ」


「ステラ、コーヒーの実を焙煎まで終わらせてしまうと、結構湿気しけるんだよ。

 この辺りはノウハウの秘匿と状態維持のための工夫が必要になるかもね。

 例えば、ガラスの器に真空パックの機能をもたせて、器ごと販売すれば付加価値も高まるね」


「でしたら、最初は粉末にしてガラス瓶に入れた状態で一瓶で金貨1000枚かしら」

「え?

 それって……。

 例の岩キノコぐらい高価なんじゃない?」


「ヒカリさん、岩キノコは希少価値があるから高いのよ?

 ヒカリさんのコーヒーはこの世に存在していないもの。

 いくらでも値段が跳ね上がるわよ」


「ああ……。

 ヒカリ様、ステラ、少々話が呑み込めない。

 確かに元本の減殺と定期物納による返済は大方合意したと思う。

 ですが、その得体の知れないコーヒーなるものが一瓶で金貨1000枚は少し相談させて欲しい」


 と、スチュワートさん。そして、続いてリチャードからも。


「ヒカリ、私もそう思う。いくら何でも拾ってきた木の実が金貨1000枚はないだろう……」


「ステラ、どうする?」

「ヒカリさん、実際に皆様にコーヒーを試飲して貰えば宜しいのでは?」


「ステラが手伝ってくれるなら、そうしよっか……」

「ええ。今日も皆の口から『ヒカリだから』が紡ぎだされる訳ね」


「いやいや?今日は『ステラだから』だよ?」

「ヒカリさん、どちらでも良いわよ。先ずはやってみて、皆に見て貰いましょう?」


 夕飯時でもある訳で、まぁ、メイドさん達の力は借りられないけれど、ニーニャとアリアには一緒に来てもらうことにした。

 ニーニャには機材の担当をしてもらうし、アリアにはコーヒーの作り方がカカオの実の焙煎とか粉砕するところの工程までは一緒だから参考になると思うし。

 あと、アリアには瓶詰にするガラス瓶の受注もしてもらわないといけないからね。この辺りは密閉するためのゴムパッキンの考え方が無いと簡単に湿気ちゃうから、ある意味で、ニーニャとも打ち合わせが必要だね。


 で、まぁ、ステラが淹れたコーヒー茶と、ステラが絶賛中で金貨1000枚の価値があると言わしめるコーヒーを4杯ずつ淹れてを繰り返して皆へ振舞った。

 なにせ、20人近くい居て、夫々に別々の種類を淹れる訳だからそれなりに時間が掛かる。当然、台所兼試作所は4人掛かりで大忙しだったよ。

 ちなみに、製造方法は極秘事項ってことで、他の人には部屋に見学に来てもらわずに、屋外のテーブルでご飯を食べながら待っていてもらった。


 最初はマリア様、スチュワートさん、トレモロさん、リチャードの4人に振舞ったよ。

「ヒカリさん、コーヒー茶というのは、お茶の一種として受ける可能性があるけれど、これに金貨1000枚は、少し高いイメージかしら。他の物で代用して我慢する人が多いと思うわ。

 けれど、このコーヒーというものは……。

 木の実ともお茶ともちがう。苦いだけでなく、舌に残る仄かな香りと苦み。そして鼻には柑橘系とか緑を感じるのよ……。

 『絶対に手に入らないけど、一生に一度は飲むべきもの』としての価値はあると思うわ」


 と、大絶賛してくれたマリア様。


「ヒカリ様、ステラ……。

 私の感想もマリア様に近いですが、敢えて私なりの感想も加えさせて頂きます。

 お茶を楽しむ習慣は人よりもエルフ族の方が長けていると思うし、自然の恵みを加工して飲み物にする術も長年培ってきたと思う。

 ですが、このコーヒーというものは得体が知れません。呪術師の秘薬としての何かであると紹介されても、それを信じるしか無いでしょう。

 現物を見て、加工方法や飲み物にするまでの工程を是非とも伺いたいところですが、それはこのあとゆっくりと相談させてください」


 と、これまた絶賛してくれたスチュワートさん。


「ヒカリさん、これはエルフ族では無くても、とても希少価値のある体験が得られる飲み物であると考えられます。

 今日、日中にリチャード殿下と武具や収集品に関する交易の打ち合わせをさせて頂きましたが、それとは別に、こちらに関しましても交易を前提にした打ち合わせをさせて頂けませんか?」


 と、トレモロさん。最後はリチャードの番。


「ヒカリ、これはステラ様のおかげでは無いのか?

