6-09.カカオを探そう(4)
よし、コーヒーの木とカカオの木の探索二日目だね。
昨日はコッソリと野営場所に戻ってきて、テントの中に潜り込んで、ちゃんと寝ておいた。寝心地の悪いところで寝ることはこれまでも経験しているから、まぁ、それはそれ。体の疲れとかは特に残ってないかな。
昨日のナビとの会話から、赤く完熟していない黄色の木の実もパルプの状態次第では、発酵してカカオ豆になる段階で香りが付くらしいから、昨日皆で見つけたカカオの木に戻って追加で黄色い実を採取するのも有りなんだよね。
私が一人で見つけた木に残っているのは、私が一人で飛んで集めるしかないので、今回の調査隊とは別に行動すればいいね。
さて、どんな感じで皆に話題を切り出したものかな……。
朝になって、クレオさんが朝食を用意してくれたので、みんなで一緒にご飯を食べるんだけど、いきなり皆に話す前に念話でクレオさんに確認してみた。
<<クレオさん、ちょっと相談なんだけど>>
<<なんでしょうか>>
<<昨日見つけたカカオの木の中で、黄色い実の回収もしたい。新しい木を見つけるのも必要だけど、完熟していない黄色の実からもカカオ豆が作れるかもしれないの。場合によっては、赤いのよりも具合が良いかもしれない。
だから、色々なのを採取して試してみたいんだけど、私一人で採取してきたら不味いよね?>>
<<そうですね。
ヒカリさんが単独行動して、もし、「行動時間や採取量が普通の人ではな無い。何か秘密があるのでは?」と、勘ぐられると、こちらの手の内を探られるきっかけになりますので、あまり知られたくない方が良いですね。
そうしますと、チームを二手に分かれて、昨日の木の所へ採取に行くチームと、新しい木を探索するチームで分けることを提案するのはいかがでしょうか?>>
<<ガイドの人達が気分を害したり、「契約と内容が違う」とか、言い出さないかな?>>
<<彼らとは契約を交わしていますので、契約の範囲であれば従う義務があります。もし、契約範囲外であっても、追加料金を支払うことで合意が得られれば、後からギルドへ報告する形で契約が正立します。
ただ、今回は包括的な探索と荷物運搬の契約ですので、ヒカリさんと2チームに分かれて行動することは問題無いと思いますよ>>
<<そっか。それじゃ言葉の壁に関して多少の不安はあるけれど、私ともう一人荷物を運べる人で採取しに行けばいいね>>
<<そのように話を進めます。朝食を召し上がりながら、お待ちください>>
クレオさんが適切にサンマール王国の言葉で説明をしてくれて、私は内容が分かるんだけど、言語が分からない振りをして、ニコニコ微笑みながら、皆と仲良く朝食を食べた。
チーム編成として、例のお金に五月蠅そうな人が私を案内して、さらに荷物も運搬してくれることになったよ。特に契約の範囲から外れることは無いって。
ーーー
で、クレオさんと別れて昨日のカカオの木に向けて出発したんだけど……。
行きは特に問題無かった。
ちゃんと、昨日付けた目印の紐とかが残っているし、私はナビと領地マーカーで変な方向に案内されないか、情報の精査をしていた。ガイドさんも私と言葉は通じないものの、距離感を適切に保ちながら先導して案内してくれて、紳士的な態度だったよ。
ちゃんと、ところどころで休憩したり、水を飲むように身振り手振りで示してくれたりさ。
カカオの木に辿り着いたわけだけど、木が私の背丈より高い上に、黄色の実まで採取するとなると、ちょうど熟成時期だったみたいで、数十個は実っているのね。
で、今度は私が身振り、手振りで「黄色は〇」「緑は×」みたいなことを伝えて、少しずつ採取を始めた。
だけどね?
こっちの意図が上手く通じないみたいで、ガイドさんは「うんうん」と、頷いていたんだけど、私が採取するのを見てるだけで手伝ってくれないの。一人で木に登って、採取して下りてきて、また木に登って、採取して下りてきて。
一人じゃ全く捗らないの。
せめて、木の下で私が投げた木の実を受け取ってくれるか、私の代わりに木に登って、上から投げてくれるとかしてくれれば、凄く早いはずなんだけどね。
木の上に登って、片っ端から容量無制限のカバンに一度に詰め込む訳に行かないから、一個ずつの採取になるし……。
浮遊して、連続採取する訳にもいかないから、重力に逆らって木登りを繰り返す必要があるし……。
そしたらさ?
