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6-08.カカオを探そう(3)

 野営場所に身代わりの毛布を残してマリア様の館に戻ってきた。

 クレオさんはいないけど、王都近辺で仕事をしていた人達はみんな館に戻ってきていた。私を見ると、「なんで?」って、顔している。

 まぁ、どうでもいいや。みんなも「またか」ぐらいな感覚だろうし。


 早速、購入した果物が沢山入っている倉庫に入って、瞑想という名のナビとの交信を始める。


<<ナビ、今日は探索と領地マーカーの設置に協力してくれてありがとう。久々の大活躍だったよ>>

<<どうたいしまして>>

<<それで、早速なんだけど、カカオの実からカカオ豆とかチョコレートを作りたい。

 時間が掛かるようなら、並行してコーヒーの焙煎の準備をしたい。

 助けてくれる?>>


<<ある程度は事前に一般サイトからの情報収集が完了しております。そこから共有してもよろしいでしょうか?>>

<<うん。お願いします>>


<<まず、そのカカオの実ですが、必ずしも赤くなるまで完熟させる必要はありません。黄色ぐらいでも、大丈夫ですし、木の種類によっても異なるので、それはこの先出来上がるカカオ豆の様子により、収穫するタイミングを決めてください>>

<<わ、わかった。もっと早く聞いておけば良かったよ>>


<<次に、そのカカオの実を割ると、パルプと呼ばれる甘くて白い粘々に包まれた種子がぎっちりと詰まっています。日本で目にするものですと、パパイヤとか烏瓜からすうり、アケビに似た雰囲気です。


 この白い粘々を甘い香りがするからといって、食べてはいけません。この白い粘々を元に熟成発酵をさせます。自然発酵ではおおよそ50℃で一週間ほどかかるとのこと。

 

 次の工程の説明に移ります>>


<<ま、まって!ちょっと待って!実から種を取り出して、洗って乾かせばいいんじゃないの?>>

<<ヒカリさんはインターネット接続ができないので、私を信用頂くしかありません。

 この発酵過程が非常に重要でして、カカオ豆の香りを決めることになるそうです。


 次の工程は乾燥です。発酵したブヨブヨの状態を天日で一週間ほど干して、水分が10%程度になるまで乾燥させます。それがカカオ豆とかカカオニブと呼ばれるものになり、ヒカリさんの考えていた日本で輸入されているカカオ豆の状態になります。


 カカオ豆からチョコレートに至る工程は、また今度でもよろしいでしょうか?>>


<<ええと……。私は舐めてた?>>

<<カカオ豆の製造工程において醤油やワインのような発酵過程が必要になることを知っているのは、雑学に長けているか、チョコレート業界でも、輸入に携わっている方達だけでしょう>>


<<輸入されるカカオ豆は、コーヒー豆ぐらいな感じでいたよ!>>

<<ついでに、生豆のコーヒー豆につきましてはも情報を提供しましょうか?>>


<<ま、まさか?>>

<<コーヒーチェリーの皮をむいてから、pH4程度の酸性の条件下で2-3日熟成させます。熟成後に洗ってから天日で2-3週間乾燥させて水分量を10%程度まで低下させます。

 コーヒーチェリーのままで皮むきをしないで乾燥させて、脱穀して皮を剥くナチュラルという生成方法もありますが、ヒカリさんが良く知るコーヒー豆とは別のフルーティーな味わいになります。

 蛇足ですが、動物にコーヒー豆を食べさせて、消化させてから未消化部分の豆を糞から取り出す方法もありますが、今は条件から除外させていただきます>>


<<ナビ、ありがとう……。ちょっと考えるよ……>>


 これは不味くないかい?

 アリアが来る前までに、カカオ豆とかコーヒー豆とか完成しているもんだと思っていたよ!

 確かにコーヒー豆のナチュラルっていう方法なら、まぁ、なんとかなりそう。

 けれどもカカオ豆、お前はダメだ。

 難易度が高い上に、仕上がるまでに時間が掛かりすぎる。

 これはどうしたもんだか……。


 と、そこへラナちゃんから声が掛かる。


「ヒカリ、なにがダメなのかしら?下処理を済ませたら、今夜中に野営テントに戻るのでしょ?」

「ああ、ラナちゃん、すみません。独り言が漏れていましたか……」


「困っているのかしら?ヒカリからお願いを1つ預かっているの。何かあるかしら?」

「困っていますが、ラナちゃんにお願いする程のことでは無いと考えています。

 ここに住む人達の力で乗り越えることができないと、農作物を資源化することができないですし、皆が食べられる物として普及させることは困難であると考えます」


「ヒカリ、どれくらいの時間を待てば、私はチョコレートが食べられるのかしら?」


「コーヒーの方が早くできそうです。それでも2週間ぐらい掛かりそうです。

 チョコレートは材料が揃うまでで2-3週間、そこからアリアの化学の知識を活用して、調合を繰り返す必要があります。そして、アリアの力だけでなく、ニーニャの力も借りないと、チョコレートの脱脂など、様々な工程で機械の力が必要になると思います」


「ヒカリ、フルーツを食べながらコーヒーを飲んで待つわ。頑張りなさい」

「は、はい……。お気持ちに沿えるように、尽力します」


「ヒカリ、微生物による発酵はシオンに聞いたらどうかしら?ユーフラテスが関心を持つぐらいだから、彼ならいろいろなことを知識として持ち、実現する力を持っているはずよ」

「わかりました。シオンと相談してみます」


「ヒカリは、ヒカリを助けてくれる人をもっと頼るべきよ」

「承知しました。それも肝に銘じて行動します」


「私も頼っていいのよ?」

「はい。ラナちゃんたちにも頼るようにします」


「じゃぁ、楽しみにしてるわ。つまらないことで時間を潰さないようにね」

「はい!」


 いやはや、これってどうなのよ?