 2種類の飲み物を味わったが、到底同じ木の実から作った物だとは思えない。

 だが、2杯とも紅茶のような高揚感とスッキリとした後味があり、飲み物として洗練されている。


 うむ。

 ステラ様が振舞ってくれるお茶はいつもこのように洗練されているので、単なるお茶という飲み物を味わうだけでなく、何処か心が安らいで日常を離れるような感覚をもたらしてくれる。そういった不思議な体験に浸らせてくれるものだ。


 値段は分からないが、これは高く売れると感じた」


 おお~。

 リチャードすら大絶賛だね。

 流石はステラ効果って感じで。


 ステラの腕が無いと、ここまで洗練された飲み物に仕上がらず、苦くて黒い、舌に粉っぽさが残る液体として振舞われていた可能性が高いもんね。


 次は妖精の長の家族。そして、モリスやゴードンなど今回新たに関所から来たメンバーの順番に渡していった。


「ヒカリ、苦いわ」と、ラナちゃん。


 妖精の長が人と同じ味覚を持っているかはともかく。

 カフェイン自体は苦みの成分を持つし、いくら丁寧に煎ったところで多少は焦げ目が付いて、それが苦みの成分にもなってくるわけでさ。

 そんなこと言ったら、お茶だってカフェインを含んでいるし、酸化すれば渋みもあるし、もとの茶葉の選別次第では、お茶自体からも渋みが出てくるはずだしさ……。


「ラナちゃんの口には合いませんか?」

「ヒカリ、不味いとか嫌いと私が言ったかしら?」


「あ、いえ……」

「これ、何か、そう……。活力が湧いてくる気がするわ」


 いやいやいや……。

 効き目出るの速過ぎでしょ。まだ舌の上で転がして苦みを感じたレベルな訳でしょ?

 そしてガブガブ飲んだわけでも無いのに……。


「ええと……。


 カフェインという成分が紅茶なんかにも含まれてまして、それとおなじ成分がこのコーヒーにも抽出されて含まれています。このカフェインは疲れていると感じさせる神経をブロックして、疲れを感じさせなくなるといわれています。

 つまり、普段よりも元気に動けるような気がしてくるのだと思います。


 もう一つの効能として、木の実由来の油脂に溶ける成分が含まれていますので、この成分の中には、油溶性の栄養素なんかが含まれているので、体で摂取すると栄養が心身に行きわたると感じられるかもしれません。

 この行きわたる量や速さは体格や常日頃の血流の活性化具合で変わるかもしれませんので、ラナちゃんは他の人よりの良く効果が出ているかもしれません」


「ヒカリ、これは毒ではないのね?そして習慣性や依存性があるものでは無いのかしら?」

「カフェインの効能だけではありませんが、多少は依存性があるかもしれません。

 ですが、それは『美味しい食事をまた食べたくなる』といった脳の体験記憶によるものと考えられます」


「それって、増々ヒカリに依存するってことかしら?」


「あ、いや、その……。

 一応、ステラやシオンで対応して貰っているので、いずれはサンマール王国で誰もが飲める価格帯にまで値が下がっていくことを期待しています……」


「そういうことじゃないの。とにかく、チョコレート含めて期待しているわ」


 と、ある意味で妖精の長からお墨付きを貰ってしまった。

 あとは、普及のさせかたと値段を決めれば良いのかな?