ガイドさんが身振り手振りで、獣を捕まえに行くらしいの。食事の準備として、獣をナイフで殺すみたい。
カカオの木まで来た道の方向を指さして、あっちへ行くみたい。
更に、ちょっと、伝わりにくいジェスチャーだけど、私が採取を終えたら、一人で追いかけて来いって。
ま、まぁね?
道中そんな危ないところは無かったし、目印の紐とかあるから普通の冒険者なら道に迷うことは無いと思う。昼食の準備もしてくれるわけだし、私の採取を手伝ってくれる訳でもない。カカオの実がリュックサック一杯分ぐらいなら、普通の冒険者なら背負って移動できると思う。
だったら、別行動でも良いかなって思って、一人でコツコツと木の実の採取を再開したよ。ほら、いつこっちの様子を見にガイドさんが戻ってくるか分からないから、容量無制限のカバンも使えないし、浮遊も使えないから、さっきまでと同じように一つひとつ採取する訳なんだけどさ?
かれこれ2時間近く経過したかな?
数十個の木の実を大型の背負い袋に満タンに詰めこんだので、戻ろうかと思ったのだけど、ガイドさんが戻ってくる様子が無い。ユッカちゃんみたいな特殊な索敵と、気配消して近づかないと、そう簡単に獣とか狩れないと思う。だから、まぁ、時間が掛かっても仕方ないとは思う。
荷物運んでくれる話は何処行ったんだかな……。
一人の冒険者として、荷物背負って戻ることは出来るから、重力遮断もせずに、カカオの実を数十個も背負って、クレオさん達に合流することにしたよ。一応、ナビ経由で索敵して、周囲に危害を加えそうな獣が居ないことを確認してから歩き始めた。
自分で索敵をすると、なんか、ガイドさんの気配をエーテルで検知できた。でも、道から少し外れた藪の中に入って身を潜めているから、何か気になる獣でもいるのかな?こっちから声を掛けて、「獲物が逃げた。お前のせいだ!」とか言われると困るから、私は来た道を一人で引き返すよ……。
ちょっと疲れた気分で、潜んでいるガイドさんの邪魔しないことに気を取られつつ歩いていたら、足元が疎かになっていた。
足元の木の根というか、草同士を結んで出来た輪に引っ掛かって足を取られた。
慌てて、両手を前に出して受け身を取ろうと、両手を前に出して地面に着いたら、獣用の罠が作動して、両手を別々に絡めとられて、延ばされた蔓が木の方に勢いよく跳ね上がって、私は荷物を背負ったまま、両手を左右の木の上に万歳の形で吊り上げられた。
あ、なにこれ。
行きはこんな罠とかなかったのに、なんで帰り道に罠とか作ってあるわけ?
罠が上手く草に隠されているし、私の手のサイズで何個か罠が張られていたっぽい。私の手首を絡め取られて、更に万歳の格好だから普通には抜け出しようが無い。
これって、まんまと罠に嵌められた?
比喩的な意味じゃなくて、本当に。
さて、どうしたものかな……。
一応、クレオさんに念話通しておこうかな?
<<クレオさん、罠に嵌った。普通には抜けられない。ガイドさんは傍に隠れてる>>
<<ヒカリさん、どういう状況ですか?>>
<<木の実の採取に時間が掛かってたら、ガイドさんが獣を取りに行くって、ジェスチャーで示して、先に帰っていった。私も採取が終わって、帰路に着いたら、行きには無かった罠が道に張り巡らされていて、私がその罠に嵌った>>
<<直ぐ飛んでいきます。ヒカリさんは瀕死の危機に晒されていなければ、何も力を使わずに普通の冒険者として、罠にはめられた振りを装っていて下さい>>
<<手に蔓が巻き付いていて、吊り上げられているから、私の自重でかなりきつく締まっていて痛い。多少は重さを軽くして、痛みを和らげておいても良い?>>
<<出来れば、身体強化で耐えてください。妙にフワフワと揺れて、ダメージを受けていない様子を見せると警戒される恐れがあります>>
<<わかった~。痛いから早く来てね?>>
<<もうすぐ着きます。襲われない限り、そのままお待ちください>>
クレオさんが姿も消さずに、文字通り空から飛んできたよ。居場所は念話を通しているので大体方角が分かったのか、昨日設置しておいた領地マーカーと索敵を併せて私の位置を検知したのかわからないけど、とにかく早かった。
念話を通してから一分も掛からなかった。クレオさん、本気出すとかなり優秀なんじゃないの?
