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6-16.トレモロの懸念(2)

 何も解決しないまま、トレモロ・メディチ卿の懸念は続きます

 ユッカ嬢が訪問してきた、その翌日の晩。


 かなり無理をして我々の船はサンマール王国に到着しました。

 入国許可証があっても、審査業務を行える者が居ませんから、特別なストレイア帝国の許可証を持つ私と私の部下数名のみが先行して上陸し、明日からの審査と荷揚げに備えることにしました。

 申し訳ないですが、エスティア王国からの客人たちには今晩は船で過ごして頂くことで了解を得ました。


 流石にとっぷりと暗くなっていたため、一般的な市場やギルドで情報収集することは出来ません。 酒場で簡単な食事をとりながら噂を聞きつつ、その後で今晩の宿へ向かうことにしましょう。


 と、後ろのテーブルから酔った勢いで、自分が仕入れた情報をこれ見よがしに大きな声で自慢げに話をしている人物がいます。

 こちらが聞き耳を立てる必要もなく、疲れて空腹で食事を待つ間に自然と耳に入ってきてしまいます。


「ようよう、知ってるか?」

「何がだ?」


「騎士団員がある商人の館の制圧を試みて、返り討ちにあったらしい」

「ああ?そんな馬鹿な話があるか。

 騎士団員の人数が分からないが、騎士団員に逆らうことは王姉殿下に逆らうのと同意犠だ。返り討ちにするより大人しく従う方が商人としてメリットは多い。多少税金が多く取られようともだ」


「返り討ちにした理由はわからないし、どういったレベルの騎士団が制圧にしにきたかも分からない。だが王宮側はこの騎士団員による制圧失敗を隠すために、緘口令かんこうれいを敷いているらしい」


「おまえ、そんな緘口令を敷かれているような情報をしゃべっちゃ不味くないか?」


「な~に。俺が直接緘口令を敷かれた訳じゃない。緘口令を破った口の軽い奴の責任だ。

 それに緘口令が敷かれながらも情報が漏洩ろうえいするっていうのは、騎士団員のかなり上層部も絡んでいそうな話だよな」


「だったら、そんな話はこんなところでするべき話じゃない。

 それよりも、俺のとっておきのネタを聞くか?」


「あ?ああ……。

 さっきの話の続きが出来ないからお前のいうことを聞くさ……」


 何やらきな臭い話ですね。

 ここでは目立たず、ゆっくりと食事をしながら後ろの二人の会話を聞き取っておくのが良いかもしれませんね。

 しかし、王姉殿下の騎士団員が制圧失敗したとなると、王姉殿下から逆恨みを買うのが見えているのでしょうに、そこを敢えて喧嘩売るようなことをするのは……。


 うむ。

 若干名じゃっかんめいの心当たりがありますね。

 あの方達が意図しない揉め事に巻き込まれていなければ良いのですが……。


「あのな?

 最近色々と噂になっている冒険者ギルドがあるだろ?」


「ああ。

 魔物が溢れたため、先遣隊を出したとか。

 その先遣隊が帰ってきたら、魔物が封印されていたとか。

 何が嘘で何が本当か分からない噂だな」


「そうなんだ。

 魔物が溢れた情報は色々なルートで情報が入っているから間違いが無い。

 ところが、魔物が封印されたという噂はほとんど流れないだろう?」


「噂だろう?誰も見てきた訳じゃない。迷宮の周辺にできた町が崩壊したんだろ?

 その先遣隊の報告自体が怪しいな」


「だが、どうやらA級冒険者がパーティーを組んで調査に向かったらしい、

 彼らなら封印出来るのかもしれないだろう?」


「A級パーティーが向かったのか!

 彼らのスペックは普通じゃないからな。

 調査して、場合によっては封印も出来るのかもしれないな。

 少人数の模擬戦であれば、王室の騎士団1個中隊……約100人……にも勝てるらしいからな」


「おいおい。

 お前はさっきから王室を軽んじる発言が多すぎる。

 騎士団は外国からの侵攻に対して集団防衛をしたり、巨大な魔物を集団で討伐することに向いている訳だ。

 アリアリの世界で生きているA級冒険者と比べるような発言は不味い」


「あーあーあーあー。

 わかった。悪かった。

 それで、そのA級冒険者が迷宮を封印したかどうかは分からない。

 それでお前の話ネタは終わりか?」


「そのA級冒険者達が、B級冒険者がA級冒険者に昇格するための立ち合いを観戦していたらしい。

 そして、『ヤバい。勝てない』って、感想が出たらしいぞ」


「ううん?話が見えないな。

 封印したA級パーティーがいる。

 本人たちが手合わせをした訳でないのに、B級の冒険者の実力が『自分たち以上』だと分かるのか?」


「普段は事務方になっているが、ギルドマスターも推薦したらしい。

 新星のごとく現れた新人冒険者ってことになるな」


「ほ~う。

 だが、今のサンマール王国ではA級冒険者でもそれに見合う仕事がないだろう?