 ナビにカカオ豆やコーヒー豆に関する知識を頼ったものの、蓋を開けてみたら科学でも料理でも無い世界だった訳よ。

 日本は加工後の輸入品に頼っていて、熱帯の植物を栽培とか盛んでないわけね?

 原産地では発酵を活用した木の実の熟成工程を済ませた上で出荷していたと。


 確かに、日本はひしおという独特の発酵の文化が発達している。

 でも、実は世界中で発酵に関して、それぞれの地域に合わせて発展していたんじゃないのかな?

 酪農が盛んな地域では乳製品からチーズやヨーグルトを生成する。

 果実や穀物を発酵させてアルコールを作り、お酒を醸造する。

 そして、木の実は種皮を発酵させて、中身の種子に香りづけをする。

 

 みな微生物を元に発酵させて変性させた食物だね。

 微生物様に感謝だよ!


 まぁ、微生物っていっても、食中毒を促すような細菌や風邪の症状を発症させる細菌なんかもいるから、微生物との付き合い方って、真剣に考えた方が良いのかもね。

 それこそ、ラナちゃんに微生物を司る妖精の長を紹介してもらうお願いとかすれば、結構早く進んだのかもしれない。

 でも、それをしちゃうと、やっぱり人手による産業の発展がねぇ……。


 先ずはシオンに相談して、色々手伝って貰おうかな?

 夕飯終わった頃だろうから、シオンのところに行ってみよう!


ーーー


「シオン、元気?」

「お母さん、今日はステラ様とニーニャ様と一緒に水が出る樽を作りました。何セットか作りましたので、ドワーフ族の村に持っていく以外にも予備があります。

 色々とお二人に教えて頂いたので、少し疲れました」


「そっか~。シオンは良い勉強させてもらっているね。あの二人はとても優秀だから、色々教わると良いよ」

「はい。私は充実しています。

 お母さんは元気ですか?」


「あ、うん。まあまあかな?」

「元気では無いのですか?」


「ああ、体は元気だよ。今日は普通に山を歩き周ったぐらいだし。毎朝のクロ先生の稽古の方がよっぽど大変よ。

 みんなにご飯とか作ってあげられなくてごめんね」

「お母さんの体の調子が良いのは良かったです。

 ところで、何か困ったことがあるのですか?途中で戻ってきて、元気が無いのは……」

 この子は気遣いの達人だねぇ。

 探索の途中で帰ってきて、私が元気でない雰囲気を察する。

 そして、それが何らかの困りごとがあるかもと、話を聞く姿勢を見せる。

 なんか、親として恥ずかしいぐらいだよ。


「ああ、ええと……。

 シオンは微生物を利用した発酵とかが得意に見えるよ。その辺りの事って、詳しいのかな?」


「パンの発酵に使っている酵母は、ユッカお姉ちゃんから貰いました。

 醤油や味噌はアジャニアから来られた人たちに貰いました。

 エルフ族の特別な薬用酒はエスト様達から頂きました。

 ですので、私が詳しい訳ではありません。


 今回、こちらで初めてエビ味噌からジャンを作ってみたところ、上手くいきました。何故なのでしょう?」


「シオンが食料品に貢献している微生物の知識を良く知っているからだと思うよ。

 この世界は、本質を理解していて、そのイメージを強く正しく思い浮かべることが出来れば願いが叶うことがあるから。

 パンの酵母にしろ、調味料にしろ、シオンはそういった食品をただ、単純に食べていたのではなくて、そういう微生物が作用する発酵過程を良く理解していたんじゃないかな?」


「お母さんは不思議ですね。見かけの年齢に比べて沢山の知識を持っています。お母さんなら、発酵に関する知識もあるのではないですか?」

「お母さんの料理や食品に関する知識はお母さんのお母さんから教えて貰ったことがほとんどかな。

 今はカカオ豆やコーヒー豆の発酵に関する知識が無くて、少し困っているの。

 シオンは何か知っているかな?」


「少しは知っていますが、実際に発酵させる過程を現地で確認したことはありません」

「もし、水が出る樽を作る勉強が終わったら一緒に手伝って貰えるかな?」


「お母さんは明日以降も探索を続けるのですよね。僕はユッカお姉ちゃんとリサお姉ちゃんと一緒に発酵に挑戦してみます。

 発酵に必要なかめや保管場所は、マリア様にお尋ねすればいいですか?」


「うん。マリア様かメイドさん達が手伝ってくれると思う。

 いつも果物が置いてある倉庫にカカオの実とコーヒーの実を置いておくね。自由に使って構わないから、失敗しても良いから、発酵させることに挑戦してくれるかな?

 お母さんは、明日も木の実をいっぱい探してくるね」


「わかりました。僕が手伝うことでお母さんが元気になるなら、がんばります」

「シオン、ありがとう」


「お母さん、無理しないでくださいね」

「うん、じゃぁ、お母さんは野営場所に戻るね。みんなによろしく」


「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」


 よし、野営場所に戻って、仮眠を取ってから調査と採取の継続だね!

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