6-20.コーヒーを作ろう(3)
今日は一日が長いね。
朝からトレモロさんが訪問。
観光迷宮の収集品の打ち合わせが終わったら、ニーニャとカカオ豆の磨砕機の説明。
そしてさっきまでステラと一緒にコーヒーを作って飲んでた。
まだ、夕方なんだけどね?
「みんなでお茶をしよう」ってことで、集められる人を集めた。
絶対に忘れちゃいけないのがラナちゃんなんだけど……。
<<今、忙しいの>>
って、念話が返ってきた。
それって、どうなの?
コーヒーより重要なの?
妖精の長達が忙しいのだから、邪魔しちゃいけないのだろうけどさ……。
さて、どうしたものか……。
「ステラ、ラナちゃんが忙しいって。
もし、このままみんなでコーヒー飲んだらどうなると思う?」
「ヒカリさん、私が怒っても種族間の戦争にしかなりませんわ。
ラナちゃんが怒るとどうなるか、想像したくありません。
ヒカリさんは、それを試したいのかしら?」
「じゃ、違うことしよう。
コーヒー豆の準備とか、カカオ豆の準備とか、そういうことしよう」
「それが良いですわ。
ニーニャさんの手が空いたらドワーフ族を訪問しても良いかもしれませんわね」
「ヒカリ、我々もトレモロ・メディチ卿と打ち合わせの最中にお茶に呼ばれた訳だが、私達よりも重要な人がいるということだろうか?」
「あ~。
リチャード、ごめんね。新しいお茶のお披露目をしようとおもったんだけどさ。
トレモロさんに新作は出せないけど、サトウキビジュースとか、ココナツジュースとかそういうのは出せる。あと、美味しくて冷え冷えのフルーツも出せます」
「ヒカリ、コーヒーやカカオはどうなんだ?」
「時間が掛かるからまだかな。いろいろ大変なんだよ……」
「そうか……」
ってことで、マリア様の館に居る人で手が空く人には全員集まって貰ったけど、仕方が無いから、本当に普通のお茶会をすることしにした。
まぁ、たまには良いと思うんだけどね?
そんな南国のフルーツをメインにしたお茶会の準備が整ったタイミングで、門の方からガヤガヤと大人数の声が聞こえる。
もう騎士団は来ないはずだし、誰だ……?
まさか、アリア達が到着?
そうだとすると、嬉しいけどめちゃくちゃ忙しくなる予感がするよ!
「みんな、ただいま~。みんなを連れてきたよ」
と、ユッカちゃん。
ということは、アリア達と合流出来たってことだね。
でも、みんなって誰よ?
アリア、ゴードン、モリス。
あと、アリアの家族と運転手のドワーフ族の人達かな?
違った。
すごいいっぱい居た。
先ず、トレモロさんの船員のコウさんとカイさん。
そして、一緒に乗船していたらしい、レイさんとその赤ちゃん。
次に、エスティア王国の私の領地のメンバーとして、モリス、アリア、アリアの家族のミチナガさんと赤ちゃん。料理長のゴードンと付き人らしきメイド姿の女性。姿格好からドワーフ族の人が二人。
で、何故かエルフ族のスチュワートさんと、付き人が4人。なんか人数減ったかな?ああ、婚約者が領地に居る人は私の領地でそのまま過ごすことにしたのかな?
で、後ろからラナちゃん達家族やマリア様も一緒に帰ってきていた。
ざっくり、20人?
うん、色々と準備が足りない。
でも、お茶はしてても良いはずで……。
「クワトロ、今日の夕飯は20人追加。
客室が空いていなければ宿の手配。
そこのお茶会メンバーに私達全員が加われるように、テーブルと椅子、ドリアンを追加で準備して」
って、マリア様がその場で指揮を執る。
マリア様が指示を出して、テーブルが用意されるまで、元から居たお茶会メンバーは一度席を立って、場が整うのを待ってから再度順番に席に着いた。
もともと私の領地に居たメンバーはある程度交流が行われているし、モリスがその辺りは調整してくれていたと思う。
けれども、トレモロさんの船に乗っていた人とかと、マリア様の館で働いていた人は状況が良く分かっていないんじゃないかな?