 まして、上級迷宮が魔物で溢れたままなら、昇格しても稼げる場所が限られるだろう……」


「二人の女性らしい。

 つまり、A級冒険者資格を持つメイドってことになる」


「それはプレミアムが付くな!」


「ああ。

 つまり、集団戦として活躍できる騎士団員とは別に、個別の護衛メイドとして王族や貴族の間で雇用先が見つかるっていう訳だ。

 A級冒険者パーティーに『勝てない』と言わせるレベルだ。普通な密偵や暗殺者が来たところで撃退できるだろうな」


 と、彼ら二人の話は続きますが、大きな朗報が手に入りました。

 真偽はともかく、魔物が封印された可能性があること。

 そして、その魔物を封印した冒険者達と同等な能力を持つ護衛メイドと契約できる可能性があるとのことです。

 魔物が溢れたり、騎士団による制圧が起こるような状況からすれば、万が一に備えてヒカリ様に護衛メイドを付けるべきでしょう……。


 よしよし、良い情報が手に入りましたので、今日は精算して宿へ移りましょう……。



 深夜近くになって宿に戻ると、受付の主人から「お客様がお待ちです」とのこと。


 今日は忙しいですね……。

 どなたでしょうか……。

 

「王宮からの特使が1名。マリアという商人の使いが1名です。

 それぞれ別の個室にて待って頂いていますので、トレモロ様の都合で順番に訪問してください」


 これは、非常に難しい選択ですね。

 幸いにして、こちらがどの順番に訪問しても優先順位は相手に分からない配慮がされていると……。

 先ずは王宮の情報を掴んで、そこで収集できた情報を元にマリア様の使いと面談することとしましょう……。


「(ノック、ノック)失礼します」


 ノックして、入室することを知らせてから返事を待たずに入室する。

 すると、そこにはサンマール王国の外交を担当するコリン・コカーナ卿が居ました。

 いや、特使というか、これは重要機密を知らせにきている可能性が高い。

 何でしょうね?


「トレモロ様、長い航海後、大変お疲れのところ申し訳ないですが、緊急事態故に待たせて頂いておりました」


 薄暗い灯りと、アルコール分を含んでいないと思われるお茶だけで長い時間待たせてしまったのでしょうか……。


「コリン様ですね。お久しぶりです。

 私の方は先ほど食事を済ませてきたのですが、コリン様の方は食事はお済でしょうか?」


「いや、まだですが、話は直ぐに済みます。

 『王姉殿下がストレイア帝国に帰りたい。シャワー付きの船を手配して欲しい』

 といったお願いです。

 ご検討いただけますでしょうか」


「いや、あの……。

 まだ今日船が入港出来たばかりでして、帰国の予定は立っておりませんが……」


「ええ。

 王姉殿下の意向を伝えて、あとはトレモロ様の返事を待つ形となります。

 緊急性は低いですが、シャワー付きの便に乗船させて頂くように手配をお願いしたい」

「承知しました。どの船が一番早く出港できるかを確認して、ご連絡させていただくこととします」


「ありがとう。今日はこれで帰ります。

 正式な面談や交流については、明日以降、再度調整させてください」


 と、挨拶もそぞろにコリン氏は部屋から出て行ってしまった。

 食事もせずに待っていたらしく、色々と大変なのでしょう。

 ただ、これはかなり重要な情報になりますね……。

 

 コリンさんが宿から出てから少し経過した頃を見計らって、マリア様の館からの使者と面談を行いましょう。

 直ぐにでも伺いたいのですが、使者同士の内容がお互いに知られてしまうのは不味いですしね……。


(ノック、ノック)

「トレモロ・メディチと申します。入っても宜しいでしょうか?」

 

 トタトタと、小走りに駆けてくる足音がして、ゆっくりと扉が開いた。


「トレモロ様、お待ちしておりました。どうぞお入りください」


 チュニックを来た清楚な感じの執事をしていると思われる男性が現れました。

 こちらも部屋に入ると、アルコール臭はなくお茶だけで待機されていた様子。私を招き入れると、お茶とお菓子らしき物が載った皿を差し出してくれました。


「トレモロ様、お疲れのところ申し訳ございません。

 宜しければマリア様からの差し入れのお茶と果物を召し上がってください」


「ああ、ありがとうございます。

 用件は多いのでしょうか?」


 と、お茶に口をつけつつ、初めて見る果物があることに気を取られつつ、使者に向き直って話を促す。


「『ヒカリ様がトレモロ・メディチ卿にお会いになりたい。そのアポイントを取りに行く』とのことでして、ご都合をお伺いしたく、マリア様より申し使って訪問しておりました」


「ヒカリ様が私に会いたいと?」

「はい。会いに来たいとのことです」


「どういった用件か分かりませんか?」

「マリア様が本日の夕食会の後で私を呼び出し、ここを訪問させました。ですので、詳細は私にはわかりません」


「そうですか……。

 夕食会が開かれたということは、少なくとも皆様ご無事でしょうか?」


「ええ?は、はい……」


 少し不安そうに答えると、使いの者は私から目を反らしました。

 きっと、何かあったのですね……。


「何かあったのですか?」


「特に大きな被害は無かったのですが、マリア様からあの件について『口外しないように』と言われております。私からは何も申し上げられません……」


「わかりました。夜分遅くまでお使いご苦労様です。

 皆様場無事とのことですので、朝一番にマリア様の館へ伺うこととします。

 これは私の気持ちです」


 と、使者にお礼を言ってサンマール王国の銀貨をチップとして渡します。

 

 ふぅ~。

 何かが起きているのでしょう……。

 明日の朝食は簡単なもの済ませて、直ぐにでも向かうべきですね。

 緊張したまま休まりませんが、寝過ごしてはなりません。

 念のため宿の受付で朝起こすように頼んでおきましょう。


 寝れるのか、寝れないのか……。

 寝ておかないと不味いのでしょうね……。


 さて、さて……。

続きは、

「6-14.チョコレートを作ろう(3)」

に戻ります。


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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