で、クレオさんが到着するのと、ほぼ同じタイミングで藪の中からガイドさんが出てきたわけ。私が罠にかかって、何も叫んでいないのを不思議に思ったのか、様子を見に来たんだと思う。
多分、私が罠に掛かった途端に姿を現すと、偶然罠に掛かってしまった私を助けようとする状況が作れないから、多少時間を空けてから見に来たんだろうね。
「クレオさん、ありがとう。ガイドさんも戻ってきたみたい。とりあえず、手が痛いから降ろしてください」
「承知しました。先ずはヒカリさんを地上に降ろします」
私達がエスティア王国の言葉で2,3言葉を交わした後に、クレオさんが空中に浮いたまま、私の手首に巻き付いている蔦を切って、私を両手に抱えながらゆっくりと地面に下りていく。
それを見て唖然とするガイドさん。
あんたが唖然とする以上に、罠にかけられた私の方が唖然としているわ!
どうしてくれよう?
「ヒカリさん、無事で何よりです。念のため、少し距離を置いたところで、他に罠が無いことを確認して、待機していてください。彼が突然ヒカリさんを人質に取ることも考えられますので」
「わかった。少し離れて見てる」
「ありがとうございます。サンマール王国の言葉で彼と交渉を始めます。内容は後でお伝えしますので辛抱ください」
と、私を少し遠ざけてから、クレオさんはガイドさんと会話を始めた。
私はサンマール王国の言葉も理解できるから、二人の会話はこんな感じだったよ。
「ガイドさん、状況を説明して欲しい」
「彼女が一人で採取をしているから、俺は昼飯用の獲物を狩りに来ていた。張った罠に何か掛かったので見に来たら、彼女が罠に掛かっていた」
「なぜ、彼女から目を離した。何故彼女は全ての荷物を一人で抱えている。何故、帰路に隠すように罠を張った」
「彼女なりの、採取に拘りがあるようだったから任せることにした。しばらく時間が掛かりそうだから、昼飯の獣を取りに行くことを身振りで伝えた。罠を張り、獣を探してたが、何か音がしたので戻ってきたら、彼女が罠に掛かっていた」
「私も冒険者であり、狩りの経験もある。舐めた発言をされては困る」
「どういうことだろうか?」
「彼女が嵌っていた罠は獣道ではなく、昨日我々が切り拓いた道の上にあった。そのような人の臭いと痕跡が多く残る場所に獣は現れない。
我々が切り拓いた道の行きには仕掛けられず、彼女が一人で帰る帰路に設置されていた。
罠の大きさは小動物用ではなく、人かそれ以上の大きさの獣を捕らえる罠であるが、昨日も今日もこの辺りにそのような大型の獣は出現していない。
つまり人が通ることを想定して、人を捕らえるために罠を張った。
何か弁明したいことはあるか?」
「ま、待てよ。そんな本気で怒るなよ。少しからかっただけだろう?」
「手首でなく、足や首に嵌っていたら、死んでしまう所だった。なんの冗談だ?」
「クレオだって、あれだろ?2-3日前に王国騎士団に捕らえられて尋問に掛けられたらしいじゃないか?
実は既に犯罪奴隷に落とさている身分なんだろう?そんなお前と俺とで、ギルド長に報告したらどっちの言い分を信じるかな?」
「この件で、私の身分は関係ない。私がお前をギルド長に引き渡すかどうかは、私が判断する」
「ほ~う……。俺を捕まえて、ギルド長の所へ連れていくだって?」
と、向き合っていたガイドは腰を落として身構えると、腰のベルトから自分の短剣を取り出して、クレオに対して身構える。
ところが、クレオはそんな脅しと構えには取り合わず、身体強化レベル2を応用した速さで行動し、無言でガイドに近づくと、ガイドの手首を手刀で叩き、短剣を落とさせてから、手早く縄で後ろ手に縛りあげる。
勝負にならないっていうか、始まりすらしなかったね。
さて、どうしてもんだか……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ここから暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
いいね!ブックマーク登録、感想や★評価をつけて頂くと、作者の励みになります。