先ずは、お互いに挨拶を始めていくのだけど……。
もう、大混乱だね!
ニーニャはカカオ豆の磨砕機作りに行ってて戻って来ないし、エルフ族のナーシャさんはユーフラテスさんとどっかいに行っちゃってるし。クワトロと別の形でメイドをしているクレオさんは冒険者ギルドとの調整が長引いていて、まだ帰ってきていない。
結局、みんなが滅茶苦茶忙しいってことだよ!
「ヒカリさん、挨拶は終わったのだけど、何から始めるのかしら?」
「え?
ええと、先ずお茶会ですよね。
このあと夕飯もこのまま外で召し上がって頂いて、宿の手配はクワトロがしてくれているのですよね……」
「その辺りは良いのよ。
各チームに何をしてもらうのか説明をしなさい?
まして、海上輸送と交易権を持つトレモロ・メディチ卿がいらっしゃるのだから、そこの打ち合わせもしておくべきでしょう?
それから先ほど紹介いただいたスチュワート様達にもご支援を頂けるかとか、サンマール王国からの返済金の保留可否についても相談もすればいいじゃない」
「あ、はい!」
いや、ちょっと待ってよ。
そもそもモリスに農耕地域の区画整備を頼んで、アリアとゴードンにチョコレートを作って貰うために手伝いで呼んだんだよね……。
スチュワートさんが来るとか聞いてないして、トレモロさんだって、たまたま立ち寄ってくれているだけでさ?
あ、ひょっとして、全てマリア様の采配で話が進んでる?
そしたら、リチャードに外交手腕を磨いて貰うことにしよう。そうしよう!
「リチャード、大きな方向性は先日皆で打ち合わせた通りだと思います。
顔合わせは終わりましたので、リチャードから皆様にお伝え頂いた方が宜しいと思います」
いわゆるキラーパスってやつね。
さぁ、リチャード頑張れ!
頑張って、素敵なところを見せてよ私の旦那さん!
「ヒカリ、わかった。
僭越ながら、皆様に現状とこれから行う施策について説明させて頂く。
我々はサンマール王国を実行支配できる状況にある。
武力制圧という形はとっておらず、王姉殿下から無制限の許可を念書という形で頂いている。
ただし、サンマール王国の財政はかなり借金塗れの状況であるため、我々が経済的な立て直しにも助力することで双方にとって良い関係を構築したい。
具体的には、上級迷宮から算出される収集品の販売。それと密林を切り開いて南国特有の植物を栽培し、ストレイア帝国へ販売することで、上納金を相殺することを目指す。
その一方で、サンマール王国と国境を接する魔族との争いが残っている。
ここに着手するためには、暫定的ではあるが安定した経済基盤をつくり、自立可能な状況にする必要があることと、進軍経路を確保するために、大規模な開拓技術と支援も必要になってくる。
ここまでが視野に入っており、そこが終わるまではヒカリと私の家族とのハネムーンは一時中断することとなった。
ここまでの説明で何か質問はあるだろうか?」
誰からも挙手が無い。
私の領地の人達はモリスが状況を説明してくているのだろうね。
アジャニアを訪問したメンバーは、過去にロメリアやアジャニアを制圧したことを知っているから、「また、何かやったに違いない」ぐらいなのかな。
でも、スチュワートさんは一緒に行動したことが無いから、何が起きているか分からないはずなんだけどね?単に人族のことには口出ししないという不干渉な姿勢を取っているだけかな?