「ヒカリさん、このコーヒーは飲み物として素晴らしいことは理解できたのだが、これをエルフ族にどの程度分けて頂けるのだろうか?」

「スチュワートさん、今仕込んだ分は今日の試作した分と、この夕食で振舞った分で在庫切れです。

 次回はシオンの確認しないと、いつコーヒー豆が手に入るか分かりません」


「おかあさん、同じ品質のものは暫く難しいですよ。

 だって、現地生産できるような発酵方法を試すために、他の仕込みは時間も掛かるし、発酵の具合もばらつきがあって、今回のような早くて、熟成加減を調整するようなことはしていません。

 もし、今日の物と同じ品質を求めるとしたら、相当高価な飲み物になると思います。

割り込みで仕込みをすれば、2-3日後には完成すると思いますが……」


「シオン、ありがとう。

 そっか、そうだよね……。

 実の選別から設備からして、普通には作れないや……。

 そして駆動源にも魔石を常時供給し続けないといけないし……。


 ということで、スチュワートさん、次回は未定で、幻の一品です。

 シオンに特注で指示を出さない限り、今皆さんに召し上がっている物は不可能です」


 その場がシーンとなってしまう。

 だって、そんなこと言ったって、試作は試作だし。

 その先を見込んで低価格版の仕込みをシオンがしてくれている訳でしょう?

 何か文句ある?


「ヒカリ、その……」


 と、皆の沈黙を破るように、恐る恐るリチャードが口を開く。


「リチャード、何?」


「その……。この幻の一品はどうするつもりだ?」

「皆の感想を聞いた感じ、喜んで貰えてよかったよ。次は未定だって言ったよね?」


「だが、次回以降の物が無いと、エルフ族に買い取って貰えない訳だが?」

「1年に1回一瓶作るだけなら、シオンにお願いして、作りだめしておけばいいよ。

 10瓶分を一度に作って、保管しておけば10年分を賄えるわけだし」


「それは、到底交易に向いた商品とは思えない訳だが?」

「リチャード、私もシオンも、今出来ることを話しています。

 そもそも、


『コーヒーが金貨1000枚に値するものかどうか』


 ここの話をしていたのでしょう?

 何らかの方法を考えることが出来れば、年間で金貨1000枚相当の価値を生み出せる様になると思うよ」


「スチュワート様、こういった状況でして、

 エルフ族との仲介にしていただく内容としては曖昧な状況ではありますが、詳細はこれから詰めさせて頂くことでよろしいでしょうか?」


 と、人にキラーパスを送っておいて、上手くいかない様子が分かると、『上手く量産化できていないのが悪い』ぐらいな表現で回答する。


 それってどうよ?

 そんなこと言うなら、リチャードが金貨1000枚稼いできなよ?

 とは、思うけれど、それを口に出したら収まるもの収まらない。

 まぁ、ここは我慢だ。


「リチャード殿下、

 先ずは、このような希少なコーヒーなる飲み物を紹介して頂きありがとうございます。そして、こちらはまだまだ発展の余地が残されているとのことですので、具体的な金貨の話は保留させて頂くことにしませんか?

 直ぐに換金できなければ、他の交易できるもので物納して頂いても良いわけですし。

 如何でしょうか?」


「そうですね。今度上皇様を交えて契約書の作成し直しをするとともに、元本の減殺に必要なスキルにつきまして、別途契約を締結することにしましょう」


「リチャード殿下、エルフ族がコーヒーの交易権を持つことで良いと思います。

 それを作って頂けるのであれば、上皇様に提示頂いた契約書の件は完済済みということで処置を済ませたいと思います」


「スチュワート様、そうして頂けると、サンマール王国として大変助かります」

「リチャード殿下、ここは貴方の管理する国でも無いのに、自分の国の出来事のように喜ばれるのですね。とても興味深いです」


 いやいや……。

 こう、なんていうか、具体的な交易の商品が出来た訳でも無いのに、もう問題が解決したかのような話の進め方ってどうよ?



 ……。

 今夜のリチャードは熱かった。

 サンマール王国の借金の返済目途がたったからなのか、それともコーヒーの作用が効いているのか……。

 私も一緒になって、いつもより余計に頑張っちゃったよ!



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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