と、ここでスチュワートさんから挙手が。
「リチャード殿下、もし他の方達からの質問がなければ、私から質問させて頂いても宜しいだろうか?」
「スチュワート様、どうぞ」
「とある契約により、人族のサンマール王国からエルフ族へ賠償金の名目で1年間に金貨5000枚を上納頂くこととなっている。
こちらを還流させることができれば、サンマール王国の収支も改善することと考えられる。
ではあるが、エルフ族に対して賠償責任があることを人族の方達に簡単に忘れて貰っては困るし、我々も人族と良好な関係を築きたいと思っている。
そこで、
(1)いくつかの特殊スキルを供与頂いた見返りとしての元本の減殺
(2)残金の利息と上納分として、一定額に相当する物納
このような契約に置き換えることができれば、サンマール王国としての負担も減ると考えられるのだが?」
「ヒカリ、どうだ?」と、リチャード。
「え?私?
私は良いんだけど、みんなが良くないと思うよ」
「何が良くないんだ?」
「開示されると困る情報をお互いに持っていることかな」
「それは説明になってない」
「説明したら、お互いが秘匿している情報を開示することになるでしょ?」
「例えばなんだ?」
「出所不明の大型魔石を複数所持していることとか。
妖精の長の存在とか」
「「ま、待って欲しい」」
リチャードとスチュワートさんから同時に止めが入った。
ほらね?
お互いが何を欲しいのか、何を秘匿したいのか分からずに交渉に臨むからこういうことになる。夫々が押さえている情報が違うのだからさ?
それを無闇に開示しちゃいけないんだよ。
「ヒカリ、もう少し穏やかに話を進めないか?」と、リチャード。
「ヒカリ様、私どもエルフ族としても、もう少し手前の共有戴けている情報の範囲でお話をさせて頂ければと思います」と、スチュワートさん。
「う~ん。
1つ目は、飛竜族と交流できる権利。これで金貨10万枚かな。
2つ目は、ドリアード様に相当する術を行使できる人の紹介。これで金貨10万枚。
サンマール王国の賠償金の元本が金貨50万枚で、エルフ族とドワーフ族で折半だから、エルフ族に一括返済できれば、金貨25万枚で済むはず。ここから2つの権利で20万枚分を減殺してもらう。
残り金貨5万枚なら無利息で毎年金貨2500枚相当の品物を物納して返済。これなら20年で余裕をもって完済できるでしょう?」
「ヒカリ、ちょっと待て。サンマール王国の賠償金はそんなに高額なのか?」
「賠償金の一括返済で金貨50万枚。ここには慰謝料が含まれてないし、分割した利息も含まれていないんだけどね」
「それがどういった計算になっているんだ?」
「損害賠償、慰謝料、それらの利息負担で金貨5000枚x100年を2種族へ返済するっていう契約になったらしいよ」
「『らしい』って、どういうことだ?」
「上皇様が取り仕切って、契約書を作成してサンマール王国に話をつけたらしいから、
私が知っているのは損害賠償の金貨50万枚までかな。
説明したよね?」
「ヒカリが皇后陛下に喧嘩を売ったところまでは聞いている。
そして皇后陛下はここサンマール王国の王姉殿下でもあられる。
そこの取り持ちを上皇様が受けていただいたことも聞いた」
「うん、じゃぁ、『私が喧嘩を売った』以外は合ってる。大丈夫」
「そうか……。
スチュワート様、今の話で双方の理解は合っているだろうか?」
「リチャード殿下、私はストレイア帝国の上皇様の署名入りの契約書しか存じ上げておりません。その賠償金が発生している経緯につきましては情報を入手できておりません。
ですが、何故か毎年金貨5000枚が人族からエルフ族へ賠償金として上納されるという事実は認識しております」
「ヒカリ、その……。なんだ……。
スチュワート様も私もヒカリのことを良く理解できていないことが分かった。
私はヒカリの提案で進めることで良いと思う。
スチュワート様は如何でしょうか?」
「リチャード殿下とヒカリ様のご提案で受けさせて頂きたいと思います」
「といこうとで、ヒカリに任せた」
任せられた!
キラーパスが返ってきたよ!
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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